夜の散歩
「お菓子はこんなもんでいいだろ」
コンビニを出た俺はお菓子の入ったビニール袋を持ちながら呟く。
スマホを確認すると時刻は19時過ぎ。すっかり日が暮れて夜になっている。
昼間は暖かいとはいえ夜になると少しだけ肌寒い。
俺は少し早めに帰宅しようと帰り道に踵を返したその時だった。
「空風くん……?」
「如月かこんな所で会うなんて奇遇だな」
目の前にいたのは黒髪ショートヘアーの少女ーー如月秋だった。
嘘告した後にも夢春や桜野は平気で会話してくる中で彼女だけは同じクラスでも俺に話し掛けては来なかった。
いや、というよりは彼女は普段から俺と同じく引っ込み思案な性格なのでそもそも自分から話し掛けるということをあまりしない女の子だった気がする。
それでも優しくて可愛いからなのか俺とは違って友達は多かった。
「奇遇だね……私は今気分転換に散歩してるんだけど。空風くんは何か買い物?」
「お菓子を買いたくなったからな」
俺はお菓子の入った袋を如月に見せた。そしてそのまま別れの挨拶をして自宅に向かって歩き出す。
そんな俺に対して如月は何故か俺の後ろに付いてきた。
散歩なら別に一緒の道を歩かなくたっていいだろうに。
いやこれは俺が悪い可能性もある。例えば彼女の歩きたい場所が俺の帰り道と同じだったとか。
それならばと俺はまたコンビニの方へと踵を返して歩くがそんな俺の後ろを彼女はまた付いていくだけだった。
「如月は俺に用があるのか?」
「よ、用があるってわけじゃないけど……一緒にお話がしたくて」
「なんだそういうことか。それなら話しながら散歩するか」
「……いいの?」
「むしろそれはこっちの台詞だ。俺なんかと話しても楽しくなんかないぞ」
「そ、そんなことないよ! 私はずっと空風くんと話したいって思ってたし」
「それならいいけどさ」
夜風に当たりながら俺たちは散歩を続ける。その間に俺たちは適当な話題を消費しながら雑談を続けていた。
そして話題は自然と部活動のことになった。
「そういえば如月って何か部活には入ってるのか」
「女子演劇部に入ってるよ」
それを聞いて失礼だけど意外だなと思ってしまった。
だって俺の知る如月は今みたいに引っ込み思案でとても人前で演劇をするようには思えなかったからだ。
「演劇部って大変そうだな。如月はどんなことをしているんだ」
「私は裏方だよ。脚本を書いたりしてて……本当は舞台にも出たいけど私はこんなんだから勇気が出ないんだよね」
「脚本を書いているのか! 凄いな!」
「そ、そうかな」
「だって自分の書いた物語が演劇になるんだろ。それって物凄いことじゃないか」
「ありがとう。私は人と話すのが苦手だから……でも文章だと伝えたいこと伝えられるからだから脚本担当になったんだよね」
「文章なら伝えたいことを伝えられるか」
彼女はそう簡単に言うけど俺はそんな如月がちょっと羨ましいと思った。
俺はラノベを読む。でもラノベを書くことは出来ない。
厳密には何度か挑戦をしたのだがその文章が思い浮かばずに筆を折ってしまったのだ。
「俺も昔はラノベ作家を目指していた」
「そ、そうなの!?」
「ああ……三時間で辞めたけどな」
「すぐに辞めちゃったんだ」
「そうだ。全然続けられなかった。だから分かるんだよ。ちゃんと脚本として物語を完成される……その大変さが」
「あ、ありがとう」
顔を真っ赤にさせて俯く如月。自分としては自信の無さそうな彼女に自信を持って欲しくて何より俺自身も純粋に如月のことを凄いと思ったからそう言っただけのことだった。
「……ちょっと今日は寒いね」
春になって暖かくはなってきたけど夜はまだちょっと寒い。
如月は少しだけ寒そうに両腕を抱き締めるように擦っていた。
「如月はコーヒーとココアならどっちが好きなんだ」
「好きなのはココアだけど」
俺はそれを聞くと自販機でココアを二個購入する。
そしてそのうちの一つを如月に渡す。それを受け取って如月は慌てた。
「そんな……悪いよ」
「気にするな。俺もちょうどココア飲みたかったしついでだよ」
「ありがとう……空風くんがくれたプレゼント。ちゃんと保管して末代まで大切にしておくね」
「いや飲めよ。じゃないと暖まらないだろ」
「そ、そうだった!」
両手で缶を大切に持つとホットココアをちょっとずつ口にして飲み始めた。
「暖かい……空風くんは優しいね」
「別にこれぐらい普通だろ。単に寒そうだったから放っておけなくなっただけだ」
なんて口では言ってみるが内心では如月にココア買ったのは大分と勇気のある行動だったと思う。
それでも買ったのは寒そうな彼女を見て何かしてやりたくなったからで彼女はそれを優しいと言っていたけど俺からすれば単純に自分のためにやっただけに過ぎない。
自分が如月の寒そうな姿を見たくなかったからココアを買っただけなのだ。
「でも放っておけなかったって思って飲み物まで買ってくれるのはやっぱり優しいからなんだと思うよ」
それに対しては何も答えない。否定しても肯定しても恥ずかしい気持ちになると思ったから。
「如月……家着いたから」
しばらく二人で話して歩いていたらすぐに家に着いてしまった。
如月は一人が寂しいのか少しだけしょんぼりとした表情になる。
でもすぐにそんな寂しい表情は消えて優しい表情へと戻った。
「じゃあな、帰り道気を付けろよ」
「うん……また明日お話しようね」
如月はそう言うと手を振って帰っていった。そんな彼女の後ろ姿を見届けながら自分も家の中に入るのだった。




