第8章:恋の印を持つ猫
今回は、キラナたちの前に、ちょっと変わった猫が現れます。
いつものようにアイカ、ハルト、レン、カイトと一緒に夏休みを過ごしていたキラナ。
そんな彼女たちが出会ったのは、二本の尻尾と、左目にハートの印を持つ白い猫でした。
その猫の名前は、ソラト。
しかし、キラナはなぜか彼を「オカネ」と呼ぶことに……?
そしてソラトは、別の世界からやって来た魔法猫だということが分かります。
今回は、これまでとは少し違った雰囲気のお話です。
新しい出会いと、少し不思議な出来事を楽しんでもらえたらうれしいです。
それでは、第8章をどうぞ!
キラナの世界とはまったく異なる、別の世界。
そこでは、魔法と日常生活が長い間、当たり前のように共存していた。
その世界には、さまざまな場所に人間が暮らしている。
そして、人間はみな魔法を使うことができた。
しかし、そこに暮らしているのは人間だけではない。
さまざまな場所で、魔法の力を持つ動物や生き物たちも、人間と共に暮らしていた。
普通の猫もいれば、魔法猫もいる。
普通のフェンリルもいれば、魔法のフェンリルもいる。
普通のドラゴンもいれば、魔法のドラゴンもいる。
そのほかにも、めったに姿を見せない、とても珍しい生き物がいる。
空を生きる、空飛ぶクジラだ。
その生き物は空の上で暮らしており、ほかの生き物の前に姿を現すことはほとんどない。
そして、その世界には、とても大きなカメも一匹いる。
その体は普通のカメよりはるかに大きい。
それでも、島ほどの大きさではない。
これらの生き物たちは、すべてその世界の一部だった。
ただし、今回の物語ですべてが登場するわけではない。
ある地域では、いつもと変わらない日常が続いていた。
人々は、にぎやかな道を歩いている。
中には、仕事を手伝うために魔法を使っている人もいた。
魔法で荷物を持ち上げたり、何にも触れずに物に火をつけたり、ほかにもさまざまな簡単な作業に魔法を使ったりしている。
普通の動物たちも、いつも通りの生活を送っていた。
一方、魔法の力を持つ生き物たちも、同じ場所で暮らしている。
それでも、町の雰囲気が変になることはない。
この世界の住民にとって、魔法の存在は決して珍しいものではなかった。
魔法は、すでに日常生活の一部になっていた。
そこは、いつでもモンスターや戦いであふれているような世界ではない。
道があり、家があり、店があり、人々が暮らす場所がある。
そして、さまざまな普通の日常が存在している。
すべては、一般的な日常生活と同じように続いていた。
そんな世界の中を、一匹の白い猫がひとりで歩いていた。
その歩き方は落ち着いている。
急いでいるわけでもなければ、何かを探しているようにも見えない。
その猫の名前は、ソラト。
ソラト。
ソラトは魔法猫だった。
全身の毛は真っ白で、四本の足の先はピンク色をしている。
そのため、普通の猫とは少し違った印象を与えていた。
そして、ソラトには二本の尻尾があった。
二本とも白く、先端だけがピンク色になっている。
しかし、さらに目を引くものがあった。
左目だ。
ソラトの左目には、ピンク色のハートの形をした印があった。
そのハートの中では、虹彩と瞳孔が黒く見えている。
その印のおかげで、ソラトは魔法猫の中でも特に目立つ姿をしていた。
ソラトは、いつものように静かに歩き続けていた。
何人かの人や、ほかの生き物たちとすれ違う。
その日も、最初はいつもと変わらない一日になるはずだった。
何かが違うような感じもない。
何かが起こる気配もない。
少なくとも、ソラトはまだ何も気づいていなかった。
いつものように歩き続ける。
このあと、自分の人生が変わることも知らずに。
ソラトは、人の多い場所からどんどん離れていった。
さっきまで聞こえていた人々の声や生活の音も、少しずつ遠ざかっていく。
歩いている道も、だんだん静かになっていった。
周りにいる人や生き物の数も少なくなっていく。
それでも、ソラトは落ち着いた様子で歩き続けていた。
そして、ある静かな場所に差しかかったとき、道の近くにあるものが目に入った。
植物だった。
いや、正確には――花だった。
最初、ソラトは何気なく見ただけだった。
しかし、その花の形が気になり、足を止めた。
ソラトは振り返り、その花をじっと見つめる。
こんな花を見るのは初めてだった。
花の中央には、まるで笑っているような顔があった。
その両目はきらきらと輝いていて、まるで自分自身で光を放っているように見える。
そして、その顔の周りには、十二種類の色が並んでいた。
ソラトは興味を持った。
ソラト:「この花……何だろう?」
ソラトは花に近づいた。
近くまで行くと、さらにじっくりと観察する。
笑っているような顔。
そして、輝いている両目。
そのあと、中央を囲むように並んでいる色にも目を向ける。
ソラト:「きれいだな……」
その花は、本当に美しかった。
しかし、どこか普通とは違う感じがする。
ソラトには、この花が普通の植物なのか、魔法の植物なのか、それとも自分がまだ見たことのない何かなのか、分からなかった。
ソラトは少し首を傾げる。
ソラト:「これって……魔法植物なのかな?」
答えは返ってこない。
ソラトは、ただ花を見つめ続けていた。
そして、もう少しだけ近づいた。
その瞬間――
花が反応し始めた。
花の体から、ゆっくりと光が現れる。
ソラトはすぐに足を止めた。
ソラト:「え?」
光は、どんどん強くなっていく。
ソラトは数歩後ろへ下がった。
何かを感じる。
花の周りに、魔法のエネルギーが集まっていた。
ソラト:「何が起きてるんだ……?」
しかし、すべてがあまりにも早かった。
突然、周囲が光に包まれる。
ソラトは急いでその場から離れようとした。
ソラト:「待って――!」
だが――
花から、大量の魔法エネルギーが一気に放たれた。
光が、まるで波のように周囲へ広がっていく。
ソラトの体も、その中へ引き込まれた。
ソラト:「なに――!?」
一瞬で、ソラトの体は光に包まれた。
何が起こっているのか理解する暇さえなかった。
そして――
ソラトは、元いた世界から消えてしまった。
それから数分後。
その光は、ようやく消えた。
ソラトは、まったく知らない場所に倒れていた。
しばらくの間、何もせずにその場にいた。
やがて、ゆっくりと目を開ける。
ソラト:「……ここ、どこ?」
周囲を見渡す。
空気も、景色も、何もかもが違っていた。
知っている場所はどこにもない。
自分がまだ元の世界にいると思わせるものも、何一つ見当たらなかった。
ソラトはゆっくりと立ち上がる。
前を見る。
横を見る。
そして後ろも見る。
しかし、周りを見れば見るほど、そこが知らない場所だということが分かってきた。
そこでソラトは、さっきまで近くにあった花のことを思い出した。
すぐに振り返る。
だが――
花は、もうなかった。
ソラトは花を探し始めた。
近くにある植物を、一つずつ確認していく。
しかし、どれも違う。
笑っているような顔をした花もない。
光っている目を持つ花もない。
十二色が並んだ、あの花もない。
ソラトは探し続けた。
少し遠くまで歩き、別の植物も確認する。
しかし、結果は同じだった。
見つからない。
ソラトは、いったん足を止めた。
ソラト:「あの花、どこへ行ったんだ……?」
もう一度、周囲を見渡す。
時間が経つにつれて、あの不思議な花が本当に消えてしまったのだということが、はっきりしてきた。
ソラトは、とうとう探すのを諦めた。
そして、改めて周囲を注意深く見回した。
遠くには、人々の暮らしが見える。
道を歩いている人たち。
何台かの車。
家や建物、そして人々が暮らしていることを示すさまざまなもの。
すべて、一見すると普通だった。
しかし、ソラトには何かがおかしく感じられた。
元の世界のような魔法の気配がない。
日常生活で魔法を使っている人もいない。
人間と一緒に歩いている魔法の生き物も見当たらない。
いつも見ていた世界の雰囲気が、どこにもなかった。
ソラトは黙り込んだ。
ソラト:「まさか……」
もう一度、周囲を見渡す。
ソラト:「……俺、もう自分の世界にいないのか?」
その考えが浮かんだ瞬間、ソラトはしばらく動けなくなった。
もし本当に別の世界へ来てしまったのなら、もっと大きな問題がある。
どうやって帰ればいいのか、分からない。
ソラトはうつむいた。
ソラト:「もし本当に別の世界にいるなら……どうやって帰ればいいんだ?」
答えはない。
あの不思議な花は消えてしまった。
元の世界へ戻る方法も分からない。
そして今のソラトには、泊まる場所さえなかった。
ソラトは小さく息を吐いた。
ソラト:「とりあえず……安全な場所を探さないとな」
ソラトは、しばらく花を探すのをやめることにした。
何から始めればいいのか分からない。
今できることは、休める場所を探して、これからどうするかを考えることだけだった。
ソラトは、再び歩き始めた。
この先、何が起こるのか。
ソラトにはまだ分からない。
そして、この場所からそう遠くないところで、後に彼の人生を変えることになる人物が、いつもと変わらない休日を過ごしていることも――まだ知らなかった。
2019年8月3日(土)―朝
その朝、キラナの家はいつもよりのんびりとした雰囲気に包まれていた。
その日は、2019年8月3日、土曜日。
夏休みはまだ続いている。
学校もない。
制服を着る必要もない。
授業のことを考える必要もない。
キラナは、朝からゆっくりと過ごすことができた。
家には、父と母もいる。
朝食を終えたあと、キラナは家でのんびり過ごしていた。
しかし、しばらくすると、スマホから音が聞こえてきた。
ピコン!
グループチャットにメッセージが届いた。
キラナはスマホを手に取り、グループを開く。
どうやらアイカ、ハルト、レン、カイトが、またみんなで会う予定について話しているようだった。
最初に集まろうと提案したのはアイカだった。
アイカ:「ねえ、今日またみんなで会わない?」
しばらくして、ハルトが返信する。
ハルト:「いいけど、また遠くまで歩くのはやめようぜ。」
アイカ:「あはは、三峯山のことまだ覚えてるの?」
ハルト:「覚えてる。特に疲れたことをな。」
カイト:「でも、あのときもちゃんと食べたり、ふざけたりしてたじゃん。」
ハルト:「それは元気を保つためだよ。」
レンも返信した。
レン:「今日会うなら、何時にどこで集合する?」
アイカは、もう場所を考えていたようだった。
アイカ:「まずはいつもの場所に集まらない? それから、どこへ行くか決めようよ。」
レン:「いいよ。何時?」
アイカ:「十時はどう?」
カイト:「俺は大丈夫。」
ハルト:「十時ならまだ人間らしい時間だな。俺も行く。」
キラナは、みんなの会話を見ながら笑顔になった。
三峯山へ一緒に行ってから、もう二週間くらい経っている。
またみんなで集まれるのが、なんだか嬉しかった。
キラナもメッセージを送る。
キラナ:「私も行く!」
しばらくすると、アイカから返信が来た。
アイカ:「オッケー! じゃあ、また五人だね!」
カイト:「よし。」
レン:「じゃあ、またあとで。」
ハルト:「誰も遅刻するなよ!」
キラナは小さく笑った。
キラナ:「ハルトがそれ言うの?(笑)」
ハルト:「おい! 俺だって時間くらい守れるぞ!」
キラナは会話が終わると、グループチャットを閉じた。
今日は、またみんなで集まる。
キラナは外出する準備を始めた。
準備を終えると、父と母に「行ってきます」と声をかけて家を出た。
キラナは、みんなで決めた集合場所へ向かって歩いていった。
しばらくすると、見慣れた人の姿が見えた。
アイカだった。
アイカ:「キラナ!」
キラナは振り向いて、笑顔になる。
キラナ:「アイカ!」
二人は顔を合わせて挨拶をした。
その少し後、ハルトもやって来た。
ハルト:「おはよう!」
キラナ:「おはよう、ハルト!」
ハルト:「よかった、遅刻しなかった。」
アイカはすぐに笑った。
アイカ:「ちゃんと時間通りに来たね。えらいえらい。」
ハルト:「ほらな。俺は頼りになるんだよ。」
それから間もなく、レンとカイトもやって来た。
レン:「待たせてごめん。」
カイト:「おはよう、みんな。」
これで五人が、また集まった。
キラナ、アイカ、ハルト、レン、そしてカイト。
五人は一緒に歩き始めた。
雰囲気は明るく、のんびりしている。
みんなで夏休みのことを話しながら歩いていく。
キラナ:「三峯山に行ってから、なんだかすごく久しぶりに感じるね。」
アイカ:「まだ二週間くらいしか経ってないよ。」
ハルト:「二週間って、何も予定がないと長いんだよ。」
カイト:「お前は本当に休みが好きだな。」
ハルト:「もちろん。」
レンは小さく笑った。
レン:「でも、あのときの旅行は楽しかったよな。」
キラナ:「うん。でも、帰りはけっこう疲れたよね。」
ハルト:「ほら、それだよ。」
五人は笑った。
そのあとは、別の話題へと移っていった。
三峯山での出来事を、最初から全部話す必要はない。
今日はただ、みんなで一緒に過ごしたかった。
五人はそのまま歩き続けた。
時々立ち止まって周りのものを見たり、冗談を言ったり、何気ない話をしたりする。
ハルトは、五人の中でも特に冗談が多かった。
アイカは、周りのちょっとしたものによく気づく。
レンは時々、道や周囲の様子を確認している。
カイトは相変わらずのんびりと歩きながら、みんなの会話に加わっていた。
そしてキラナは、珍しいものを見るとすぐに興味を持つ。
通り過ぎる店や植物、動物など、さまざまなものに何度も目を向けていた。
今回の夏休みも、楽しい時間になりそうだった。
しかし、五人はまだ知らなかった。
この日、いつもとは違うものに出会うことになるなんて。
そして、珍しいものを見るとすぐに気になるキラナの視線が、一匹の猫へ向けられることになるなんて。
キラナと四人の友達は、そのまま道を歩き続けていた。
相変わらず話したり、冗談を言ったりしている。
そのとき、突然、キラナの視線が道の端にあるものへ向いた。
一匹の白い猫だった。
最初は、何もおかしなところはないように見えた。
その猫は、ただ静かに歩いている。
キラナ:「あっ、見て。猫がいる。」
アイカも振り向いた。
アイカ:「あ、本当だ。かわいいね。」
ハルトも猫を見る。
ハルト:「めちゃくちゃかわいいな。なんか、すごくのんびりしてる。」
レンは少し離れたところから猫を見た。
レン:「白い猫だな。」
カイトは一度だけ目を向けた。
カイト:「んー。」
しかし、キラナはまだその猫を見つめていた。
何かが違う気がする。
キラナは目を細めた。
そして、あることに気づいた。
キラナ:「……え?」
キラナは猫の後ろ姿をじっと見る。
そして、目を大きくした。
キラナ:「ちょっと待って……」
アイカがキラナを見る。
アイカ:「どうしたの?」
キラナは猫を指差した。
キラナ:「あの猫……尻尾が二本ある。」
四人もすぐに猫を見直した。
ハルト:「え?」
ハルトは首を傾げる。
ハルト:「二本?」
アイカ:「本当に?」
レンはよく見ようとする。
レン:「ちょっと待って……」
遠くから猫を注意深く観察する。
カイトも、さっきまで軽く見ていただけだったが、今度は真剣に見た。
カイト:「……うん。」
小さくうなずく。
カイト:「本当に二本ある。」
五人は、白い猫をじっと見つめるようになった。
キラナは、今度は猫の足元を見る。
すると、四本の足の先がピンク色になっていた。
キラナ:「足も変だよ。」
アイカも見る。
アイカ:「本当だ。足の先がピンク色……。」
キラナは二本の尻尾へ視線を移す。
二本の尻尾の先も、同じようにピンク色だった。
キラナ:「尻尾もだ。」
ハルトはますます困惑した表情になる。
ハルト:「これ、何ていう猫なんだよ?」
カイトは小さく笑った。
カイト:「なんか、アニメのキャラクターみたいだな。」
ハルト:「ああ。アニメから出てきたみたいだ。」
レンは、まだ何とか理由を探そうとしていた。
レン:「何か理由があるのかもしれない。毛の色や尻尾の形が普通と違うだけって可能性もある。」
アイカ:「でも、尻尾が二本なのは?」
レンは黙った。
レン:「……それは、ちょっと説明が難しいな。」
キラナは、まだ猫を見つめている。
そして、その顔に目を向けた。
すると、また一つ、驚くものが見つかった。
白い猫の左目に、ピンク色のハートの形をした印がある。
キラナ:「あっ……目を見て!」
アイカが少し近づく。
アイカ:「え?」
キラナは猫の左目を指差した。
キラナ:「ハートの印がある!」
アイカは目を凝らして見る。
アイカ:「本当……。」
ハルトも見る。
ハルト:「ますますアニメのキャラみたいだな。」
レンも、すぐには説明できなかった。
レン:「尻尾が二本で、足と尻尾の先がピンク色。それに、目にハートの印……。」
少し考える。
レン:「俺には説明できない。」
カイトもうなずいた。
カイト:「じゃあ、やっぱり普通の猫じゃないんだな。」
五人は、まだその猫を見つめていた。
しかし、そのとき――
白い猫が足を止めた。
ゆっくりと、五人のほうを振り向く。
黒い瞳が、五人を見つめた。
全員が黙り込んだ。
キラナは瞬きをする。
キラナ:「……こっち見てる。」
すると、その猫が口を開いた。
ソラト:「君たちは、何を見てるんだ?」
五人は、その場で固まった。
誰も答えられない。
キラナは目を大きく見開いて、猫を見つめる。
アイカも驚いている。
ハルトは、すぐには言葉が出てこなかった。
レンも黙ったままだ。
さっきまで考えていた、あらゆる常識的な説明が、一瞬で消えてしまったようだった。
カイトも、ようやく驚いた表情を見せる。
数秒間、静かな時間が流れた。
そして、キラナが猫を指差した。
キラナ:「き、君……しゃべれるの!?」
ソラトはうなずいた。
ソラト:「もちろん。」
ハルトが、ようやく声を出す。
ハルト:「猫がしゃべった!?」
ソラトはハルトを見る。
ソラト:「俺は普通の猫じゃない。」
レンはすぐにソラトを真剣に見る。
レン:「じゃあ……君は一体、何なんだ?」
ソラトは落ち着いた様子で答えた。
ソラト:「俺は魔法猫だ。」
キラナは、さらに興味を持った。
キラナ:「魔法猫?」
ソラトはうなずく。
ソラト:「そう。俺は別の世界から来た。」
五人は、また黙り込んだ。
キラナたちは、今聞いたことがなかなか信じられなかった。
ソラトは、自分の世界について少しずつ説明し始めた。
ソラト:「俺の世界は、この世界とは違う。そこでは、人間もいろいろな生き物も、魔法と一緒に暮らしている。」
ソラト:「普通の猫もいるし、魔法猫もいる。」
ソラト:「普通のフェンリルもいるし、魔法のフェンリルもいる。」
ソラト:「普通のドラゴンもいるし、魔法のドラゴンもいる。」
ソラト:「それに、魔法を使う人間もいる。」
そこで一度、ソラトは言葉を止めた。
ソラト:「それから、めったに姿を見せない空飛ぶクジラもいる。」
キラナは、真剣に話を聞いている。
ソラト:「それと、とても大きなカメもいる。」
ハルトはソラトを見る。
ハルト:「待って。それ、全部本当にいるのか?」
ソラト:「ああ。」
アイカも、さらに興味を持った。
アイカ:「じゃあ……本当にそんな世界から来たの?」
ソラト:「そうだ。」
キラナは、まだソラトから目を離さなかった。
そして、一つ思い出した。
キラナ:「そういえば……君の名前は?」
猫は答えた。
ソラト:「ソラト。」
キラナはうなずく。
キラナ:「ソラト……。」
その名前を覚えようとする。
しかし、なぜか少し考えたあと、キラナはこんなことを言った。
キラナ:「じゃあ、オカネって呼んでいい?」
ソラトはすぐに振り向いた。
ソラト:「え?」
キラナは笑顔になる。
キラナ:「オカネ。」
ソラト:「違う。俺の名前はソラト。」
キラナ:「うん、ソラト……オカネ。」
ソラト:「だから違うって!」
アイカは笑いをこらえる。
アイカ:「キラナ、またあだ名をつけ始めたね。」
ハルトもとうとう笑い出した。
ハルト:「オカネか! それもいいな!」
ソラトは困ったような顔をする。
ソラト:「なんでオカネなんだよ?」
レンは小さくため息をついた。
レン:「たぶん、キラナの考えを変えるのは難しいと思う。」
カイトもうなずく。
カイト:「もうその名前、定着しそうだな。」
ソラトはしばらく黙った。
そして、とうとう諦めた。
ソラト:「……もう、好きにしてくれ。」
キラナは満足そうに笑った。
キラナ:「じゃあ、今日からオカネね!」
ソラトは小さくため息をつく。
ソラト:「俺の名前、ソラトなんだけどな……。」
自己紹介が終わると、キラナはオカネの様子を見た。
その猫は、何かを探しているように見える。
キラナは尋ねた。
キラナ:「オカネ、何か探してるの?」
オカネは少し黙った。
そして、自分をこの世界へ連れてきた花について話し始めた。
オカネ:「俺は、ある花を探している。」
アイカ:「花?」
オカネ:「ああ。元の世界で、その花を見つけたんだ。」
そして、その花の特徴を説明する。
オカネ:「中央に、笑っているような顔がある。」
キラナたちは話を聞いていた。
オカネ:「その目は、まるで自分で光っているみたいに輝いている。」
オカネ:「それから、その顔の周りには十二種類の色が並んでいる。」
キラナは、その花の姿を想像しようとする。
キラナ:「笑っている顔……光る目……十二色……。」
アイカは首を横に振る。
アイカ:「そんな花、見たことないよ。」
ハルト:「俺も。」
レン:「普通の植物には聞こえないな。」
カイトもうなずく。
カイト:「俺も見たことない。」
オカネは、さらに話を続けた。
自分がその花を見つけ、気になって近づいたこと。
そして、その花が突然反応し始めたこと。
光が現れたこと。
魔法のエネルギーが集まったこと。
そして、すべてがあまりにも早く起こったこと。
オカネ:「それから、その花が爆発したんだ。」
キラナは驚く。
キラナ:「爆発!?」
オカネ:「ああ。光と魔法のエネルギーが、周りに一気に広がった。」
オカネは、その光の中へ自分が引き込まれたことを説明した。
そして、そのあと、この世界へ移動してしまった。
この世界に来たときには、もう花はなくなっていた。
すでに探してみたものの、見つけることはできなかった。
アイカは、その話を聞いて少し悲しそうな顔をした。
アイカ:「それは大変だったね……。」
レンは考え込む。
レン:「その花が人を別の世界へ移動させることができるなら、何か特別な魔法の仕組みがあるのかもしれない。」
ハルト:「今でも、別の世界から来た猫と話してるっていうのが信じられないんだけど。」
カイトはオカネを見る。
カイト:「それより、これからどこへ行くんだ?」
オカネは黙った。
その質問を聞いて、キラナはあることに気づいた。
オカネには、行く場所がない。
キラナはオカネを見る。
キラナ:「だったら……ひとりでいなくてもいいよ。」
オカネが振り向く。
キラナ:「元の世界に帰れないなら、しばらく私の家にいていいよ。」
オカネは黙った。
少し申し訳なさそうな顔をする。
オカネ:「でも……迷惑じゃないか?」
キラナ:「大丈夫だよ。」
アイカもすぐに賛成した。
アイカ:「私はいいと思う。」
レンもうなずいたが、一つ注意する。
レン:「でも、そのことはキラナの両親にもちゃんと話したほうがいい。」
キラナはうなずく。
キラナ:「うん。お父さんとお母さんにちゃんと説明する。」
ハルトは、まだ信じられないような顔をしていた。
ハルト:「今日はただ夏休みに遊びに来ただけだったのに……。」
オカネを見る。
ハルト:「……まさか、別の世界から来た猫に会うとはな。」
カイトは小さく笑った。
カイト:「でも、とりあえずキラナの家が一番安全そうだな。」
オカネは、とうとううなずいた。
オカネ:「分かった。みんなが迷惑じゃないなら……その申し出を受けるよ。」
キラナは笑顔になった。
キラナ:「うん! じゃあ、行こう!」
時間は、そのまま過ぎていった。
気づけば、もう夕方が近づいていた。
五人は、とうとう別れる時間になった。
アイカ、ハルト、レン、カイトは、それぞれの家へ向かって帰っていく。
アイカ:「じゃあね、キラナ。」
キラナ:「またね!」
ハルトは手を振る。
ハルト:「オカネのことで何かあったら、ちゃんと連絡しろよ!」
キラナ:「うん、分かった!」
レンもうなずいた。
レン:「グループでも連絡は取れるからな!」
カイト:「またな、キラナ!」
キラナは笑顔で答える。
キラナ:「またね!」
こうして、五人はそれぞれの道へ別れていった。
キラナは、オカネと一緒に家へ向かって歩き始めた。
一方、アイカ、ハルト、レン、カイトも、それぞれの家へ向かって歩いていく。
別々の道を歩いていても、四人はこれからもキラナの大切な友達だった。
しばらくして、キラナとオカネは家に到着した。
キラナの父と母は、娘と一緒に歩いてきた白い猫にすぐ気づいた。
母は不思議そうな顔をする。
母:「キラナ……その猫、誰の猫?」
キラナは少し気まずそうに笑った。
キラナ:「あ、これ? 今日、友達と一緒に見つけた猫で、名前はオカネ。」
キラナの父は、その猫をじっと見る。
そして、普通ではないものに気づいた。
二本の尻尾。
父は黙った。
母も、さらに近くから見る。
そして――
オカネが口を開いた。
オカネ:「こんばんは。」
父と母は、その場で固まった。
キラナは、ただ苦笑いする。
キラナ:「えっと……これから説明するね。」
キラナは、それからすべてを話した。
オカネのこと。
別の世界のこと。
不思議な花のこと。
そして、オカネがどうやってこの世界へ来たのか。
父と母は真剣に話を聞いた。
もちろん、二人とも今聞いた話をすぐに信じられたわけではない。
それでも、一つだけ分かっていた。
オカネには、ほかに行く場所がない。
二人はそのことを考えた。
そして最終的に、オカネがしばらくこの家で暮らすことを許してくれた。
オカネは少し頭を下げた。
オカネ:「ありがとうございます。」
少なくとも今は、休める場所がある。
もう、ひとりでいる必要はない。
そして、夜になった。
キラナは自分の部屋にいた。
今日の出来事を思い返す。
最初は、夏休みにアイカ、ハルト、レン、カイトと一緒に過ごすだけのつもりだった。
それなのに、今日はまったく想像していなかった出来事が起きた。
別の世界から来た魔法猫に出会った。
本当の名前はソラト。
でも、今のキラナは彼をオカネと呼んでいる。
キラナは小さく笑った。
キラナ:「オカネ……。」
その頃、オカネは新しい仮の居場所で過ごしていた。
別の世界へ来てから初めて、ゆっくり休める場所を見つけた。
しかし、頭の中にはまだ一つのことが残っている。
あの不思議な花。
笑っているような顔。
輝く目。
十二種類の色。
そして、自分を別の世界へ連れてきた魔法のエネルギー。
オカネは、あの花が一体何なのか、まだ分からない。
そして、元の世界へ帰る方法もまだ分からない。
一方、キラナと四人の友達もまだ知らなかった。
オカネとの出会いが、これから自分たちの知らない、もっと広い世界とのつながりを開いていくことになるかもしれないということを。
――第8章・完――
第8章、最後まで読んでいただきありがとうございました!
今回は、キラナたちがソラトという魔法猫と出会うお話でした。
別の世界からやって来たソラト。
二本の尻尾やピンク色の足先、そして左目にあるハートの印など、ちょっと変わった特徴を持つ猫です。
そして、キラナがつけた名前は……「オカネ」。
ソラト本人は、最後まで自分の名前は「ソラト」だと言っていましたね。
今回は、これまでのキラナたちの日常に、少しずつ新しい要素が加わる章になりました。
不思議な花によって別の世界から来たソラトが、これからキラナたちとどんな毎日を過ごしていくのか。
そして、ソラトをこの世界へ連れてきた不思議な花には、一体どんな秘密があるのか。
これからの物語も、楽しみにしてもらえたらうれしいです。
それでは、また次の章で!




