第10章: 夏の終わり、新しい日々の始まり
この物語を読んでくださって、本当にありがとうございます。
『キラナ桜と私たちの日々』は、日本に引っ越してきたキラナが、桜森という町で新しい学校生活を始めるところから始まります。
新しい学校、新しい友達、慣れない環境。
最初は分からないこともたくさんあったキラナですが、アイカ、ハルト、レン、カイトと出会い、少しずつ桜森での日々に慣れていきます。
そして、ある日、不思議な猫・オカネと出会うことになります。
この物語では、学校での何気ない毎日や友達との会話、みんなで出かけたときの思い出など、キラナたちの日常を大切に描いていきたいと思っています。
その中に、ときどき少し不思議な出来事も登場します。
キラナたちと一緒に笑ったり、驚いたり、何気ない日々を楽しんでもらえたら嬉しいです。
それでは、キラナたちの物語をどうぞお楽しみください。
2019年9月1日、日曜日の朝。
キラナはいつものように、自分の部屋で目を覚ました。
窓から差し込む朝の光が、部屋の一部を明るく照らしている。静かな朝の空気に包まれ、キラナはまだゆったりとした気分だった。
夏休みの間、学校のことをすぐに考えなくてもいい朝に、すっかり慣れていた。
キラナはベッドから起き上がった。
ベッドに腰を下ろしたとき、ふと近くの机に目が向いた。
机の上にはカレンダーが置いてある。
キラナはそこに書かれている日付を見た。
2019年9月1日。
キラナは少しの間、黙っていた。
キラナ:「9月1日……」
そして、もう一度カレンダーを見る。
キラナ:「あ……」
そこでようやく気づいた。
キラナ:「今日で夏休み最後なんだ」
キラナは黙り込んだ。
明日は9月2日、月曜日。
学校がまた始まる。
キラナ:「明日からまた学校か……」
夏休みが本当に終わってしまうことを思うと、少し寂しかった。
けれど、その一方で、嬉しいこともあった。
キラナ:「でも……明日になったら、また学校でアイカやハルト、レン、カイトに会えるんだ」
キラナは小さく笑った。
明日から学校だと思うと、キラナは制服のことを思い出した。
もうずいぶん長い間、制服を着ていない。
最後に制服を着たのは、7月19日。
夏休み前の最後の登校日だった。
キラナの視線は、再びクローゼットへ向いた。
中には、学校の制服がきれいにしまわれている。
キラナ:「この制服を着るのも、ずいぶん久しぶりだな」
キラナはしばらく制服を眺めた。
そして、7月8日に初めてその制服を着て、桜森中学校へ向かったときのことを思い出した。
あの頃は、その制服さえも、自分がまだ知らない新しい生活の一部に感じられた。
新しい学校。
新しい町。
新しい友達。
それだけではない。
以前から勉強していた日本語も、相手が早口で話すと、まだうまく聞き取れないことがあった。
キラナ:「桜森に初めて来たときは、何もかもが知らないことばかりだったな」
キラナは小さく笑った。
キラナ:「でも、今は……」
キラナは少し言葉を止めた。
キラナ:「なんだか、全然違うな」
今では、制服にも慣れた。
学校にも慣れた。
そして何より、学校には一緒に過ごせる友達がいる。
キラナ:「ここに来てから、たくさんの思い出ができたな」
キラナの顔に、また小さな笑みが浮かんだ。
そのあと、キラナは小さな机の上に置いてあったスマートフォンを手に取った。
画面をつけ、アイカ、ハルト、レン、カイトとのグループチャットを開く。
すると、すでにいくつか新しいメッセージが届いていた。
キラナは会話を読み始める。
アイカ:「今日で夏休み最後だよ! ずっと家にいるのももったいないし!」
アイカ:「今日もみんなでどこか行かない?」
しばらくすると、ハルトから返信が来た。
ハルト:「俺、行く!」
続けて、もう一つメッセージが届く。
ハルト:「せっかくだし、うまいものでも見つかるかもしれないしな」
キラナはそのメッセージを見て笑った。
キラナ:「ハルトは相変わらず食べ物のことばっかりだな」
そこへカイトも返信する。
カイト:「俺も行く。夏休み最後の日だしな」
少しして、レンからメッセージが届いた。
レン:「どこに行く?」
アイカはすぐに返事をした。
アイカ:「川越はどう?」
アイカ:「みんなで行ったことないし」
アイカ:「今まで行った場所とは、また違った雰囲気を楽しめそうだよ」
キラナはそのメッセージをじっくり読んだ。
すると、レンが返信する。
レン:「川越か。いいんじゃない?」
カイトも賛成する。
カイト:「俺はいいよ」
行き先を知ったハルトは、ますます興味を持ったようだった。
ハルト:「川越?」
ハルト:「あそこって、食べ物とか店とか、いっぱいあるんだろ?」
カイトがすぐに返信する。
カイト:「ほら、やっぱりそれが目的じゃん」
ハルト:「え? ただ確認しただけだって」
キラナは小さく笑った。
キラナ:「みんな、相変わらずだな」
そして、自分もメッセージを送る。
キラナ:「私も行く」
すぐにアイカから返信が来た。
アイカ:「オッケー! じゃあ、6人で行くってことだね?」
キラナはそこで、あることに気づいた。
キラナ:「あ……」
オカネのことを思い出した。
オカネを誘わずに出かける気にはなれなかった。
オカネは、もうすぐ一か月になるほど、キラナの日常の中で一緒に過ごしている存在だった。
キラナはベッドから立ち上がり、部屋を出た。
そして、二階のあたりでオカネを探す。
しばらくすると、オカネを見つけた。
キラナ:「オカネ」
オカネが振り向く。
オカネ:「ん? どうした、キラナ?」
キラナ:「今日、友達と出かけることになったの」
オカネ:「どこへ行くんだ?」
キラナは笑った。
キラナ:「川越」
オカネは興味を持ったようだった。
オカネ:「川越?」
キラナ:「うん」
オカネは少し考える。
オカネ:「そこはまだ見たことがないな」
キラナ:「だから、オカネも誘おうと思って」
オカネはキラナを見る。
キラナ:「一緒に行く?」
オカネはすぐに答えた。
オカネ:「もちろん」
キラナは笑った。
キラナ:「よかった」
しかし、キラナは一本指を立てて、何かを思い出させるように言った。
キラナ:「でも、ルールがあるからね」
オカネ:「分かってる」
キラナは少し驚いた。
キラナ:「もう分かってるの?」
オカネ:「人が多い場所では、気をつけないといけないんだろ?」
キラナはうなずいた。
キラナ:「そう」
オカネ:「それに、人前で勝手に話したりもしない」
キラナ:「うん」
オカネは小さく笑った。
オカネ:「もう分かってるよ。こうして一緒に暮らし始めて、もうすぐ一か月だからな」
キラナ:「確かにね」
オカネ:「そのルールにも、もう慣れたよ」
キラナは笑った。
キラナ:「じゃあ、一緒に行こう!」
オカネ:「分かった」
キラナはもう一度スマートフォンを見る。
画面には、まだグループチャットが表示されていた。
夏休み最後の日は、最初はいつもと変わらない一日になると思っていた。
けれど、いつの間にか新しい予定ができていた。
キラナ:「なんだか、夏休み最後の日も楽しくなりそう」
オカネ:「俺も川越がどんなところなのか気になるな」
キラナ:「じゃあ、行ってからのお楽しみだね」
二人は、友達と一緒に過ごす夏休み最後の日に向けて、それぞれ準備を始めた。
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キラナとオカネは、一階の食卓へ朝ごはんを食べに降りた。
お父さんとお母さんは、すでにそこにいた。
キラナとオカネが来ると、お母さんが振り向く。
お母さん:「おはよう、キラナ。オカネもおはよう」
オカネ:「おはようございます、お母さん」
キラナはオカネと一緒に席に座った。
キラナ:「お父さん、お母さん。今日、アイカとハルト、レン、カイトと一緒に出かけることになったの」
お父さん:「おっ? 今度はどこへ行くんだ?」
キラナ:「川越」
お母さん:「川越?」
キラナはうなずく。
キラナ:「うん。アイカが誘ってくれたの。夏休み最後の日なのに、ずっと家にいるのはもったいないって」
お父さん:「楽しそうじゃないか」
キラナはオカネを見る。
キラナ:「それに、オカネも一緒に行くよ」
お父さんとお母さんは、特に驚いた様子もなかった。
オカネがこの家に来てから、もうすぐ一か月になる。
8月3日にオカネが初めてやって来た頃とは違い、今では家の中もずっと穏やかな雰囲気になっていた。
オカネも、すっかりお父さんやお母さんとの会話に慣れている。
お父さん:「それなら、二人とも気をつけて行ってくるんだぞ」
キラナ:「うん、お父さん」
お母さん:「それと、あまり遅くならないようにね」
キラナ:「うん、お母さん」
オカネ:「俺も気をつけます」
お父さんは笑った。
お父さん:「それなら安心だ」
二人は朝ごはんを食べ始めた。
食事をしながら、話題は少しずつ学校のことへ移っていく。
お父さん:「そういえば、明日からまた学校だったよな?」
キラナはうなずいた。
キラナ:「うん」
そして、小さく息を吐く。
キラナ:「だから、今日が本当に最後の夏休みなんだよね」
キラナの隣にいたオカネも口を挟む。
オカネ:「じゃあ、明日からキラナは忙しくなるのか?」
キラナは小さく笑った。
キラナ:「たぶんね」
オカネ:「それでも大丈夫なのか?」
キラナは首を横に振った。
キラナ:「大丈夫だよ」
そして笑う。
キラナ:「むしろ、学校でまたみんなに会いたくなってきたかも」
お母さん:「じゃあ、学校が始まるのはもう大丈夫そうね」
キラナ:「うん。夏休みが終わっちゃうのは少し寂しいけど、またみんなに会えるのは嬉しい」
お父さん:「それならよかった」
朝ごはんは、そのまま穏やかな雰囲気の中で続いた。
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朝食を終えると、キラナは出かける準備をするため、自分の部屋へ戻った。
歩きやすい服に着替え、それから持っていくものを確認する。
キラナ:「スマホ……」
スマートフォンをバッグに入れる。
キラナ:「財布……」
そのほかにも、必要になりそうな小物を確認する。
キラナ:「飲み物も」
キラナは、忘れ物がないか一つずつ確認した。
バッグを閉じる前に、スマートフォンの充電も確認する。
キラナ:「まだ大丈夫」
キラナは笑った。
キラナ:「今日はいっぱい写真撮ろうっと」
夏休み中に友達と撮った写真を見返していたこともあり、学校が始まる前の最後のお出かけを、できるだけ写真に残しておきたかった。
キラナが準備を終えると、オカネはすでにドアの近くで待っていた。
キラナ:「オカネ、準備できた?」
オカネ:「できたよ」
キラナはオカネに近づく。
キラナ:「じゃあ、もう一つだけ」
オカネ:「何だ?」
キラナ:「私のそばにいてね」
オカネはうなずいた。
オカネ:「大丈夫。どこにも行かないよ」
キラナは笑った。
キラナ:「よし。それじゃ、行こう!」
二人は一階へ降り、お父さんとお母さんに出かける挨拶をした。
それから家を出て、アイカ、ハルト、レン、カイトとの待ち合わせ場所へ向かった。
こうして、夏休み最後の日が始まった。
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キラナとオカネは、待ち合わせ場所へ向かって歩いていった。
その朝の桜森は、いつもより少しにぎやかだった。
出かける人もいれば、休日をのんびり過ごすように歩いている人もいる。
しばらくして、二人は待ち合わせ場所に到着した。
そこには、すでにアイカがいた。
アイカ:「キラナ!」
キラナは手を振る。
キラナ:「アイカ!」
キラナとオカネはアイカのところへ近づいた。
アイカ:「おはよう! やっと来たね」
キラナ:「おはよう」
オカネ:「おはよう、アイカ」
アイカ:「おはよう、オカネ」
ほどなくして、ハルト、レン、カイトもやって来た。
ハルト:「おはよう!」
カイト:「おはよう」
レン:「おはよう」
キラナ:「おはよう!」
全員がそろうと、アイカは駅のほうを見る。
アイカ:「じゃあ、そろそろ行く?」
レン:「うん。電車ももうすぐ来るよ」
カイト:「じゃあ、行こう」
ハルト:「やっと出発か」
キラナ:「ずいぶん楽しみにしてるね」
ハルト:「そりゃそうだろ」
ハルトは笑った。
ハルト:「俺も川越、楽しみなんだよ」
アイカ:「場所が楽しみなの? それとも食べ物?」
ハルトは少し黙った。
ハルト:「……両方」
カイトが笑う。
カイト:「やっぱりな」
キラナも小さく笑った。
みんなで駅へ向かって歩き始める。
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駅に着くと、レンがもう一度、行き方を確認した。
レン:「この電車に乗ろう。そのあとは、予定どおりに行けば大丈夫」
アイカ:「私は見てみたい場所をいくつかメモしてあるよ」
キラナ:「アイカ、もう準備してたの?」
アイカ:「うん。どこに行くか迷わないようにね」
ハルト:「食べるところなら、俺もいくつか候補を考えてきたぞ」
カイト:「本当に準備してるじゃん」
ハルト:「当然だろ」
キラナ:「食べ物のことになると本気だね」
ハルト:「せっかくの特別なお出かけなんだから、それくらい考えないとな」
カイト:「はいはい」
レン:「まあ、食べることばかりで時間を使いすぎないようにな」
ハルト:「そこまでひどくないって」
カイト:「どうだかな」
ハルト:「なんで信じてくれないんだよ?」
キラナはまた笑った。
そして、みんなで電車に乗り込んだ。
席を見つけて座ると、川越へ向かう旅が始まった。
アイカはスマートフォンのメモを見ながら、今日の予定を説明する。
アイカ:「着いたら、まずは古い町並みのあたりを見てみよう」
キラナ:「古い町並み?」
アイカ:「うん。昔の雰囲気が残ってる建物がたくさんあるんだって」
キラナ:「へえ……楽しみ!」
レン:「そのあと、いくつか別の場所にも行こう。こういう順番なら、あまり何度も行ったり来たりしなくて済む」
アイカ:「だからレンにも手伝ってもらったんだ」
レン:「そのほうが動きやすいからね」
ハルト:「俺はついていくよ」
カイト:「珍しいな」
ハルト:「食事の時間さえ忘れなければいい」
カイト:「それはやっぱりハルトだな」
キラナは二人のやり取りを聞きながら笑った。
その一方で、オカネはキラナの隣に座っていた。
窓の外をじっと見ている。
キラナにとっては見慣れている景色が、少しずつ別のものへと変わっていく。
オカネ:「キラナ」
キラナ:「ん?」
オカネ:「ここは、キラナが住んでいるあたりとは違うんだな」
キラナは窓の外を見る。
キラナ:「うん。今、埼玉の別の場所へ向かってるんだよ」
オカネ:「面白いな」
キラナ:「楽しい?」
オカネはうなずいた。
オカネ:「キラナの世界の、別の場所を見られるのが嬉しいよ」
キラナは笑った。
キラナ:「じゃあ、これからもっといろんなところを見られるね」
オカネは再び窓の外を見る。
オカネ:「川越がどんなところなのか、楽しみだな」
電車はそのまま走り続けた。
しばらくすると、話題は今日の予定から、夏休み中の出来事へと変わっていった。
アイカ:「そういえば、今回の夏休みって、けっこういろんなことがあったよね」
カイト:「うん」
ハルト:「俺が一番印象に残ってるのは、やっぱり三峯山だな」
キラナ:「三峯山?」
ハルト:「うん。あそこ、めちゃくちゃ遠かったからな」
カイトがすぐに笑った。
カイト:「まだ覚えてるのかよ?」
ハルト:「忘れるわけないだろ」
カイト:「あのときずっと文句言ってたじゃん」
ハルト:「だって本当に遠かったんだから」
レン:「でも、最後までちゃんと行ったよね」
ハルト:「まあ……ここまで来たんだし」
キラナは笑った。
三峯山へ行ったときのことを、今でも覚えている。
電車。
山道を走るバス。
少し涼しい空気。
そして、そこで見つけた奇妙なもの。
レン:「僕は、あのとき変なマークを見つけたことがまだ印象に残ってる」
アイカ:「ああ、あれね」
キラナ:「それに、あの鐘の音」
ハルト:「結局、なんでもなかったけどな」
カイト:「あのとき、みんなで音の出どころを探したよな」
アイカ:「でも、ちゃんと分かったし」
キラナ:「うん。あのときはちょっと気になったよね」
ハルト:「俺は、いつ帰れるのかのほうが気になってたけど」
カイト:「最初から帰ることばっかり考えてたじゃん」
ハルト:「だって帰りも遠いんだから」
キラナは笑った。
キラナ:「でも、楽しかったでしょ?」
ハルト:「まあ……それなりに」
カイト:「それなり?」
ハルト:「……楽しかったって」
アイカはそんな二人を見て笑った。
アイカ:「三峯山以外にも、いろいろあったよね」
キラナ:「うん」
みんなは夏休み中の出来事を、次々と思い出していった。
オカネとの出会い。
夏祭り。
ただ一緒に歩いたり、食事をしたり、話をしたり、同じ時間を過ごした何気ない瞬間。
キラナはみんなの話を聞きながら笑っていた。
キラナ:「こうして考えると、夏休みの間、私たちって本当にたくさん一緒に過ごしたんだね」
アイカ:「うん。最初は、夏休みってもっと長く感じると思ってた」
レン:「でも、いろいろやってると時間が過ぎるのは早いね」
カイト:「気づいたら、もう最後の日だ」
ハルト:「そういうこと言うなよ」
カイト:「なんで?」
ハルト:「俺はまだ今日を楽しみたいんだよ」
アイカは小さく笑った。
アイカ:「じゃあ、今日は今日で楽しもうよ」
キラナは窓の外を見た。
夏休みが終わってしまうのは、やっぱり少し寂しい。
けれど、近くにいる友達の姿を見ると、その気持ちは少し軽くなった。
学校に戻るまで、まだ一日ある。
そして、その一日は今始まったばかりだった。
今はまだ、みんなと一緒にこの旅を楽しめる。
電車は川越へ向かって走り続けた。
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しばらくして、乗っていた電車が川越に到着した。
みんなで電車を降り、駅の外へ向かう。
外に出ると、キラナはすぐに周囲を見回した。
ここは桜森とは違う雰囲気だった。
道はかなりにぎわっている。
いろいろな方向へ歩いていく人たち。
そして、通りにはキラナが住んでいる地域とは違った雰囲気の店や建物が並んでいる。
キラナは興味深そうに周囲を見回した。
キラナ:「わあ……」
アイカ:「どうしたの?」
キラナ:「すごく雰囲気が違うね」
アイカは笑った。
アイカ:「うん。だから夏休み最後の日にちょうどいいかなって思ったんだ」
キラナはバッグからスマートフォンを取り出した。
キラナ:「先に写真撮っておこうっと」
キラナは通りや建物の写真を何枚か撮り始めた。
オカネも興味深そうに周囲を見回している。
オカネ:「人がたくさんいるな」
キラナ:「うん。けっこう混んでるね」
オカネ:「建物も違う」
アイカ:「これから行くあたりは、昔の町の雰囲気が残っていることで有名なんだって」
キラナは前を見る。
キラナ:「この雰囲気、好きかも」
レン:「じゃあ、ゆっくり歩こうか」
カイト:「賛成」
みんなで古い町並みを歩き始めた。
キラナは何度か立ち止まり、通りにある店を眺める。
アイカも気になるものを見つけると、ときどき立ち止まった。
キラナ:「アイカ、あれ見て」
アイカ:「あれ?」
キラナはうなずく。
キラナ:「うん。かわいいね」
アイカ:「うん。あとで見てみようか」
キラナ:「うん」
その一方で、ハルトは歩きながら食べ物の店をよく見ていた。
ハルト:「おい、見ろよ」
カイト:「何?」
ハルトは前にある店を指差す。
ハルト:「あれ、うまそうじゃない?」
カイト:「まだ歩き始めたばっかりだぞ」
ハルト:「だから、うまそうだって言ってるんだよ」
レンは小さく笑った。
レン:「でも、まだそんなに歩いてないよ、ハルト」
ハルト:「でも、食べ物があるって分かっただけでも大事だろ」
キラナは小さく笑った。
キラナ:「さっきから食べ物ばっかり見てるね」
ハルト:「だって、気になるものがいっぱいあるんだから」
アイカ:「じゃあ、あとでどこかに入ろうよ」
ハルト:「それいいな!」
みんなは急ぐことなく歩き続けた。
キラナは、ときどき建物や店の看板、通りの雰囲気など、気になったものを写真に撮った。
オカネも周囲をずっと見回していた。
オカネにとっては、目に入るもののほとんどがまだ新鮮だった。
しばらく歩いたところで、みんなは一度、食事をするために店へ入ることにした。
ハルトが一番嬉しそうだった。
ハルト:「やっとだ!」
カイト:「今、すごく嬉しそうだな」
ハルト:「そりゃそうだろ」
アイカは笑った。
アイカ:「さっきから食べ物が楽しみって言ってたもんね」
ハルト:「それに、店も楽しそうだし」
レン:「でも、一番は食べ物だろ?」
ハルト:「なんで答えが分かるんだよ、レン?」
キラナも笑った。
みんなで料理を注文し、席について食べ始める。
キラナも選んだ料理を一口食べてみた。
キラナ:「おいしい」
アイカ:「でしょ?」
ハルト:「だから言っただろ」
カイト:「まだ何も言ってないだろ」
ハルト:「でも、俺には分かってたんだよ」
カイト:「それは違うだろ」
みんなはまた笑った。
オカネは、さっきから料理を興味深そうに見ていた。
オカネ:「キラナ」
キラナ:「ん?」
オカネ:「それは何ていう食べ物なんだ?」
キラナはオカネが見ている料理を見る。
キラナ:「これ?」
オカネはうなずいた。
キラナ:「ここで売ってる食べ物の一つだよ。食べてみる?」
オカネ:「いいのか?」
キラナ:「うん」
キラナはオカネが食べても大丈夫か確認してから、料理を渡した。
オカネは少しだけ食べてみる。
オカネ:「おいしい」
キラナは笑った。
キラナ:「よかった」
ハルト:「オカネも気に入ったみたいだな」
オカネ:「何か問題あるのか?」
ハルト:「いや、そういうわけじゃないけど。もっと好き嫌いがあるのかと思ってた」
オカネ:「ただ、新しいものを食べてみたいだけだよ」
カイト:「じゃあ、キラナとオカネは二人とも、新しい食べ物を見ると気になるんだな」
オカネ:「新しいものを試すのは好きだからな」
ハルト:「俺もだ」
カイト:「ハルトはちょっと違うだろ。食べることが好きなんだから」
ハルト:「それも正しい」
キラナは笑った。
食事を終えると、みんなは再び歩き始めた。
今度はいくつかの店に入って、気になるものを見て回る。
キラナとアイカは、何度か立ち止まりながら商品を眺めていた。
そんな中、キラナは小さなものを一つ見つけた。
それがすぐに気になり、手に取ってしばらく眺める。
アイカ:「それ、気に入ったの?」
キラナ:「うん。かわいい」
アイカ:「買う?」
キラナはもう一度、その小さなものを見る。
キラナ:「うん。たぶん買う」
そして、キラナはそれを買うことにした。
それだけでなく、お父さんとお母さんへの簡単なお土産もいくつか選んだ。
会計を済ませると、買ったものをバッグに入れる。
キラナは小さく笑った。
キラナ:「お父さんとお母さん、喜んでくれるかな」
アイカ:「きっと喜ぶよ」
キラナは自分のために買った小さなものを見る。
シンプルなものだった。
それでも、持っているだけで嬉しい気持ちになった。
キラナ:「これは大切に取っておこう」
アイカ:「今日の記念に?」
キラナはうなずく。
キラナ:「うん。あとでこれを見たら、今日のことを思い出せるように」
アイカは笑った。
アイカ:「それ、いいね」
みんなは再び歩き始めた。
しばらくすると、キラナはある場所で足を止めた。
目の前には、町並みの中に高くそびえる鐘つき堂があった。
キラナは驚いたように見上げる。
キラナ:「わあ……」
アイカ:「あれが時の鐘だよ」
キラナ:「すごくきれい……」
レン:「川越では、けっこう有名な場所だよ」
キラナは上を見上げる。
キラナ:「けっこう高いね」
レン:「うん。それに、特徴的な形をしてる」
オカネも首を上げて見上げた。
オカネ:「あれは何のためにあるんだ?」
レン:「鐘を鳴らすための塔だよ」
オカネ:「鐘?」
レン:「うん」
オカネは時の鐘をさらにじっくり眺めた。
オカネ:「面白いな」
みんなはしばらく時の鐘の周りで景色を楽しんだ。
キラナはまた何枚か写真を撮る。
すると、アイカがみんなを見る。
アイカ:「ねえ、みんなで写真撮ろうよ」
カイト:「いいね」
レン:「ここならちょうどいい」
ハルト:「撮ろうぜ」
キラナは笑った。
キラナ:「オカネも一緒にね」
オカネ:「もちろん」
みんなで写真を撮るのにちょうどいい場所を探す。
そして、キラナはしゃがみ、オカネが写真に写るように肩に乗るよう促した。
キラナ:「オカネ、肩に乗って」
オカネ:「分かった」
オカネはキラナの肩に乗る。
キラナは立ち上がった。
オカネはキラナの肩の上に乗っている。
キラナは全員が写真に入っているか確認する。
キラナ:「準備できた?」
アイカ:「できたよ」
ハルト:「早く撮ろう。誰か通る前に」
カイト:「笑って」
レン:「みんな入ってる?」
キラナ:「大丈夫だよ、レン」
そして、みんなで一緒に写真を撮った。
撮り終えると、キラナはすぐに写真を確認する。
写真の中では、みんなが時の鐘を背景に一緒に写っていた。
キラナは笑った。
キラナ:「わあ! いい写真!」
アイカ:「見せて!」
キラナはみんなに写真を見せる。
ハルト:「まあまあだな」
カイト:「まあまあって言ったな」
ハルト:「いや、いい写真って意味だよ」
レン:「キラナ、その写真、大切に保存しておくといいよ」
キラナはもう一度写真を見る。
そこには、自分とアイカ、ハルト、レン、カイト、そして肩に乗ったオカネが写っている。
シンプルな一枚。
それでも、キラナにとっては大切にしたい思い出だった。
キラナはスマートフォンをバッグに戻した。
そして、みんなで再び歩き始めた。
夏休み最後の日は、まだ終わっていない。
川越での一日も、まだ続いていた。
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しばらく歩いたあと、みんなは休める場所を探し始めた。
少し先に、座って休めそうな場所を見つける。
みんなはそこに座って休憩することにした。
しばらくの間、誰もあまり話さなかった。
長い間歩いてきたので、みんなで川越の雰囲気を楽しみながら、ゆっくり休んでいた。
やがて、アイカが通りのほうを見る。
アイカ:「なんだか、夏休みももうすぐ終わりって感じだね」
ハルト:「そうだな」
レン:「明日から、また学校だ」
ハルトはすぐにため息をついた。
ハルト:「それ、もう言わないでくれよ」
カイトが笑う。
カイト:「まだ心の準備ができてないの?」
ハルト:「俺はまだ休みたいんだよ」
キラナも小さく笑う。
キラナ:「私も、もう少し休みたいかな」
アイカ:「でも、夏休み前の最後の登校日って、ついこの間みたいに感じるよね」
キラナ:「うん……」
その言葉を聞いて、キラナは最後の登校日のことを思い出した。
7月19日。
夏休みが始まる前に、みんなで大掃除をした日。
あの日、みんなはまだ教室にいた。
教室を掃除したり、荷物を整理したりしながら、夏休みに何をしたいか話していた。
そのときは、これから始まる夏休みが、こんなにもたくさんの出来事を運んでくるなんて、誰も知らなかった。
キラナは小さく笑った。
キラナ:「あのときは、夏休みの予定を話してただけだったよね」
アイカ:「うん。私も覚えてる」
カイト:「でも、結局いろんなことをやったな」
レン:「予定していた以上のことがあったね」
ハルト:「そして、もう終わりそうなんだよな」
ハルトはまたため息をついた。
カイト:「でも、まだ終わってないだろ。今日はまだあるんだから」
ハルト:「分かってるって。夏休み全体が終わるって意味だよ」
キラナは小さく笑った。
キラナ:「まだ夜までは時間があるよ」
アイカ:「そうだね」
みんなは再び、しばらく黙っていた。
そのとき、キラナは何気なく近くに座っているオカネを見た。
オカネを見て、あることを思い出した。
最初から予定していた夏休みの出来事ではない。
誰も想像していなかった出来事。
オカネとの出会いだった。
キラナは、あの日のことを今でもはっきり覚えている。
2019年8月3日。
あの日、みんなはただいつものように一緒に歩いていただけだった。
まさか、二本の尻尾を持ち、人間の言葉を話す白い猫と出会うなんて、誰も思っていなかった。
そして、その猫が最終的にキラナと一緒に暮らすことになるなんて、なおさら想像していなかった。
キラナはオカネを見て笑った。
キラナ:「最初に会ったときのことを思い出すと、今でもちょっと変な感じがするね」
オカネが振り向く。
オカネ:「どうして?」
キラナ:「あのときのオカネ、ひとりで、すごく困ってたから」
オカネ:「実際、困ってたんだよ」
カイト:「俺も、初めてオカネが話したときの俺たちの顔、まだ覚えてるよ」
ハルト:「ああ。みんな一瞬、固まったよな」
アイカは小さく笑った。
アイカ:「私なんて、何を言えばいいのか分からなかった」
レン:「あの状況は普通じゃなかったからね」
オカネ:「俺も、あのときどうすればいいのか分からなかった」
キラナ:「帰れないかもしれないって、怖かったんだよね?」
オカネは少し黙った。
オカネ:「うん」
そして、前の通りを見る。
オカネ:「あのときは、家に帰る方法が見つかるのかも分からなかった」
キラナはオカネを見つめた。
あの日から、もうすぐ一か月になる。
オカネはキラナの家で暮らすことにも慣れた。
お父さんとお母さんのことも知っている。
そして、キラナや友達とも少しずつ仲良くなっている。
キラナにとって、今ではオカネの存在は日常の一部になっていた。
キラナ:「でも、今はちゃんと住む場所があるね」
オカネは小さく笑った。
オカネ:「うん」
オカネ:「みんなに会えて、本当によかったよ」
アイカが笑った。
アイカ:「私たちもオカネに会えてよかったよ」
ハルト:「まあ、最初は本当にびっくりしたけどな」
カイト:「いや、めちゃくちゃ驚いたけど」
オカネ:「俺も、あのときのみんなの顔は覚えてるよ」
キラナは笑った。
キラナ:「もう、それは何度も思い出さなくていいって」
みんなでまた笑った。
そのあと、話題は夏祭りへと移っていった。
アイカ:「夏祭りなら、私はあの雰囲気が一番印象に残ってる」
キラナ:「私も」
アイカ:「人も多かったし、提灯もあったし、みんな浴衣だったよね」
キラナ:「それに、花火も」
カイト:「すごくにぎやかだったな」
ハルト:「俺は食べ物が一番印象に残ってる」
カイトはすぐに笑った。
カイト:「やっぱりな」
ハルト:「何だよ?」
アイカ:「別に。予想どおりだなって」
レンも笑った。
レン:「あの夜も、いろいろあったよね」
キラナ:「うん」
キラナは少し黙った。
そして、これまでの出来事が、まるで小さなかけらのように感じられてきた。
最後の登校日。
友達とのお出かけ。
オカネとの出会い。
夏祭り。
何気ない会話。
一緒に食べたもの。
撮った写真。
一つ一つだけを見ると、どれも小さな出来事に見える。
でも、それらを全部合わせると、小さなかけらが一つにつながり、夏休みという長い一つの物語になっていた。
キラナは前を見た。
そして、桜森中学校での初日のことを、もう一度思い出す。
2019年7月8日。
あの日、キラナは転校してきたばかりの新入生のような気持ちで、学校へ向かった。
何もかもが知らないことばかりだった。
学校も違う。
周りの環境も違う。
日本語も、みんなが早口で話すと、まだ聞き取るのが難しかった。
そして何より、あのときは誰一人として知っている人がいなかった。
それから、まだ二か月も経っていない。
それなのに、すべてが変わった。
今では学校にも慣れた。
桜森の道も少しずつ分かるようになった。
仲のいい友達もできた。
そして今は、オカネもキラナの生活の一部になっている。
キラナは小さく笑った。
キラナ:「みんなに会えて、本当によかった」
アイカはすぐにキラナを見る。
アイカ:「私たちもキラナと友達になれてよかったよ」
ハルト:「うん。少なくとも、一緒に出かけられる友達ができたし」
カイト:「それに、食べに行ける」
ハルト:「それもな」
レン:「学校が始まってからも、またみんなで過ごすことになりそうだね」
カイト:「もちろん。まだ行ってない場所もいっぱいあるし」
アイカ:「やりたいことも、まだまだあるよ」
キラナはみんなの言葉を聞きながら笑った。
そして、オカネを見る。
オカネも笑っていた。
キラナは分かっている。
夏休みはもうすぐ終わる。
明日からは、また学校に戻る。
いつもの日常が戻ってくる。
でも、夏休みが終わったからといって、みんなとの時間まで終わるわけではない。
これからも、まだたくさんの日々がある。
また会って、話して、一緒に歩いて、新しい思い出を作ることができる。
キラナ:「じゃあ……学校が始まってからも、またみんなでよく出かけようね」
アイカ:「もちろん!」
カイト:「賛成」
レン:「いいよ」
ハルト:「食べる時間があるならな」
キラナは笑った。
キラナ:「はいはい」
オカネ:「じゃあ、俺も一緒に行くよ」
キラナはオカネを見る。
キラナ:「もちろんだよ」
みんなは再び、川越の雰囲気を楽しみながら過ごした。
夏休みは、もう終わりに近づいている。
けれど、キラナにとって、夏休みの終わりは、今まで始まったものすべての終わりではなかった。
学校へ戻れば、また新しい日々が始まる。
---
しばらくして、みんなは遅くならないうちに帰ることにした。
レンがスマートフォンで時間を確認する。
レン:「みんな、そろそろ帰らない?」
ハルト:「いいな。俺ももう疲れた」
カイト:「さっき休んだばかりじゃん」
ハルト:「それでも、早く家に帰りたいんだよ」
キラナは小さく笑った。
キラナ:「じゃあ、帰ろうか」
みんなも賛成し、立ち上がった。
歩き出そうとしたとき、アイカが突然立ち止まる。
アイカ:「あ、待って。帰る前に、もう一回だけ写真撮ろうよ」
キラナ:「もう一回?」
アイカ:「うん。今日の記念に」
カイト:「いいね」
レン:「僕も賛成」
ハルト:「撮ろうぜ」
キラナは笑った。
キラナ:「オカネも一緒ね」
オカネ:「もちろん」
みんなは写真を撮るのにちょうどいい場所に集まった。
キラナはもう一度しゃがみ、オカネが肩に乗れるようにする。
キラナ:「オカネ、もう一回肩に乗って。帰る前に最後の写真を撮ろう」
オカネ:「分かった」
オカネは再びキラナの肩に乗った。
キラナも立ち上がる。
そしてスマートフォンを持ち上げ、全員が画面に入っているか確認する。
キラナ:「準備できた?」
アイカ:「できたよ」
ハルト:「早く撮ろう」
カイト:「笑って」
レン:「大丈夫?」
キラナ:「大丈夫」
みんなで一緒に写真を撮った。
撮り終えると、キラナは写真を確認する。
そこには、川越の町並みを背景に、みんなが一緒に写っていた。
キラナは笑った。
キラナ:「いい写真だね」
アイカ:「あとでグループに送ってね」
キラナ:「うん」
キラナはその写真を保存した。
なぜか、この写真はいつかまた見返すことになるような気がした。
そして、そのときには、桜森で過ごした最初の夏を思い出すのだろう。
みんなは駅へ向かって歩き始めた。
時間は夕方になっていた。
川越の町も、先ほどより少し静かになってきている。
駅に着くと、みんなで電車に乗り、桜森へ戻る。
帰りの電車の中は、行きよりずっと静かだった。
一日中歩き回ったせいで、みんな疲れていた。
ハルトは座席に深くもたれかかっている。
カイトはときどき窓の外を見る。
アイカは今日撮った写真をもう一度見返している。
レンは静かに座っていた。
そしてキラナは、窓の外の景色を見ていた。
流れていく景色を眺めながら、キラナは7月8日から今日までのことを思い出した。
あの日、キラナは新しい学校の生徒として桜森にやって来た。
それから二か月も経っていない。
それなのに、たくさんのことが変わった。
友達ができた。
学校にも慣れた。
たくさんの思い出ができた。
そして、オカネが一緒にいることも、今ではすっかり当たり前になった。
キラナは小さく笑った。
でも、一つだけ変わらないことがある。
明日になれば、またみんなに会える。
同じ教室で過ごす。
一緒に勉強する。
そして、いつものように笑い合う。
電車は走り続け、やがて桜森に到着した。
電車を降り、駅を出る。
そこからみんなで、いつもの別れ道へ向かって歩いた。
交差点に着く頃には、空はもう暗くなり始めていた。
アイカが先に立ち止まる。
アイカ:「じゃあ、また明日」
キラナ:「また明日、アイカ」
カイト:「また明日」
レン:「また明日」
ハルトはため息をつく。
ハルト:「明日からまた早起きか……」
カイトが笑う。
カイト:「そりゃそうだろ」
ハルト:「まだ心の準備ができてない」
レン:「今朝からずっと、明日が学校だって分かってたじゃないか」
ハルト:「分かってるけどさ……」
キラナは小さく笑った。
キラナ:「じゃあ、みんな。また明日ね」
アイカ:「また明日!」
みんなは一人ずつ、それぞれの帰り道へ分かれていった。
キラナとオカネも家へ向かって歩き始めた。
夜が近づいていた。
---
家に着くと、キラナはオカネと一緒に玄関を開けた。
リビングにいたお父さんとお母さんが、すぐに振り向く。
お母さん:「キラナ、やっと帰ってきたのね」
キラナ:「うん、お母さん」
お父さん:「今日はどうだった? すごく楽しかったか?」
キラナは笑った。
キラナ:「うん。すごく楽しかった!」
お母さん:「二人とも、帰るの遅くなったね」
キラナ:「うん。けっこう長く歩き回ってたから」
お父さんはオカネを見る。
お父さん:「オカネ、今日はどうだった?」
オカネ:「すごく楽しかったよ、お父さん」
お母さんは笑った。
お母さん:「二人とも、楽しんできたみたいね」
キラナ:「うん。それに、一緒に写真も撮ったよ」
お父さん:「それならよかった。明日からまた学校だよな?」
キラナ:「うん」
お母さん:「じゃあ、あまり夜更かししないでね。学校の準備もしておくのよ」
キラナ:「うん、お母さん」
お父さん:「でも、その前に疲れてるなら少し休みなさい」
キラナ:「分かった、お父さん」
オカネ:「俺もキラナの準備を手伝うよ」
お母さんは笑った。
お母さん:「ありがとう、オカネ」
キラナ:「じゃあ、私たちは先に部屋に行くね」
お父さん:「ああ。まだお腹が空いてたら、ちゃんと食べるんだぞ」
キラナ:「川越で食べたけど、お腹が空いたらまた食べるよ」
お母さん:「分かった。でも、明日の制服を出しておくのを忘れないでね」
キラナ:「うん」
キラナとオカネは二階へ上がり、キラナの部屋へ向かった。
---
部屋に着くと、キラナは学校のバッグを開けた。
明日から、また学校が始まる。
キラナは必要な教科書を一冊ずつ準備していく。
筆記用具や、そのほか必要なものも用意した。
すべて終わると、バッグの中をもう一度確認する。
キラナ:「これで全部」
そして、クローゼットの中から学校の制服を取り出した。
制服を手にすると、キラナは改めて、もう一か月以上も毎日のように制服を着ていなかったことを思い出した。
その制服を見ていると、桜森中学校での初日の前の朝のことも思い出す。
あの日は、緊張していた。
これから何が起こるのか分からなかった。
アイカのことも知らなかった。
ハルトも。
レンも。
カイトも。
学校生活がどんなものになるのかさえ、まだ分からなかった。
でも、今はもう違う。
キラナはみんなのことを知っている。
1年2組の生活にも慣れた。
学校の毎日の流れも分かっている。
そして、友達の中に自分の居場所もできた。
キラナは、明日の朝にもう一度この制服を着ている自分を想像した。
あの頃、この制服は新しい生活へ踏み出すためのもののように感じていた。
今では、すっかり見慣れたものになっている。
キラナは笑った。
キラナ:「明日からまた学校だ」
そして、スマートフォンを手に取った。
眠る前に、キラナはスマートフォンの写真フォルダを開いた。
夏休み中に撮った写真を眺める。
三峯山へ行ったときの写真。
アイカ、ハルト、レン、カイトと撮った写真。
オカネと撮った写真。
みんなで訪れた場所の写真。
夏祭りの写真。
そして、今日、川越で撮った最後の写真。
キラナは一枚ずつ写真を見ていった。
どれも、長い旅の一部のように感じられた。
やがて、キラナは最後の写真のところで指を止めた。
そして、小さく笑う。
この夏は、日本へ引っ越してきてから初めての夏休みだった。
最初は、この先どんな生活になるのか、キラナには分からなかった。
ただ、新しい生活をちゃんと過ごしたいと思っていた。
でも、実際には想像していた以上のものを手に入れた。
友達。
いろいろな経験。
たくさんの思い出。
そして、自分の生活の中で出会った、とても不思議な存在。
オカネ。
すると、少し離れたところにいたオカネがキラナを見る。
オカネ:「夏休みが終わるの、寂しいのか?」
キラナはオカネを見る。
キラナ:「ちょっとだけ」
オカネ:「でも、嬉しくもあるんだろ?」
キラナは笑った。
キラナ:「うん」
キラナ:「明日、またみんなに会えるから」
オカネ:「それなら、そんなに寂しがらなくてもいいさ」
キラナ:「うん」
キラナは再びスマートフォンの写真を見る。
オカネ:「夏休みは終わっても」
オカネ:「思い出まで終わるわけじゃない」
キラナ:「そうだね」
オカネ:「これからは、またいつもの日々に戻るんだ」
キラナは笑った。
オカネ:「それに、これからまた新しいことがたくさんあるかもしれない」
キラナ:「そうだといいな」
キラナはスマートフォンを置いた。
そして、ベッドに横になる。
学校のバッグはもう準備できている。
教科書も用意した。
持ち物もすべて所定の場所に置いてある。
明日の朝、目を覚ましたら、また学校の日常が始まる。
でも、今回は少し違う。
もう、キラナは新入生のような気持ちで学校へ行くわけではない。
目を閉じる前に、キラナはもう一度、これまでのことを思い出した。
7月8日。
7月19日。
7月21日。
8月3日。
8月17日。
そして、今日、9月1日。
たくさんの日付。
たくさんの出来事。
たくさんの思い出。
そのすべてが、桜森で過ごした最初の夏の一部になっていた。
キラナは目を閉じた。
明日は2019年9月2日。
夏休み明け、最初の登校日。
また1年2組へ行く。
またアイカに会う。
またハルトに会う。
またレンに会う。
またカイトに会う。
また授業を受ける。
また学校の掃除をする。
また、いつもの日々を過ごす。
でも、今ではその「いつもの日々」は、もう知らないものではない。
なぜなら、キラナはもう、その日々の中に自分の居場所を持っているから。
夜はさらに深くなっていった。
やがて、キラナは眠りについた。
夏が終わった。
長い夏休みも終わった。
けれど、桜森でのキラナの旅は、まだまだ続いていく。
これまでの日々は、すべて、キラナが始めた新しい生活のほんの始まりにすぎなかった。
夏は終わった。
けれど、桜森でのキラナの日々は、今始まったばかりだった。
— 第1巻・完 —
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。
第1巻では、キラナが桜森中学校へやって来た7月8日から、初めての夏休みを終える9月1日までを描きました。
最初は何もかもが新しく、少し緊張していたキラナ。
でも、アイカ、ハルト、レン、カイトと友達になり、学校での日々を少しずつ楽しめるようになりました。
そして、夏休みには三峯山へ行ったり、夏祭りを楽しんだり、オカネと出会ったりと、たくさんの出来事がありました。
一つ一つは小さな出来事かもしれません。
それでも、それらが積み重なって、キラナにとって大切な思い出になっていきます。
夏休みは終わりました。
でも、キラナたちの日々はまだ始まったばかりです。
これから学校でどんな毎日を過ごすのか。
どんな場所へ行くのか。
そして、どんな出来事が待っているのか。
キラナたちのこれからの日々も、楽しんでもらえたら嬉しいです。
最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました。
それでは、また次の物語でお会いしましょう。




