僕の友人がモテすぎてつらいです
約10分前にグーを出した自分を殴りたい。
荷物を僕と勇士のどちらが取りに行くのかということで大いにもめたのだ。
そして、その勝負は世界一単純かつポピュラーなあの競技で決した。
じゃんけん。
ほんの30年前まではただの運ゲーだったこの勝負は魔法の導入によって高度なスポーツへと様変わりした。
要するに思考の読み取りと偽りの駆け引きに変じたのだ。
もはや平等もクソもない、強者だけが勝利を得られるエキサイティングマジックスポーツへの昇華とも言えよう。
そして、敗者である僕はようやく復路を辿り終えようとしていた。
まぁ、魔法のエリートに魔法で挑むなんて愚の骨頂もいいところだったというわけである。
「ちくしょうなんだってんだよ……。勇士なら家に帰らないでも召喚魔法を使えば、一発で取り寄せられるくせに……」
僕はたいそうご立腹であった。
その一方でブツブツ言いながらも、僕も心の中でしてやったり顏をしているのである。
なぜかって?はっ、知りたいか?
まぁ、勿体ぶっといてなんだが、結構あっけないことだ。
ただ、教科書を家に全部置いてきてやった。
ただでさえ軽い勇士のカバンはさらなる軽量化に成功し、もはや持っている意味すら見出せないリアルお荷物となっている。
さすがに『カバンを持ってこい』といわれて持ってこないほど僕だってゲスではないというところは褒めて欲しい。
ただ、あいつの情けない顔を想像して悦に入っているところをみられるとゲス以外の何者でもないというのは内緒のお話である。
兎にも角にも、非常に気分がいい。
腐れエリートにはたまにお灸を据えなければやっていけないというものだ。
靴箱に靴を投げ入れると、そのまま軽やかなステップで階段を上って行こうとした。
そんな時だった。
それは階段の隣に少し開いてあるスペースからだった。
「ちょっと、話が違うじゃない!あいつは……、これで返してもらえるんじゃなかったの!?」
何事かと声のする方を見るとその女の子と目が合ってしまった。
彼女はキッと僕を睨みつけたので僕は咄嗟に目をそらしてしまった。
本能的だった。
僕は、非リア根性丸出しで、リア充様の威圧に屈してしまったのである。
しかし、それくらいに、本当にキレイな女の子だったのだ。
大きな目に整った鼻、瑞々しい唇に真っ白な肌。
漆黒の髪は宝石を思わせるような輝きを孕んでいた。
正直に言おう、僕がきよりに惚れていなければ確実に落ちていた。
不機嫌な様子ですらあのレベルだ。
それが笑ったら一体どれくらいキレイなんだろう?
想像を絶するであろう彼女の姿を想像しようとして、やっぱりできなかった。
そして、勇士よりも先にそんな女の子を見つけられた優越感に浸りながら、僕は朝に自ら口に出した噂を思い出した。
そうか、あの子だったんだ。
6組の男子勢の心を総なめにしたという絶世の美少女とは。
そして、僕は再びスピードを上げた。
テンションが上がっていたのは言うまでもない。
僕の教室のドアが音を立てたのは、それから数秒後のことだ。
勇士に、カバンを届けてからすぐに噂の女の子にもう一度会いたくなった。
いや、これは浮気ではない。
自分の目が嘘をついていなかったのか、確かめるためだ。
うん、そうに決まってる!
「ほらよ、勇士。『カバン』だぞ」
「おー、明伸、ご苦労だった。ちなみに教科書はこっちで手配しておいたぞ?」
なんだ、この、なんでもお見通しだぜ、バーカとでも言いたげなこいつのドヤ顔は?
僕の嫌がらせが上手くいかなかっただけに余計むかつく……。
「お、おい、何怖い顔してんだよ、明伸?」
「うるせぇ、腐れエリート!行くぞ6組に!」
僕は、無駄に唾を飛ばしながら勇士に向かって叫んだ。
「お、おう、そうだな」
唾は、勇士にあたる直前に運動エネルギーのベクトルが鉛直下向きへと変わった。
勇士の首元にある十字架があざ笑うかのように淡い光を発していた。
だが、そんなことを気にする余裕は、次の瞬間に消えた。
「え、ゆう、し?」
ポンと、肩に手が置かれる。
その一瞬で悪寒が背中から真下へ猛ダッシュした。
そう思った時には、景色がグニャリと歪んでいた。
そして気づいたらそこに立っていた。
なんか、瞬間移動が安っぽく見えるが、本当は超高難度なんだぜ?
オリンピックとかで超高難度とかが連発されるせいで僕にもできちゃうんじゃね?的なノリなんだぜ?
まぁ、そんなことはどうでもいい。
着いてしまったものは仕方ないのだ。
だが、まぁ、その子はいなかった。
当然だろう、ついさっき階段の下のなんか表現に困るところで不機嫌そうに電話してるのを見たんだから。
「いねぇじゃねぇかよ、明伸?ガセだったのかあのネタ?」
「いや、そんなはずはないぞ!僕は現にさっきも見たし……」
「なん、だと!?美人を先に目に入れるなんて卑怯だぞ明伸!!!」
「ならまずはこのクラスの男子どもに文句言ってからにしろよ」
「なるほど、それも一理あるな」
勇士は威圧的に指を鳴らす。
なるほど、僕をぶちのめすことに変わりはないらしい。
「つまりはこいつら全員ぶっ飛ばせばお前も潰せるってことだよな?」
教室中が震撼する。
好戦的に身構えるものなどいようはずがない。
こいつは腐ってもエリートで、全校に名を轟かせている。
勇士は恐怖の対象だとも言い換えられる。
「おい、やめとけって、後悔するぞ?」
「するかよ?欲しいものはなんだって手に入れるつもりだし、気にくわねぇ奴らはねじ伏せるつもりだ。一体それがどうして悪いことなんだ??」
勇士は悪者の浮かべそうな笑みを顔にひっ提げていた。
イケメンはそれでも似合うという事実に気がついて僕はつい舌打ちした。
「お前、それでも自称勇者かよ?」
「ふん、ダークヒーローも悪くないだろ?」
「お前なぁ……」
まぁ、まじで6組の皆様方を襲い始めた場合は僕は力尽くで止めるつもりだった。
だが、その悪いやつの表情は次の瞬間気持ちの悪い笑みに変わる。
要するにゲス顏だ。
「まぁ、冗談だけどな。だって、今ムカついてる相手は同罪の皆様じゃなくてお前だからよ!」
なるほど、6組の皆様方の危機は去ったと言うわけか。
と言うことでひと息つく訳にも行かなかった。
僕の方の危機は絶賛続行中である。
まずは蹴りが来た。
「お前、ただ暴れたいだけだろ?」
それを右手で受け止める。
「なんだ、気付かれてた?」
そういうと勇士はそのままもう一方の足も使って蹴りを繰り出した。
勇士の耳元で何かが淡く光る。
ピアスにも魔法式を仕込んでいたようだ。
「無詠唱……。お前いつの間にそんな厨二を極めてたんだ……」
それをすんでのところで受け止めた。
両手をクロスして、男の足を掴んでるってどういう状況だと問いたくなるのは飲み込んで欲しい。
そんな常識はこいつには通用しないのだ。
「厨二を極める?はっ、なんのことだ、明伸?俺はただ魔法を究めているにすぎん!」
その声が聞こえた瞬間、勇士の体は青白い光の粒へと変わった。
空間移動だ。
「そういうのを厨二病って言うんだよ!?」
僕は、その後勇士がどこにでるのかはさっぱりわからないのでとりあえず死角になっている背中へエルボーをかました。
「ぐへぇ…………」
あ、ラッキー当たったぜ。
「お前の戦い方単純だなー。宝の持ち腐れってもんだぜ、勇しゅべっ!?」
顔面にかまされた。
くそ、油断したか?
「お前もまだまだ甘いなぁ、隙だらけだぜ?」
「てんめぇ!?」
今度は僕の攻撃だ。
そう思って、僕はキューブデバイスを制服のポケットから取り出そうとした。
その直後だった。
「ねぇ」
妙に威圧感を放つ女の子の声が聞こえた。
だが、声の主にピントを合わせる前にアクションは起きた。
「他人の教室で暴れないでくれない!?」
背中から叩きつけられた。
なんの脈絡もなく、ただ僕の視界には天井が映り、背中からある程度の痛みが発せられていた。
「いった、たた……」
自分が何をされたのか、さっぱりわからなかった。
しかし、いつまでもこうしてはいられない。
僕はゆっくりと床から立ち上がる。
「あっぶねぇ!?殺す気かお前!?」
「っ!?き、効いてない……?」
僕はそして、再び目撃した。
絶世の美女を、だ。
「あ、さっきの美人さん!」
僕がそういうとめっちゃ嫌な顔された。
なるほど、メガネ隠キャ風情が調子にのるなと、そういうことか?
「さっきの、ジロジロ見てきた変態の……」
お、おい、やめてくれよハニー、6組男子の敵意を総なめしちゃったよ?
「お、おい明伸、この人がさっき言ってた、学校一の美女か?」
「そ、そうだ」
「いやっほー!超美人じゃん、ねぇ名前なんていうの、どこ住みってかLIN⚪︎やってる?」
おい、ナンパの定型句みたいな口説き方してんじゃねぇよ?
「ちょ、ちょっと、私引いちゃうよ、ゆうしゃ?」
え?ゆうしゃ?
その言葉を勇士も確かに聞き取ったようで、勇士は咄嗟に1メートルほど距離をとった。
「お、お前、俺の真の姿をなぜ知っている!?」
勇士の何かのエンジンがかかってしまったようだ。
「真の姿っていうか、素で勇者じゃん?」
それに呼応するように彼女も髪をかきあげそう言った。
僕はそれを見て、一瞬思考が止まった。
しかし、次の瞬間、僕は理解した。コイツ、まさか同類なのか!?
「きっさま、もしや、魔王の手先か!?」
「あったりー、ってか、私が魔王そのものだけどね。ってなわけで勇者を潰そうかと思って学校に来たわけなんだけど……」
まて、待ってくれ。
そ、そんな。嘘だ、嘘だと言ってくれよ……。
「くっ、つまりは勇者と魔王は引き合うのが定めというわけか……」
「はっ、勇者風情が知ったような口を……」
「何、貴様、一体何を知っている!?機関はすでに俺が解体し、残るはお前もただ一人のはず。いや、まて、まさか……」
「ふ、ふふ。そうだよ、そのまさか、だよ?」
こんな超絶美人が厨二病なんて嘘だぁぁぁ!!!!!
「そ、そんな、ナイトメアコールスパンが、復活したと、お前はそういうのか!?」
「ふ、そうだよ、ゆうしゃ。まさか、今まで気付いてなかったの?その程度で勇者を名乗るなんて、ははっ、勇者の一族も落ちたものだね?」
「くっ、くそ、手遅れになる前に止めなければ、くそ、くそ!!!何か、何か手はないのか!」
そ、そろそろいいよな?
僕頑張って耐えたよな?
専門用語の嵐に耳を貸さず、恥ずかしい表情に目を向けず、よく我慢したよな?
そう、自分に言い聞かせて、僕は勇士に話しかける。
こういう時の勇士は邪魔をされると結構怒ることなど、百も承知だ。
「お、おい勇士?」
「黙れ、第三の眷属!」
何だよ、第三の眷属って、バンパイアかよ?
「人違いだよ、ってか、お知り合いか?」
「もちろんそうだ。あいつは魔王、この世に災厄を撒き散らす者だ」
「ふん、勇者、私の真名を思い出せない分際で、ベラベラと喋るなんて、笑えちゃうね?」
おめぇは話をややこしくするな……!
「何、真名だと?くそ、思い出せない、魔王、名前、ぐぅぅ、頭が……」
お得意の前世の記憶パターンだろうか?
勇士は頭を抱え、地面にうずくまった。
ちなみに、6組の皆さんは教室の真ん中で繰り広げられる阿鼻叫喚の会話劇と、美人さんへの幻滅で目の前が真っ白になっていることは言うまでもあるまい。
「さぁ、思い出せたら言ってみなさい!」
そう言って彼女は小さな鈴のついた鍵を勇士に突きつけた。
中二病の愛する、謎のアイテムというところか。
他愛もない小物に属性を付けたがるのは万国共通のようである。
勇士はそれを感じて頭をあげる。
勇者の目が一瞬歓喜に満ち溢れていたような気がしたのは強ち気のせいではあるまい。
「うぁぁぁぁぁあああああっっっ!!!!!」
突然呻き出した。まぁ、想定の範囲内だな。
だが、勇士の周りに複数の魔法陣が展開され、妙な魔法電流を轟かせているのは正直やり過ぎだ。
見ててきもい。
「さぁ、どう、思い出せた?ゆうしゃ?」
「く、はぁ!?はぁ、はぁ、はぁ。お前、まおか?」
なんということでしょう、相手の名前がわかっちゃったじゃありませんか……。
「やっとわかってくれたんだね……」
美人さんは目を潤ませている。
なんだこの茶番は。
「お前、魔法使ってそこまでしなくても、普通に聞けばいいだろう……」
勇士は片膝をついて、肩で息をしている。
迫真すぎて演技かどうかすらも怪しい。
だが、こいつの魔力が尽きるなんてことがあるはずはない。
「う、うるさい、否定したい過去の一つや二つ人にはあるものだ」
ダメだ、会話が通じねぇ。
「さてと、私のことを思い出してもらえたところで、本題に行こうかな……」
彼女はほっと、一息ついてから顔に物凄い笑顔を貼り付ける。
「お、おぉぉぉ……」
「ほ、ほぅ?」
勇士も僕も彼女の笑顔に感嘆の声をあげる。
だが、とんでもないのはここからだ。
「ゆうしゃぁぁぁぁぁぁああああ」
物凄い女の子走りで、物凄いかわい子ぶった声で、物凄い笑顔で彼女は勇士の方へ駆け出した。
「え?」
勇士はあまりの出来事に固まった。
その隙をつくように、まおと呼ばれた美人さんは勇士に抱きついたのだ。
「「「え、えぇぇぇえぇぇぇぇぇえええ!」」」
勇士を除いた漢どもの悲鳴が教室に響き渡った。




