第61話 魔姫の生活感
「待ちくたびれたにゃー!」
魔姫の居間にたどり着くと、魔姫はベッドにあられもない格好で寝そべっていた。
完全に今の今までだらだらしていた感じの状態だった。
「……あのさ、それらしく待っててくれないかな? 一応僕たちは決死の覚悟で来たんだけどさ」
「待ってたにゃ! にゃのに全然上がってこないにゃ! 諦めて帰ったと思ってだらだらしてたにゃ」
「にしても……だらけ過ぎじゃないかな?」
この部屋は、魔姫の居間兼寝室のようだ。
なぜ居間と寝室が兼用なのか、それは普段から暇なときは今のようにごろごろと寝そべっているからだろう。
「じゃあ、起きるにゃぁ。……にゅぅぅぅぅっ!」
なんだか変な声で伸びをしている魔姫の格好は、簡単に言えば、黒いパンツしか身に着けていなかった。
胸はあまり大きくはないが、子供から大人の成長過程、といった程度の膨らみがあり、それは魔姫の容姿相応だった。
魔姫は、耳と尻尾を除けば人間の少女と寸分違わないのだ。
「じゃ、ちょっと待ってにゃー。服を着るにゃ」
ごろごろとベッドを転がって端まで行ってから起きる、という、エメフィーが同じことをしたらメイド長に叱られることをやっていた。
「……どうする?」
「殿下にお任せします」
「じゃ、待とうか」
エメフィーたちは将来伝説に残る魔姫討伐に来ているつもりだ。
だから、この戦いは後の伝記に掲載されることだろう。
その時に「寝ていた魔姫を襲い、裸のままキスをした」とか書かれるのは嫌だ。
エメフィーたちは黙って魔姫が服を着るのを待った。
「それで、何をするんにゃ?」
服を来た魔姫が尋ねる。
「いや、だからさ、君を倒しに来たんだけど」
「それは嫌にゃ」
「だったら永久に人間を襲うのはやめてくれるかな?」
「最近人を襲ったことないにゃ?」
「いや、僕たち襲われたからね?」
エメフィーはまるで子供と話しているように思えてため息をつく。
「そっちから襲ってきたら反撃はするにゃ。それは当然じゃにゃいか?」
「じゃあ、僕たちが襲って来なきゃ、絶対に反撃しないってこと?」
「そうにゃ! 襲わないにゃ! 魔姫は自分が襲われたから襲っただけにゃ!」
「うーん……」
確かに、魔姫の襲撃には段階はあった。
最初は一匹の攻撃、そして、五匹の攻撃と脅し。
それで帰らないから、大量の獣人とハーピー。
帰れ帰れと警告を出しても帰らないから強くしたようにも思える。
「じゃ、もし僕たちが来なかったら、襲うこともなかったってこと?」
「当然にゃ!」
「そうか……」
エメフィーは考え込む。
ルンジールの言ったことは、間違いではなかったのだろうか?
確かに、王宮にいた時、魔姫の軍勢に襲われたことはなかった。
となれば、自分たちはただおとなしく住んでいるだけの魔姫の家に乗り込んできた乱暴者なのではないだろうか?
それなら──。
「殿下、魔姫は王子を攫っておりますし、私に魔の眼を植え付けております。おそらくまだ準備が出来ていないだけで、将来襲撃する気は──」
ズドンッ!
エメフィーの右側に、衝撃。
「余計なことを言うにゃ」
「マエラ!」
魔姫が軽く左手を掲げただけで、マエラが吹き飛んだ。
悲鳴すら聞こえない速さで、マエラは背後の壁にぶち当たる。




