取り戻した不幸で最高な日々
二
「まーくん!あさだよー!おきろー!!!」
「うはっ!?ちょ、みきちゃん!?」
ベッドが軋む音がする。別に他意はない。
「まーくん!おはよーのちゅー!」
「ん。」
生々しい音が聞こえる。
そろそろ僕の我慢も限界に達しそうだ。
「じゃ、起きよっか!せーの」
「ぴょーーん!!!」
僕は自分の部屋で隣の部屋から毎朝聞かされる騒音に毎度のように殺意を覚えていた。
なんだ、僕これでも結構酷い目にあってるんだぞ?
どうして、僕だけこんな酷い目に何度も合わないといけないんだ?
僕は自分の不幸体質を恨みながらも部屋を出た。
このシェアハウスは二階建てで個人のスペースは二階に確保されている。
それぞれが円筒形の端をを4等分したバームクーヘンのような形の部屋に収められているというわけだ。
つまりは僕の不幸な毎日にすでに逃げ場はない。
場所をどこに変えても二つを占領されていれば必然的に残り二つはバカップルの部屋に隣接してしまう。
「畜生、どうしてこんな目に」
僕はブツブツ言いながら中央の吹き抜けになっている螺旋階段を降りる。
実はこの階段、人間を感知して回るようになっている無駄な機能付きだ。
部屋からの階段までの距離も平等にとか言ってたが、何もそんなことで喧嘩することはないのではないだろうかと思う僕であった。
そこを降りて広がるのが、リビングとダイニングキッチンだ。
一応は広い。
東京にかけるはずだった予算が例の爆発で行き場を失ってしまったらしい。
その膨大な予算がこの厄災孤児援助に当てられたそうだ。
ちなみに今でも東京を中心とする関東地方は完全に封鎖されていて土地としての機能を完全に失っているらしい。
「さてと」
僕は自分に言い聞かせるようにキッチンへと向かう。
僕は適当にパンやら卵やらを出してきて朝食を準備してしまった。
ここだけの話、僕は今日、実に気分が乗っている。
なんて言ったってあのきよりと一緒に喫茶店に行けるのだ。
内容はともかくとして、これはデートだ!
断じて異論は認めない!!!
そんな風に納得して僕はパンを頬張った。
「真級魔法、物体召喚!!!願い奉る!!!」
だが、もう憂いの種がないわけでもない。
例えば、庭先で同居人が行っているこれがそうだ。
「我が力を開帳する。我が真名はエクスガルド際限のなき欲望のままに悪を喰らうものなりその功績は無限、その善虐は無限、その名声は無限。ここに顕現せよ、我が聖剣、グライゴード。我が欲望とともに我が使命を果たす鉄塊となれ!!!」
これがスタンダードだと思わないで欲しい。
近年の魔法の開発速度は著しく、わざわざ言葉で魔法を定義し、世界に宣言し、世界からの承認を得る必要は皆無なのだ。
例えばタッチ一つで魔法の使えるスマホ型のデバイスが普及していたり、もっと簡単なものでは一つの魔法だけを登録した指輪型のものまである。
これは手の平側に小さなボタンが付いているタイプで護身用なんてよく言われるが、実際のところお飾りみたいなものだ。
さて脱線はここまでにしよう。
正直に言おう、こんな旧式の魔法を使うのは魔法オタクの変態か、ただの厨二病くらいだ。
だが、魔法は魔法だ。
この世界から譲られた神聖な力は呼び出した本人の体を通して世界に現出する。
「来い!!!」
僕は若干引きながら、彼の動きを眺めていた。
この前は家を壊されたし、今回も何が起こるかわかったもんじゃない。
だが、僕の都合なんかまるで無視して、それは起こる。
彼は天高く衝き上げた腕に力を込めて、ゆっくりと何かのグリップを握る動作をする。
すると徐々に、魔力の靄のようなものがかかって、蜃気楼を起こす。
その直後、光が爆発した。
「なっ!!?」
光りが目に焼き付いた。
真っ白で何も見えない。
閃光弾をまともに食らったようなそんな情景が僕の目にこれでもかと自己主張している。
「くっ………」
だが、こんなことも在ろうかと、僕はメディク系を登録したキューブデバイスを上着のポケットに入れていた。
そして、すかさず、5面のうちの一番下のボタンを押した。
体の中にあった液体のような感覚が少し減った気がした。
直後に体の感覚が一瞬でクリアに変わる。
だが、食べかけのパンは残念ながら床に落ちていた。
「……………許せん」
僕はそう呟いて庭を睨むと勇士の右手に、豪華すぎる剣が収まっていた。
「決まった」
「決まってねぇよ!!!勇士!!!テメェ!!!ちょっとこっちこいやぁぁぁ!!!」
「ひ、ヒィィィ!!!?」
勇士は窓の向こう側で指を鳴らすと彼の存在が窓をすり抜け、一瞬で僕の目の前に現れた。
物体移動の応用だ。
ただし、この厨二病的演出をするためだけに、無駄な趣向を凝らしているようだが。
「お、おま、おま……!?明伸!?」
「んだよ、命乞いなら聞いてやらんでもないぞバカ野郎?」
「ま、まあ落ち着いてテレビでも見ようか?」
勇士が手を鳴らすとテレビに電源が入る。
また、これも厨二(ry
「なぁ、勇士?」
僕がそう言うと勇士の指がガタガタと机を叩く音が響き始めた。
後ろで喋り始めたテレビには総理大臣が閉じ込められていた。
「な、なな、何かな?明伸?」
僕は拳を机に振り下ろした。
食器が弾む音とともに、勇士は飛び上がる。
「僕はお前の厨二病のそれを一部始終見てたぞ」
勇士はそれを聞いて、血相を変えた。
「な、ななな!?て、テメェ!?じゃあ俺のとっておきの剣現もか!?」
「ったりめぇだ!?」
「じゃ、じゃあ、俺のちょーくーるな剣舞もなのか!?」
「ああっ、クオリティにちょっと引いたぞ!?」
「え、えぇぇ!?じゃ、じゃあ!?あの、超ド級呪文もか!?」
「善虐ってなんだよ、悪虐をもじったつもりかキモいわ!」
勇士はとてつもないダメージを受けた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!?し、死にたい!?死にたい死にたい!!!!!」
みたか、厨二病患者め?
厨二病 中二を過ぎれば 黒歴史
これは常識なのである。
そして、僕たちはもう高校二年!!!
三年間の遅れを伴うそれには猛烈な副作用を伴うのだ!!!
「な、泣きたい……」
「泣け、喚け、そして絶望するといい!!!って、あ…………」
そう言って僕は勇士の副作用に追い打ちをかけるべく厨二演出バリバリの言葉を叫んだ。
だが。
間の悪いことにドアが開いていた。
例のイチャコラカップルが朝の散歩から帰ってきたのだ。
「そ、そんな……、明伸、お前まで……」
「私、信じてたのに……」
彼らは僕を憐れみ肩を震わせている…………
「ちょ、違っ……」
…………ように見せかけて笑ってやがる!!!
「許せねぇ、お前らまとめて始末してやるぅぅぅまずは勇士からだ、てんめぇ、覚悟しやがれぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
僕は心で泣いた。




