第7章:夏休み最初の日
夏休みが始まりました!
今回は、キラナたち五人で三峯山へ遊びに行くお話です。
電車やバスに乗って、三峯神社を訪れたり、山の景色を楽しんだり、みんなで写真を撮ったり……。
ただの楽しいお出かけになるはずでしたが、途中でちょっと気になる模様や、鈴のような音を見つけます。
「これは何だろう?」と五人で考えながら進んでいきますが、最後にはちゃんと理由が分かります。
少しだけ不思議で、でも最後はほっとできるような、そんな夏休み最初の日を楽しんでもらえたらうれしいです。
それでは、第7章をどうぞ!
2019年7月21日(日)― 朝
朝の日差しが、キラナの部屋のカーテンの隙間からゆっくりと差し込んでいた。
まだベッドで眠っていたキラナは、ゆっくりと目を開ける。
小さくあくびをしてから、いつもよりのんびりと部屋を見渡した。
この朝は、いつもよりずっと静かだった。
急いで何かをする必要もない。
キラナはまだ少し眠そうな顔をしていたが、ふと何かを思い出した。
キラナ:「んー......」
少しだけ頭を起こし、机のほうを見る。
机の近くには、ここ数日、日付を確認するために使っていたカレンダーが置かれていた。
キラナはしばらくカレンダーを見つめる。
そこに書かれていた日付は、2019年7月21日。
キラナ:「7月21日......」
少し黙ったあと、キラナの目が少し大きくなった。
キラナ:「あっ!」
そして、すぐに笑顔になる。
キラナ:「今日は日曜日だ!」
ここ数日、夏休みについて話していたことを思い出す。
最後の学校の日も、もう終わった。
今日からしばらくの間、学校へ行く必要はない。
キラナ:「やっと夏休みが始まった!」
キラナは嬉しそうな顔をした。
ここ数日、アイカ、ハルト、レン、カイトと夏休みの予定について話しながら待っていた。
そしてついに、楽しみにしていた夏休みが本当に始まったのだ。
キラナはベッドの端に座り、目をこすった。
しかし、しばらくすると、また別のことを思い出した。
キラナ:「あ、そうだ......」
キラナは前を見ながら、少し考える。
以前、みんなで話していた予定が一つあった。
キラナは、昨日の土曜日にみんなで話したことを思い出そうとした。
キラナ:「三峯山......」
その名前が頭に浮かんだ瞬間、キラナの顔がまた明るくなった。
キラナ:「そうだ! 今日はアイカ、ハルト、レン、カイトと一緒に三峯山へ行くんだった!」
キラナはますます元気になった。
夏休みの初日なのに、もう友達と出かける予定がある。
キラナは、これから始まる旅を想像しながら笑った。
キラナ:「絶対楽しそう!」
キラナはベッドから立ち上がり、体を伸ばした。
キラナ:「なんだか待ちきれないな」
それから、キラナは出かける準備を始めた。
ベッドを整えたあと、洗面所へ行って顔を洗い、身支度をする。
動きやすい服に着替えると、部屋へ戻って、今日持っていくものを準備した。
しばらくすると、食事のほうから朝ごはんのいい匂いがしてきた。
キラナはすぐに一階へ下りた。
父と母はすでに食卓にいて、朝ごはんも用意されていた。
キラナは二人と一緒に席につく。
母:「おはよう、キラナ。今日はずいぶん元気そうね」
キラナ:「おはよう! だって、今日は友達と出かけるんだ!」
父:「そうなのか? どこへ行くんだ?」
キラナ:「三峯山へ行くの!」
父と母は顔を見合わせた。
父:「三峯山? 五人で行くのか?」
キラナ:「うん。アイカとハルトとレンとカイトと一緒!」
母:「けっこう遠いわね。もう予定は決めてあるの?」
キラナ:「うん。駅で待ち合わせて、一緒に行く予定だよ」
父:「そうか。みんなで一緒に行動して、旅行中も気をつけるんだぞ」
キラナ:「うん、お父さん」
母:「飲み物と、何か食べるものも忘れないでね。移動もけっこう長くなるでしょう?」
キラナ:「もうちゃんと考えてあるよ」
キラナは笑顔で朝ごはんを食べ続けた。
朝食を終えると、キラナはもう一度部屋へ戻り、必要なものが全部そろっているか確認した。
小さな荷物を入れられるくらいのバッグを用意する。
中に飲み物を一本入れ、いくつかのお菓子と必要なものを入れていく。
少し考えてから、スマートフォンもバッグに入れた。
キラナ:「写真も撮らなきゃ」
もう一度バッグの中を確認する。
荷物はそれほど多くない。
その日の旅に必要なものだけを持っていくことにした。
準備を終えると、靴を履いてバッグを持った。
そして、玄関の近くにいる父と母のところへ戻った。
キラナ:「じゃあ、行ってくるね!」
母:「うん。気をつけてね、キラナ」
父:「着いたらちゃんと連絡するんだぞ」
キラナ:「はーい!」
キラナは二人に手を振った。
キラナ:「行ってきます!」
母:「いってらっしゃい!」
父:「気をつけてな!」
キラナは家を出た。
朝の空気は、とてもさわやかだった。
夏休み最初の日が、今まさに始まろうとしている。
今日は、桜森での毎日を楽しくしてくれた友達と一緒に過ごす一日だ。
キラナは元気いっぱいの足取りで、駅へ向かって歩き始めた。
目的地は、桜森駅。
ここから、三峯山への旅が始まる。
しばらく歩いて、キラナは桜森駅に到着した。
日曜日の朝ということもあり、駅はそれなりに人が多かった。
ホームへ向かう人や、電車を待っている人たちの姿が見える。
キラナは駅の中へ入り、周りを見渡した。
キラナ:「アイカたちはどこかな?」
すると、入口からそれほど離れていないところで、アイカが周囲を見ながら立っているのが見えた。
キラナ:「アイカ!」
アイカが振り向く。
キラナの姿を見つけると、すぐに笑顔になった。
アイカ:「キラナ! もう来たんだ!」
キラナ:「うん!」
キラナはアイカのところまで駆け寄った。
アイカ:「一人で来たの?」
キラナ:「うん。家からそのまま来たよ」
アイカ:「私も今来たところ」
キラナ:「じゃあ、ちょうどいいタイミングだったね」
アイカ:「そうみたい。ハルトとレンとカイトも、もうすぐ来ると思う」
キラナ:「じゃあ、みんなを待とう!」
二人は入口の近くで、残りの三人を待つことにした。
数分後。
キラナにはもう聞き慣れた声が聞こえてきた。
ハルト:「おーい! おはよう!」
キラナとアイカが振り向く。
ハルトが小さなバッグを肩にかけて、こちらへ歩いてくる。
キラナ:「おはよう、ハルト!」
アイカ:「おはよう」
ハルト:「二人とも、準備できてる?」
キラナ:「もちろん!」
ハルト:「よかった。俺なんて、今朝ちょっと家を出るの面倒くさくなりそうだった」
アイカ:「朝早いと、いつもそうじゃん」
ハルト:「でも、ちゃんと来ただろ?」
キラナ:「うん。来てくれれば大丈夫!」
ハルト:「ほらな」
それから少しして、レンも二人のところへやってきた。
レン:「おはよう」
キラナ:「おはよう、レン!」
アイカ:「やっと来たね」
レン:「うん。出発前にもう一度、電車の時間を確認してた」
ハルト:「昨日も確認してなかった?」
レン:「念のため、もう一度確認しただけ」
ハルト:「真面目だなあ」
レン:「ちゃんと確認しておけば、乗り間違えることもないからね」
ハルト:「大丈夫だって。俺がみんなと一緒にいる限り、迷子にはならないから」
すると、入口のほうからやってきたカイトが口を挟んだ。
カイト:「本当に?」
ハルト:「カイト!」
カイトはいつものように、のんびりした笑顔を浮かべている。
カイト:「おはよう、みんな」
キラナ:「おはよう、カイト!」
アイカ:「これで全員そろったね」
レンは四人を見渡した。
レン:「アイカ、キラナ、ハルト、カイト」
そして、うなずく。
レン:「五人。誰も置いてきてないね」
ハルト:「なんで点呼みたいな言い方なんだよ?」
レン:「安全確認」
キラナは小さく笑った。
キラナ:「でも、本当に全員そろったね」
アイカ:「じゃあ、出発できるね」
レンはもう一度、スマートフォンで旅の情報を確認した。
レン:「出発する前に、もう一度説明しておくね。桜森駅から電車に乗って、まず西武秩父駅まで行く」
キラナ:「うん」
レン:「西武秩父駅に着いたら、そこからバスに乗って三峯神社の方面へ向かう」
キラナ:「なるほど......。最初は電車で、そのあとバスなんだね」
レン:「そう」
ハルトがため息をついた。
ハルト:「ってことは、けっこう長い旅になるんだな」
アイカ:「でも、みんなで行くんだから大丈夫だよ」
ハルト:「分かってるよ。ただ、どれくらい移動するのかなって思って」
カイト:「退屈したら、話せばいいじゃん」
ハルト:「疲れたら?」
カイト:「休む」
ハルト:「お腹が空いたら?」
カイト:「食べる」
ハルト:「それ、一番大事だな」
アイカ:「ハルトって本当に食べることばっかりだね」
キラナは二人の会話を聞きながら笑った。
全員が荷物を確認し終えると、五人はホームへ向かい始めた。
アイカ:「電車が来る前に行こう」
レン:「うん。電車が来る前にはホームに着いておいたほうがいいね」
キラナ:「分かった!」
ハルト:「よーし! 三峯山、待ってろよー!」
カイト:「うるさくしないの」
ハルト:「だって楽しみなんだから!」
アイカ:「ふふっ!」
五人は一緒に桜森駅のホームへ向かった。
こうして、夏休み最初の日の旅が始まった。
ホームに着くと、五人は待合スペースで電車を待ちながら、案内表示を確認した。
キラナは線路のほうを見ながら、わくわくした気持ちになっていた。
キラナ:「本当に今日、出発するんだね」
アイカ:「うん。いつもは学校で会うから、なんだか新鮮だね」
キラナ:「確かに」
ハルトは肩に小さなバッグをかけたまま、案内表示を見上げた。
ハルト:「そういえば、移動ってけっこう長いんだよな?」
レン:「うん。まず電車で西武秩父駅まで行って、そこからバスで三峯神社の方面へ向かう」
ハルト:「えー、そんなに?」
カイト:「今さら?」
ハルト:「電車とバスに乗るのは知ってたけど、改めて考えると、けっこう遠いなって」
アイカ:「でも、みんな一緒だから退屈しないよ」
ハルト:「俺は座りやすい席があるといいな」
カイト:「そこを気にするの?」
ハルト:「長い旅なんだから、快適なほうがいいだろ」
キラナは小さく笑った。
キラナ:「ハルトって、本当にそういうところ気にするよね」
ハルト:「どういう意味だよ?」
キラナ:「なんでもない」
五人は再び案内表示を確認した。
レンはスマートフォンを見ながら、電車の時間をもう一度確認する。
レン:「電車、もうすぐ来るよ」
キラナ:「もう来るの?」
レン:「うん」
キラナはアイカの隣に立って、電車を待った。
しばらくすると、遠くから電車の音が聞こえてきた。
キラナ:「あっ、電車!」
アイカ:「うん」
電車がゆっくりとホームへ入ってきて、五人の前で停車した。
ドアが開く。
レン:「行こう」
五人は電車に乗り込み、空いている席を探した。
キラナはアイカと一緒に窓側の席に座り、ハルト、レン、カイトは少し離れた席に座った。
全員が席につくと、数分後、電車のドアが閉まった。
そして、電車は桜森駅を出発した。
キラナは窓の外を眺める。
駅の周りの景色が、少しずつ後ろへ流れていく。
建物も、だんだん遠くなっていった。
キラナ:「わあ......」
アイカ:「どうしたの?」
キラナ:「ううん。ただ、こうやってみんなで出かけるのが嬉しくて」
アイカ:「夏休みはまだ始まったばかりだよ。これからもいろいろできるって」
キラナ:「うん!」
少し離れた席では、ハルトがゆったりと体を預けていた。
ハルト:「じゃあ、俺は寝るわ」
カイト:「早すぎない?」
ハルト:「体力を温存するんだよ」
レン:「まだ出発して数分だよ」
ハルト:「だからこそ。今から寝ておけば、起きたころには目的地に近づいてるだろ」
カイト:「その理屈はよく分からないな」
ハルト:「でも、理にかなってるだろ?」
キラナとアイカは、その会話を聞いて笑った。
まだ旅は始まったばかり。
けれど、誰も急ぐ必要はなかった。
今日は学校の日ではない。
授業もない。
宿題やチャイムのことを気にする必要もない。
五人はただ一緒に電車に乗り、これから向かう場所への旅を楽しんでいた。
窓の外では、桜森の景色が少しずつ変わっていく。
そして、三峯山へ向かう旅は続いていった。
しばらくすると、電車がゆっくりと速度を落とし始めた。
レン:「もうすぐ着くよ」
キラナ:「本当?」
電車はさらにゆっくりと進み、やがて西武秩父駅に到着した。
ドアが開く。
レン:「降りよう」
五人は電車を降り、ほかの乗客たちと一緒にホームを歩いていった。
ホームを出ると、五人は駅の外へ向かった。
キラナは周りを見渡した。
キラナ:「ここが西武秩父なんだ」
アイカ:「うん。次はバス停を探そう」
ハルト:「レン、どのバス停に行けばいいか覚えてる?」
レン:「覚えてる。でも、もう一度確認するよ」
レンはスマートフォンを取り出し、事前に用意していた旅のメモを開いた。
カイト:「そのほうがいいね。ここで間違えないようにしよう」
レンは画面を確認しながら、駅の案内表示にも目を向けた。
レン:「よし。三峯神社方面へ向かうバスに乗るために、バス停へ行こう」
キラナ:「さっき桜森駅で言ってたやつだね?」
レン:「うん。ここからはバスで三峯神社の方面へ向かう」
アイカ:「じゃあ、案内に沿って行けばいいんだね」
レン:「そう」
五人は駅を出て、バス停のほうへ歩き始めた。
レンは時々スマートフォンでルートを確認しながら、進む方向を確かめている。
キラナはアイカの隣を歩き、ハルトとカイトは少し後ろを歩いていた。
ハルト:「レンがルートを調べておいてくれて助かったな」
カイト:「うん。俺たち四人だけだったら、ちゃんと覚えてる人がいるか分からないし」
ハルト:「おい、俺を巻き込むなよ」
カイト:「じゃあ、覚えてる?」
ハルト:「......覚えてない」
キラナとアイカは小さく笑った。
しばらく歩くと、バスの乗り場が見えてきた。
レンが立ち止まり、もう一度スマートフォンを確認する。
そして、案内表示と見比べてからうなずいた。
レン:「ここだ。探してたバス停はこれで合ってる」
アイカ:「本当に?」
レン:「うん。あとはバスを待つだけ」
キラナは前方の道路を見る。
キラナ:「これで、もっと三峯山に近づくんだね」
アイカ:「うん。私もだんだん楽しみになってきた」
ハルト:「俺も。まあ、ここまでの移動はけっこう長かったけど」
カイト:「でも、もうここまで来たんだし」
レン:「まだ旅は続くよ」
五人はバス停で一緒に立ちながら、バスを待った。
桜森から電車に乗り、西武秩父までやってきた。
そして今度は、三峯神社方面へ向かうバスに乗る。
目的地へ向かう旅は、まだ続いていた。
しばらくすると、待っていたバスがやってきた。
遠くから、バスが道路を走ってくるのが見える。
アイカ:「あ、バス来たよ」
レンはバスの行き先を確認する。
レン:「うん。三峯神社方面で合ってる」
バスは五人の前で停車した。
ドアが開くと、五人は順番に乗り込んだ。
車内を見渡し、空いている席を探す。
五人はできるだけ近くに座り、旅の途中でも話せるようにした。
キラナはアイカと一緒に窓側の席に座り、ハルト、レン、カイトは少し離れたところに座った。
すべての乗客が乗り終わると、バスのドアが閉まった。
そして、バスはゆっくりと走り始めた。
キラナは窓の外を眺める。
最初は、まだ周りににぎやかな雰囲気が残っていた。
建物や店、車などが道路沿いに見えている。
キラナ:「まだ街って感じだね」
アイカ:「うん。でも、これから少しずつ変わってくると思うよ」
キラナ:「どう変わるの?」
アイカ:「山のほうへ向かってるからね」
キラナ:「あ、そっか」
キラナは再び窓の外を見る。
バスが進むにつれて、にぎやかな場所から少しずつ離れていく。
建物の数が減り、道路もさっきより静かになっていった。
キラナ:「わあ......」
アイカ:「どうしたの?」
キラナ:「見て」
アイカも窓の外を見る。
道路の両側に、少しずつ木々が増えてきていた。
バスが遠くへ進むほど、周りに広がる緑が多くなっていく。
アイカ:「本当だ。木が増えてきたね」
キラナ:「さっきまで建物がいっぱいあったのに」
アイカ:「もう少しで山に近い場所に入るからだね」
キラナは、外の景色を興味深そうに見続けた。
ところどころで木々が道路の両側に密集している。
そして、道は少しずつ上り坂になり、山の形に沿うように曲がりくねっていった。
バスは何度かカーブを曲がるたびに、ゆっくりと進んでいく。
キラナ:「道が曲がりくねってきたね」
アイカ:「うん」
キラナ:「どんな場所なのか、ますます気になってきた」
アイカ:「もうすぐ分かるよ」
少し離れた席では、ハルトが前方の道路を見ていた。
ハルト:「なあ......」
カイト:「ん?」
ハルト:「まだ遠いよな?」
カイト:「まだバスに乗ったばかりじゃん」
ハルト:「分かってるけど、思ったより長いなって」
レンがスマートフォンを見ながら答える。
レン:「まだ少し時間がかかるよ」
ハルト:「やっぱりか......」
カイト:「今から降りる?」
ハルト:「いや、それはない」
カイト:「じゃあ、なんで聞いたの?」
ハルト:「ただ確認しただけ」
キラナとアイカは、二人の会話を聞いて小さく笑った。
すると、キラナが前の席から声をかける。
キラナ:「大丈夫だよ、ハルト。せっかくの夏休みなんだから」
ハルト:「分かってるって。ただ、山までこんなに遠いとは思わなかった」
レン:「でも、景色はけっこうきれいだよ」
ハルトは窓の外を見る。
ハルト:「......まあ、確かに」
カイト:「やっと認めたな」
ハルト:「別にいいだろ」
五人はまた笑った。
バスはそのまま山道を進んでいく。
窓の外の景色は、ますます木々や山に囲まれたものになっていた。
ところどころに家や小さな建物が見えるものの、さっきまで通っていた街中とは比べものにならないほど静かだった。
キラナは、その景色を興味深そうに眺めていた。
キラナ:「こういう道、初めて見る」
アイカ:「日本の山のほうへ行ったことはないの?」
キラナ:「うん。今回が初めて」
アイカ:「じゃあ、今日はきっと見るものがいっぱいあるよ」
キラナ:「うん!」
キラナは再び窓の外へ視線を向けた。
木々が次々と後ろへ流れていく。
時々、葉の隙間から差し込んだ太陽の光が、道路を明るく照らしていた。
バスは、街のある場所からどんどん離れていく。
誰も急ぐ必要はなかった。
五人は話したり、冗談を言ったり、ときどき外の景色を眺めたりしながら、旅を楽しんでいた。
キラナにとって、今日の旅は普段の移動とはまったく違うものだった。
学校へ向かうための道でもない。
家へ帰るための道でもない。
今日は、まだ行ったことのない場所へ、友達と一緒に向かっている。
そして、バスが進むほど、三峯山は少しずつ近づいていった。
しばらくして、バスはゆっくりと速度を落とし始めた。
そして、三峯神社周辺のバス停に到着した。
レン:「着いたよ」
キラナ:「やった!」
五人は席から立ち上がり、降りる準備をする。
ドアが開くと、一人ずつバスを降りていった。
外へ出た瞬間、キラナは周りの空気が違うことに気づいた。
山の中の空気は、桜森で感じる空気よりも涼しく、さわやかだった。
キラナはゆっくりと深呼吸する。
キラナ:「わあ......空気がおいしい!」
アイカ:「うん。ここはけっこう涼しいよね」
ハルト:「あれだけ移動して、やっとバスから降りられた......」
カイト:「ずいぶんホッとしてるな」
ハルト:「そりゃそうだろ。でも、バスの旅もけっこう面白かったけどな」
レン:「なんだ、楽しんでたんじゃん」
ハルト:「面白かったって言っただけ。今すぐまた乗りたいわけじゃないぞ」
カイト:「ははは」
キラナも笑った。
五人はバス停の近くで少し休むことにした。
キラナはバッグを下ろし、周りを見渡す。
いろいろな場所に木々が生えている。
空気は静かで、街中で聞こえていたような車の音も少ない。
キラナ:「ここ、本当に桜森とは全然違うね」
アイカ:「うん。ずっと静かに感じる」
レン:「もう山の中だからね」
カイト:「景色もきれいだし」
キラナは周囲に広がる木々を眺めた。
キラナ:「こういう場所、好き」
アイカ:「好き?」
キラナ:「うん。なんだか、人がたくさんいる場所から離れた感じがする」
アイカ:「じゃあ、先に少し歩いてみようか」
キラナ:「うん!」
ハルト:「ただ、いきなり遠くまで行くのはやめような」
カイト:「なんで?」
ハルト:「バスを降りたばかりだから、ちょっと休みたい」
レン:「まあ、急ぐ必要もないしね」
五人はしばらく休んでから、ゆっくりと歩き始めた。
周辺を歩きながら、キラナは何度も木々や景色を眺めていた。
キラナ:「ねえ、アイカ」
アイカ:「ん?」
キラナ:「木がすごく多いね」
アイカ:「うん。街と比べると、やっぱり全然違うね」
キラナ:「なんだか別の場所に来たみたい」
レン:「実際、かなり雰囲気が違うからね」
五人はゆっくりと歩き続けた。
道の両側には木々が並び、ところどころ日陰になっている。
遠くから鳥の声が聞こえることもあった。
キラナは少し歩く速度を落とし、周りの景色を楽しむ。
キラナ:「ここに来てよかった」
アイカ:「私もそう思う」
ハルト:「こうして見ると、長い移動も悪くなかったな」
カイト:「ほら、やっぱり楽しんでるじゃん」
ハルト:「そこまで言うなよ」
キラナは笑った。
五人はそのままゆっくりと歩きながら、山の中の静かな時間を楽しんでいった。
この日は、まだ始まったばかり。
そして、日本へ来てから初めて、キラナは友達と一緒に山の中を歩いていた。
その友達のおかげで、桜森での毎日も、少しずつ楽しいものになっている。
しばらく周辺を歩いたあと、五人は三峯神社の近くまでやってきた。
キラナは前方を見ながら、興味深そうに歩いていく。
キラナ:「もう神社の近く?」
レン:「うん。ここからなら、そんなに遠くないと思う」
アイカ:「じゃあ、少し見てから先に進もうよ」
カイト:「賛成」
ハルト:「迷子にならないようにしような」
レン:「道に沿って歩けば大丈夫だよ」
ハルト:「念のため言っただけ」
カイト:「一番心配してるの、ハルトじゃん」
ハルト:「俺はみんなのことを心配してるんだよ」
カイト:「自分のことじゃなくて?」
ハルト:「まあ、それもある」
キラナとアイカは二人の会話を聞いて笑った。
五人はそのまま道に沿って歩いていく。
三峯神社に近づくにつれて、周りはさらに静かになっていった。
木々はまだ道の両側に広がっている。
涼しい山の空気も、心地よく感じられた。
キラナ:「ここ、本当に広いね」
アイカ:「うん。まだ一部しか見てないと思う」
キラナ:「じゃあ、まだまだ見るところがあるんだ?」
レン:「たぶんね」
キラナは嬉しそうに笑った。
キラナ:「じゃあ、できるだけいろいろ見てみたい!」
ハルト:「張り切りすぎるなよ。次の移動もあるんだから、ちゃんと体力残しておけよ」
キラナ:「大丈夫。どこかへ走っていったりしないから」
カイト:「それなら安心だ。キラナが急に走り出したら、ハルトが一番追いかけたくなさそうだし」
ハルト:「当然だろ」
キラナ:「ははは!」
しばらくすると、前方に三峯神社の一部が見えてきた。
キラナは歩く速度を少し落とした。
キラナ:「あれ......?」
アイカ:「うん。たぶん神社のところだね」
レン:「そうだと思う」
五人は一度立ち止まり、そこから見える景色を眺めた。
キラナは驚いたような顔をしている。
キラナ:「わあ......」
アイカ:「気に入った?」
キラナ:「うん。なんだかすごく面白そう」
カイト:「じゃあ、もっと近くまで行ってみよう」
五人は再び歩き始めた。
キラナは時々周りを振り返りながら、神社を囲む木々や山の景色を楽しんでいた。
桜森からの長い移動を終えて、五人はいつもの生活とはまったく違う場所へやってきた。
誰も急ぐことなく、一緒に歩きながら、涼しい山の空気と新しい景色を楽しんでいた。
夏休みの三峯山での一日は、まだ始まったばかりだった。
そして、ついに五人は三峯神社の境内へ到着した。
目の前には、山の中にある神社の鳥居や建物が見えている。
キラナは立ち止まり、周りを見渡した。
キラナ:「わあ......こんな感じなんだ」
アイカ:「きれいでしょ?」
キラナ:「うん。こういう場所、初めて見た」
レン:「三峯神社は山の中にあるから、街中にある神社とは雰囲気がかなり違うんだ」
キラナは周囲をじっくりと見た。
高い木々が境内を囲んでいる。
空気は涼しく、静かな雰囲気が広がっていた。
時々、参拝客の足音や、周囲の自然の音が聞こえてくる。
キラナ:「すごく静かだね」
アイカ:「うん。ゆっくり歩くのにもいいね」
ハルト:「とりあえず、山を登らなくてよくてよかった」
カイト:「今、着いたばかりだぞ」
ハルト:「分かってるって。まずはこの雰囲気を楽しもうってこと」
カイト:「はいはい」
キラナとアイカは小さく笑った。
五人はゆっくりと三峯神社の境内を歩き始めた。
キラナは周りにある建物や装飾を興味深そうに眺めている。
キラナ:「ここ、面白いところがいっぱいあるね」
レン:「うん。三峯神社には、神社ならではのいろいろなものがあるからね」
キラナ:「へえ......」
アイカ:「レンって、こういう場所にも詳しいの?」
レン:「そこまで詳しくないよ。少し調べたことがあるだけ」
カイト:「さすがレン」
ハルト:「何か分からないことがあったら、レンに聞けばいいな」
レン:「俺を観光ガイドみたいに扱わないでよ」
キラナは笑った。
キラナ:「でも、けっこう助かってるよ。」
五人はそのまま歩き続け、ときどき立ち止まって周りを見て回った。
すると、キラナがスマートフォンを取り出した。
キラナ:「ちょっと写真撮りたい。」
アイカ:「いいよ。私も撮りたい。」
キラナはスマートフォンを構え、神社の境内の一角にカメラを向ける。
カシャッ!
キラナ:「撮れた!」
アイカ:「どう? いい感じ?」
キラナは撮った写真を確認する。
キラナ:「うん、いい感じ。あ、待って。アイカも撮るね。」
アイカ:「え? 今?」
キラナ:「うん。あそこに立って。」
アイカは、後ろに木々が見える場所まで移動して立った。
キラナ:「笑って!」
カシャッ!
アイカ:「どう?」
キラナ:「いいね!」
アイカ:「じゃあ、今度はキラナの番。」
キラナ:「オッケー!」
アイカはキラナのスマートフォンを受け取り、カメラをキラナに向ける。
キラナはその場に立って、笑顔を見せた。
カシャッ!
アイカ:「撮れたよ。」
キラナ:「ありがとう。」
近くで二人の様子を見ていたハルトも、こちらに声をかける。
ハルト:「もう写真撮り終わった?」
キラナ:「まだだよ。ハルトも一緒に撮る?」
ハルト:「いいな、それ。」
カイト:「おお、ハルトが写真撮る気になった。」
ハルト:「なんだよ、その言い方。」
カイト:「だって、いつも一番面倒くさがるじゃん。」
ハルト:「こういう機会を逃したくないだけだよ。」
レン:「それなら、せっかくだし五人で撮ろう。」
キラナ:「賛成!」
五人は一緒に写真を撮るのにちょうどよさそうな場所を探した。
しばらくして、景色のいい場所を見つけると、五人は並んで立った。
キラナ:「みんな、準備できた?」
アイカ:「できたよ。」
ハルト:「早くしてくれよ。」
カイト:「動くなよ。」
レン:「オッケー。」
キラナはスマートフォンのカメラをセットし、タイマーを設定する。
キラナ:「三......二......一......」
カシャッ!
五人は無事に一緒の写真を撮ることができた。
キラナは撮った写真を確認すると、満足そうに笑った。
キラナ:「すごくいい!」
アイカ:「うん。これは保存しておかないとね。」
ハルト:「あとでグループにも送るの忘れんなよ。」
カイト:「俺たちも保存できるようにね。」
レン:「賛成。」
キラナ:「あとで送るね。」
五人はそのまま歩きながら、三峯神社周辺の雰囲気を楽しんだ。
キラナは何度か、さっき撮った写真を見返していた。
その日の時間は、特別なことがあるわけではない。
けれど、どこか楽しくて、心地よかった。
電車とバスを乗り継いで長い時間をかけてやって来た五人は、いつもの桜森とはまったく違う場所にいた。
今はただ、みんなで一緒に過ごす時間を楽しみ、新しい場所を見て回り、夏休み最初の思い出を写真に残したかった。
三峯神社周辺を見終えると、五人はさらに三峯山の中へと進んでいった。
五人は、一般の人が通れる道を選び、ゆっくりと一緒に歩いていく。
特に変わったことはなかった。
歩いている道の両側には、高い木々が立ち並んでいる。
ときどき木の葉の隙間から差し込んだ太陽の光が、五人の歩く道を照らしていた。
キラナはアイカの隣を歩きながら、周りの景色を眺める。
キラナ:「ここ、本当に木がいっぱいだね。」
アイカ:「うん。桜森よりずっと涼しく感じるね。」
キラナ:「私、こういう雰囲気好き。」
少し後ろでは、ハルトがカイトとレンと一緒に歩いていた。
ハルト:「思ったより歩きやすいな。」
カイト:「うん。でも、ちょっと坂になってるところもあるね。」
ハルト:「じゃあ、ゆっくり行こうぜ。」
レン:「賛成。急ぐ必要もないし。」
カイト:「珍しく意見が合ったな。」
ハルト:「俺だって、ゆっくりすることくらいできるぞ。」
カイト:「へえ、そうなんだ。」
ハルト:「なんだよ、その言い方。」
カイトは小さく笑った。
その会話を聞いていたキラナとアイカも、思わず笑顔になる。
五人はそのまま、決められた道を歩き続けた。
ときどきキラナは立ち止まり、木々や周囲の景色を眺めた。
そして、何度かスマートフォンを取り出して写真を撮った。
カシャッ!
キラナ:「すごくきれい。」
アイカ:「また写真撮ってるの?」
キラナ:「うん。せっかくだから。」
アイカ:「じゃあ、あとでそれもグループに送ってね。」
キラナ:「もちろん。」
二人は再び歩き始めた。
三峯神社周辺から離れていくにつれて、周囲はますます静かになっていった。
視界には木々が多くなり、風の音や自然の音が、五人の足音の間から静かに聞こえてくる。
しばらく歩くと、五人は少し休めそうな場所を見つけた。
レン:「ここでちょっと休もうか。」
ハルト:「賛成。」
五人は足を止め、それぞれ飲み物を取り出して休憩する。
キラナは座りながら、目の前に広がる木々を眺めていた。
キラナ:「ここまで来るの、けっこう遠かったけど......来てみたら楽しいね。」
アイカ:「うん。みんなで一緒に来たから、もっと楽しいんだと思う。」
カイト:「一人だったら、もっと静かに感じるかもな。」
ハルト:「みんなと一緒なら、やっぱり楽しいな。」
レン:「だから、こういう長い移動もあまり長く感じないんだろうね。」
キラナは笑顔になった。
キラナ:「うん。」
数分ほど休憩してから、五人は再び歩き始めた。
ハルト:「よし、そろそろ休憩も十分だし、また行こうぜ。」
カイト:「もう大丈夫なの?」
ハルト:「大丈夫。でも、また疲れたら休もうな。」
カイト:「それでこそハルトだな。」
ハルト:「なんだよ、それ。」
カイトは小さく笑った。
カイト:「別に。」
五人は再び決められた道に沿って歩いていった。
キラナはときどき周囲を見渡しながら、山の空気を楽しんでいた。
それまでの道と比べても、特に変わったところはない。
五人はただ、夏休みの一日を楽しむように歩き、話し、写真を撮り、疲れたら休憩する。
すべてが、まだいつも通りだった。
そして、三峯山での五人の旅は、そのまま続いていった。
再び歩き始めてからしばらくすると、五人が進んでいた道は少しずつ静かになっていった。
木々の間に、五人の足音がはっきりと響く。
ときどき風が木の葉の間を通り抜け、優しい葉擦れの音を立てていた。
キラナはアイカと一緒に先頭を歩いていた。
歩きながら、キラナはもう一度周囲を見渡す。
視線は木々から、道の脇にある大きな岩へと移っていった。
そのとき、キラナの歩く速度が少し遅くなった。
キラナ:「あれ......。」
アイカ:「どうしたの?」
キラナは立ち止まり、道から少し離れた場所にある大きな岩を見る。
キラナ:「あれ、何だろう?」
アイカもキラナの視線の先を見る。
アイカ:「岩にあるやつ?」
キラナ:「うん。」
アイカは数歩近づいた。
岩の表面には、見慣れない印が刻まれていた。
それほど大きなものではない。
けれど、はっきりと見ることができる。
いくつもの線が組み合わさり、すぐには意味を理解できないような模様を作っていた。
キラナは興味を引かれるように、岩へ近づいていく。
キラナ:「こんな模様、初めて見た。」
アイカ:「私も。」
少し後ろを歩いていたハルト、レン、カイトも、キラナとアイカが立ち止まっていることに気づいた。
ハルト:「二人とも、どうした?」
カイト:「何かあった?」
アイカ:「これ、ちょっと見て。」
三人も近づいてくる。
レンは岩の表面をじっと見つめた。
レン:「うーん......。」
ハルト:「これ、何の絵だ?」
カイト:「なんか、記号みたいだな。」
キラナ:「でも、何の記号なんだろう?」
レンはすぐには答えなかった。
線の形を上から下までじっくりと見つめ、まるで以前どこかで同じような模様を見たことがないか思い出そうとしているようだった。
レン:「分からない。」
ハルト:「マジで?」
レン:「マジで。こんなの、見たことないよ。」
カイト:「いつもなら知ってそうなのに。」
レン:「だからって、何でも知ってるわけじゃないよ。」
キラナはもう一度、その模様を見つめた。
キラナ:「これって、昔からここにあったのかな?」
アイカ:「そうかもしれないね。」
ハルト:「誰かがただ彫っただけかもしれないぞ。」
カイト:「普通の目印とか?」
レン:「かもしれない。まだ何とも言えないね。」
キラナは少しだけ近づいたが、安全な道からは離れなかった。
岩には触れず、ただ近くからその模様を見つめる。
キラナ:「なんか、変だね。」
アイカ:「何が?」
キラナ:「うーん......。なんとなく、決まった形があるみたいな感じがする。」
レン:「僕もそう思う。」
ハルト:「でも、意味は分からないんだよな。」
レン:「うん。」
五人はしばらく黙った。
誰にも、その模様が何を意味しているのか分からなかった。
再び風が木々の間を通り抜ける。
キラナは一度、歩いてきた道のほうを振り返り、それからもう一度岩を見る。
キラナ:「調べてみたほうがいいのかな?」
カイト:「どうやって?」
キラナ:「それは......私にも分からない。」
ハルト:「方法が分からないなら、今は調べようがないだろ。」
キラナ:「うん......それもそうだね。」
アイカは小さく笑った。
アイカ:「とりあえず、写真を撮っておこうよ。もしかしたら、あとで何か分かるかもしれないし。」
キラナ:「それ、いい考え!」
キラナはスマートフォンを取り出し、その模様をいくつかの角度から撮影した。
カシャッ!
カシャッ!
キラナは撮った写真を確認する。
キラナ:「撮れた。」
レン:「ちゃんと保存しておいてね。」
キラナ:「うん。」
ハルトはもう一度岩を見てから、みんなのほうへ振り返った。
ハルト:「じゃあ、そろそろ行く?」
カイト:「行こう。」
五人は再び歩き始め、三峯山の道を進んでいった。
岩から数歩離れたところで、キラナは一度だけ後ろを振り返った。
木々の影に隠れるようにして、岩の表面に刻まれた模様がまだ見えている。
キラナは数秒間、その模様を見つめた。
その意味は、まだ分からない。
それでも、なぜか気になって仕方がなかった。
やがてキラナは前を向き直り、みんなの後を追った。
五人の旅はそのまま続いていく。
そして、あの不思議な模様は、誰にも知られることなく、その場所に残っていた。
その先に何が隠されているのか――五人には、まだ分からない。
五人は、あの不思議な模様の刻まれた岩を離れ、再び三峯山の道を歩き続けた。
キラナは、ときどきさっき見つけた模様のことを考えていた。
スマートフォンに保存した写真も、何度か開いて確認している。
キラナ:「やっぱり、さっきの模様が気になるな。」
アイカ:「私も。でも、ただの古い彫刻かもしれないよ。」
キラナ:「そうかもね。」
レン:「もしこの場所と何か関係があるなら、あとで何か情報が見つかるかもしれない。」
カイト:「じゃあ、とりあえず形だけ覚えておこう。」
ハルト:「そうだな。もしかしたら、別の場所で同じ模様を見るかもしれないし。」
キラナ:「うん。」
五人は決められた道を進み続けた。
数分が過ぎた。
周囲は再び静かな雰囲気に包まれていた。
高い木々が道の両側に立ち並び、その隙間から太陽の光が差し込んでいる。
キラナは歩きながら、ときどき周囲を見渡していた。
そのとき――
チリン......!
遠くから、かすかな音が聞こえてきた。
キラナはすぐに足を止めた。
キラナ:「え......?」
アイカ:「どうしたの?」
キラナは後ろを振り返った。
キラナ:「みんな、聞こえた?」
ハルト:「何が?」
キラナ:「なんか......音が......。」
キラナは、さっき聞こえた音を思い出そうとした。
キラナ:「鐘の音みたいだった。」
アイカも後ろを振り返る。
アイカ:「私もさっき、何か聞こえたよ。」
キラナ:「やっぱり?」
アイカ:「うん。でも、すごく小さな音だった。」
レンは周囲の様子を注意深く見渡した。
レン:「僕ははっきりとは分からないな。確かに音は聞こえたけど、どこから聞こえてきたのかは分からない。」
カイト:「俺も何も見えない。」
ハルト:「山の別の場所から聞こえてきたんじゃないか?」
キラナ:「でも、近くから聞こえたような気がする。」
キラナは道の脇にある木々を見つめた。
アイカ:「本当に?」
キラナ:「うーん......私も自信ないけど。」
五人はしばらく黙った。
風が木々の間を吹き抜ける。
葉が揺れ、サラサラと優しい音を立てている。
けれど、さっきの鐘の音はもう聞こえてこなかった。
レン:「気のせいだったのかもしれないね。」
カイト:「そうかも。」
ハルト:「もし近くに誰かいたとしても、もう行っちゃったのかもしれないな。」
キラナはまだ木々のほうを見ていた。
キラナ:「そうかも......。」
アイカ:「先に進もうか?」
キラナは小さくうなずいた。
キラナ:「うん。」
五人は再び歩き始めた。
しばらくすると、会話も少しずついつもの調子に戻っていった。
カイトとハルトがまた冗談を言い合い、キラナとアイカは三峯神社で撮った写真について話している。
鐘の音は、それから一度も聞こえてこなかった。
道の途中にも、特に変わったものは見当たらない。
すべてが、いつも通りに戻ったように見えた。
それでも、キラナはさっきの音のことを考えていた。
どこから聞こえてきたのか、まだ分からない。
そして、少し気になっていたのは、そのタイミングだった。
ちょうど不思議な模様が刻まれた岩を見つけたばかりだった。
そのすぐあとに、誰にも聞こえたのか分からないような、不思議な音が聞こえてきた。
キラナは一度だけ後ろを振り返った。
歩いてきた道は、何も変わらず普通に見える。
そこには何もなかった。
キラナは前を向き直り、みんなの後を追った。
今のところ、五人には何の答えもない。
ただ、さっき聞こえた音が何だったのかという小さな疑問を残したまま、旅を続けるしかなかった。
五人はそのまま三峯山の道を歩き続けた。
しばらくすると、周囲の雰囲気も再びいつも通りになっていった。
風の音と葉の揺れる音が、あたりで一番よく聞こえる音になっている。
キラナはまだ、ときどきさっきの鐘の音を思い出していた。
けれど、それ以外に何も起こらなかったため、気にしないようにしていた。
キラナ:「たぶん、別の場所から聞こえてきたんだよ。」
アイカ:「うん。私たちも、どこから聞こえたのか分からないしね。」
レン:「こういう場所だと、周りの地形のせいで音が別の方向から聞こえることもあるからね。」
キラナ:「へえ......そうなんだ。」
ハルト:「じゃあ、あんまり気にしなくてもいいってことだな。」
カイト:「そうだな。」
五人は再び歩き始めた。
しばらくすると、前方の道が少し曲がっているのが見えてきた。
先頭を歩いていたキラナは、突然歩く速度を落とした。
キラナ:「ちょっと待って。」
アイカ:「どうしたの?」
キラナは道の脇を指差した。
キラナ:「あれ、見て。」
木の根元といくつかの小さな石の間に、乾いた葉に半分隠れているものが見えた。
アイカは近づいて、よく見ようとする。
アイカ:「これ......木のかけら?」
キラナ:「たぶん。」
ハルト、カイト、レンも近づいてきた。
カイト:「何だ、これ?」
ハルト:「ずいぶん古そうだな。」
レンはしゃがみ込み、触れずにその物をじっと見つめた。
レン:「表面に模様がある。」
キラナ:「模様?」
レンは、葉の隙間から見えている部分を指差した。
その木の表面には、いくつもの線が刻まれ、簡単な模様を作っていた。
キラナは、さっき岩で見つけた模様を思い出した。
キラナ:「さっきのと似てる。」
アイカ:「本当に?」
キラナ:「ここを見て。」
キラナが模様の一部分を指差す。
アイカはしばらく見つめた。
アイカ:「確かに、ちょっと似てる。」
カイト:「でも、同じとは限らないよな。」
レン:「そうだね。まだ何とも言えない。」
ハルト:「ただの模様って可能性もあるしな。」
キラナ:「そうだね。」
キラナはスマートフォンを取り出し、その木のかけらを写真に撮った。
カシャッ!
写真を撮り終えると、スマートフォンをしまった。
キラナ:「撮れた。」
レンは立ち上がった。
レン:「これは動かさないほうがいい。」
アイカ:「うん。」
五人はその木のかけらをそのまま残し、再び道を進んでいった。
数歩歩いたところで、キラナは後ろを振り返った。
木のかけらはまだそこにあり、乾いた葉に半分隠れている。
何も変わっていない。
キラナはそのまま前を向き、歩き始めた。
けれど、今度は周囲の様子を少し注意して見るようになった。
怖いわけではない。
ただ、あの模様と関係するものがほかにもあるのか、少し気になっていた。
しばらくの間、何も見つからなかった。
そこにあるのは、木々や岩、道、そして自然の音だけだった。
すると――
チリン......。
また、かすかな音が聞こえてきた。
キラナはすぐに足を止めた。
今度はアイカも立ち止まる。
アイカ:「まただ。」
キラナはゆっくりとうなずいた。
キラナ:「うん。」
ハルト、レン、カイトは顔を見合わせた。
ハルト:「今の、みんなも聞いた?」
レン:「うん。今度は僕にも聞こえた。」
カイト:「俺も。」
五人は黙り込んだ。
音はほんの一瞬だけ聞こえた。
そして、何事もなかったかのように消えてしまった。
そのあとに続く音は、何もなかった。
キラナは木々のほうを見る。
キラナ:「今の音、どこから聞こえたんだろう?」
レン:「分からない。」
カイト:「今度はみんなで聞いたんだから、少なくともキラナとアイカだけの聞き間違いじゃないな。」
ハルト:「うん......。」
ハルトは、それ以上何も言わなかった。
五人はもう一度周囲を見渡した。
それでも、何も見つからない。
やがてレンが小さく息を吐いた。
レン:「とりあえず、先に進もう。もしまた聞こえたら、そのときに方向を確認してみよう。」
キラナ:「分かった。」
五人は再び歩き始めた。
しばらくの間、誰もその音について話さなかった。
けれど、今度はキラナだけではなく、四人もその音が気になり始めていた。
あの音と、見つけた模様にどんな関係があるのか。
五人にはまだ分からない。
ただ、三峯山での旅には、少しずつ答えのない疑問が増えていった。
五人は再び三峯山の道を歩き続けた。
しばらくすると、五人の間にも少しずついつもの落ち着いた雰囲気が戻ってきた。
ハルトとカイトはまた他愛のない話を始め、キラナとアイカはときどき周りの景色を写真に撮っていた。
それでも、さっきの出来事はみんなの頭の片隅に残っていた。
キラナ:「ねえ、さっきの音って、本当に鐘の音だったと思う?」
アイカ:「二回目の音は、確かにそう聞こえたよ。」
レン:「僕にも、かなりはっきり聞こえた。」
カイト:「でも、音がどこから来たのかは分からない。」
ハルト:「この辺りに、ああいう音を出すものがあるのかもしれないな。」
キラナ:「そうかもね。」
五人は、それ以上その話を続けなかった。
数分後、歩いている道が少しずつ上り坂になってきた。
五人は無理をしないように、少しゆっくりと歩く。
キラナは前を見ながら、道の脇にあるいくつかの石にも目を向けた。
すると、地面に何かが落ちているのが見えた。
キラナ:「ちょっと待って。」
アイカ:「今度は何?」
キラナは一本の木の近くの地面を指差した。
キラナ:「あれ。」
乾いた葉の間に、周りのものとは少し違う形をした小さな物が見えていた。
カイト:「何だろう?」
五人は近づいて確認する。
レンは触れずに、上からその物を観察した。
レン:「木のかけらみたいだね。」
ハルト:「表面に何かあるぞ。」
キラナは少しかがみ、その物をよく見た。
木の表面には、線が組み合わさった模様が見えていた。
キラナ:「待って......。」
キラナは、さっきスマートフォンに保存した模様の写真と見比べる。
写真を開き、数秒間じっと見つめた。
アイカ:「また似てる?」
キラナ:「うん......。」
キラナはスマートフォンの画面をみんなに見せた。
木のかけらにある模様には、さっき岩で見つけた模様と似ている部分がいくつかあった。
ただし、完全に同じ形ではない。
レン:「似ているところはあるね。」
カイト:「でも、関係があるとはまだ言えない。」
ハルト:「ただの模様って可能性もあるしな。」
キラナ:「うん。」
キラナはもう一度、その物を見た。
キラナ:「でも、これで二つ目だよ。」
アイカ:「岩の模様と、これのこと?」
キラナはうなずいた。
キラナ:「うん。」
レン:「それなら、これも写真を残しておこう。念のためね。」
キラナ:「オッケー。」
キラナはその木のかけらを何枚か撮影した。
カシャッ!
カシャッ!
撮影を終えると、キラナは立ち上がった。
カイト:「先に進む?」
レン:「うん。ここであまり長く止まらないほうがいい。」
五人は再び歩き始めた。
キラナはスマートフォンをバッグにしまったが、頭の中ではさっき見つけた模様のことを考えていた。
しばらくすると、小さな曲がり角を通り過ぎた。
キラナは後ろを振り返る。
さっきの木のかけらは、もうそこからは見えなかった。
特に気にすることなく、キラナは再びみんなの後を追った。
その数歩後――
チリン......。
また同じ音が聞こえてきた。
今度はさらに小さな音だった。
キラナはすぐに足を止めた。
アイカも振り返る。
ハルト:「また?」
レン:「うん。」
カイトは周囲を見渡した。
カイト:「どこからだ?」
誰も答えられなかった。
五人は音の方向を探そうとしたが、すでに音は消えていた。
再び聞こえてくるのは、木々の間を吹き抜ける風の音だけだった。
ハルト:「これは、ちょっと変だな。」
キラナ:「うん......。」
レン:「でも、まだ何も断定できない。」
アイカ:「近くに音の出るものがあるだけかもしれないしね。」
カイト:「でも、まだそれらしいものは見つかってない。」
五人は再び黙り込んだ。
しばらくの間、誰も動かなかった。
やがてハルトが前を指差した。
ハルト:「とりあえず先に進もう。道がちゃんと続いてるなら、みんな一緒にいれば大丈夫だろ。」
レンもうなずいた。
レン:「そうだね。」
キラナ:「うん。」
五人は再び歩き始めた。
今度は、少しだけお互いの距離を近くして歩く。
誰も怖いとは言わなかった。
ただ、何度か説明できないことが起きたことで、周囲を少し警戒するようになっていた。
それでも、旅そのものはまだ続いている。
木々は風に揺れ、太陽の光は葉の隙間から差し込んでいる。
目の前の道も、まだはっきりと続いていた。
ただ、一つだけ変わったことがある。
今では五人とも、岩に刻まれた模様、似た模様のある木のかけら、そして何度も聞こえてくる鐘のような音。
この三つが、ただの偶然ではないのかもしれないと感じ始めていた。
けれど、それぞれがどうつながっているのかは、まだ分からない。
五人は三峯山の道を歩き続けた。
今度は、誰もあまり冗談を言わなかった。
ときどき話すことはあっても、いつもより周囲に注意を向けている。
キラナはアイカと並んで歩き、その少し後ろをレン、ハルト、カイトがついてくる。
数分が過ぎた。
五人が歩いていた道は、また少し変わってきた。
周囲の木々はさらに密集し、道幅も今までより少し狭くなっている。
カイト:「道、だんだん狭くなってきたな。」
レン:「うん。でも、ちゃんと道標はある。」
キラナは前を見る。
キラナ:「じゃあ、まだ道は合ってるんだね。」
レン:「そういうことだね。」
五人はそのまま歩き続けた。
すると、キラナは道の脇に小さな案内板があることに気づいた。
キラナ:「あ、看板がある。」
五人は少し立ち止まった。
レンが案内板に近づき、書かれている内容を確認する。
レン:「ただの案内板みたいだ。」
アイカ:「何て書いてあるの?」
レン:「この山の別の場所へ向かうための道が、いくつか書いてある。」
カイト:「じゃあ、道を間違えてるわけじゃないんだな。」
レン:「たぶんね。」
ハルト:「よかった。」
キラナは前方の道を見る。
キラナ:「じゃあ、行こう。」
五人は再び歩き始めた。
案内板を通り過ぎると、周囲はまた静かになった。
風がゆっくりと吹く。
頭上の葉が風に揺れている。
そして――
チリン......。
また、あの鐘の音が聞こえた。
今度は五人全員が、同時に足を止めた。
キラナは後ろを振り返る。
アイカ:「同じ音だ。」
レン:「うん。」
ハルト:「今度は、もっと近くから聞こえた気がする。」
カイトは道の左右を見渡す。
カイト:「でも、やっぱり何も見えない。」
五人は音の出どころを探した。
キラナは左側の木々を見る。
アイカは今まで歩いてきた道を見る。
レンは前方を確認する。
ハルトとカイトも周囲を見回した。
けれど、誰もいない。
動いているものも見当たらない。
聞こえるのは、風と葉の音だけだった。
数秒が過ぎる。
キラナ:「また消えた。」
レン:「うん。」
ハルト:「変だな。」
カイト:「もし本当に誰かが鐘を持ってるなら、少しくらい姿が見えてもいいはずだろ。」
アイカ:「少なくとも、もう少し長く音が聞こえてもおかしくないよね。」
キラナは黙り込んだ。
頭の中に、さっきの岩の模様と木のかけらが浮かぶ。
キラナ:「ねえ......この音って、さっきの模様と関係あるのかな?」
誰もすぐには答えなかった。
レンは考え込む。
レン:「まだ分からない。」
カイト:「でも、ちょっと気になるよな。」
ハルト:「似た模様のあるものを二つ見つけて、そのあとに何度もこの音が聞こえてくる。」
アイカ:「そう考えると、関係があるようにも思えるね。」
キラナ:「でも、証拠はないよね。」
レン:「うん。」
五人はもう一度、周囲を見渡した。
それでも、何も見つからない。
やがてレンが口を開いた。
レン:「今は、道からあまり離れないようにしよう。みんなで一緒に行こう。」
キラナ:「分かった。」
アイカ:「賛成。」
ハルト:「うん。」
カイト:「行こう。」
五人は再び歩き始めた。
今度はキラナも、ときどき周囲の木々に目を向けるようになった。
何かを探しているわけではない。
ただ、気になって仕方がなかった。
しばらくすると、五人は少し開けた場所に出た。
木々の隙間から、さっきよりも多くの太陽の光が差し込んでいる。
カイト:「ここ、ちょっと明るいな。」
ハルト:「よかった。さっきは木が多くて、少し暗かったからな。」
キラナは上を見上げる。
キラナ:「景色、きれいだね。」
アイカ:「写真撮る?」
キラナ:「うん。」
キラナはスマートフォンを取り出した。
しかし、写真を撮ろうとした、そのとき――
キラナは道の脇に何かを見つけた。
キラナは立ち止まった。
キラナ:「ちょっと待って。」
アイカ:「今度は何?」
キラナは木の根元にある小さな石を指差した。
その表面には、簡単な模様を作る一本の線が刻まれていた。
キラナは近づいていく。
キラナ:「これ......。」
レン、ハルト、カイトも近づいてきた。
レンは石をじっと見つめる。
レン:「また似た模様だ。」
キラナはスマートフォンに保存していた最初の模様の写真を開いた。
二つを見比べる。
キラナ:「うん。」
アイカ:「でも、今度はもっと小さいね。」
カイト:「これで三つ目か。」
ハルト:「ただの偶然だとしたら、ずいぶん多いな。」
レンは答えず、しばらくその模様を見つめていた。
キラナは石の写真を撮った。
カシャッ!
写真を撮り終えると、五人は石に触れず、その場から離れた。
キラナ:「今度こそ、本当に気になってきた。」
アイカ:「私も。」
レン:「まだ何も分からない。だから、今は決めつけないようにしよう。」
キラナ:「うん。」
五人は再び歩き始めた。
しかし、三つ目の模様を見つけてからは、誰一人として、これまでの出来事をただの偶然だと思うことができなくなっていた。
誰がこの模様を作ったのか。
あの鐘の音は、どこから聞こえてくるのか。
そして――
この二つは、本当に関係しているのだろうか。
誰にも、その答えは分からない。
今はただ、周囲に注意しながら、先へ進むしかなかった。
三峯山での旅は、まだ終わっていない。
しばらくして、五人はさらに三峯山の道を歩き続けた。
長い道のりで、五人の歩く速度も少しずつ遅くなっていた。
ときどき立ち止まって飲み物を飲み、少し休んでから、また歩き始める。
太陽は少しずつ空の低いところへ移動していた。
もう午後になっていたが、周囲はまだ明るい。
木々の隙間から太陽の光が差し込み、五人の歩く道を照らしていた。
キラナは前を見る。
キラナ:「まだ遠い?」
レンは周囲の様子を確認してから答えた。
レン:「たぶん、もうそんなに遠くないと思う。」
ハルト:「よかった。」
カイト:「疲れた?」
ハルト:「まあまあ。もうけっこう歩いたからな。」
カイト:「俺も少し疲れてきた。」
アイカ:「でも、たぶんかなり近づいてるよ。」
レン:「うん。ほら、道の周りが少し開けてきた。」
キラナは前方を見る。
さっきまで密集していた木々が少しずつまばらになり、その隙間から遠くの山々が見え始めていた。
キラナ:「あ......本当だ。」
五人は再び歩き始めた。
数分後、周囲の木々はさらに少なくなり、遠くの景色が広く見えるようになってきた。
キラナは少しだけ歩く速度を上げる。
キラナ:「ねえ、見て!」
アイカ:「何?」
キラナは前を指差した。
キラナ:「もうすぐみたい!」
レンもキラナが指差した方向を見る。
レン:「うん。かなり高いところまで来たね。」
ハルト:「じゃあ、もうすぐ着くのか?」
レン:「たぶんね。」
ハルト:「やっとか。」
カイト:「もう少しだ。頑張ろう。」
ハルト:「おう。」
五人は再び元気を取り戻し、歩き続けた。
しばらくすると、道はさらに開けた場所へと続いていた。
キラナはそこで立ち止まる。
目の前には、広々とした山の景色が広がっていた。
立っている場所からは、木々や山々が遠くまで続いているのが見える。
キラナ:「わあ......。」
アイカもキラナの隣に立つ。
アイカ:「すごくきれい。」
キラナ:「こんな景色、初めて見た。」
レン:「三峯山の上のほうまで来たみたいだね。」
ハルト:「マジか?」
レン:「うん。」
ハルトはほっとしたように息を吐いた。
ハルト:「やっと着いた......。」
カイト:「けっこう長かったな。」
ハルト:「でも、来た甲斐はあったな。」
キラナは笑顔で目の前の景色を眺めた。
高い場所の空気はひんやりとしていて、風が五人の間を通り抜ける。
さっきまで歩いていた場所よりも、ずっと静かで落ち着いた雰囲気だった。
キラナはスマートフォンを取り出した。
キラナ:「写真撮りたい。」
アイカ:「私も。」
カシャッ!
カシャッ!
二人はその場所から見える景色を何枚か撮った。
キラナは遠くに広がる山々へカメラを向ける。
キラナ:「すごくきれい......。」
アイカ:「あとでグループに送ってね。」
キラナ:「うん。」
ハルト:「写真撮ったなら、ちょっと休まない?」
レン:「いいよ。ゆっくりできる場所を探そう。」
五人は道から少し離れた、座って休めそうな場所を探した。
やがてハルトがちょうどいい場所を見つける。
五人はそこに座り、それぞれ飲み物を取り出した。
ハルト:「はぁ......やっぱり休憩は最高だな。」
カイト:「休む場所を見つけるのだけは早いな。」
ハルト:「休憩も大事だからな。」
レン:「さっきけっこう歩いたし、少し休んだほうがいいね。」
キラナは座りながら、目の前の景色を眺める。
キラナ:「ここに来ることにして、本当によかった。」
アイカ:「私も。」
レン:「移動はけっこう長かったけど、その分景色もいいね。」
カイト:「写真もいっぱい撮れたしな。」
ハルト:「写真、ちゃんとグループに送れよ。」
キラナ:「分かってるって。」
五人は小さく笑った。
しばらくの間、雰囲気はまたいつものような、普通の夏休みの一日へと戻っていた。
五人は、それまで見つけた不思議な模様や、何度か聞こえてきた鐘の音について、しばらく話さなかった。
けれど、キラナがもう一度周囲を見渡したとき――
ふと、何かが目に入った。
休憩していた場所からそれほど離れていない、大きな岩の近く。
そこに、かすかな印が見えていた。
キラナは目を細める。
キラナ:「ん......?」
アイカ:「どうしたの?」
キラナはすぐには答えなかった。
その場から立ち上がり、岩の表面をじっと見つめる。
そこには、何かがあった。
模様だ。
キラナ:「ちょっと待って......。」
アイカも立ち上がる。
アイカ:「何か見つけたの?」
キラナはその岩を指差した。
キラナ:「あそこに、何か模様があるみたい。」
キラナの声を聞いたレン、ハルト、カイトも岩に目を向ける。
レン:「模様?」
キラナ:「うん。」
五人はその岩へ近づいていった。
近づくにつれて、岩の表面にある模様がはっきりと見えてくる。
キラナは思わず黙り込んだ。
その模様は、これまで見つけたものとまったく同じではない。
けれど、いくつかの線の形がよく似ていた。
キラナはスマートフォンを取り出し、最初に撮った模様の写真を開く。
そして、目の前の岩にある模様と見比べた。
キラナ:「これ......。」
アイカ:「似てるよね?」
キラナはうなずいた。
キラナ:「うん。」
レンも二つの模様を真剣に見比べる。
レン:「こっちのほうが大きいね。」
カイト:「でも、基本的な形はほとんど同じだ。」
ハルト:「じゃあ、一つだけじゃないってことか。」
キラナ:「この模様、いろんな場所にあるんだ......。」
誰もすぐには答えなかった。
五人は黙って岩を見つめている。
すると、レンが模様の下の部分を指差した。
レン:「でも、こっちは少し違う。」
アイカ:「どう違うの?」
レン:「下のところを見て。」
キラナは少し近づいて確認する。
確かに、模様の下にはいくつかの細い線が入っていた。
最初に見つけた模様にはなかったものだ。
キラナ:「この部分、初めて見る。」
カイト:「俺も。」
ハルト:「何か意味があるのかもな。」
レン:「かもしれない。でも、まだ分からない。」
キラナはもう一度、その模様を見つめる。
最初の岩。
木のかけら。
道の途中で見つけた小さな石。
そして、今度はここにある大きな模様。
どれも、よく似た形をしている。
キラナ:「どうして、ここにもあるんだろう......?」
アイカ:「私にも分からない。」
レン:「今は、まだ何も決めつけないほうがいいね。」
キラナはうなずいた。
キラナ:「うん。」
風が木々の間を吹き抜ける。
葉がゆっくりと揺れる。
鐘の音は、もう聞こえない。
ほかにも何か起こる様子はない。
ただ、静かな山の空気だけがそこにあった。
キラナはスマートフォンを取り出し、その模様を何枚か撮影する。
カシャッ。
カシャッ。
撮影を終えると、キラナはスマートフォンを下ろした。
キラナ:「撮れた。」
レン:「写真はちゃんと保存しておいて。あとで役に立つかもしれない。」
キラナ:「オッケー。」
五人はもうしばらく、その模様を見つめていた。
誰が作ったのか。
いつからそこにあるのか。
誰にも分からない。
けれど、一つだけはっきりしてきたことがあった。
今日見つけた模様は、一つだけではない。
そして、見つける数が増えるほど、それをただの偶然だと考えるのは難しくなっていった。
カイト:「そろそろ行く?」
レン:「うん。でも、ちゃんと決められた道を歩こう。」
アイカ:「分かった。」
ハルト:「行こうぜ。」
五人は再び歩き始める準備をした。
キラナはスマートフォンをバッグにしまい、それからもう一度だけ岩を振り返った。
模様は、まだ岩の表面にはっきりと残っている。
静かに。
何も変わらずに。
けれど、その模様の意味についての疑問は、ますます大きくなっていた。
五人はそのまま先へ進んでいった。
岩を離れてからもしばらく、キラナは静かな道を歩きながら、さっきの模様のことを考えていた。
そして、スマートフォンに保存した写真をもう一度開く。
最初の模様。
木のかけら。
小さな石にあった模様。
そして、最後に見つけた山の上の模様。
キラナは一枚ずつ、じっくりと見比べていった。
キラナ:「待って......。」
アイカ:「どうしたの?」
キラナが足を止める。
アイカも立ち止まり、キラナを見る。
キラナ:「この写真、ちょっと見て。」
キラナはスマートフォンの画面をアイカに見せる。
アイカは何枚かの写真を見比べた。
アイカ:「何?」
キラナは最後に見つけた模様の写真を拡大する。
キラナ:「ここ。」
そう言って、模様の下にある細い線を指差した。
キラナ:「この部分、前にも見たことがある気がする。」
アイカ:「どこで?」
キラナは、さっき見つけた木のかけらの写真を開く。
キラナ:「ここ。」
アイカは二つの写真を見比べる。
アイカ:「あ......。」
そのとき、二人の会話を聞いたレンも近づいてきた。
レン:「どうしたの?」
アイカ:「キラナが、この木のかけらの模様と、さっきの模様の下の部分が同じなんじゃないかって。」
レンは二つの写真をじっくりと見比べた。
レン:「ちょっと見せて。」
キラナはスマートフォンを渡す。
レンはしばらく写真を見比べる。
レン:「確かに。ここは同じ形だね。」
カイト:「じゃあ、ただ似てるだけじゃないってこと?」
レン:「この部分については、同じに見える。」
ハルト:「じゃあ、あの木のかけらも、あの模様と関係があるってことか?」
キラナ:「でも、どういう関係なんだろう?」
誰もすぐには答えられなかった。
レンはもう一度、写真を見つめる。
そして、さっき置いてきた木のかけらがある方向へ目を向けた。
レン:「待って。」
レンは、さっき五人が歩いてきた道を見る。
レン:「あの木のかけら......何かの一部みたいな形だった気がする。」
カイト:「どういうこと?」
レン:「でも、まだ自信はない。」
五人はしばらくその場に立ったまま、今まで見たものを思い出していた。
最初の岩。
木のかけら。
小さな石。
大きな模様。
そして、何度か聞こえてきた鐘の音。
キラナ:「もし、鐘の音もこれと関係してたら?」
レン:「可能性はある。」
アイカ:「でも、あの音はどこから聞こえてきたの?」
五人は黙り込んだ。
そのとき――
チリン!
また鐘の音が聞こえた。
今度は、これまでよりもずっとはっきりしていた。
五人は一斉に振り返る。
キラナ:「あれ!」
アイカ:「あっち!」
アイカが少し先にある道を指差した。
五人は慎重にそちらへ近づいていく。
何本かの木の向こうに、植物と影にほとんど隠れるようにして、小さな建物が見えた。
カイト:「あれ、何だ?」
レンは建物をよく見る。
レン:「神社の施設の一部みたいだ。」
五人は少しずつ近づいていった。
建物の前には、何かが吊り下げられている。
それが風に揺れるたびに――
チリン......。
さっきから聞こえていたのと同じ音が鳴った。
ハルト:「あ......。」
キラナ:「じゃあ、あの音はここから?」
レンはうなずいた。
レン:「たぶん、そうだね。」
アイカ:「じゃあ、今までの鐘の音は別に変なものじゃなかったんだ。」
カイト:「ただ風に揺れてただけか。」
ハルト:「だから、聞こえたり聞こえなかったりしたんだな。」
キラナは小さく笑った。
キラナ:「やっと音の正体が分かった。」
五人はその場から、吊り下げられているものを眺めた。
音そのものには、特に不思議なところはない。
ただ風に揺れて、音を鳴らしているだけだった。
けれど、まだ一つだけ分からないことがある。
模様だ。
キラナはスマートフォンの写真を見る。
キラナ:「じゃあ......あの模様は?」
レン:「それは、まだ分からない。」
五人は小さな建物の周囲をもう一度見渡した。
すると、その一角にいくつかの石がきれいに並べられているのが見えた。
キラナは突然、何かに気づく。
キラナ:「あっ、待って。」
キラナはそのうちの一つを指差した。
その石の表面には、さっきまで見ていたものと同じような模様が刻まれている。
キラナ:「これ!」
五人はその石に近づいた。
レンは模様をじっと見つめる。
レン:「......なんとなく分かってきた。」
カイト:「何が?」
レンは建物の周りにあるいくつかの場所を指差した。
レン:「たぶん、あの模様は秘密の記号じゃない。」
ハルト:「違うのか?」
レン:「おそらく、この神社周辺にある目印や、何かの装飾に使われている模様なんだと思う。」
アイカ:「じゃあ、私たちがずっと謎の記号だと思ってたのは?」
レン:「僕たちが全体の形を見てなかったから、そう見えただけだと思う。」
キラナはスマートフォンに保存した写真をもう一度見た。
キラナ:「じゃあ、あの木のかけらも、その目印の一部なの?」
レン:「たぶんね。」
カイト:「だから、同じような模様がいろんな場所にあったのか。」
レン:「そういうことだと思う。」
ハルト:「じゃあ、結局、大きな謎ってわけじゃなかったんだな。」
レンは小さく笑った。
レン:「少なくとも、今日見つけた模様については、そうみたいだね。」
キラナは少し黙って、岩に刻まれた模様を見る。
最初は、不思議で意味の分からないものに見えた。
けれど、いくつかの場所で同じような模様を見つけ、鐘の音の正体も分かってみると、すべてが少しずつ納得できるものになっていった。
キラナ:「なんだ。私たちが勘違いしてただけだったんだ。」
アイカ:「でも、ちょっと楽しかったよ。」
キラナ:「うん。」
ハルト:「俺、一瞬、本当に変なものを見つけたのかと思った。」
カイト:「実際は、この辺りの目印みたいな模様と、風で鳴るものだったな。」
ハルト:「まあ......それでも、いい話のネタにはなったけどな。」
レン:「それに、いい経験にもなった。」
キラナは笑った。
キラナ:「そうだね。」
五人は小さく笑い合った。
さっきまで気になっていた謎は、ようやく簡単な答えにたどり着いた。
怖いものでもなければ、奇妙な出来事でもなかった。
ただ、五人が知らなかった模様と、その音の正体を知らなかっただけだった。
でも、みんなで気になったことを確かめていったからこそ、この旅は少しだけ面白いものになった。
キラナはスマートフォンをしまう。
キラナ:「じゃあ、これでもう気にしないで進めるね。」
アイカ:「うん。」
ハルト:「よし。じゃあ、次は別の謎を見つける前に行こうぜ。」
カイト:「そんなこと言うなよ。」
ハルト:「なんで?」
カイト:「本当に起きたらどうするんだよ。」
ハルト:「やめろよ。気になってくるだろ。」
キラナとアイカは笑った。
レンも小さく首を振りながら、笑っている。
五人は再び三峯山の中を歩き始めた。
もう、さっきまでの鐘の音や模様のことを気にする必要はない。
謎は、ようやく解けた。
そして五人にとって、その出来事もまた、三峯山への旅で生まれた一つの思い出になった。
しばらく三峯山を歩き回ったあと、五人はそろそろ帰ることにした。
太陽はさっきよりも低い位置まで下がっていたが、空はまだ明るい。
キラナは空を見上げる。
キラナ:「もう夕方になってきたね。」
アイカ:「うん。そろそろ帰ったほうがいいね。」
レンはスマートフォンで時間を確認する。
レン:「賛成。今出発すれば、まだ十分バス停まで戻れると思う。」
ハルト:「じゃあ、もうここで終わりか?」
カイト:「たぶんね。」
ハルト:「ちょっと残念だな。」
キラナ:「でも、いろんなところ見られたよ。」
アイカ:「写真もいっぱい撮ったしね。」
キラナはうなずく。
キラナ:「うん。私も満足。」
レン:「じゃあ、あまり長く休んでないで行こう。帰りもバスと電車に乗らないといけないからね。」
ハルト:「帰りもまだ長いのか。」
カイト:「だから今出発するんだよ。」
ハルト:「はいはい。」
五人はそれぞれ荷物を確認した。
キラナはスマートフォンをバッグにしまい、飲み物のボトルもしっかり入っていることを確認する。
アイカも自分の荷物を整理した。
レンはスマートフォンでもう一度帰りのルートを確認する。
カイトはこれから歩く道を見る。
カイト:「帰りもさっきの道を通るんだよな?」
レン:「うん。来たときと同じ道を戻る。」
ハルト:「オッケー。道に迷わないようにな。」
レン:「大丈夫。覚えてるよ。」
キラナは笑った。
キラナ:「じゃあ、行こう!」
五人はその場を離れ、歩き始めた。
帰り道は、行きよりもゆっくりとしたペースだった。
もう急いでどこかへ向かう必要はない。
キラナはときどき振り返り、三峯山の景色をもう一度楽しんだ。
アイカはキラナの隣を歩く。
アイカ:「ここに来て、楽しかった?」
キラナ:「すっごく楽しかった!」
アイカ:「私も。」
キラナ:「最初は普通に山を歩くだけだと思ってた。」
アイカ:「まさか、変な模様まで見つけるとはね。」
キラナは小さく笑った。
キラナ:「結局、何でもなかったけどね。」
アイカ:「それでも、いい思い出になったよ。」
キラナ:「うん。」
少し後ろを歩いていたハルトも会話に加わる。
ハルト:「でも、けっこう面白かったよな。みんなで本気で気になってたし。」
カイト:「うん。特にあの鐘の音な。」
ハルト:「最初は何か変なものがあるのかと思った。」
カイト:「ただ風で鳴ってただけだったけどな。」
ハルト:「模様も秘密の記号じゃなかったし。」
レン:「少なくとも、今のところは原因が分かってよかったね。」
キラナ:「うん。もし調べなかったら、家に帰ってからも気になってたかも。」
アイカ:「分かる。」
五人は笑いながら歩き続けた。
謎が解けたことで、帰り道は少し軽く感じられた。
五人は三峯山の道をゆっくり下っていく。
周囲の木々は相変わらず緑に包まれていて、午後の光がところどころ道を照らしている。
ときどき五人は立ち止まり、飲み物を飲んで休憩した。
キラナは最後にもう一枚だけ、周囲の景色を写真に収める。
カシャッ!
キラナは撮った写真を確認する。
キラナ:「これで帰る前の最後の一枚。」
アイカ:「いいね。」
キラナ:「写真、全部あとでグループに送るね。」
ハルト:「俺たちが写ってるやつ、忘れるなよ。」
キラナ:「分かってるって。」
カイト:「神社のところで撮った写真も送ってな。」
キラナ:「全部送るよ。」
レン:「じゃあ、あとで一番いい写真を選ぼう。」
キラナ:「賛成!」
五人は再び歩き始める。
やがて、来たときに通った道だったこともあり、少しずつ見覚えのある景色が増えてきた。
しばらくすると、遠くから人の声など、少しにぎやかな音が聞こえてくる。
キラナ:「もうすぐ着きそう。」
レン:「うん。もう少しで三峯神社の周辺に戻るよ。」
ハルト:「じゃあ、あとはバス停まで行けばいいんだな。」
レン:「そう。」
五人は少しだけ歩く速度を上げた。
空はまだ明るい。
けれど、これ以上遅くならないうちに戻っておきたかった。
朝から長い時間をかけて歩いた五人は、ようやく三峯山を離れ、桜森へ戻る準備を始めていた。
夏休みのその日は、まだ終わっていない。
これから帰りの旅が待っている。
それでも、朝から三峯山へ向かい、たくさん歩き、写真を撮り、友達と笑い合った時間は、五人にとって忘れられない思い出になっていた。
しばらく歩くと、五人は静かな道を抜け、再び三峯神社周辺の近くまで戻ってきた。
誰も、先ほど見つけた奇妙な模様や、模様のついた木片、そして何度か聞こえてきた鈴のような音について話してはいなかった。
しかし、キラナがもう一度周囲を見渡したとき――
ふと、何かが目に入った。
休んでいる場所から少し離れたところにある大きな岩の近くに、かすかな印のようなものが見える。
キラナは目を細めた。
キラナ:「ん......?」
アイカ:「どうしたの?」
キラナはすぐには答えなかった。
立ち上がり、その岩をじっと見つめる。
表面に何かがある。
模様だった。
キラナ:「ちょっと待って......」
アイカも立ち上がる。
アイカ:「何か見えた?」
キラナは岩を指差した。
キラナ:「あそこに、たぶん模様がある。」
キラナの声を聞いたレン、ハルト、カイトも、岩のほうを見る。
レン:「模様?」
キラナ:「うん。」
五人は岩の近くまで歩いていった。
近づくにつれて、岩の表面にある模様がはっきりと見えてくる。
キラナは思わず黙り込んだ。
その模様は、これまでに見つけたものとまったく同じではない。
しかし、いくつかの線の形はよく似ていた。
キラナはスマホを取り出し、最初に見つけた模様の写真を開いた。
そして、目の前の岩にある印と見比べる。
キラナ:「これ......」
アイカ:「似てるよね?」
キラナはうなずいた。
キラナ:「うん。」
レンは二つの模様を真剣に見比べる。
レン:「こっちのほうが大きいな。」
カイト:「でも、基本的な形はほとんど同じだ。」
ハルト:「ってことは、一つだけじゃないってことか。」
キラナ:「じゃあ、この模様はいくつかの場所にあるんだ......。」
誰もすぐには答えなかった。
五人は岩の表面をじっと見つめる。
やがて、レンが模様の下の部分を指差した。
レン:「でも、ここは少し違う。」
アイカ:「どう違うの?」
レン:「下の部分を見て。」
キラナは少し近づいて確認する。
確かに、模様の下には細い線がいくつか入っていた。
最初に見つけた模様にはなかった部分だ。
キラナ:「この部分、見たことない。」
カイト:「俺も。」
ハルト:「何か意味があるのかもな。」
レン:「かもしれない。でも、まだ分からない。」
キラナはもう一度、その模様を見つめた。
最初の岩。
木片。
小さな岩。
そして、今度はこの場所にある大きな模様。
どれも似たような形をしている。
キラナ:「どうして、ここにもあるんだろう......?」
アイカ:「私にも分からない。」
レン:「今はまだ、何も決めつけないほうがいい。」
キラナはうなずいた。
キラナ:「うん。」
風が木々の間を吹き抜ける。
葉がゆっくりと揺れる。
鈴の音は聞こえない。
ほかに何か起こる様子もない。
ただ、静かな山の空気だけが流れていた。
キラナはスマホを取り出し、その模様を何枚か撮影した。
カシャ。
カシャ。
撮影を終えると、スマホを下ろす。
キラナ:「撮れた。」
レン:「写真はちゃんと残しておこう。あとで役に立つかもしれない。」
キラナ:「うん。」
五人はしばらくの間、その模様を見つめていた。
誰が作ったのか。
いつからそこにあるのか。
それを知っている人は、ここにはいない。
しかし、一つだけ分かり始めたことがあった。
今日見つけた模様は、一か所だけにあるものではない。
そして、見つける場所が増えるほど、ただの偶然だとは考えにくくなっていた。
カイト:「そろそろ行く?」
レン:「うん。でも、決められた道からは外れないようにしよう。」
アイカ:「分かった。」
ハルト:「よし、行こう。」
五人は再び歩き始める準備をした。
キラナはスマホをバッグにしまい、もう一度だけ岩のほうを振り返った。
模様は今も岩の表面にはっきりと残っている。
動かない。
何も変わらない。
それでも、その模様が何を意味するのかという疑問だけは、ますます大きくなっていた。
五人は再び歩き始めた。
岩を離れてからもしばらくの間、周囲は静かだった。
キラナは先ほど見つけた模様のことを考えながら歩いていた。
そして、スマホに保存した写真をもう一度開く。
最初の模様の写真。
木片の写真。
小さな岩にあった模様の写真。
そして最後に、山の上のほうで見つけた大きな模様の写真。
キラナはそれぞれの写真を一枚ずつ見ていく。
キラナ:「待って......」
アイカ:「どうしたの?」
キラナは足を止めた。
アイカも立ち止まり、キラナを見る。
キラナ:「この写真、ちょっと見て。」
キラナはスマホの画面をアイカに見せる。
アイカは何枚かの写真をじっくり見る。
アイカ:「何?」
キラナは最後に見つけた模様の写真を拡大した。
キラナ:「ここ。」
模様の下にある細い線を指差す。
キラナ:「この形、前にも見たことがある気がする。」
アイカ:「どこで?」
キラナは、先ほど見つけた木片の写真を開いた。
キラナ:「ここ。」
アイカは二つの写真を見比べる。
アイカ:「あ......。」
そこへ、二人の会話を聞いたレンが近づいてきた。
レン:「どうした?」
アイカ:「キラナが、この木片の模様とさっきの模様の下の部分が同じじゃないかって。」
レンは二つの写真をしばらく見比べた。
レン:「ちょっと見せて。」
キラナはスマホを渡した。
レンは写真をじっくりと比較する。
レン:「確かに。同じような形がある。」
カイト:「じゃあ、ただ似てるだけじゃないの?」
レン:「一部は同じに見える。」
ハルト:「じゃあ、その木片もこの模様と関係があるってことか。」
キラナ:「でも、どういう関係なんだろう?」
誰もすぐには答えられなかった。
レンはもう一度写真を見る。
そして、先ほど置いてきた木片のほうを見る。
レン:「待って。」
レンは、今まで歩いてきた道を振り返った。
レン:「あの木片......何かの一部みたいな形だった気がする。」
カイト:「どういうこと?」
レン:「でも、まだ確信はない。」
五人はしばらく立ち止まり、これまで見てきたものを思い返していた。
最初の岩。
木片。
小さな岩。
大きな模様。
そして、何度か聞こえた鈴のような音。
キラナ:「もし、あの鈴の音も関係していたら?」
レン:「その可能性もあるかも。」
アイカ:「でも、あの音はどこから聞こえてきたんだろう?」
五人が黙り込む。
そのとき――
チリン!
鈴のような音が、今度ははっきりと聞こえた。
五人は一斉に振り向いた。
キラナ:「あっ!」
アイカ:「あっち!」
アイカが、少し離れた場所にある道を指差す。
五人は注意しながら、その方向へ近づいていった。
何本かの木の向こうに、小さな建物が見える。
植物や木々の影に隠れるようにして、ひっそりと建っていた。
カイト:「あれ、何だ?」
レンは建物をよく見る。
レン:「神社の敷地にある小さな建物みたいだ。」
五人は少しずつ近づいていく。
建物の前には、何かが吊り下げられていた。
風が吹くと――
チリン......。
先ほどから聞こえていたのと同じ音が鳴った。
ハルト:「ああ......。」
キラナ:「じゃあ、音はここから?」
レンはうなずいた。
レン:「たぶん、そうだ。」
アイカ:「じゃあ、鈴の音は変なものじゃなかったんだ。」
カイト:「ただ風に揺れて鳴ってただけか。」
ハルト:「だから、聞こえたり聞こえなかったりしたんだな。」
キラナは小さく笑った。
キラナ:「やっと音の正体が分かったね。」
五人はその場から、吊り下げられているものを眺めた。
音そのものに、特別な謎はなかった。
風に揺れることで音を出す、ただのものだった。
しかし、まだ一つだけ分かっていないことがある。
模様だ。
キラナはスマホの写真をもう一度見る。
キラナ:「じゃあ......模様のほうは?」
レン:「それは、まだ分からない。」
五人は小さな建物の周辺をもう一度見渡す。
すると、その片側に、きれいに並べられたいくつかの石があった。
キラナが突然、何かに気づく。
キラナ:「あっ、待って。」
キラナはそのうちの一つを指差した。
その石の表面には、先ほどまでに見つけたものと同じような模様があった。
キラナ:「あれ!」
五人は近づいていく。
レンは石の模様をじっくりと見る。
レン:「なるほど......。少し分かってきたかもしれない。」
カイト:「何が?」
レンは建物の周りにあるいくつかの場所を指差した。
レン:「たぶん、この模様は秘密の記号じゃない。」
ハルト:「違うの?」
レン:「おそらく、この神社の敷地に関係する目印や彫り物の一部なんだと思う。」
アイカ:「じゃあ、私たちはずっと謎の記号だと思ってたってこと?」
レン:「うん。全体の形を見ていなかったから、そう見えたんだと思う。」
キラナはスマホに保存されている写真をもう一度見る。
キラナ:「じゃあ、あの木片も目印の一部だったのかな?」
レン:「たぶん、そうだと思う。」
カイト:「じゃあ、さっき見た石にも同じような模様があったのは、ここが同じ神社の敷地だからってことか。」
レン:「そういうことだと思う。」
ハルト:「じゃあ、結局、大きな謎はなかったってこと?」
レンは小さく笑った。
レン:「少なくとも、今日見つけた模様については、そうみたいだな。」
キラナは少し黙った。
もう一度、岩にあった模様を見る。
最初は、奇妙で意味の分からないものに見えた。
でも、いくつかの場所で同じような模様を見つけ、さらに鈴の音の正体まで分かってみると、すべてが少しずつ納得できるようになってきた。
キラナ:「私たちが勘違いしてただけだったんだね。」
アイカ:「でも、ちょっと面白かったよ。」
キラナ:「うん。」
ハルト:「俺、途中では本当に変なものを見つけたのかと思った。」
カイト:「結局、神社の目印みたいなものと、風に揺れて音がするものだったな。」
ハルト:「まあ......少なくとも、話のネタにはなったけどな。」
レン:「それに、いい経験にもなった。」
キラナは笑った。
キラナ:「そうだね。」
五人は小さく笑い合った。
さっきまで気になっていたことにも、ようやく簡単な答えが見つかった。
怖いことが起きたわけでもない。
不思議な出来事があったわけでもない。
ただ、最初はよく分からなかった模様と、どこから聞こえてくるのか分からなかった音があっただけだった。
それでも、五人で一緒に考えながら歩いたことで、今日の旅は少しだけ面白いものになった。
キラナはスマホをバッグにしまった。
キラナ:「じゃあ、もう気にしなくても大丈夫だね。」
アイカ:「うん。」
ハルト:「よし。これで安心して歩けるな。」
カイト:「でも、もう変なこと言わないでよ。」
ハルト:「何で?」
カイト:「また本当に何か起きたら困るだろ。」
ハルト:「それ言われると、ちょっと気になるじゃん。」
キラナとアイカは笑った。
レンも小さく首を振りながら笑っている。
五人は再び三峯山の中を歩き始めた。
もう、先ほどの鈴の音や模様について考えることはなかった。
謎は無事に解けた。
そして五人にとって、それは夏休みに入って初めて三峯山を訪れた日の、ちょっとした思い出になった。
しばらく三峯山を歩いたあと、五人はそろそろ戻ることにした。
太陽は先ほどよりも低くなっていたが、空はまだ明るい。
キラナは空を見上げる。
キラナ:「もう夕方になってきたね。」
アイカ:「うん。そろそろ帰ったほうがいいね。」
レンはスマホで時間を確認する。
レン:「そうだな。今出発すれば、まだ十分に時間がある。下まで戻って、バス停にも行ける。」
ハルト:「じゃあ、もうここでの散策は終わり?」
カイト:「たぶん、そうだな。」
ハルト:「ちょっと残念だな。」
キラナ:「でも、いろんな場所を見られたよ。」
アイカ:「写真もたくさん撮ったしね。」
キラナはうなずく。
キラナ:「うん。私も満足。」
レン:「じゃあ、あまり遅くならないうちに戻ろう。帰りもバスと電車に乗らないといけないから。」
ハルト:「帰りもまだ長いんだな。」
カイト:「だから今出発するんだよ。」
ハルト:「はいはい。」
五人はそれぞれ荷物を確認した。
キラナはスマホをバッグにしまい、飲み物がちゃんと入っていることを確認する。
アイカも荷物を整える。
レンはもう一度スマホで帰りのルートを確認した。
カイトはこれから歩く道を見る。
カイト:「帰りもさっきの道を通るんだよな?」
レン:「うん。来た道を戻っていく。」
ハルト:「分かった。道に迷わないようにしようぜ。」
レン:「大丈夫。覚えてる。」
キラナは笑った。
キラナ:「じゃあ、行こう。」
五人はその場所を離れ、歩き始めた。
今度は、ゆっくりとした足取りだった。
もう目的地へ急ぐ必要はない。
キラナは時々振り返りながら、三峯山の景色を楽しむ。
アイカはキラナの隣を歩いていた。
アイカ:「ここに来て、楽しかった?」
キラナ:「すごく楽しかった!」
アイカ:「私も。」
キラナ:「最初は普通に遊びに来るだけだと思ってた。」
アイカ:「まさか、変な模様まで見つけるとはね。」
キラナは小さく笑った。
キラナ:「結局、何でもなかったけどね。」
アイカ:「それでも、いい思い出になったよ。」
キラナ:「うん。」
少し後ろを歩いていたハルトも会話に加わる。
ハルト:「でも、あれは結構面白かったな。途中、本気で気になったし。」
カイト:「特に鈴の音だな。」
ハルト:「最初は何か変なものがあるのかと思った。」
カイト:「風に揺れてただけだったけどな。」
ハルト:「模様も秘密の記号じゃなかったし。」
レン:「少なくとも、原因は分かった。」
キラナ:「うん。もし調べなかったら、帰るまでずっと気になってたかも。」
アイカ:「そうだね。」
五人は笑いながら歩き続けた。
謎が解けたことで、帰り道は少し軽く感じられた。
五人は三峯山の道を下っていく。
周囲の木々はまだ青々としていて、夕方の光が道のところどころを照らしている。
時々、立ち止まって水を飲む。
キラナは最後に一枚、周囲の景色を撮影した。
カシャ!
キラナは写真を確認する。
キラナ:「これで帰る前の最後の一枚。」
アイカ:「いい写真だね。」
キラナ:「写真、全部グループに送るね。」
ハルト:「俺たちが一緒に写ってるやつも忘れるなよ。」
キラナ:「分かってるって。」
カイト:「神社の近くで撮ったやつも送って。」
キラナ:「全部送るよ。」
レン:「じゃあ、あとで一番いい写真を選ぼう。」
キラナ:「賛成!」
五人はまた歩き始めた。
次第に、周囲の道が少しずつ見慣れたものになっていく。
行きに通った道だからだ。
しばらくすると、少し賑やかな場所から聞こえてくる音が聞こえ始めた。
キラナ:「そろそろ近いみたい。」
レン:「うん。もうすぐ三峯神社の周辺に戻る。」
ハルト:「じゃあ、あとはバス停まで行くだけか。」
レン:「そう。」
五人は少しだけ歩く速度を上げた。
まだ十分に明るかったが、夕方がさらに遅くなる前に戻っておきたかった。
朝から続いた長い旅も、そろそろ終わりに近づいていた。
それでも、今日の夏休みの一日はまだ終わっていない。
帰り道がまだ残っている。
しかし、五人はすでにたくさんの写真や話、そして三峯山への初めての旅で得た新しい経験を持ち帰ろうとしていた。
しばらく歩くと、五人はついに、先ほどまで歩いていた静かな道を抜け、三峯神社の周辺へ戻ってきた。
周囲には、少しずつほかの参拝者の姿も見えてきた。
先ほどまで歩いていた山道よりも、ずっと人の気配が多い。
キラナは前を見る。
キラナ:「あ、戻ってきた。」
アイカ:「うん。下りは行きより早く感じたね。」
ハルト:「今は下ってるだけだから、楽に感じるんだろ。」
カイト:「それとも、帰るって分かってるからじゃない?」
ハルト:「それもあるかもな。」
レンは道の近くにある案内板を見る。
レン:「ここからは、案内に従ってバス停まで行けばいい。」
キラナ:「分かった。」
五人は案内板が示す方向へ歩いていく。
しばらくすると、到着したときに通った三峯神社周辺が再び見えてきた。
キラナは神社のほうを振り返る。
キラナ:「朝、ここを通ったよね?」
アイカ:「うん。まだ少し前みたいなのに、けっこう時間が経ったね。」
キラナ:「今日、いろんなことしたんだね。」
ハルト:「電車に乗って、バスに乗って、歩き回って、それから変な模様を見つけて......。」
カイト:「しかも、秘密の記号じゃなかった。」
ハルト:「そう、それ。」
キラナは笑った。
キラナ:「でも、楽しかった。」
レン:「それより、今はバスに乗り遅れないようにしよう。」
ハルト:「それは大事だな。」
五人はバス停へ向かって歩き続けた。
数分後、周辺にあるバス停が見えてきた。
レンはバス停の案内表示を確認する。
レン:「ここだ。さっきのバス停。」
アイカ:「じゃあ、合ってるね。」
レンはうなずいた。
レン:「うん。西武秩父に向かうバスを待とう。」
キラナはほっと息をついた。
キラナ:「やっと着いた......。」
ハルト:「あとはバスに座ってればいいな。」
カイト:「座るときだけ一番元気だよな。」
ハルト:「俺、疲れてるんだって。」
カイト:「俺もだよ。」
ハルト:「じゃあ、分かるだろ?」
カイトは笑った。
五人はバスが来るまで、バス停の周辺で座って休んだ。
キラナはスマホを取り出し、今日一日で撮った写真をもう一度見る。
駅で撮った写真。
移動中に撮った写真。
三峯神社の写真。
三峯山の景色。
そしてもちろん、五人で撮った写真。
キラナは笑顔になった。
アイカ:「何の写真見てるの?」
キラナ:「今日撮った写真。」
アイカもキラナのスマホの画面を見る。
アイカ:「これ、いいね。」
キラナ:「みんなで撮ったやつ?」
アイカ:「うん。」
キラナ:「あとでグループに送るね。」
レン:「全部送ってくれたら、あとでみんなで選べるな。」
ハルト:「俺がちゃんと写ってる写真、忘れないでくれよ。」
カイト:「そこまで気にする?」
ハルト:「もちろん。」
キラナとアイカは笑った。
しばらくすると、遠くから車の音が聞こえてきた。
レンは立ち上がり、道路のほうを見る。
レン:「バスが来たみたいだ。」
キラナも立ち上がる。
キラナ:「あれが私たちのバス?」
レンは近づいてくるバスを確認する。
レン:「うん。西武秩父に向かうバスだ。」
アイカ:「じゃあ、準備しよう。」
五人はそれぞれ荷物を持ち、バス停の近くに立った。
バスが目の前で止まる。
ドアが開く。
五人は一人ずつ乗り込んだ。
キラナは乗る前に、もう一度三峯山のほうを見る。
キラナ:「またね、三峯山。」
アイカは笑った。
アイカ:「また来られるといいね。」
ハルト:「次に来るなら、あんまり遠くまで歩かない場所がいいな。」
カイト:「まだ帰ってないだろ。」
ハルト:「だから、次の話だって。」
レン:「ほら、早く乗ろう。」
五人は小さく笑いながらバスに乗り込んだ。
全員が乗り終えると、バスはゆっくりとバス停を離れていった。
三峯山が少しずつ後ろへ遠ざかっていく。
帰りの旅が、正式に始まった。
キラナはアイカと一緒に窓側の席に座った。
窓の外を眺め続ける。
山道を囲んでいた木々が、バスが下っていくにつれてゆっくりと後ろへ流れていく。
キラナ:「帰り道も楽しいね。」
アイカ:「うん。あとはゆっくり帰るだけだね。」
少し離れた席では、ハルトが気楽に体を預けている。
ハルト:「俺、ちょっと寝ようかな。」
カイト:「バスに乗ったばっかりなのに、もう寝るの?」
ハルト:「だって疲れたんだよ。」
カイト:「行きのときも寝るって言ってたじゃん。」
ハルト:「長い移動なら、寝るのも大事なんだよ。」
近くに座っていたレンは、小さく笑った。
レン:「寝たいなら寝ていいよ。西武秩父に近づいたら起こすから。」
ハルト:「それなら安心だな。」
カイト:「俺が起こすことになったらどうする?」
ハルト:「カイトに起こされたら、逆に起きたくなくなる。」
カイトは笑った。
ハルトは目を閉じ、しばらく休むことにした。
その一方で、キラナとアイカは再び窓の外の景色を楽しんでいた。
さっきまで木々に囲まれていた道も、少しずつ景色が変わっていく。
木々が少なくなり、道路沿いに家や建物が見えるようになってきた。
車の数も、山の中にいたときより増えている。
キラナはその変化をじっと見ていた。
キラナ:「また街に近づいてきたね。」
アイカ:「うん。行きのときもこんな感じだったね。」
キラナ:「なんだか早く感じる。」
アイカ:「山ではけっこう長く歩いたからね。」
キラナは笑った。
キラナ:「今日は本当に長い一日だったね。」
バスは山道を下りながら、ゆっくりと走り続けた。
しばらくすると、車内は少し静かになった。
ハルトはまだ眠っている。
カイトは時々、窓の外を見ている。
レンはもう一度、時間と帰りのルートを確認した。
やがてレンはハルトのほうを見る。
レン:「ハルト。」
ハルトはゆっくりと目を開ける。
ハルト:「ん......もう着いた?」
レン:「まだ。でも、もうすぐだ。」
ハルト:「そっか。」
ハルトは体を起こし、窓の外を見る。
ハルト:「もう着いたのかと思った。」
カイト:「よく寝てたな。」
ハルト:「ちょっと休んでただけ。」
カイト:「はいはい。」
キラナとアイカは二人の会話を聞いて、小さく笑った。
数分後、バスは少しずつ人の多い場所へ入っていく。
レンは窓の外を見ながら、周囲を確認する。
レン:「もうすぐ降りるぞ。」
キラナ:「じゃあ、降りる準備しないと。」
アイカは荷物を整え始める。
アイカ:「じゃあ、先に準備しておこう。」
キラナ:「うん。」
キラナもスマホとバッグを確認する。
ハルトもバッグを持ち、バスが減速し始めると立ち上がった。
ハルト:「もうすぐ降りられるな。」
カイト:「まだ疲れてる?」
ハルト:「まあな。さっき寝たから少し楽になったけど。」
カイト:「じゃあ、少しは回復した?」
ハルト:「うん。でも、早く着いてほしい。」
カイト:「それなら納得。」
ハルト:「何が納得なんだよ?」
カイト:「別に。」
ハルト:「変なの。」
カイトは小さく笑った。
バスはそのまま走り続け、やがてゆっくりと速度を落とした。
しばらくして――
バスがバス停に停まった。
レン:「着いた。」
五人は立ち上がり、それぞれの荷物を持つ。
キラナはアイカと一緒にバスを降りた。
外に出ると、キラナは周囲を見渡した。
キラナ:「またここに戻ってきたね。」
アイカ:「うん。」
ハルトもそのあとに降りてくる。
ハルト:「あとは電車だな。」
レン:「そう。ここから西武秩父駅まで戻る。」
カイト:「そのあと、桜森まで。」
レンはうなずいた。
レン:「うん。」
五人は駅へ向かって歩き始めた。
帰り道はまだ終わっていない。
それでも、三峯山での旅はもう終わった。
キラナは時々スマホの写真を見る。
三峯神社。
山の景色。
途中で見つけた模様。
そして、五人で撮った写真。
キラナは笑った。
朝、出発したときに想像していた以上に、今日一日はたくさんの思い出でいっぱいだった。
アイカは、一人で笑っているキラナを見る。
アイカ:「どうしたの?」
キラナ:「何でもない。今日の写真を見てた。」
アイカ:「そっか。」
キラナ:「今日の旅、きっとこれからも覚えてると思う。」
アイカは笑顔になった。
アイカ:「私も。」
後ろからハルトも会話に入る。
ハルト:「あとで写真送るの、忘れないでな。」
キラナ:「分かってるって。」
ハルト:「一応、言っておいただけ。」
カイト:「本当は送り忘れが心配なんだろ?」
ハルト:「念のためだよ。」
五人はまた笑った。
しばらくして、五人は西武秩父駅に到着した。
レンはホームへ向かう案内表示を見る。
レン:「行こう。駅の中に入ろう。」
五人はレンについてホームへ向かう。
乗る電車を確認したあと、休みながら電車を待つ。
キラナはアイカの隣に立っている。
キラナ:「桜森に着いたら、そのまま帰る?」
レン:「うん。もうかなり遅い時間だから、着いたらそのまま帰ったほうがいい。」
アイカ:「賛成。」
ハルト:「俺も早く帰りたい。」
カイト:「珍しいな。」
ハルト:「疲れたんだよ。」
カイト:「やっと正直に言ったな。」
ハルト:「さっきからずっと正直だって。」
キラナとアイカはまた笑った。
しばらくすると、遠くから電車の音が聞こえてくる。
レン:「あれだ。」
五人はホームの近くで準備する。
電車がゆっくりと近づき、五人の前で止まる。
ドアが開く。
レン:「乗ろう。」
五人は一緒に電車へ乗り込んだ。
三峯山から桜森へ向かう帰り道も、いよいよ最後の区間に入った。
西武秩父駅を出発し、朝に旅を始めた場所へ戻っていく。
電車が走る中、キラナは再び窓の外を見る。
三峯山はもう遠く離れている。
それでも、今日の思い出はスマホの中に残っている――そしてもちろん、五人の記憶の中にも。
しばらくすると、窓の外の空は少しずつ暗くなっていった。
道路や家々の明かりが、電車の中からもはっきり見えるようになる。
キラナはアイカと一緒に窓側の席に座っていた。
時々外を見ながら、電車が桜森へ向かって走るのを感じていた。
夜は少しずつ深くなっていく。
ハルトはさっきまでのように気楽に座っていたが、今はほとんど話さず、時々スマホを見ては、また体を預けていた。
カイトがハルトを見る。
カイト:「そんなに疲れた?」
ハルト:「まあな。」
カイト:「山ではあんなに元気だったのに。」
ハルト:「あれはあのときの話。今はもう本当に疲れた。」
カイト:「だから、さっきから静かなんだ。」
ハルト:「今は体力を温存してるんだよ。」
カイトは小さく笑った。
一方、レンはもう一度スマホで時間を確認する。
レン:「そろそろ着くと思う。」
キラナは振り向く。
キラナ:「桜森に?」
レン:「うん。」
アイカ:「やっとだね。」
キラナは笑った。
キラナ:「今日は本当に長かったなあ。」
アイカ:「でも、楽しかった。」
キラナ:「うん。」
電車は何駅かを通り過ぎながら走り続ける。
しばらくして、車内放送が聞こえてきた。
レンは車内の案内表示を見る。
レン:「次は桜森。」
キラナはすぐに窓の外を見る。
キラナ:「あ、やっと!」
アイカは荷物をまとめ始める。
アイカ:「じゃあ、準備しよう。」
キラナ:「うん。」
ハルトもすぐにバッグを持つ。
ハルト:「やっと帰れる。」
カイト:「ずっと帰ってる途中だけどな。」
ハルト:「そういう意味じゃなくて、やっと家の近くまで来たってこと。」
カイト:「ああ、なるほど。」
ハルト:「細かいこと言うなよ。」
カイトは笑った。
レン:「もうすぐ電車が止まる。忘れ物がないか確認して。」
キラナはスマホと荷物をもう一度確認する。
キラナ:「大丈夫。」
アイカ:「私も。」
ハルト:「バッグ、大丈夫。」
カイト:「俺も。」
レン:「よし。」
数分後、電車はゆっくりと速度を落としていく。
車輪の音も少しずつ小さくなる。
そして――
電車は桜森駅に到着した。
ドアが開く。
レン:「着いたぞ。」
五人は一緒に電車を降りる。
ホームを出ると、キラナは大きく息を吐いた。
キラナ:「やっと着いた......。」
アイカ:「うん。」
キラナは駅の周囲を見渡す。
桜森駅の夜の景色は、今日訪れた場所と比べるとずっと見慣れていた。
駅の明かりが周辺を照らし、まだ何人かの人が出口へ向かって歩いている。
ハルトがあくびをする。
ハルト:「本当に疲れた......。」
カイト:「やっと認めたな。」
ハルト:「だから、さっきから言ってるって。」
カイト:「はいはい。」
レンは小さく笑う。
レン:「じゃあ、ここで長く休んでないで帰ろう。俺たちも家に帰らないと。」
アイカ:「そうだね。」
五人は駅を出る。
外に出ると、夜の空気が少しひんやりと感じられた。
キラナは前の道を見る。
キラナ:「なんか変な感じ。」
アイカ:「何が?」
キラナ:「朝、ここから出発したのに、今はもう夜で戻ってきた。」
アイカ:「考えてみると、確かにそうだね。」
キラナ:「今日は本当に長い旅だったなあ。」
レン:「実際、かなり遠くまで行ったからな。」
ハルト:「しかも歩く距離も長かった。」
カイト:「一番それを言ってたの、ハルトだけどな。」
ハルト:「だって疲れたんだよ。」
キラナとアイカは小さく笑った。
五人はそのまま駅を離れて歩いていく。
夜はさらに深くなっていく。
街灯が道を照らし、昼間よりずっと静かになった桜森の道を五人は歩いていく。
しばらくすると、いつも別れる交差点に到着した。
五人はそこで立ち止まった。
アイカは自分が帰る道を見る。
アイカ:「ここからは、そろそろ別れるね。」
レン:「うん。」
カイト:「明日もまだ休みだな。」
レン:「うん。明日から九月一日まではずっと休みで、学校は九月二日からだ。」
ハルト:「よし。ゆっくり休める。」
カイト:「お前は休むことしか考えてないな。」
ハルト:「今日の旅のあとなら、いいだろ。」
キラナは笑った。
キラナ:「私も明日はゆっくり休もうかな。」
アイカ:「私も。」
レン:「じゃあ、気をつけて帰れよ。」
カイト:「またな。」
ハルト:「またな。」
キラナ:「またね、みんな。」
アイカ:「おやすみ!」
五人はそれぞれの道へ歩き始めた。
キラナは手を振ってから振り返り、家への道を歩いていく。
一人で歩きながら、ときどきスマホを見る。
今日の旅で撮った写真は、まだそこに残っている。
三峯神社の前で撮った写真。
三峯山の景色。
みんなが気になっていた模様の写真。
そして、五人で撮った写真。
キラナは小さく笑った。
最初は、ただ友達と一緒に遊びに行くための一日になると思っていた。
でも、今日という一日は、思っていた以上に印象に残るものになった。
しばらく歩くと、遠くにキラナの家が見えてきた。
キラナは少しだけ歩く速度を上げる。
長かった一日も、ようやく終わろうとしていた。
数分後、キラナは家の前に到着した。
玄関の前で少し立ち止まり、スマホを見る。
もうかなり遅い時間だった。
キラナはスマホをバッグにしまい、家のドアを開ける。
キラナ:「ただいま!」
家の中から父の声が聞こえる。
父:「おかえり、キラナ。」
少しすると、母もリビングから出てきた。
母:「おかえり。今日はどうだった?」
キラナは靴を脱ぎ、家の中へ入る。
キラナ:「すごく楽しかった!」
父:「ずいぶん楽しそうだな。」
キラナ:「うん。けっこう遠かったけど、楽しかったよ。」
母:「アイカ、ハルト、レン、カイトと一緒に行ったんだよね?」
キラナ:「うん。」
父:「全員一緒だったのか?」
キラナ:「うん。ちゃんと五人で。桜森駅から一緒に出発したの。」
母は笑った。
母:「それならよかった。それで、楽しかった?」
キラナ:「うん! すごく楽しかった!」
キラナはスマホを取り出し、その日の写真を見せる。
キラナ:「見て、お母さん。これ、三峯神社に着いたときの写真。」
母はキラナのスマホの画面を見る。
母:「わあ、きれいな場所ね。」
父も後ろから画面を見る。
父:「景色もきれいだな。」
キラナ:「うん。それから、もっと上のほうまで歩いたんだよ。」
父:「じゃあ、かなり歩いたんだな。」
キラナ:「うん、けっこう歩いた。」
母:「疲れてない?」
キラナ:「ちょっと。でも大丈夫。」
キラナは写真を次々にスライドしていく。
三峯神社の写真。
道の途中で見た木々。
山の上から見た景色。
そして、五人で撮った写真。
しかし、いくつかの写真まで来たところで、キラナの指が止まった。
キラナはスマホの画面をしばらく見つめる。
母はキラナの表情の変化に気づいた。
母:「どうしたの?」
キラナ:「あ......ううん。何でもない。」
父:「何かあったのか?」
キラナは少し黙った。
そして、みんなで見つけた模様が写っている写真をもう一度見る。
キラナ:「実は、途中でちょっと変なことがあったの。」
母:「変なこと?」
キラナ:「うん。山道を歩いているとき、何かの記号みたいな模様をいくつかの場所で見つけたの。」
父:「記号?」
キラナはうなずく。
キラナ:「うん。最初は何なのか分からなかった。」
母:「それで?」
キラナ:「それと、途中で何度か鈴みたいな音も聞こえたの。」
父:「鈴?」
キラナ:「うん。」
キラナは小さく笑う。
キラナ:「でも、最後には音の正体も分かったよ。」
母:「そうなの? 原因が分かったの?」
キラナ:「うん。道の近くに吊り下げられているものがあって、風に揺れて音が鳴ってたの。」
父:「じゃあ、変なものじゃなかったんだな。」
キラナ:「うん。」
キラナは次の写真を開く。
キラナ:「模様のほうも、レンが教えてくれたんだ。たぶん神社の敷地に関係する目印とか、彫り物の一部なんだって。」
母:「じゃあ、全部分かったの?」
キラナ:「うん......たぶん。」
父:「それならよかった。帰ってからもずっと気にしなくて済むな。」
キラナは笑った。
キラナ:「そうだね。」
しかし、そう言ったあとも、キラナはもう一度その模様の写真を見る。
何かがまだ気になる。
怖いわけではない。
ただ、少しだけ気になっていた。
キラナ:「答えは分かったけど、ちょっとだけまだ気になるんだよね。」
母:「模様の形が面白かったから?」
キラナ:「たぶん。」
父は笑った。
父:「気になるのは普通だよ。大事なのは、ちゃんと調べて、危ないことをしなかったことだ。」
キラナ:「うん。」
母:「もう夜も遅いし、一日中出かけてたんだから、きっと疲れてるでしょう。」
キラナは時計を見る。
キラナ:「確かに。」
父:「じゃあ、先に休んでおいで。明日もまだ休みだからな。」
キラナ:「うん。」
キラナはスマホの画面を消す。
キラナ:「でも、寝る前に写真をグループに送っておきたい。」
母:「あんまり夜更かししないのよ。」
キラナ:「うん。」
キラナは笑いながらバッグを持ち、二階の自分の部屋へ向かった。
部屋に入る前に、もう一度スマホの画面を見る。
今日撮った写真が、まだそこに残っている。
長い移動。
三峯山の景色。
友達と一緒に過ごした時間。
そして、途中で起きたちょっとした出来事。
それらすべてが、一つの長い一日の中に詰まっていた。
キラナはスマホの画面を消す。
キラナ:「今日は本当に楽しかった。」
そして、部屋へ入った。
家の中は少しずつ静かになっていく。
その夜、キラナと友達の三峯山への旅は、本当の意味で終わりを迎えた。
やがて夜はさらに深くなった。
キラナは両親との話を終え、自分の部屋にいた。
ベッドの端に座り、スマホを手にしている。
部屋は静かだった。
キラナは朝からの旅をもう一度思い返す。
最初は、夏休み最初の日を、アイカ、ハルト、レン、カイトと楽しく過ごすだけの日だと思っていた。
三峯山へ行った。
三峯神社を訪れた。
山の景色を楽しんだ。
みんなでたくさん写真を撮った。
全部、キラナが想像していた通りだった。
でも、途中でいくつか気になるものを見つけた。
岩にあった不思議な模様。
木片にあった似たような模様。
そして、道の近くから何度か聞こえてきた鈴のような音。
最初は、それが何なのかキラナにはまったく分からなかった。
音の正体が分かり、模様についても神社の敷地に関係するものらしいと分かったあとも、その出来事はキラナの頭に残っていた。
キラナはスマホに保存した模様の写真を見る。
キラナ:「今日は、思ってたより普通の一日じゃなかったな。」
キラナは小さく笑った。
それでも、すべてにはちゃんとした説明があった。
残ったのは、ほんの少しの好奇心だけ。
今日の旅で起きた、ちょっと面白い出来事の一つとして、きっと覚えているだろう。
キラナはその写真を閉じ、メッセージアプリを開く。
すると――
キラナの目が大きくなった。
キラナ:「あっ......。」
何かを思い出した。
キラナ:「しまった!」
スマホの画面を見る。
そういえば、今日撮った写真をグループに送ると約束していた。
キラナ:「グループに写真送るの、忘れてた!」
キラナはすぐにグループトークを開いた。
今日撮った写真を一枚ずつ選んでいく。
三峯神社の写真。
三峯山の景色。
五人で撮った写真。
そして、ほかにも気に入った写真を何枚か選ぶ。
キラナは笑いながら最後の写真を選んだ。
キラナ:「よし、全部選んだ。」
そして、写真をグループに送信した。
しばらくすると、スマホに何件か返信が届き始めた。
キラナは笑顔になりながら、再びにぎやかになったグループトークを見る。
夏休み最初の日。
ただ友達と一緒に出かけるだけだと思っていた一日は、思っていた以上に印象に残る一日になった。
キラナはスマホをベッドの横にある小さなテーブルへ置いた。
そして、ベッドに横になり、布団をかける。
キラナはしばらく天井を見つめた。
キラナ:「明日もまだ休みか......。」
キラナは笑った。
長い一日を終えて、キラナはゆっくりと目を閉じた。
三峯山への旅は終わった。
でも、夏休みはまだ始まったばかりだった。
――第7章・完――
第7章、最後まで読んでいただきありがとうございました!
今回は、夏休み最初の日ということで、キラナたち五人で三峯山へ行ってきました。
朝から電車やバスに乗って、山を歩いて、写真を撮って……。
かなり長い一日になりましたね。
途中で見つけた模様や、何度か聞こえてきた鈴のような音も、今回のお話のちょっとしたポイントでした。
最初は少し気になる出来事でしたが、最後には「なんだ、そういうことだったのか」と分かるような、ちょっとした出来事にしてみました。
そして何より、五人が一緒に出かけて、たくさんの思い出を作れたことが一番大切なところです。
キラナにとって、夏休み最初の日は、きっと忘れられない一日になったと思います。
これからの夏休み、キラナたちがどんな毎日を過ごしていくのか。
まだまだ続く夏休みを、これからも一緒に楽しんでもらえたらうれしいです。
それでは、また次の章で!




