第60話 決戦に、向かう。
その後、体力回復や、剣の手入れのために一旦迎賓の間に戻ったが、特に魔姫が出てくる様子もなかった。
とはいえ、何があるか分からないので、早めに対処する。
先ほどの階を越え、更に上へ。
数階は上っても何もなかった。
「疲れたです~」
体力のないアメランが弱音を吐き始めた。
彼女に体力がないのは今に始まったことではないが、今日は朝から大規模な魔法を何度も使っているのだ。
実は尋常でないほど疲れているのではないだろうか。
「アメラン、いいよ。君は今日十分頑張ったからさ。下行って休んでおいで?」
「行きます~。まだ、魔法は使えます~」
「でも、疲れてるんだろ?」
「はい~ですから~、エメさまがおんぶしてください~」
アメランが両手を上げて、背負って背負ってのポーズをする。
「しょうがないなあ。ほら」
「わ~い。えへへ~」
アメランが嬉しそうに背中に乗る。
「うらやましいですぅ。あたしもおんぶして欲しいですぅ」
「また今度ね?」
エメフィーは軽くそう言って、階上へと向かう。
「この上です。私の記憶では、この先に魔姫の居間があります」
マエラが最後の階段を指さす。
「ありがとう、マエラ。君はここまででいいよ」
アメランを下ろしたエメフィーは、ここまで導いてくれたマエラに感謝を告げる。
そして、戦闘には参加しないマエラを階下に返そうと促す。
エメフィーが言わないと、忠臣でもあるマエラは危険な戦場についてくるだろう。
「そうですね、私は戦闘能力がありませんから、そうおっしゃるのも分かります。ですが、全員が自分の戦闘をするなら、それを見て采配をする者も必要なのではないでしょうか?」
「……どういうこと?」
「私は必要だと言うことです」
「いや、でも……」
これから先は皆自分の身を守るだけで精一杯であり、誰もマエラを守れないのだ。
「私がいなくても、いざという時に殿下は判断できますか?」
「出来ないことは、ないと思うけど……」
「では、その一瞬の判断に、ジュエール王国の未来を背負うことは出来ますか?」
エメフィーの判断力の速さは、誰もが認めるところだ。
だが、マエラに対して、王国の未来を背負う判断の全責任を負える、と言えるほどの自信はない。
「……分かったよ。じゃあ来てよ」
「はい、どこまでも、お供します」
にっこりとほほ笑むマエラ。
「マエラさんってエメさまの正妻になるんですよね~? エメさま、絶対お尻に敷かれますね~?」
エメフィーが背負っているアメランが言う。
「だろうね? だけど、別にそれでも構わないよ。マエラは僕が困った時には必ず助けてくれるからね」
エメフィーがほほ笑む。
「さて、それでは、現時点の作戦ですが、アメランは殿下とシェラに空気鎧の魔法をかけてください」
「はい~。でも~これ~、多分魔姫の攻撃には聞きませんよ~?」
空気鎧とは、空気を圧縮して物を通しにくくする魔法で、実際の金属製の鎧と比べても重量が全くないため、力がなく、かつ、高速戦を展開するための装備とも言えるが、フルメイルよりも防御は期待できない。
「構いません、矢くらいは弾けることでしょう」
「ですね~」
「サイ、あなたは殿下やシェラに矢が当たることを気にせずに魔姫を攻撃しなさい」
「はい!」
「そして、殿下とシェラですが──」
マエラの指示によって、的確なプランが決められていく。
「戦闘中作戦を変更することはあります。聞こえたらそれに従ってください。聞こえなければ、各自判断してください」
マエラの言葉に各自が応える。
「では、行きましょう」
「はい」
マエラの号令で、全員が階段を上っているとき、エメフィーは、あれ。僕ってここの団長だよね? などと考えていた。




