第9章:夏祭り
夏休みも少しずつ後半に入り、桜森の町では夏祭りが開かれることになりました。
キラナはアイカ、ハルト、レン、カイトと一緒に夏祭りへ行くことに。
そして今回は、オカネも一緒です。
浴衣、屋台、祭りのゲーム、そして夜空に上がる花火。
キラナにとって、そしてオカネにとっても、忘れられない夏の一夜が始まります。
それでは、第9章「夏祭り」をお楽しみください!
2019年8月17日(土)――朝
その朝、キラナはいつものように自分の部屋で目を覚ました。
朝の日差しがカーテンの隙間から差し込み、部屋の中を暖かく照らしている。キラナはまだベッドに横になったままだった。
この日は土曜日で、夏休みもまだ続いている。
学校へ行く必要はない。
キラナは布団を少しだけ上まで引き上げた。
キラナ:「まだ朝か……」
本当はもう少しだけ横になっていたかった。
しかし、ベッドのそばに置いてあったスマートフォンに手を伸ばすと、新しい通知がいくつか届いていることに気づいた。
どうやら、グループチャットにメッセージが来ているようだ。
キラナはグループチャットを開いた。
アイカ、ハルト、レン、カイトは、今夜の予定についてすでに話し始めていた。
そこでキラナは思い出した。
数日前、みんなで桜森で開かれる夏祭りについて話していたのだ。
アイカ:「ねえ、今日の夏祭り、やっぱりみんなで行くんだよね?」
ハルト:「もちろん! 俺なんて、今から屋台で何食べるか考えてるぞ。」
カイト:「まだ朝だよ。」
ハルト:「だからこそだろ。朝のうちに何を食べるか考える時間がたっぷりあるんだ。」
アイカ:「あはは。私は浴衣のこと考えてる。」
すると、アイカが続けてメッセージを送った。
アイカ:「みんな、浴衣着る?」
キラナはそのメッセージを読みながら、笑顔になった。
ハルト:「俺は普通の服でいいかな。」
カイト:「俺もたぶん普通の服。」
アイカ:「二人ともつまんないなぁ。」
ハルト:「なんで? 楽なのが一番だろ。」
カイト:「同感。」
しばらくして、レンも返信した。
レン:「とりあえず、待ち合わせ場所と時間を決めよう。」
レン:「祭りが混んできたら、お互いを探すだけで時間を使うことになるから。」
アイカ:「あ、それもそうだね。」
ハルト:「じゃあ、入口で待ち合わせるのは?」
レン:「それでもいいけど、もう少し具体的な場所を決めておこう。」
キラナはそのやり取りをずっと読んでいた。
またみんなで集まれることが嬉しかった。
しばらくして、キラナもようやく返信を打ち込んだ。
キラナ:「私も行く!」
アイカはすぐに返信した。
アイカ:「やったー! これで全員そろったね!」
カイト:「よし。」
ハルト:「じゃあ、忘れずに来いよ。」
キラナ:「うん。」
レン:「じゃあ、夕方に集まろう。祭りが混みすぎる前に。」
アイカ:「賛成!」
キラナはメッセージを読みながら、にっこりと笑った。
すると、アイカがまたメッセージを送ってきた。
アイカ:「そうだ、キラナ。キラナも浴衣着る?」
キラナはその質問を読む。
キラナ:「浴衣……」
少しの間、キラナは黙り込んだ。
そして、今夜の夏祭りの様子を想像し始めた。
提灯。
屋台の食べ物。
家族や友達と一緒に訪れる人たち。
そしてもちろん、自分もアイカ、ハルト、レン、カイトと一緒にいる。
キラナは笑顔になった。
キラナ:「私も浴衣、着てみようかな。」
アイカ:「本当!?」
キラナ:「うん。せっかくだし、新しい経験だから。」
アイカ:「わあ、いいじゃん! 私も着る!」
ハルト:「おお、じゃあ二人とも浴衣か。」
カイト:「なんか、祭りがもっと楽しくなりそうだな。」
レン:「とにかく、待ち合わせ場所を間違えないように。」
ハルト:「大丈夫だって。まだ一日あるんだから。」
カイト:「むしろ、いつも忘れないように言われるのはハルトだろ。」
ハルト:「俺、そこまでひどくないぞ!」
キラナは二人のやり取りを見て、小さく笑った。
そのあとも、みんなで夕方の予定について話し合った。
そして、祭りの会場へ向かう前に、見つけやすい場所で夕方に待ち合わせることになった。
レンが、決まった時間と場所をもう一度確認する。
レン:「じゃあ、今日の夕方に集合。誰も忘れないように。」
アイカ:「大丈夫。覚えてるよ。」
カイト:「俺も。」
ハルト:「俺は絶対覚えてる。」
キラナ:「私も!」
チャットを終えると、キラナはグループチャットを閉じた。
そして、スマートフォンを枕の横に置く。
キラナ:「夏祭り……」
キラナは一人で笑顔になった。
しかし、そのとき、ふと思い出した。
オカネ。
あの異世界からやってきた魔法の猫は、今ではキラナの家に来てから二週間ほどになる。
キラナは部屋のドアのほうを振り返った。
キラナ:「オカネにも言わなくちゃ。」
そう言って、キラナはベッドから起き上がった。
この日は、最初はいつもと変わらない夏休みの土曜日に見えた。
けれど今夜、キラナは四人の友達と一緒に夏祭りへ行く。
そして今回は、キラナの日常は学校や友達、夏休みの出来事だけではない。
今では、異世界からやってきた魔法の猫も、彼女の日常の一部になっている。
キラナは部屋のドアを開け、朝の時間を始めるために部屋の外へ出た。
そして、二階の廊下を歩いていく。
朝の家の中は、まだかなり静かだった。
キラナの父と母は一階にいて、キラナはちょうど自分の部屋から出てきたところだった。
廊下を歩いていると、キラナはオカネが二階にあるいくつかの物をじっと見ているのに気づいた。
オカネは、ゆっくりとあちこちを歩き回っている。
ときどき立ち止まる。
何かを見る。
そして、また歩き出す。
キラナはしばらくその様子を見てから、声をかけた。
キラナ:「オカネ、何してるの?」
オカネが振り向く。
オカネ:「ちょっと見て回っている。」
キラナはオカネのそばまで歩いていった。
キラナ:「何を見てるの?」
オカネは、さっきまで見ていた物に目を向ける。
オカネ:「君たちの家にある物について、まだいくつか理解しようとしている。」
キラナは小さく笑った。
キラナ:「もうここに来て二週間くらいになるのに?」
オカネ:「だいぶ慣れてきた。」
オカネ:「でも、まだ僕には不思議に感じる物もある。」
キラナ:「例えば?」
オカネは近くにある物を指した。
オカネ:「あれ。」
キラナはその物を見る。
キラナ:「ああ、それ?」
オカネはうなずいた。
オカネ:「君たちの世界の物が、どうやって動いているのか、まだ完全には理解できていない。」
キラナは、以前にもオカネが興味を持っていた物をいくつか思い出した。
キラナ:「まだテレビが気になるの?」
オカネ:「うん。」
キラナは小さく笑う。
キラナ:「それとも冷蔵庫?」
オカネ:「それも。」
キラナ:「洗濯機は?」
オカネは少し黙った。
オカネ:「……あれの音は、まだ変な感じがする。」
キラナは思わず笑った。
キラナ:「あはは! まだ洗濯機の音にびっくりするの?」
オカネ:「驚いてはいない。」
キラナ:「じゃあ?」
オカネ:「警戒しているだけだ。」
キラナは笑顔になった。
キラナ:「まあ、私たちの世界の暮らしについて勉強してるって思えばいいよ。」
オカネはうなずいた。
オカネ:「確かに、そうだな。」
キラナは廊下の壁に少し寄りかかった。
キラナ:「でも、最初に来たときよりずっと慣れたよね。」
オカネ:「そうだな。」
オカネ:「最初は、ここにあるもののほとんどが見慣れなかった。」
オカネは二階を見回した。
オカネ:「今では、食事をする場所や寝る場所、それに君の家族のいくつかの習慣も分かるようになった。」
キラナは笑顔になった。
キラナ:「じゃあ、ここでの暮らしにも慣れてきたんだね。」
オカネは少し黙った。
そして、うなずいた。
オカネ:「たぶん、そうだな。」
そこでキラナは、ふと思い出した。
キラナ:「あ、そうだ!」
オカネが振り向く。
オカネ:「何だ?」
キラナ:「今日ね、アイカ、ハルト、レン、カイトと一緒に夏祭りに行くの。」
オカネの目が、すぐに興味を示した。
オカネ:「夏祭り?」
キラナはうなずく。
キラナ:「うん。夏祭り。」
オカネ:「その祭りって、どんなものなんだ?」
キラナは少し考えてから答えた。
キラナ:「たぶん、すごくにぎやかだよ。たくさんの人が集まるの。」
キラナ:「それに、食べ物もいっぱいあるよ。」
オカネはすぐにキラナのほうを見る。
オカネ:「食べ物?」
キラナは小さく笑った。
キラナ:「うん。屋台がたくさん出るんだ。」
オカネ:「どんな食べ物がある?」
キラナ:「たこ焼きとか、焼きそばとか、かき氷とか、たい焼きとか……ほかにもいろいろあるよ。」
オカネはますます興味を持ったようだった。
キラナは続ける。
キラナ:「食べ物だけじゃなくて、祭りのゲームもあるし、浴衣を着ている人もたくさんいるよ。」
オカネ:「浴衣?」
キラナ:「夏祭りのときによく着る、日本の伝統的な服だよ。」
オカネはゆっくりとうなずいた。
キラナ:「大きなお祭りなら、花火が上がることもあるよ。」
オカネは数秒間、黙った。
オカネ:「花火?」
キラナ:「うん。」
オカネ:「この世界で、そんな祭りを見るのは初めてだ。」
キラナは笑顔になった。
キラナ:「じゃあ、あとで自分で見てみればいいよ。」
オカネはキラナを見る。
オカネ:「僕も行っていいのか?」
キラナは少し驚いた。
キラナ:「え?」
オカネ:「君たちの世界の祭りを見てみたい。」
キラナは黙った。
本当はオカネも連れて行きたかった。
しかし、すぐにオカネの姿を思い出す。
二本の尻尾。
その二本の尻尾の先はピンク色になっている。
四本の足の先もピンク色だ。
そして何より目立つのは、左目にあるピンク色のハートのような模様。
人の多い祭りにオカネを連れて行けば、周りの人たちに注目される可能性がある。
キラナはオカネを見る。
オカネはまだ返事を待っていた。
キラナ:「本当は連れて行きたいんだけど……」
オカネ:「だけど?」
キラナ:「たぶん、たくさんの人に注目されちゃうと思う。」
オカネは自分の二本の尻尾を見る。
オカネ:「ああ……」
ようやくキラナの言いたいことが分かったようだった。
キラナ:「それに、お祭りが混んでたら、みんなとはぐれないように気をつけないといけないし。」
オカネはうなずいた。
オカネ:「分かった。」
キラナは少し考える。
そして、笑顔になった。
キラナ:「でも、先にお父さんとお母さんに聞いてみる。」
オカネ:「分かった。」
キラナ:「二人がいいって言ってくれたら、一緒に行こう。」
オカネは少し嬉しそうになった。
オカネ:「本当か?」
キラナはうなずいた。
キラナ:「うん。」
オカネ:「だって、君たちの世界の祭りがどんなものなのか、見てみたいんだ。」
キラナ:「じゃあ、お父さんとお母さんが許してくれるといいね。よし、先に朝ごはん食べよっか。」
キラナはそう言って、一階へ下りるために階段へ向かい、そのまま一緒に朝食を食べに行った。
オカネも後ろからついていく。
朝は、まだいつも通りに過ぎていた。
しかし、もしキラナの父と母が許してくれれば、今夜、オカネは新しい経験をすることになる。
自分の故郷ではない世界で、初めて夏祭りを見るのだ。
食堂に着くと、キラナの父と母はすでにそこにいた。
キラナはいつもの席に座り、オカネもキラナのそばに座った。
やがて、みんなで朝食を食べ始めた。
朝の食卓は穏やかな雰囲気に包まれていた。
キラナは朝食を食べながら、ときどきオカネのほうを見る。
しばらくして、キラナは今夜の予定をまだ両親に話していないことを思い出した。
キラナ:「あ、そうだ。お父さん、お母さん。」
父:「ん?」
母:「どうしたの?」
キラナ:「今夜、アイカとハルトとレンとカイトと一緒に夏祭りに行きたいんだけど。」
父と母は少し顔を見合わせた。
父がうなずく。
父:「いいぞ。」
母:「うん。でも、あまり遅くならないように帰ってきてね。」
キラナはうなずいた。
キラナ:「うん。」
母:「お祭りは混むことが多いから、気をつけてね。それと、友達とはぐれないようにするのよ。」
キラナ:「大丈夫だよ。もう待ち合わせ場所も決めたから。」
父:「それならいい。」
キラナはオカネのほうを見る。
まだ一つ、気になっていることがあった。
キラナ:「あの……」
キラナが少し言葉を止める。
父:「どうした?」
キラナはオカネを指差した。
キラナ:「オカネも一緒に行っていい?」
父と母はすぐにオカネを見る。
さっきから会話を聞いていたオカネは、少し姿勢を正した。
オカネ:「僕も、キラナの世界の祭りを見てみたい。」
母はオカネをじっと見つめる。
母:「本当に一緒に行きたいの?」
オカネはうなずいた。
オカネ:「うん。」
オカネ:「この世界で、祭りを見るのは初めてだから。」
父は尋ねた。
父:「でも、祭りが人でいっぱいになることは分かっているのか?」
オカネ:「キラナが教えてくれた。」
オカネ:「たくさんの人がいることも分かっている。」
父はゆっくりとうなずいた。
そして、キラナを見る。
父:「それなら、お父さんは構わない。」
キラナはすぐに笑顔になった。
キラナ:「本当に?」
父:「ああ。」
母もうなずいた。
母:「お母さんもいいよ。」
キラナは嬉しそうな顔をする。
キラナ:「やったー!」
オカネもほっとしたような表情を見せた。
しかし、母はすぐに付け加えた。
母:「ただし、条件があるわ。」
キラナとオカネはそろって母を見る。
母:「キラナがちゃんとオカネのことを見ていること。」
キラナはうなずいた。
母:「人が多い場所で、オカネを一人で歩き回らせないこと。」
父も続ける。
父:「人が多くなったら、オカネがちゃんとみんなと一緒にいるようにするんだ。」
キラナ:「うん、お父さん。分かった。」
母:「それと、あまり遅くならないようにね。」
キラナ:「うん、お母さん。」
オカネも少し頭を下げた。
オカネ:「僕も気をつける。」
父は笑顔になった。
父:「それなら問題ない。」
オカネ:「ありがとう。」
キラナはオカネに笑顔を向けた。
キラナ:「じゃあ、オカネも夏祭りに行けるね!」
オカネ:「そうだな。」
オカネの表情は、さっきよりずっと嬉しそうだった。
オカネ:「ますます楽しみになってきた。」
キラナは小さく笑った。
キラナ:「きっと、いろんなものが見られるよ。」
オカネ:「さっき話していた食べ物が気になる。」
キラナ:「あはは。やっぱり一番気になるのは食べ物?」
オカネ:「ただ、気になっているだけだ。」
父も小さく笑った。
父:「じゃあ、食べ物に夢中になってキラナを見失わないようにな。」
オカネ:「そんなことはしない。」
キラナ:「私もちゃんと見てるから。」
母は二人を見ながら微笑んだ。
そのあと、みんなは再び朝食を続けた。
その朝も、いつもと変わらない穏やかな時間が流れていた。
けれど、オカネにとって、この日は少し特別な一日になった。
キラナの世界に来てから初めて、人間たちが楽しむ日常の一つを知ることになる。
夏祭り。
そして今夜、オカネはキラナと四人の友達と一緒に、それを体験することになる。
朝食を終えると、キラナは再び二階へ戻り、自分の準備を始めた。
祭りが始まるのは夜なので、まだたっぷり時間がある。
部屋に戻ると、キラナはクローゼットを開けた。
中に入っている服をいくつか見てから、一着の浴衣を取り出す。
キラナは浴衣をベッドの上に置いた。
キラナ:「うーん……これなら似合いそうかな。」
浴衣を着るのは久しぶりだった。
だからキラナは、夕方になってからちゃんと着られるか確認するのではなく、今のうちに一度着てみることにした。
キラナは浴衣を着始める。
しかし、いくつかの部分をきれいに整えるのが少し難しかった。
キラナ:「あれ……ここ、どうするんだっけ?」
しばらくすると、キラナが独り言を言っているのを聞いた母が部屋にやってきた。
母:「どうしたの、キラナ。難しい?」
キラナ:「うん。きれいに整えるやり方、ちょっと忘れちゃった。」
母は笑顔になった。
母:「ほら、貸して。お母さんが手伝ってあげる。」
キラナはその場に立ったまま、母に浴衣を整えてもらった。
母は襟元や帯、それ以外の部分もしっかり整えていく。
その一方で、部屋の近くにいたオカネは、興味津々といった様子で二人を見ていた。
オカネ:「キラナ。」
キラナ:「ん?」
オカネ:「その服、いつも着ている服とは違うな。」
キラナは自分が着ている浴衣を見る。
キラナ:「うん。これは浴衣っていうの。」
オカネ:「浴衣……」
オカネは、その名前を覚えようとするように繰り返した。
キラナ:「浴衣は、日本の伝統的な服で、夏の行事、特に今夜行くような夏祭りでよく着るんだよ。」
オカネはキラナの服をじっと見つめる。
オカネ:「つまり、君たちの世界の人間には、祭りのための特別な服があるのか?」
キラナは小さく笑った。
キラナ:「まあ、そんな感じかな。」
オカネ:「面白い。」
浴衣を整え終えると、母は少し後ろへ下がった。
母:「よし、これで大丈夫。」
キラナ:「ありがとう、お母さん。」
母:「鏡で見てみたら?」
キラナは鏡の前に立った。
そして、自分の姿を見つめる。
しばらくの間、キラナは何も言わなかった。
浴衣を着た自分を見ると、少しだけいつもと違って感じる。
普段は私服や学校の制服を着ていることが多い。
だから、こんな服を着た自分を見ると、何か特別なことの準備をしているような気持ちになった。
キラナ:「えへへ……」
母:「どうしたの?」
キラナ:「なんでもない。ただ、ちょっと変な感じ。」
母:「久しぶりに着たから?」
キラナはうなずいた。
キラナ:「うん。」
オカネはすぐそばで、まだキラナを見ていた。
オカネ:「僕は、いいと思う。」
キラナは振り向いた。
キラナ:「本当?」
オカネはうなずいた。
オカネ:「うん。いつもの服とは違って見える。」
キラナは笑顔になった。
キラナ:「じゃあ、本当にお祭りに行く人っぽく見える?」
オカネ:「そう見えると思う。」
キラナは小さく笑った。
しかし、しばらくすると壁に掛かった時計を見る。
キラナ:「でも、まだお祭りまで時間あるよね。」
母:「だから、今は試着だけでいいの。」
キラナ:「あ、そっか。」
キラナはゆっくりと浴衣を脱いだ。
そして、きれいに畳んで、用意しておいた場所に置く。
キラナ:「夕方になったら、また着よう。」
母:「うん。そのときは準備して、お母さんがまた整えてあげる。」
キラナはうなずいた。
キラナ:「分かった。」
オカネは畳まれた浴衣を見る。
オカネ:「じゃあ、その服は今から祭りに着ていくわけじゃないのか?」
キラナは小さく笑った。
キラナ:「まだだよ。お祭りは今夜だから。」
オカネ:「そうか。」
キラナ:「今からずっと着てたら、シワになっちゃうでしょ。」
オカネはゆっくりとうなずいた。
オカネ:「なるほど。」
キラナは用意された浴衣を見る。
これで、ちゃんと着られることも分かったし、特に問題もない。
キラナは少し安心した。
キラナ:「じゃあ、浴衣の準備はこれで終わり。」
母:「今のところはね。」
キラナは笑顔になった。
夕方までは、まだ何時間もある。
キラナはそのままいつも通りの朝を過ごすことにした。
浴衣は、今夜着るためにきちんと準備されている。
一方、オカネの夏祭りへの興味は、ますます大きくなっていた。
今まで見たことのない服。
そして数時間後には、初めて夏祭りを実際に見ることになる。
浴衣の準備が終わったあと、キラナは再びオカネを見る。
オカネはベッドから少し離れた場所に座り、畳まれた浴衣を眺めていた。
すると、キラナは突然あることを思いついた。
キラナは小さく笑った。
キラナ:「でも……」
オカネが振り向く。
オカネ:「でも、何だ?」
キラナ:「私が夏祭りに浴衣を着ていくなら、オカネもちゃんとお祭りに行く格好にしないとね。」
オカネはすぐに顔をしかめた。
オカネ:「僕は猫だぞ。」
キラナ:「分かってるよ。」
オカネ:「猫は浴衣なんて着ない。」
キラナ:「うん。それも分かってる。」
キラナは小さく笑った。
キラナ:「だから、浴衣じゃないよ。」
オカネは首をかしげた。
オカネ:「じゃあ、何だ?」
キラナは部屋の小物をしまっている場所へ向かった。
そして、しばらくの間、何かを探す。
やがてキラナは、安全にオカネにつけられそうな小さなアクセサリーを見つけた。
それを持って、オカネのところへ戻ってくる。
キラナ:「じゃーん!」
オカネはその小さな物を見る。
オカネ:「それは何だ?」
キラナ:「小さなアクセサリー。」
オカネ:「何のために?」
キラナ:「オカネもお祭りに行くんだって、ちゃんと分かるようにするため。」
オカネは数秒間、キラナをじっと見つめた。
オカネ:「僕には必要ないと思う。」
キラナ:「ちょっとだけだから。」
オカネ:「どうして僕なんだ?」
キラナ:「だって、祭りに行くんだから。」
オカネは黙った。
すると、キラナは冗談っぽい口調で続けた。
キラナ:「みんなが祭りっぽいものを身につけてるのに、オカネだけ普通の猫みたいなのはどうなの?」
オカネは自分の姿を見る。
二本の尻尾がゆっくりと揺れている。
オカネ:「僕は猫だからな。」
キラナはすぐに笑った。
キラナ:「はいはい。」
キラナはそのまま、アクセサリーをオカネにつけていく。
きつすぎないように、首や動きを邪魔しないように、歩きにくくならないように、慎重に調整する。
つけ終わると、キラナは少し後ろへ下がった。
キラナ:「よし。」
オカネは立ち上がった。
そして、数歩歩いてみる。
それから鏡のほうを見た。
オカネは鏡に映った自分の姿をじっと見つめる。
しばらく黙ったままだった。
オカネ:「……」
キラナはオカネの反応を待つ。
キラナ:「どう?」
オカネはまだ鏡を見ている。
オカネ:「悪くない。」
キラナはぱっと笑顔になった。
キラナ:「あはは! かわいいよ!」
オカネはすぐに振り向いた。
オカネ:「かわいい?」
キラナはうなずく。
キラナ:「うん。」
オカネ:「かわいく見られたいわけではない。」
キラナはまた笑った。
キラナ:「でも、かわいいんだもん。」
オカネは少し顔をそむけた。
オカネ:「僕は祭りに行くからつけているだけだ。」
キラナ:「はいはい。」
オカネ:「かわいく見せたいからではない。」
キラナ:「分かってるって。」
オカネはもう一度、鏡を見る。
そして、小さなアクセサリーをじっと見つめた。
最初はあまり乗り気ではなかった。
けれど、動きを邪魔することもなく、特に気になるところもない。
それなら、つけていても構わないと思った。
オカネ:「分かった。」
キラナ:「じゃあ、つけてていい?」
オカネ:「うん。」
キラナは満足そうに笑った。
キラナ:「これでオカネもちゃんとお祭りに行く準備ができたね。」
オカネ:「まだだ。祭りは今夜だろ。」
キラナは少し黙った。
キラナ:「あ、そうだった。」
オカネ:「さっき、まだ時間があるって言っていただろ。」
キラナ:「えへへ……そうだったね。」
オカネは小さく首を振った。
けれど、今回はキラナにつけられたアクセサリーについて、もう何も言わなかった。
一緒に暮らし始めて二週間近くになる。
こうした小さなやり取りも、二人にとっては少しずつ当たり前のものになっていた。
キラナも、オカネが異世界から来た存在だからといって、いつも距離を置くことはなくなっていた。
そしてオカネも、キラナがときどき突然変わったことを思いつくことに、少しずつ慣れてきていた。
その朝も、二人の間には穏やかな時間が流れていった。
夏祭りまでは、まだ数時間ある。
それでも、ちょっとした準備を終えたことで、キラナもオカネも夕方が来るのを少し楽しみにしていた。
――それから数時間後。
日が傾き始め、家の中の雰囲気も少しずつ変わっていった。
朝はまだまだ先だと思っていた出発の時間も、いよいよ近づいてきた。
キラナはもう一度、自分の部屋へ戻って準備を始める。
朝に一度試着した浴衣を、今度はもう一度取り出した。
キラナ:「よし……今度こそ本番だね。」
キラナは浴衣を着始める。
朝に一度着ているため、気をつける部分もだいぶ分かっていた。
それでも、きれいに整っているか確認するため、今回も母に手伝ってもらうことにした。
母はキラナの浴衣を整え、帯が緩すぎないか、着ていて苦しくないかなどを確認していく。
準備が終わると、キラナは鏡の前に立った。
キラナ:「今度こそ、本当に準備できた。」
母は笑顔でうなずく。
母:「うん。忘れ物はない?」
キラナ:「全部持ったよ。」
キラナは小さなバッグを手に取った。
オカネもすでに準備を終えている。
朝につけた小さなアクセサリーも、きちんとついたままだ。
動きの邪魔にもなっていない。
オカネ:「もう出るのか?」
キラナは時計を見る。
キラナ:「もう少ししたらね。」
それから、忘れ物がないかもう一度確認する。
すべての準備が終わると、キラナとオカネは一階へ下りた。
父と母は玄関の近くで待っていた。
父は浴衣姿のキラナを見る。
父:「おお、準備できたか?」
キラナ:「うん!」
父は続けてオカネを見る。
オカネはキラナの隣で静かに立っている。
父:「オカネも準備できたみたいだな。」
キラナは小さく笑った。
キラナ:「うん。さっきアクセサリーをつけてあげたの。」
オカネ:「僕も祭りに行くように見えるように、だそうだ。」
父は笑った。
父:「なるほど。いいじゃないか。でも、気をつけてな。」
キラナはうなずく。
キラナ:「うん、お父さん。」
父:「祭りが混んできたら、友達からあまり離れるなよ。」
キラナ:「うん。」
母も続けて注意する。
母:「それと、オカネのこともしっかり見ていてね。みんなとはぐれないように。」
キラナ:「大丈夫だよ、お母さん。ちゃんと見てるから。」
オカネ:「僕も気をつける。」
母は笑顔になった。
母:「それなら大丈夫ね。」
キラナは玄関のドアを開ける。
外へ出る前に、もう一度父と母のほうを振り返った。
キラナ:「じゃあ、行ってくるね!」
父:「気をつけてな。」
母:「楽しんできてね!」
キラナは笑顔になった。
キラナ:「うん! 行ってきます!」
そして、キラナはオカネと一緒に家を出た。
二人は、アイカ、ハルト、レン、カイトと待ち合わせる場所へ向かって歩き始めた。
その日の夕方、桜森の街はいつもと少し違った雰囲気に包まれていた。
普段はそれほど人通りの多くない道にも、少しずつ人が増えている。
家族で歩いている人もいる。
子どもや学生たちが、同じ方向へ向かって歩いている姿も見えた。
その中でも、オカネが特に気になったのは、みんなの服装だった。
何人もの人が浴衣を着ている。
オカネは一人ひとりの姿をじっと見ていた。
オカネ:「キラナ。」
キラナ:「ん?」
オカネ:「君と同じような服を着ている人が、こんなにたくさんいるんだな。」
キラナは笑顔になった。
キラナ:「うん。もうすぐお祭りが始まるからね。」
オカネは周囲を見回した。
街のあちこちも、少しずつ祭りの雰囲気に変わっている。
いくつかの場所では、灯りや祭りの飾りも見えてきた。
人通りも、普段より多くなっている。
オカネ:「この街、いつもと違うな。」
キラナはうなずいた。
キラナ:「私もそう思う。」
キラナは前方の道を見る。
普段は自分が日常を過ごしている街、桜森。
そんな桜森が、今日はいつもより少し華やかになっていた。
祭りの会場へ向かう人たち。
子どもを連れた家族。
友達同士で集まっている学生たち。
そして、祭りの会場に近づくにつれて、少しずつ祭りらしい雰囲気がはっきりしてくる。
オカネ:「これが、祭りが始まる前の雰囲気なのか?」
キラナ:「だいたいそんな感じかな。」
キラナは笑顔になった。
キラナ:「これから、もっと人が増えると思うよ。」
オカネは前を見ながら、興味深そうに周囲を眺めていた。
祭りというのは、会場だけで行われるものではない。
祭りの日になると、街全体の雰囲気まで変わるのだ。
キラナとオカネはそのまま歩き続ける。
待ち合わせ場所は、もうすぐそこだった。
そして、二人はついに、みんなで決めた待ち合わせ場所に到着した。
そこはそれなりに人がいたが、まだ混雑しすぎてはいない。
祭りへ向かう家族や友達同士の姿もちらほら見える。
キラナは周囲を見回した。
キラナ:「うーん……アイカ、まだ来てないのかな?」
しかし、キラナがもう少し探そうとしたそのとき、少し離れた場所から誰かが手を振った。
アイカ:「キラナ!」
キラナはすぐにその声に気づいた。
振り向くと、アイカが笑顔で立っている。
アイカも祭りへ行くために浴衣を着ていた。
キラナは笑顔になり、オカネと一緒にアイカのところへ歩いていく。
キラナ:「アイカ! 先に来てたんだ!」
アイカ:「うん。ほんの数分前に着いたところ。」
アイカはキラナを上から下まで見る。
その目がきらきらと輝いた。
アイカ:「わあ、キラナ! 浴衣、すっごくかわいい!」
キラナは少し照れながら笑った。
キラナ:「本当?」
アイカ:「うん! すごく似合ってるよ。」
キラナもアイカの浴衣を見る。
キラナ:「でも、アイカの浴衣もかわいいよ。」
アイカ:「えへへ、ありがとう!」
二人は笑顔になった。
すると、アイカはキラナの隣にいるオカネを見る。
アイカ:「あ、オカネも来たんだ!」
オカネは顔を上げる。
オカネ:「こんにちは、アイカ。」
アイカは笑顔になった。
アイカ:「こんにちは、オカネ。また会えてうれしいよ。」
オカネ:「僕もうれしい。」
アイカは、オカネについている小さなアクセサリーに気づいた。
アイカ:「あれ? オカネもアクセサリーつけてるの?」
オカネは少し黙った。
オカネ:「キラナがつけた。」
キラナは小さく笑った。
キラナ:「オカネもお祭りに行くんだって、ちゃんと分かるようにしたの。」
アイカ:「あはは! すっごくかわいい!」
オカネ:「かわいく見られたいわけではない。」
アイカは笑った。
アイカ:「ごめん、ごめん。」
オカネは小さくため息をついた。
けれど、本気で嫌がっているわけではなかった。
しばらくすると、遠くから誰かの声が聞こえてきた。
ハルト:「おーい! みんな!」
キラナ、アイカ、オカネが振り向く。
ハルトがレンとカイトと一緒にこちらへ歩いてくる。
キラナとアイカとは違い、ハルトは普通の服を着ている。
カイトもラフな服装で、レンは少しきちんとした格好ではあるものの、やはり普段着だった。
ハルトは近づきながら手を上げた。
ハルト:「ごめん、ちょっと遅れた。」
レン:「でも、時間には間に合ってる。」
カイト:「今、全員そろったんだからいいだろ。」
ハルトはキラナとアイカを見る。
ハルト:「二人とも浴衣なんだな。」
アイカ:「うん。せっかくの夏祭りだもん。」
ハルト:「ああ、まあ、それもそうか。」
ハルトは自分の服を見る。
ハルト:「俺は服のこと、あんまり考えてなかった。」
カイト:「なんで?」
ハルトは何でもないように答えた。
ハルト:「俺にとって大事なのは、祭りの食べ物だから。」
キラナはすぐに笑った。
キラナ:「まだ着いたばっかりなのに。」
ハルト:「着いたばっかりだからこそ、もう食べ物のことを考えてるんだ。」
レンはため息をついた。
レン:「本当にそれしか考えてないな。」
ハルト:「おい! 食べ物だけじゃないぞ。」
レン:「じゃあ、例えば?」
ハルトは黙った。
少し考える。
ハルト:「えーっと……」
カイトはすぐに笑った。
カイト:「ほら、やっぱり。」
ハルト:「祭りのゲームのことも考えてる。」
レン:「食べ物の次はゲームか?」
ハルト:「……そう。」
カイトはさらに笑った。
キラナとアイカも、ハルトの表情を見て笑った。
こうしてみんなが集まると、いつもの雰囲気に戻っていく。
服装のことを気にする人もいない。
急ぐ必要もない。
ただ、学校にいるときと同じように、みんなで冗談を言い合っている。
しかし、しばらくすると、ハルトがキラナの隣にいるものに気づいた。
ハルトはオカネを指差す。
ハルト:「あれ、待って。」
オカネが振り向く。
ハルト:「オカネも来るのか?」
キラナはうなずいた。
キラナ:「うん。」
ハルトは少し驚いた。
ハルト:「本当に? てっきりキラナだけ来るのかと思ってた。」
キラナ:「ううん。お父さんとお母さんに聞いたら、オカネも一緒に行っていいって。」
ハルトはしばらくオカネを見る。
ハルト:「しゃべる猫って、やっぱりまだ慣れないな。」
オカネ:「僕も、話すたびに驚かれる人間にはまだ慣れていない。」
ハルトは黙った。
カイトがすぐに笑った。
カイト:「やられたな、ハルト。」
ハルト:「そういう意味じゃないって!」
レンは小さく笑った。
そして、オカネを見ながら落ち着いた声で言う。
レン:「とにかく、オカネは今日はみんなの近くにいること。勝手に離れたりしないように。」
オカネはうなずいた。
オカネ:「分かった。」
レン:「夜になるにつれて、もっと混んでくるだろうから。はぐれないようにしよう。」
キラナ:「うん。私もオカネのこと、ちゃんと見てるから。」
アイカ:「じゃあ、みんなで一緒に行こうね。」
カイトはみんなを見回し、それからオカネを見る。
そして笑った。
カイト:「これなら、今夜はもっと楽しくなりそうだな。」
ハルト:「なんで?」
カイト:「だって、仲間が一人増えたから。」
オカネは両耳をぴんと立てた。
オカネ:「仲間?」
カイト:「そう。オカネのこと。」
オカネはしばらく黙った。
そして、キラナとみんなを順番に見る。
オカネ:「つまり……僕も君たちの仲間なのか?」
キラナは笑顔になった。
キラナ:「もちろんだよ。」
アイカ:「うん!」
ハルト:「まあ、俺の祭りの食べ物を取らないならな。」
オカネはハルトをじっと見つめる。
オカネ:「僕はまだ、君の食べ物を取るなんて一言も言っていない。」
カイトはすぐに笑った。
カイト:「ほら、これで本当に全員そろったな。」
レンは祭りの会場へ続く道を見る。
レン:「それじゃあ、そろそろ行こう。」
キラナはうなずいた。
キラナ:「うん、行こう!」
そして、六人は祭りの会場へ向かって歩き始めた。
キラナはアイカと並んで前を歩き、その少し近くをオカネがついていく。
その後ろを、ハルト、レン、カイトが歩きながら、ときどき話をしている。
祭りの会場に近づくにつれて、周囲はますますにぎやかになっていった。
あちこちから人々の話し声が聞こえてくる。
通りには提灯が並び、夕方から夜へと変わっていく街を暖かく照らしている。
キラナは周囲を見回した。
キラナ:「わあ……」
アイカが振り向く。
アイカ:「どうしたの?」
キラナ:「ううん。ただ、こんなににぎやかな祭りを見るのは久しぶりだなって。」
アイカ:「キラナって、あまり夏祭りに行かないの?」
キラナはうなずいた。
キラナ:「うん。日本の夏祭りには、まだそんなに行ったことがないんだ。」
アイカ:「なるほど。だからそんなに楽しそうなんだね。」
キラナは笑顔になった。
キラナ:「だって、いつも見ている街と全然違う雰囲気なんだもん。」
前方には、少しずつ屋台が見えてきた。
たこ焼き、焼きそば、たい焼きなど、さまざまな食べ物を売る屋台が並んでいる。
かき氷の屋台もあり、色とりどりのシロップが並んでいる。
祭りのゲームの屋台には、子どもや学生たちが集まっていた。
その中でも、ハルトが真っ先に屋台の食べ物に気づいた。
そして、目の前の光景に目を輝かせる。
ハルト:「あっ! これだ! 俺がずっと待ってたやつ!」
カイト:「まだ歩き始めて数分だぞ。」
ハルト:「でも、もう食べ物が見えた。」
レン:「お前は本当にそれしか考えてないな。」
ハルト:「俺は自分が何を大事にすべきか分かってるんだ。」
キラナは小さく笑った。
キラナ:「まだ祭りの会場に入ったばかりなんだから、いきなり全部買わないでよ。」
ハルト:「全部買うなんて言ってないだろ。」
カイト:「でも、なんか数えてるように見えるぞ。」
ハルトは黙った。
ハルト:「ただ、順番を決めてるだけだ。」
アイカ:「何の順番?」
ハルト:「食べる順番。それと、どれから食べるか。」
カイトはまた笑った。
そして、六人はさらに祭りの会場の奥へと進んでいった。
やがて、少し小さなステージから音楽が聞こえてくる。
提灯が風に揺れ、柔らかな光が辺りを照らしている。
屋台からは、作りたての料理の香りが漂ってきた。
キラナはゆっくりと息を吸う。
キラナ:「わあ……」
今度はオカネだけではなかった。
キラナ自身も、その雰囲気を楽しんでいた。
日本で暮らし、桜森中学校の生徒として毎日を過ごしている。
それでも、こうした夏祭りの雰囲気は、やはり特別に感じられた。
隣にはアイカがいる。
少し前では、ハルトが屋台の食べ物を気にしている。
レンは周囲の様子を落ち着いて確認し、カイトはときどきハルトをからかっている。
そして、その近くにはオカネがいる。
異世界からやってきた一匹の猫が、今は自分たちと一緒に祭りの中を歩いている。
キラナは小さく笑った。
キラナ:「なんだか、今夜は楽しそう。」
オカネがキラナを見る。
オカネ:「僕も、そう思い始めた。」
二人はそのまま歩き続けた。
夜はまだ始まったばかり。
夏祭りには、まだまだたくさんのものが待っている。
そして、六人はさらに祭りの会場を歩いていった。
奥へ進むほど、屋台の数も増えていく。
焼きたての料理の香りが、あちこちから漂ってくる。
ある場所からは、油がジュージューと音を立てる声が聞こえた。
別の場所では、店員が訪れた人たちに声をかけている。
キラナは右を見たり、左を見たりしながら歩いた。
キラナ:「わあ……思ってたよりいっぱいあるね。」
アイカ:「うん。こういう祭りだと、食べ物の種類もかなり多いよ。」
その屋台では、焼きたてのたこ焼きが並んでいる。
少し先には、ソースの香りが食欲をそそる焼きそばの屋台。
そのほかにも、お好み焼き、からあげ、焼きとうもろこし、たい焼きなど、さまざまな食べ物が並んでいた。
キラナはその光景を目を輝かせながら見ている。
しかし、一番大きな反応を見せたのは、やはりハルトだった。
ハルトは突然、足を止めた。
カイト:「どうした?」
ハルトはすぐには答えない。
ただ、目の前に並ぶ屋台をじっと見つめていた。
ハルト:「俺……」
レン:「何だ?」
ハルト:「どこから始めればいいのか分からない。」
カイトはすぐに笑った。
カイト:「さっき順番を決めてたんじゃなかったのか?」
ハルト:「あれは全部を見る前の計画だ。今は状況が変わった。」
アイカ:「あはは!」
ハルトは目の前の屋台を一つずつ指差していく。
ハルト:「たこ焼き……」
次の屋台を指す。
ハルト:「焼きそば……」
さらに別の屋台を見る。
ハルト:「お好み焼き……」
そして、また別の屋台へ。
ハルト:「からあげ……」
その目が焼きとうもろこしに向く。
ハルト:「焼きとうもろこし……」
キラナは笑った。
キラナ:「全部食べたいの?」
ハルト:「できるなら、全部。」
レンはすぐに口を挟んだ。
レン:「無理だろ。」
ハルトが振り向く。
ハルト:「なんでだよ?」
レン:「ここにある食べ物を全部買うわけにはいかないだろ。」
ハルトは真剣な顔になる。
ハルト:「だからこそ、祭りなんだろ。」
レン:「どういう意味だ?」
ハルト:「祭りの食べ物をいろいろ食べるためだ。」
レン:「それが祭りの目的じゃない。」
ハルト:「俺にとってはそう。」
カイト:「ハルトにとっては、な。」
アイカは笑った。
アイカ:「じゃあ、ちゃんと見張っておかないとね。」
キラナ:「うん。急に屋台に消えていかないように。」
ハルト:「俺は消えないって。」
レン:「さっきなんて、一緒に歩いてることすら忘れかけてただろ。」
ハルト:「あれは集中してたんだよ。」
カイト:「食べ物を探すことに?」
ハルト:「そう。」
キラナとアイカは、また笑った。
結局、みんなで最初にいくつかの食べ物を買うことにした。
たこ焼き、焼きそば、からあげ、それからみんなで食べられそうな軽いものをいくつか選んだ。
ハルトは食べ物を手にすると、とても満足そうだった。
ハルト:「よし。これで祭りが本格的に始まったな。」
レン:「お前の中では、今始まったのか?」
ハルト:「もちろん。」
みんなは、少し人の少ない場所を探して、そこで一度休むことにした。
キラナはたこ焼きを一つ取って食べてみる。
キラナ:「おいしい。」
アイカ:「でしょ?」
ハルトはすでに自分の分を食べていた。
ハルト:「だから言っただろ。」
レン:「はいはい。」
ハルト:「へへへ。」
カイトも笑いながら、買った料理の一つを手に取った。
その一方で、オカネはさっきから目の前の食べ物をじっと見つめている。
少しだけ近づく。
オカネ:「キラナ。」
キラナ:「ん?」
オカネ:「僕も食べてみたい。」
キラナはオカネを見る。
キラナ:「これ?」
オカネはうなずいた。
オカネ:「うん。おいしそうだ。」
キラナはその食べ物を見てから、小さく首を振った。
キラナ:「それは、まだやめておこう。」
オカネ:「どうして?」
オカネはもう一度、その食べ物を見る。
オカネ:「何か問題があるのか?」
キラナ:「オカネに合うとは限らないから。」
オカネ:「どういうことだ?」
キラナ:「オカネは猫だから、人間が食べるものでも全部食べていいわけじゃないんだよ。」
オカネ:「そうなのか……」
キラナ:「お腹を壊したら大変でしょ。だから、オカネが食べても大丈夫なものを探そう。」
オカネは少し黙った。
そして、うなずいた。
オカネ:「分かった。」
その朝、キラナはいつものように自分の部屋で目を覚ました。
朝の日差しがカーテンの隙間から差し込み、部屋を暖かく照らしている。キラナはまだベッドに横になっていた。
その日は土曜日で、夏休みもまだ続いている。学校へ行く必要はなかった。
キラナは布団を少しだけ上まで引き上げた。
キラナ:「まだ朝か……」
本当はもう少しだけ横になっていたかった。
しかし、ベッドの近くに置いていたスマートフォンに手を伸ばすと、いくつか新しい通知が届いていることに気づいた。
どうやら、みんなのグループチャットにメッセージが来ているようだった。
キラナはグループチャットを開いた。
アイカ、ハルト、レン、カイトは、今夜の予定について話し始めていた。
キラナはすぐに思い出した。
数日前、みんなで桜森で開かれる夏祭りについて話していたのだ。
アイカ:「ねえ、今日の夏祭り、みんなで行くんだよね?」
ハルト:「もちろん! 俺なんて、もう今から祭りの食べ物のこと考えてるぞ。」
カイト:「まだ朝だよ。」
ハルト:「だからこそだよ。まだ一日あるんだから、何を食べるかじっくり考えられるだろ。」
アイカ:「あはは。私は浴衣のこと考えてるけどね。」
アイカは続けてメッセージを送った。
アイカ:「みんなは浴衣着る?」
キラナはそのメッセージを読みながら、微笑んだ。
ハルト:「俺は普通の服でいいかな。」
カイト:「俺もたぶん普通の服。」
アイカ:「二人ともつまんないなぁ。」
ハルト:「なんで? 楽なほうがいいだろ。」
カイト:「同感。」
しばらくして、レンも返信した。
レン:「それより、待ち合わせ場所と時間を決めよう。」
レン:「祭りが混んできたら、お互いを探すだけで時間を使うことになるから。」
アイカ:「あ、それもそうだね。」
ハルト:「じゃあ、入口で待ち合わせるのは?」
レン:「それでもいいけど、もう少し具体的な場所を決めよう。」
キラナはその会話を読み続けた。
またみんなで集まれることが嬉しかった。
しばらくして、キラナも返信を打ち込んだ。
キラナ:「私も行く!」
アイカがすぐに返信する。
アイカ:「やった! これで全員そろうね!」
カイト:「いいね。」
ハルト:「じゃあ、あとで忘れずに来いよ。」
キラナ:「うん。」
レン:「それじゃ、夕方に集まろう。祭りが混み始める前に。」
アイカ:「賛成!」
キラナはメッセージを読みながら、笑顔になった。
すると、アイカからまたメッセージが届いた。
アイカ:「あ、そうだ。キラナは浴衣着る?」
キラナはその質問を読んだ。
キラナ:「浴衣……」
キラナは少し黙った。
そして、今夜の祭りの様子を想像し始めた。
提灯。
食べ物の屋台。
家族や友達と一緒に訪れる人たち。
そしてもちろん、自分とアイカ、ハルト、レン、カイト。
キラナは微笑んだ。
キラナ:「せっかくだし、浴衣着てみようかな。」
アイカ:「本当!?」
キラナ:「うん。新しい経験にもなるし。」
アイカ:「わあ、いいじゃん! 私も浴衣着る!」
ハルト:「へえ、じゃあ二人とも浴衣なんだ。」
カイト:「祭りがもっと楽しくなりそうだね。」
レン:「とにかく、待ち合わせ場所を間違えないように。」
ハルト:「大丈夫だって。まだ一日あるんだから。」
カイト:「だからこそ、ハルトにはちゃんと覚えておいてもらわないと。」
ハルト:「俺、そんなに忘れっぽくないぞ!」
キラナは二人のやり取りを見て、小さく笑った。
そのあと、みんなは夕方の予定についてもう一度話し合った。
そして、祭りの会場へ向かう前に、分かりやすい場所で待ち合わせることになった。
レンは、決めた時間と場所をもう一度確認した。
レン:「それじゃ、夕方に集合ね。忘れないように。」
アイカ:「大丈夫。覚えてるよ。」
カイト:「俺も。」
ハルト:「俺は絶対覚えてる。」
キラナ:「私も!」
会話が終わると、キラナはグループチャットを閉じた。
そして、スマートフォンを枕の横に置いた。
キラナ:「夏祭りか……」
キラナは一人で微笑んだ。
しかし、そこでふと何かを思い出した。
オカネ。
あの異世界から来た魔法の猫は、今ではキラナの家で暮らし始めてから二週間ほどになる。
キラナは部屋のドアのほうを振り向いた。
キラナ:「オカネにも話さないと。」
そう言って、キラナはベッドから起き上がった。
この日は、最初はいつもと変わらない夏休みの土曜日に見えた。
しかし今夜、キラナは四人の友達と一緒に夏祭りへ行く。
そして今のキラナの日常には、学校や友達、夏休みの出来事だけではなくなっていた。
異世界から来た一匹の魔法の猫も、今ではキラナの日常の一部になっている。
キラナは部屋のドアを開け、朝の時間を始めるために部屋の外へ出た。
そして、二階の廊下を歩いていった。
朝の家の中はまだ静かだった。キラナの父と母は一階にいて、キラナは今、部屋から出てきたところだった。
廊下を歩いていると、キラナはオカネが二階にあるいくつかの物をじっと見ているのに気づいた。
オカネはゆっくりと、一つの場所から別の場所へ歩いている。
時々、立ち止まる。
何かを見る。
そして、また歩き出す。
キラナはしばらくその様子を見ていたが、やがて声をかけた。
キラナ:「オカネ、何してるの?」
オカネが振り向く。
オカネ:「ちょっと見て回ってる。」
キラナは近づいた。
キラナ:「何を見てるの?」
オカネは、さっきまで見ていた物にもう一度目を向けた。
オカネ:「君たちの家にある物を、まだいくつか理解しようとしているんだ。」
キラナは小さく笑った。
キラナ:「もうここに住み始めて二週間くらいになるのに。」
オカネ:「前よりはずっと慣れた。」
オカネ:「でも、まだ変に感じる物もある。」
キラナ:「例えば?」
オカネは近くにある物を指した。
オカネ:「あれ。」
キラナはその物を見る。
キラナ:「ああ、それ?」
オカネはうなずいた。
オカネ:「君たちの世界の物がどうやって動いているのか、まだ完全には理解できていない。」
キラナは、以前にもオカネが気になっていた物をいくつか思い出した。
キラナ:「まだテレビが気になるの?」
オカネ:「ああ。」
キラナは小さく笑った。
キラナ:「じゃあ、冷蔵庫は?」
オカネ:「それも。」
キラナ:「洗濯機は?」
オカネは少し黙った。
オカネ:「……あれの音はまだ変だ。」
キラナはすぐに笑った。
キラナ:「あはは! まだ洗濯機の音に驚いてるの?」
オカネ:「驚いてはいない。」
キラナ:「じゃあ?」
オカネ:「ただ警戒しているだけだ。」
キラナは微笑んだ。
キラナ:「まあ、私たちの世界の暮らしを勉強してるって思えばいいよ。」
オカネはうなずいた。
オカネ:「確かにそうだな。」
キラナは廊下の壁に少し寄りかかった。
キラナ:「でも、最初に来たときよりずっと慣れたよね。」
オカネ:「そうだな。」
オカネ:「最初は、ここにあるほとんどすべての物が知らないものだった。」
オカネは二階を見回した。
オカネ:「今では、食事をする場所も、寝る場所も、君の家族の習慣もいくつか分かるようになった。」
キラナは微笑んだ。
キラナ:「じゃあ、ここで暮らすのにも慣れてきたんだね。」
オカネは少し黙った。
そして、うなずいた。
オカネ:「まあ、そうだな。」
キラナはそこで何かを思い出した。
キラナ:「あ、そうだ!」
オカネが振り向く。
オカネ:「何だ?」
キラナ:「今日、アイカたちと夏祭りに行くの。」
オカネの目がすぐに興味を示した。
オカネ:「夏祭り?」
キラナはうなずいた。
キラナ:「うん。夏祭り。」
オカネ:「どんな祭りなんだ?」
キラナは少し考えてから答えた。
キラナ:「たぶん、すごくにぎやかだよ。たくさんの人が集まるの。」
キラナ:「食べ物もいっぱいあるよ。」
オカネはすぐにキラナを見る。
オカネ:「食べ物?」
キラナは小さく笑った。
キラナ:「うん。たくさんの屋台が出るの。」
オカネ:「どんな食べ物がある?」
キラナ:「たこ焼きとか、焼きそばとか、かき氷とか、たい焼きとか、他にもいろいろ。」
オカネはますます興味を持ったようだった。
キラナはさらに続けた。
キラナ:「食べ物だけじゃなくて、祭りのゲームもあるよ。それに、浴衣を着てくる人も多いの。」
オカネ:「浴衣?」
キラナ:「夏祭りとかでよく着る、日本の伝統的な服だよ。」
オカネはゆっくりとうなずいた。
キラナ:「大きなお祭りなら、花火が上がることもあるよ。」
オカネは数秒間黙った。
オカネ:「花火?」
キラナ:「うん。」
オカネ:「この世界で、そういう祭りを見たことはない。」
キラナは微笑んだ。
キラナ:「じゃあ、今日は自分の目で見られるね。」
オカネはキラナを見る。
オカネ:「俺も行っていいのか?」
キラナは少し驚いた。
キラナ:「え?」
オカネ:「君たちの世界の祭りを見てみたい。」
キラナは黙った。
本当はオカネも連れて行きたかった。
しかし、すぐにオカネの姿を思い出した。
二本の尻尾。
その先端はどちらもピンク色。
四本の足の先もピンク色。
そして何より目立つのは、左目にあるピンク色のハート形の模様だった。
人が多い祭りにオカネを連れて行けば、きっと周りの人たちの目を引いてしまう。
キラナはオカネを見る。
オカネはまだ返事を待っていた。
キラナ:「本当は連れて行きたいんだけど……」
オカネ:「けど?」
キラナ:「たぶん、たくさんの人に見られちゃうと思う。」
オカネは自分の二本の尻尾を見る。
オカネ:「ああ……」
ようやくキラナの言いたいことが分かったようだった。
キラナ:「祭りが混んできたら、みんなとはぐれないようにもしないとね。」
オカネはうなずいた。
オカネ:「分かった。」
キラナは少し考えた。
そして、笑顔になった。
キラナ:「でも、先にお父さんとお母さんに聞いてみる。」
オカネ:「分かった。」
キラナ:「二人がいいって言ったら、一緒に行こう。」
オカネは少し嬉しそうな顔をした。
オカネ:「本当か?」
キラナはうなずいた。
キラナ:「うん。」
オカネ:「だって、君たちの世界の祭りがどんなものなのか、見てみたいんだ。」
キラナ:「じゃあ、お父さんとお母さんが許してくれるといいね。よし、朝ごはん食べよ。」
キラナは階段へ向かって歩き始め、一階へ降りていった。
オカネもその後ろをついていく。
朝はまだ、いつもと変わらないように過ぎていた。
しかし、キラナの父と母が許してくれれば、今夜、オカネは新しい経験をすることになる。
この世界に来て初めて、故郷とは違う世界の夏祭りを見ることになるのだ。
二人が食堂に着くと、キラナの父と母はすでにそこにいた。
キラナはいつもの場所に座り、オカネもキラナの近くに座った。
ほどなくして、家族みんなで朝食を始めた。
朝の食卓は穏やかな雰囲気だった。
キラナは朝食を食べながら、ときどきオカネのほうを見る。
しばらくすると、キラナはまだ父と母に今夜の予定を伝えていないことを思い出した。
キラナ:「あ、そうだ。お父さん、お母さん。」
父:「ん?」
母:「どうしたの?」
キラナ:「今夜、アイカとハルトとレンとカイトと一緒に夏祭りに行きたいんだけど。」
父と母は少し顔を見合わせた。
父はうなずいた。
父:「いいぞ。」
母:「うん。でも、あまり遅くならないようにね。」
キラナはうなずいた。
キラナ:「うん。」
母:「祭りは人が多いから、気をつけてね。友達とはぐれないようにするのよ。」
キラナ:「大丈夫。待ち合わせ場所もちゃんと決めてあるから。」
父:「それならいい。」
キラナはオカネのほうをちらっと見た。
まだ一つ気になっていることがあった。
キラナ:「あの……」
キラナは少し言葉を止めた。
父:「どうした?」
キラナはオカネを指した。
キラナ:「オカネも一緒に行っていい?」
父と母はすぐにオカネを見る。
それまで話を聞いていたオカネも、少し姿勢を正した。
オカネ:「俺もキラナの世界の祭りを見てみたい。」
母はオカネをじっと見た。
母:「本当に一緒に行きたいの?」
オカネはうなずいた。
オカネ:「うん。」
オカネ:「この世界の祭りを見たことがないから。」
父が尋ねる。
父:「でも、祭りが人でいっぱいになることは分かってるのか?」
オカネ:「キラナから聞いた。」
オカネ:「人がたくさんいることも分かってる。」
父はゆっくりとうなずいた。
そしてキラナを見る。
父:「それなら、お父さんは別にいいぞ。」
キラナはすぐに笑顔になった。
キラナ:「本当?」
父:「ああ。」
母もうなずいた。
母:「お母さんもいいよ。」
キラナは嬉しそうな顔をした。
キラナ:「やった!」
オカネもほっとした様子だった。
しかし、母がすぐに付け加えた。
母:「でも、条件があるよ。」
キラナとオカネはそろって母を見る。
母:「キラナがちゃんとオカネのことを見ていること。」
キラナはうなずいた。
母:「人が多いところで、オカネを一人で歩かせちゃダメよ。」
父も続ける。
父:「人が多くなったら、オカネがちゃんとみんなと一緒にいるようにするんだ。」
キラナ:「うん、お父さん。分かった。」
母:「それと、あまり遅くならないようにね。」
キラナ:「うん、お母さん。」
オカネは少し頭を下げた。
オカネ:「俺も気をつける。」
父は微笑んだ。
父:「それなら問題ない。」
オカネ:「ありがとう。」
キラナはオカネに笑いかけた。
キラナ:「じゃあ、一緒に祭りに行けるね!」
オカネ:「ああ。」
オカネの表情は、さっきよりずっと嬉しそうだった。
オカネ:「ますます楽しみになってきた。」
キラナは小さく笑った。
キラナ:「きっと、いろんなものが見られるよ。」
オカネ:「さっき言ってた食べ物も気になる。」
キラナ:「あはは。やっぱり一番気になるのは食べ物?」
オカネ:「ただ気になっているだけだ。」
父も小さく笑った。
父:「じゃあ、食べ物に夢中になってキラナとはぐれないようにな。」
オカネ:「はぐれない。」
キラナ:「私もちゃんと見てるから。」
母は二人を見ながら微笑んだ。
そのあと、みんなは再び朝食を続けた。
その朝は、これまでの日々と変わらない穏やかな時間だった。
しかし、オカネにとっては特別な一日になった。
この世界に来てから初めて、まだ知らない人間の暮らしの一つを見ることができる。
夏祭り。
そして今夜、それをキラナと四人の友達と一緒に体験するのだ。
朝食を終えると、キラナは二階へ戻り、出かける準備を始めることにした。
祭りが始まるのは夜なので、まだ時間はたっぷりある。
部屋に戻ると、キラナはクローゼットを開けた。
中に入っている服をいくつか見てから、浴衣を一着取り出した。
キラナはその浴衣をベッドの上に置いた。
キラナ:「うーん……これならよさそう。」
浴衣を着るのは久しぶりだった。
そのため、夕方になってから初めて、ちゃんと着られるか確認するのは避けたかった。
キラナは浴衣を着てみることにした。
しかし、いくつかの部分をきれいに整えるのが少し難しかった。
キラナ:「あれ……ここ、どうするんだっけ?」
すると、キラナが一人で話しているのを聞いた母が部屋に入ってきた。
母:「キラナ、困ってるの?」
キラナ:「うん。どうやって整えるのか、ちょっと忘れちゃった。」
母は微笑んだ。
母:「ほら、お母さんが手伝ってあげる。」
キラナはその場に立ったまま、母に浴衣を整えてもらった。
母は襟元や帯、その他の部分を確認しながら、きれいに整えていく。
その間、部屋の近くにいたオカネも、興味深そうに二人の様子を見ていた。
オカネ:「キラナ。」
キラナ:「ん?」
オカネ:「その服、いつも着ている服とは違うな。」
キラナは自分が着ている浴衣を見る。
キラナ:「うん。これは浴衣っていうの。」
オカネ:「浴衣……」
オカネは、その名前を覚えようとするように繰り返した。
キラナ:「浴衣は、日本の伝統的な服で、夏の行事とか、これから行く夏祭りみたいなところでよく着るんだよ。」
オカネはキラナの服をじっと見た。
オカネ:「じゃあ、君たちの世界の人間には、祭りのための特別な服があるのか?」
キラナは小さく笑った。
キラナ:「まあ、そんな感じかな。」
オカネ:「面白いな。」
浴衣を整え終えると、母は少し後ろへ下がった。
母:「ほら、これで大丈夫。」
キラナ:「ありがとう、お母さん。」
母:「鏡で見てみたら?」
キラナは鏡の前に立った。
そして、自分の姿を見つめる。
しばらくの間、キラナは何も言わなかった。
浴衣を着た自分の姿を見ると、少しだけいつもと違う気がした。
普段は私服か学校の制服を着ていることが多い。
だから、こういう服を着ている自分を見ると、何か特別なことに向けて準備をしているような気持ちになった。
キラナ:「へへ……」
母:「どうしたの?」
キラナ:「なんでもない。ちょっと変な感じがするだけ。」
母:「久しぶりに着たから?」
キラナはうなずいた。
キラナ:「うん。」
オカネは近くでまだキラナを見ていた。
オカネ:「俺は、いいと思う。」
キラナは振り向いた。
キラナ:「本当?」
オカネはうなずいた。
オカネ:「ああ。いつもの服とは違って見える。」
キラナは微笑んだ。
キラナ:「じゃあ、本当に祭りに行く人みたいに見える?」
オカネ:「そう見える。」
キラナは小さく笑った。
しかし、しばらくすると壁の時計を見た。
キラナ:「でも、祭りまではまだ時間あるよね。」
母:「だから、今は試着だけでいいの。」
キラナ:「あ、そっか。」
キラナはゆっくりと浴衣を脱いだ。
そして、きれいにたたんで、用意しておいた場所に置いた。
キラナ:「夕方になったら、もう一度着よう。」
母:「うん。そのときは準備して、お母さんがまた整えてあげる。」
キラナはうなずいた。
キラナ:「分かった。」
オカネはたたまれた浴衣を見る。
オカネ:「じゃあ、その服は今は祭りには着ていかないのか?」
キラナは小さく笑った。
キラナ:「まだだよ。祭りは夜だから。」
オカネ:「なるほど。」
キラナ:「今からずっと着てたら、逆にしわになっちゃうからね。」
オカネはゆっくりとうなずいた。
オカネ:「分かった。」
キラナは用意してある浴衣を見る。
これで、ちゃんと着られることも分かった。
特に問題もなかったので、少し安心した。
キラナ:「じゃあ、浴衣の準備はこれで終わり。」
母:「今のところはね。」
キラナは微笑んだ。
夕方までは、まだ数時間ある。
キラナはそのまま、いつもと変わらない朝の時間を過ごした。
浴衣は、あとで着られるように準備してある。
そしてオカネは、祭りへの興味をさらに強くしていた。
こんな服を見るのも初めてだった。
それに、あと数時間もすれば、本当に初めての夏祭りを見ることができる。
浴衣の準備が終わったあと、キラナはもう一度オカネを見る。
オカネはベッドから少し離れたところに座り、たたんである浴衣を見ていた。
すると、キラナはふと一つのアイデアを思いついた。
キラナは小さく笑った。
キラナ:「でも……」
オカネが振り向く。
オカネ:「でも?」
キラナ:「私が祭りに浴衣を着ていくなら、オカネも祭りに行く感じにしたほうがいいよね。」
オカネはすぐに嫌そうな顔をした。
オカネ:「俺は猫だぞ。」
キラナ:「分かってるよ。」
オカネ:「猫は浴衣なんて着ない。」
キラナ:「それも分かってる。」
キラナは小さく笑った。
キラナ:「だから浴衣じゃないの。」
オカネは首をかしげた。
オカネ:「じゃあ、何だ?」
キラナは部屋にある小物を入れている場所へ向かった。
そして、しばらく何かを探した。
やがて、キラナはオカネにつけても安全そうな小さなアクセサリーを見つけた。
それを持って戻ってくる。
キラナ:「じゃーん!」
オカネはその物を見る。
オカネ:「何だ、それ?」
キラナ:「小さなアクセサリー。」
オカネ:「何のために?」
キラナ:「オカネも祭りに合うものをつけておくの。」
アイカとキラナは並んで歩きながら、ときどきすれ違う人たちの服装を眺めていた。
アイカ:「それにしても、今夜は浴衣を着てる人が多いね。」
キラナ:「うん。私もいろいろ見てみたくなるな。」
アイカ:「でも、キラナの浴衣もいい感じだよ。」
キラナ:「ありがとう。アイカのも似合ってるよ。」
アイカは笑った。
アイカ:「私、さっきどれを着ようかちょっと迷ったんだ。」
キラナ:「へえ! じゃあ、浴衣を何着も持ってるの?」
アイカ:「うん。でも、最後はこれにしたの。」
キラナはもう一度、アイカの浴衣を見る。
キラナ:「でも、いい選択だと思うよ。」
アイカ:「えへへ。ありがとう。」
そのとき、前を歩いていたハルトが突然立ち止まった。
ハルト:「あっ、また食べ物の屋台がある!」
後ろを歩いていたレンは、すぐにため息をついた。
レン:「さっきからもう三軒も通り過ぎただろ。」
ハルト:「でも、ここはまだだ。」
カイト:「それが食べる理由になるの?」
ハルト:「もちろん。」
ハルトは屋台に並んでいるメニューをさっそく眺め始めた。
カイトは笑いながら、ただ首を横に振る。
カイト:「本当に疲れないし、お腹もいっぱいにならないんだな。」
ハルト:「まだまだ余裕だぞ。」
レンは腕時計を見る。
レン:「買うなら、少し急いで。」
ハルト:「なんで?」
レン:「そろそろ花火を見る場所に向かわないと。」
ハルト:「あ、そうだった。」
ハルトはそれでも数秒間、メニューを眺め続ける。
レン:「ハルト、早く。」
ハルト:「はいはい。」
キラナはそんなハルトを見て、小さく笑った。
キラナ:「本当に食べるのが好きなんだね。」
ハルト:「もちろん。」
アイカ:「じゃあ、レンに本当に連れていかれる前に行こう。」
レン:「連れていかないよ。」
カイト:「でも、もうすぐ本当にやりそうだったけど。」
レンは何も言わず、ただため息をついた。
そして、みんなは再び歩き始めた。
オカネはキラナの近くを歩いていた。
人が増えてきたことで、さっきよりも一人ひとりの距離が近くなっている。
キラナはときどき横を振り返った。
オカネはちゃんとそこにいる。
数歩進んだところで、キラナはオカネに声をかけた。
キラナ:「オカネ?」
オカネ:「ん?」
キラナ:「まだここにいるよね?」
オカネは少し不思議そうにキラナを見る。
オカネ:「いる。」
キラナ:「よかった。」
二人はまた歩き始めた。
しばらくして、キラナは後ろをちらっと振り返る。
オカネは変わらず、みんなについてきていた。
オカネ:「さっきから、ずっと俺を見てるな。」
キラナは少し照れたように笑う。
キラナ:「だって、いなくなったら困るから。」
オカネ:「俺はどこにも行かないよ、キラナ。」
キラナ:「分かってる。」
キラナは小さく笑った。
キラナ:「でも、やっぱり気になるから。」
オカネ:「俺が迷子になるのが心配なのか?」
キラナ:「うん。ちょっとだけ。」
オカネ:「安心しろ。俺からもキラナが見えてる。」
キラナ:「それならよかった。」
キラナは前を向き直り、歩き続ける。
それでも、ときどきオカネのほうを確認していた。
さっきの会話を聞いていたハルトが、横から口を挟む。
ハルト:「じゃあ、二人とも離れないようにな。」
カイト:「うん。一人が守って、一人が守られるって感じだね。」
オカネ:「俺は子供じゃないし、人間でもない。」
カイト:「知ってるよ。」
ハルト:「でも、俺たちより小さいだろ。」
オカネはハルトを見る。
オカネ:「お前も、それほど変わらないだろ。」
ハルト:「おい!」
アイカはすぐに笑い出した。
アイカ:「あはは! またやられたね、ハルト。」
レン:「オカネ、だんだん言い返すのが上手くなってきたな。」
オカネ:「俺は事実を言っただけだ。」
ハルト:「なんでみんなオカネの味方するんだよ!」
キラナもみんなと一緒に笑った。
彼らはそのまま、人混みの中を歩き続けた。
前方には、さらに多くの提灯が見えている。
遠くから見ると、祭りの明かりが彼らの進む道いっぱいに広がっているようだった。
レンはもう一度、腕時計を確認した。
レン:「まだ時間はある。」
アイカ:「じゃあ、そんなに急がなくてもいいね。」
レン:「うん。でも、あまり長く立ち止まらないようにしよう。」
ハルト:「俺は立ち止まらないぞ。」
カイト:「さっき屋台の前で立ち止まってたけど。」
ハルト:「あれは例外!」
キラナは笑った。
そして、もう一度隣を歩くオカネを見る。
オカネはいつものように落ち着いた様子で、みんなについてきている。
キラナは安心して前を向いた。
今夜はまだ長い。
そして花火が始まるまで、まだみんなで祭りを楽しむ時間が残っていた。
しばらく歩いたところで、彼らはようやく祭りの中心部より少し静かな場所を見つけた。
そこから少し離れたところには、来場者が休めるようにいくつかベンチも設置されていた。
レン:「ここで少し休もう。」
ハルト:「賛成。」
ハルトはすぐに腰を下ろした。
カイト:「ハルト、疲れたように見えるけど。」
ハルト:「疲れたんじゃない。ただ、ちょっと座りたいだけ。」
アイカ:「それを疲れたって言うんだよ。」
ハルト:「違う。」
キラナは小さく笑った。
そして、みんなも一緒に腰を下ろした。
そこは、さっきまでいた祭りの中心部と比べると、ずっと静かだった。
遠くから人々の話し声が聞こえる。
祭りの音楽や、会場から流れてくるアナウンスもかすかに聞こえていた。
オカネはキラナの近くに座った。
キラナ:「ちょっと座れるだけでも、楽だね。」
アイカ:「うん。さっきからずっと歩いてたもんね。」
カイト:「特にハルトはね。屋台を見るたびに立ち止まってたし。」
ハルト:「俺はちょっと見てただけだって。」
レン:「それ、何回目だ?」
ハルト:「数えてない。」
アイカは笑った。
しばらくの間、みんなは何も話さず、座ったまま祭りの雰囲気を楽しんでいた。
やがて、アイカが夏休みのことを話し始める。
アイカ:「なんだか、夏休みもずいぶん長く感じるね。」
キラナ:「うん。」
ハルト:「でも、三峰山に行ったのがつい昨日みたいだ。」
カイト:「あのときも暑かったな。」
レン:「それに、ハルトはずっと文句を言ってた。」
ハルト:「だって、すごく遠かったし、疲れたんだから。」
カイト:「ハルト、それ何回も言ってるよな。」
ハルト:「だって、本当に遠かったんだから。」
アイカは笑った。
アイカ:「でも、楽しかったよね。」
キラナ:「うん。」
キラナは少し黙った。
そして、夏休みに起きたさまざまな出来事を思い返し始める。
友達と一緒に出かけたこと。
その途中で見つけた不思議なもの。
みんなで過ごした日々。
そしてもちろん、オカネとの出会い。
キラナは隣に座っているオカネを見る。
キラナ:「そういえば……」
アイカ:「ん?」
キラナ:「最初は、夏休みって家でゆっくり休む時間になるのかなって思ってた。」
ハルト:「それで?」
キラナは小さく笑った。
キラナ:「でも、思ったよりずっと変なことがたくさん起きた。」
アイカ:「確かにそうだね。」
キラナ:「みんなと出かけたり、オカネと出会ったり……。」
オカネがキラナを見る。
オカネ:「俺もその中に入ってるのか?」
キラナ:「もちろん。」
オカネ:「そうか。」
キラナ:「それで今は、こうしてみんなで祭りに来てる。」
アイカ:「そう考えると、いろいろあったね。」
ハルト:「まだ時間はたっぷりあるぞ。」
キラナはハルトを見る。
ハルト:「夏休みだって、まだ終わってないんだから。」
レンはうなずいた。
レン:「そうだな。」
レンは少し空を見上げる。
レン:「学校が始まるのは、まだ先だ。」
カイト:「学校に戻るまで、まだ時間はあるよ。」
ハルト:「じゃあ、まだどこかに遊びに行けるな。」
レン:「ハルト、また出かけることばかり考えるなよ。」
ハルト:「なんで?」
レン:「俺たちだって、休む時間は必要だから。」
カイトは笑った。
カイト:「ハルトは本当にじっとしてられないな。」
ハルト:「俺はただ、次の予定を考えてるだけだ。」
アイカ:「どんな予定?」
ハルト:「まだ決めてない。」
アイカ:「じゃあ、それは予定じゃないじゃん。」
ハルトは黙った。
ハルト:「……まあ、いいか。」
みんなは小さく笑った。
キラナも笑顔になった。
しかし、笑い声が落ち着くと、キラナはみんなの言葉をもう一度思い返した。
二か月前、キラナはまだアイカも、ハルトも、レンも、カイトも知らなかった。
あの頃は、みんなただの知らない人だった。
それが今では、すっかり日常の一部になっている。
いつも話しかけてくれる人。
よく場をにぎやかにしてくれる人。
小さなことにも気づいてくれる人。
そして、みんなと一緒になって笑っていることが多い人。
キラナは一人ひとりの友達を見る。
アイカはカイトと話している。
ハルトはまだ食べ物の話をしている。
レンはときどき二人の会話に答えながら、時間も気にしている。
そして、オカネはキラナの隣で静かに座っている。
キラナは小さく笑った。
キラナ:「時間が経つのって、早いね。」
アイカ:「何が?」
キラナ:「ううん。」
キラナはゆっくり首を振る。
キラナ:「ちょっと考えてただけ。」
アイカ:「何を?」
キラナは笑った。
キラナ:「私がここに来てから、いろんなことが変わったなって。」
アイカも笑顔になる。
アイカ:「確かに、いろいろ変わったね。」
カイト:「でも、まだまだ思い出は作れるよ。」
キラナは少しの間、カイトを見る。
カイト:「夏休みも、まだ終わってないしね。」
キラナはうなずいた。
キラナ:「うん。」
そして、まだにぎわっている祭りの会場を遠くから見る。
今夜はまだ終わっていない。
夏休みだって、まだ終わっていない。
一緒に歩いて、一緒に笑って、まだまだ新しいことを経験できる時間が残っている。
キラナは微笑んだ。
日本に来てから初めて、ここが本当に自分の生活の一部になってきたような気がした。
その後、彼らはあまり長く休まず、再び歩き始めた。
夜もだんだん更けてきて、祭りの雰囲気も少しずつ変わっていた。
さっきまで遊んだり食べ物を買ったりしていた人たちも、今では花火を見るのに良さそうな場所へ向かい始めている。
レンは周囲の様子を見渡した。
レン:「そろそろ場所を探そう。」
ハルト:「なんで? 花火はまだ始まってないだろ?」
レン:「まだな。でも、待ちすぎたら、いい場所はどんどん人で埋まる。」
アイカ:「ああ、確かに。」
カイト:「じゃあ、行こう。」
みんなはベンチから立ち上がり、再び歩き始めた。
キラナはアイカと並んで歩き、ハルト、レン、カイトは少し前を歩いている。
オカネは変わらずキラナの近くにいた。
祭りの中心部から離れていくにつれて、少しずつ静かになっていく。
その一方で、小さなレジャーシートを持っている人や、花火を見る場所を探して立ち止まっている人の姿が増えてきた。
ハルトは周囲を見回す。
ハルト:「うわ、花火を見る人ってこんなに多いんだな。」
カイト:「まあ、祭りだからね。」
ハルト:「みんな屋台の近くに残るのかと思ってた。」
レン:「そう思ってるのは、お前くらいだろ。」
ハルト:「なんで俺だけなんだよ。」
アイカは笑った。
そのまま歩き続け、やがて彼らは十分に広い場所を見つけた。
祭りの中心部ほど人は多くない。
それでも、そこからなら空がよく見える。
すでに何人かの人が座っていたが、まだ十分に空いている場所があった。
レンが立ち止まる。
レン:「ここなら、けっこう良さそうだ。」
アイカは空を見上げた。
アイカ:「うん。そんなに混んでないし。」
カイト:「じゃあ、ここにしよう。」
ハルトは周りを見回した。
ハルト:「座れるところもあるぞ。」
カイト:「座る場所を探すのだけは早いな。」
ハルト:「だって、楽なほうがいいだろ。」
レン:「少なくとも、今回は食べ物を探してないな。」
ハルト:「俺なら両方できるぞ。」
キラナは小さく笑った。
みんなは花火を待つために、ちょうどいい場所を選んだ。
アイカとカイトは座り、ハルトもその近くに座った。
レンはしばらく立ったまま周囲を確認し、ときどき時間を確かめている。
キラナも空いている場所に座った。
オカネはその近くにいる。
キラナは一度だけオカネを見る。
オカネ:「ん?」
キラナ:「なんでもないよ。」
オカネは再び前を向いた。
遠くでは、祭りの提灯の明かりがまだ道を照らしている。
人々の話し声も、遠くからかすかに聞こえてくる。
しかし、今いる場所はずっと静かだった。
みんなは空を見上げながら、花火が始まるのを待った。
しばらくすると、周囲の雰囲気が少しずつ変わっていった。
祭りの会場の明かりが少しずつ暗くなっていく。
さっきまで聞こえていた話し声も、次第に小さくなっていった。
人々が空を見上げ始める。
アイカ:「そろそろ始まりそう。」
キラナ:「うん。」
普段はじっとしていられないハルトも、空を見上げる。
ハルト:「やっとか。」
レンは静かに空を見ながら、花火が始まるのを待っている。
カイトは小さく笑った。
カイト:「きっと、きれいだろうな。」
キラナの近くにいたオカネも、空を見上げる。
そして、数秒後――
ドーン!
最初の花火が夜空に上がった。
まばゆい光が空いっぱいに広がり、美しい形を描いてから、ゆっくりと消えていく。
キラナはしばらく言葉を失った。
その目は夜空に釘付けになっている。
キラナ:「わあ……。」
アイカも感嘆の声を漏らす。
アイカ:「きれい……。」
いつもならすぐに何か言うハルトも、すぐには冗談を言わなかった。
ただ、空を見上げている。
ハルト:「すげえ……。」
レンも静かに花火を見ている。
レン:「いいな。」
カイトは笑顔のまま空を見上げている。
カイト:「うん。」
そして――
ドーン!
二発目の花火が夜空に咲いた。
再び夜空いっぱいに光が広がり、遠くから次々と花火の音が聞こえてくる。
キラナたちはずっと空を見上げていた。
アイカも、ハルトも、レンも、カイトも。
そしてオカネも。
ただ、オカネはとても驚いた様子だった。
何も言わない。
ただ、光に満ちた夜空をじっと見つめている。
キラナは一度だけオカネのほうを見る。
けれど、オカネが真剣に花火を見つめているのを見て、キラナは小さく笑い、再び空を見上げた。
ドーン!
また一発、花火が夜空に上がる。
さっきまで祭りの音でいっぱいだった夜は、今では花火の音と、それを見上げる人々の驚きだけが残っているように感じられた。
しばらくの間、誰も冗談を言わなかった。
ただ、みんなで同じ夜空を見上げながら、花火を楽しんでいた。
何発かの花火が上がったところで、アイカが突然みんなに声をかけた。
アイカ:「ねえ、みんなで写真撮らない?」
キラナ:「写真?」
アイカ:「うん! 花火も一緒に。」
ハルト:「賛成!」
カイト:「いいね。」
レン:「撮るなら、今のうちがいいな。」
キラナは空を見上げる。
花火はまだ続いている。
キラナ:「でも、誰が撮るの?」
アイカは周りを見回した。
アイカ:「誰かにお願いしようよ。」
キラナ:「あ、そっか。」
キラナは、近くにいる人の中から手が空いていそうな人を探した。
しばらくして、少し離れたところに立っている来場者を見つけた。
キラナはその人のところへ近づく。
キラナ:「すみません。私たちの写真を撮ってもらえませんか?」
来場者は笑顔でうなずいた。
来場者:「もちろん。」
キラナはみんなのところへ戻った。
キラナ:「大丈夫だって。」
みんなは立ち上がり、写真を撮るために位置を調整し始めた。
アイカはキラナの隣に立つ。
ハルトとカイトは反対側に並び、レンもその隣に立った。
しかし、オカネはまだキラナの足元にいる。
キラナは下を見る。
キラナ:「オカネ、このままだと写らないよ。」
アイカ:「あ、確かに。」
カイト:「じゃあ、どうする?」
キラナは少し考えた。
そして、しゃがんでオカネを見る。
キラナ:「オカネ、私の肩に乗って。」
オカネ:「肩に?」
キラナ:「うん。写真にちゃんと写るように。」
オカネは少しキラナを見つめてから、うなずいた。
オカネ:「分かった。」
キラナはオカネを肩に乗せる。
そして、オカネが落ちないように位置を整えてから、もう一度立ち上がった。
アイカ:「これならちゃんと写るね!」
ハルト:「さっきのままだったら、頭しか写らなかっただろうな。」
オカネ:「俺はそこまで小さくない。」
カイト:「俺たちと比べたら、小さいけどね。」
オカネはカイトを見る。
オカネ:「だから、そこまで小さくないと言っている。」
カイト:「はいはい、分かったよ。」
ハルトは笑った。
レンはみんなの位置を確認する。
レン:「全員、ちゃんと入ってる?」
写真を撮ってくれる来場者は、スマートフォンの画面を確認する。
来場者:「ちょっと待って……左の人、もう少しだけこっちに寄ってもらえる?」
ハルト:「俺?」
来場者:「うん。」
ハルトはカイトのほうへ少し移動した。
来場者:「うん、それで大丈夫。」
アイカ:「みんな写ってる?」
来場者:「うん。花火もちゃんと入ってるよ。」
キラナ:「じゃあ、お願いします。」
みんなはカメラのほうを向いた。
アイカ:「笑って!」
ハルト:「待って、髪が――」
カイト:「もういいって、ハルト。」
ハルト:「でも――」
レン:「今、花火がきれいだ。」
ハルト:「あ、そうか。じゃあ、いいや。」
キラナは小さく笑った。
そして、みんなでカメラに向かって笑顔を作る。
オカネもキラナの肩の上からカメラのほうを向いた。
その後ろで、ちょうど花火が夜空に上がった。
ドーン!
カシャッ!
写真が撮れた。
来場者は撮った写真を確認する。
来場者:「いい写真が撮れたよ。」
キラナ:「見てもいいですか?」
来場者はスマートフォンをキラナに渡した。
キラナは画面を見る。
そこには、花火が夜空に上がっている中、みんなが一緒に写っていた。
アイカは満面の笑み。
ハルトは、準備が少し遅れたせいか、少しだけ緊張した表情になっている。
レンはいつも通り落ち着いている。
カイトは笑顔。
そしてキラナは、肩の上にオカネを乗せたまま、みんなの真ん中に立っていた。
オカネもしっかり写真に写っている。
アイカ:「わあ、すごくいい!」
カイト:「うん。花火もちょうどいいね。」
ハルト:「俺もかっこよく写ってるな。」
レン:「お前はそこばかり気にするな。」
ハルト:「だって、俺はかっこいいからな。」
キラナは小さく笑った。
そして、もう一度写真を見てから、写真を撮ってくれた人にお礼を言った。
キラナ:「本当にありがとうございました!」
来場者:「どういたしまして。祭り、楽しんでね。」
その人が去ったあと、キラナはもう一度スマートフォンの写真を見る。
キラナ:「この写真、好きだな。」
アイカ:「私も。」
キラナは微笑んだ。
一枚の写真の中に、みんなが一緒に写っている。
その後ろでは、花火が夜空を明るく照らしていた。
キラナにとって、この写真はただの集合写真ではなかった。
夏休みにみんなと過ごした時間を残す、大切な思い出の一つになった。
そして、みんなは花火が終わるまで、そのまま夜空を見上げていた。
しばらくして、花火大会も終わりに近づいていった。
最後の花火が夜空から消えると、祭りの雰囲気も少しずつ変わり始める。
帰り始める人も増え、まだ開いている屋台もあれば、片付けを始める屋台もあった。
ハルトは、まだにぎわっている食べ物の屋台を見た。
ハルト:「帰る前に……もう一個だけ買いたい。」
レンはすぐに振り向いた。
レン:「また?」
ハルト:「一個だけだって。」
レン:「今夜、まだ食べ足りないのか?」
ハルト:「まだ食べる余裕はある。」
カイト:「ハルト、よくそんなに食べられるな。」
アイカは笑った。
アイカ:「さっきだって、かなり食べてたじゃん。」
ハルト:「だって、こんなに食べられるの、祭りのときくらいだろ?」
レン:「お前はいつも理由をつけるな。」
ハルト:「理由じゃない。これはチャンスだ。」
カイト:「食べるチャンス?」
ハルト:「もちろん。」
アイカはまた笑った。
アイカ:「じゃあ、行ってきなよ。」
ハルト:「よし!」
ハルトはすぐに食べ物の屋台へ向かっていった。
キラナ、アイカ、レン、カイト、オカネは、その後ろ姿を見ている。
キラナ:「本当にまだ食べるんだ……。」
アイカ:「まあ、いいんじゃない? ハルトにとっては、それも祭りの一部みたいだし。」
しばらくして、ハルトが食べ物を一つ持って戻ってきた。
ハルト:「よし。これでやっと帰れる。」
レン:「やっとか。」
カイト:「本当に?」
ハルト:「本当だって。」
アイカ:「五分後にまた何か買いたいって言っても、私は驚かないけどね。」
ハルト:「もう買わないって。」
レン:「まあ、見ておくよ。」
みんなは小さく笑い、ようやく祭りの会場を出て、一緒に歩き始めた。
そのまま、みんなは祭りの会場を離れて歩いていく。
周りの雰囲気も少しずつ静かになっていた。
まだ同じ方向へ歩いている人もいるが、祭りの屋台から聞こえてくる声はだんだん遠くなっていく。
オカネはキラナの隣を歩いていた。
しばらくして、アイカがみんなを見ながら笑った。
アイカ:「今夜、すごく楽しかったな。」
キラナ:「うん。私も。本当に楽しかった。」
ハルト:「俺はやっぱり、食べ物が一番だったな。」
レン:「お前はそればっかりだな。」
ハルト:「なんでだよ? 食べ物だって祭りの一部だろ。」
レン:「俺が言ってるのは祭りのことじゃなくて、お前がずっと食べてたことだよ。」
レンは少し考える。
レン:「俺は、こうしてまたみんなで一緒に過ごせたことが一番よかったと思う。」
ハルト:「食べ物も、みんなとの時間の一部だろ。」
カイトはすぐに笑った。
カイト:「それはハルト自身のためだろ。」
ハルト:「でも、間違ってないだろ?」
アイカも小さく笑った。
アイカ:「まあ……ハルトがそう思うなら、それでいいんじゃない?」
キラナはみんなを見ながら微笑んだ。
そのまま、みんなは帰り道を歩きながら、他愛のない話を続けていた。
しばらくして、いつもの別れ道に着いた。
目の前の道が、それぞれ違う方向へ分かれている。
みんなは足を止めた。
アイカは自分が向かう道を見る。
アイカ:「じゃあ、今日はここまでだね。」
キラナはうなずいた。
キラナ:「うん。」
ハルト、レン、カイトもそれぞれの道の前で立ち止まった。
楽しかった祭りの夜も、いよいよ終わりに近づいていた。
いつものように、ここからはそれぞれ違う道を通って家へ帰る。
アイカはみんなに手を振った。
アイカ:「じゃあ、私先に行くね。みんな、気をつけて帰ってね!」
キラナ:「うん。アイカも気をつけてね!」
ハルト:「またな!」
アイカ:「またね!」
アイカは自分の家へ向かって歩き始めた。
数歩進んだところで、ハルトも別の道へ向かおうとする。
ハルト:「じゃあ、俺もこっちだから。」
レン:「気をつけて。」
カイト:「またな。」
ハルト:「ああ。みんなも気をつけろよ。」
ハルトも歩いていった。
レンはキラナとカイトを見る。
レン:「俺たちも、そろそろ別れよう。」
カイト:「うん。もう夜も遅いしね。」
キラナ:「じゃあ、レンもカイトも気をつけてね。」
レン:「キラナもな。」
カイト:「またね。」
キラナ:「またね。」
そう言って、レンとカイトもそれぞれの道へ向かっていった。
キラナはオカネと一緒に家へ向かって歩き始めた。
夜の街は、出発したときよりずっと静かになっていた。
さっきまで人でいっぱいだった道も、今ではかなり人が少なくなっている。
祭りの音も、どんどん遠くなっていった。
キラナはゆっくりと歩く。
オカネもキラナの隣を歩き、その歩幅に合わせてついてくる。
キラナ:「さっきの祭り、楽しかったね。」
オカネ:「ああ。」
キラナは小さく笑った。
二人は静かな夜道を歩きながら、家へ帰っていった。
さっきまであれほどにぎやかだった祭りは、少しずつ後ろへ遠ざかっていった。
しばらくして、キラナはオカネと一緒に家へ帰ってきた。
玄関のドアを開けると、父と母がまだリビングにいて、キラナの帰りを待っていた。
母がすぐに振り向く。
母:「キラナ、おかえり。楽しかった?」
キラナは満面の笑みを浮かべる。
キラナ:「うん、すっごく楽しかった!」
母:「本当?」
キラナ:「うん! いろんなものが見られたよ。」
キラナは今夜あったことを話し始めた。
キラナ:「祭りではいろんな食べ物を食べたし、ゲームもいっぱいあったんだ。それに、浴衣を着てる人もたくさんいた!」
母はキラナの話を笑顔で聞いている。
キラナ:「アイカとハルトとレンとカイトとも一緒に行ったの。みんなで歩いたり、食べたり、ゲームをしたりして、それから……。」
キラナは少し言葉を止める。
そして、目を輝かせる。
キラナ:「花火もすっごくきれいだった!」
父:「そうか。花火も見たんだな?」
キラナ:「うん! 本当にきれいだった。しかも、みんなで花火を背景に写真も撮ったんだよ。」
母:「へえ、楽しそうね。」
キラナ:「うん、本当に楽しかった!」
父は、さっきからキラナの近くにいるオカネを見る。
父:「それで、オカネはどうだった? 祭り、楽しめたか?」
オカネはうなずいた。
オカネ:「ああ。キラナの世界の祭りは、とても興味深かった。」
父と母は顔を見合わせ、微笑んだ。
母:「それならよかった。」
キラナもオカネを見て笑った。
キラナ:「ほら、楽しかったでしょ?」
オカネ:「ああ。今なら分かる。」
キラナは祭りの夜を思い出した。
提灯。
食べ物の屋台。
ゲーム。
友達。
そして、花火でいっぱいになった夜空。
夜はもう終わった。
けれど、その思い出はまだキラナの心の中に残っていた。
しばらくして、両親と話を終えると、キラナはオカネと一緒に二階へ上がり、自分の部屋へ戻った。
寝る準備を終えたあと、キラナはベッドに座りながらスマートフォンを手に取った。
眠る前に、今日撮った写真をもう一度開く。
画面には、アイカ、ハルト、レン、カイトと一緒に写っているキラナの姿があった。
そして、肩の上にはオカネもしっかり写っている。
その後ろでは、夜空に花火が上がっていた。
キラナはその写真をしばらく見つめる。
そして、小さく笑った。
その写真は、ただ夏祭りで撮った一枚の写真ではなかった。
キラナにとっては、日本に来てから自分の生活がどれだけ変わったのかを思い出させてくれる一枚だった。
ここへ来たばかりの頃、キラナは誰も知らない転校生だった。
新しい学校、新しい環境、そして今までとは違う生活に慣れなければならなかった。
でも今では、一緒に笑ったり、時間を過ごしたりできる友達がいる。
いつも支えてくれる家族もいる。
そして、異世界から来た魔法の猫、オカネも今ではキラナと一緒に暮らしている。
キラナはもう一度、写真を見る。
キラナ:「そう考えると……本当にいろんなことが変わったな。」
もう寝る準備をしていたオカネが、キラナのほうを振り向く。
オカネ:「またその写真を見てるのか?」
キラナ:「うん。」
オカネ:「そんなに気に入ったんだな。」
キラナは笑った。
キラナ:「うん。この写真を見ると、いろんなことを思い出すから。」
オカネ:「祭りのことか?」
キラナ:「祭りだけじゃないよ。私が日本に来てから起きたこと、全部。」
オカネは少し黙った。
そして、静かに言った。
オカネ:「なら、大切にしておけ。」
キラナはもう一度、スマートフォンの画面に映る写真を見る。
キラナ:「うん。大切にする。」
そして、スマートフォンの画面を消し、ベッドの横に置いた。
キラナ:「おやすみ、オカネ。」
オカネ:「おやすみ、キラナ。」
キラナは布団をかぶり、ベッドに横になる。
そして、小さな笑みを浮かべたまま目を閉じた。
友達と一緒に過ごした夏祭りの夜は、夏休みに残された新しい思い出の一つになった。
その夜は、静かに過ぎていった。
――第9章・完――
夏祭りの夜も、ついに終わりました。
みんなで屋台を回ったり、ゲームをしたり、花火を見たり。
そして最後には、みんなで一緒に写真も撮りました。
キラナにとって、この夏祭りはただ楽しかっただけではありません。
日本に来てから少しずつ増えていった大切な思い出の一つになりました。
そしてオカネにとっても、この世界で初めて見る夏祭りは、きっと特別な経験になったことでしょう。
夏休みはまだ終わっていません。
キラナたちの夏も、もう少しだけ続きます。
それでは、また次の章でお会いしましょう!




