どうしてこうなった
「どうしてこうなった」
放課後の帰り道、俺は帰り道を歩きながら溜め息を吐く。
その横では桜野が近くにいて俺は桜野と手を繋いで帰っていた。
「仕方ないじゃん。恋愛漫画を描くには経験が必要なんだし」
「だからって俺と手を繋いでもドキドキなんてしないだろ」
「それは分からないじゃん。ドキドキしてるかも知れないしこれからドキドキするかも知れないんだしさ」
「そういうもんかねぇ」
俺は桜野と一緒に帰っている。ちなみにその後ろでは夢春が微笑ましげに俺たち二人を見ていた。
「でもこうしてみると結構お似合いなカップルなのでは?」
「そうか? むしろ俺と桜野じゃ釣り合わないと思うけどな」
「恋人としてはともかく私は友達としてなら結構好きだよ先輩のこと」
「それはありがたいけどな。でもこれは恋愛漫画を描く為なんだろう。友達として手を繋ぐんじゃ意味ないんじゃないのか?」
「そんなことないよ。その……私、男の人と手とか繋いだことないし……だから結構参考になるの」
「そうなのか。役に立ってるならいいけどさ」
互いに手を繋ぎながら道を歩く、確かに全く何も感じないと言えば嘘になる。
女の子と手を繋ぐのだドキドキしないわけがない。
だがそれは俺があくまで女慣れをしていないからだと思っていた。
でも横にいる桜野も何だか照れているのか顔が少し赤くて俯いてしまっている。
「それで恋愛漫画は描けそうか」
「ちょっとは……かな。手を繋ぐぐらいで描けたら苦労はしないって」
「確かに」
「でも手を繋ぐって結構恥ずかしいし恋愛漫画の女の子もこんな風に思ってたのかなってそう思うことは出来たよ」
「そうか」
本当はもっと色々と気の利いたことを言えれば良かった。
でも手を繋いでいるせいで意識がそっちに逸れて頭が上手く回らない。
恋愛経験の少なさがこういう時に顕著に出てしまった。
「というか俺と手を繋ぐの嫌じゃないのか?」
「全然……むしろ安心する。何ていうか普段からたまに見てたからかな」
「たまに見てたって俺とお前は違うクラスだろ」
ふとそこで気づく俺に嘘告してきた二人は同じクラスなので俺と面識がある。
でも桜野とは初対面だ。名前だって知らないなのにどうして彼女は俺のことを知っていたのだろう。
「クラスは違うけどさ。漫研で漫画をよく読んでたでしょ? だから先輩のことはよく見掛けてたんだ。そこでさ先輩の読んでる漫画が私も好きな漫画でさ……だからずっとこうやって話したりしたかったんだよね」
「話って別にお前友達多そうだし他の奴とも話したり出来るだろ」
「出来るわけないじゃん。そりゃ私は友達多いよ……でも誰と漫画の話をするわけ? 好きな漫画の話とかしても誰も興味なんて持ってないんだよ」
桜野が読んでいた漫画がどんなものかは分からないが彼女の周りにはそういった漫画の話を語れる人物がいなかったのだろう。
だからこそたまたま同じ漫画を読んでいた俺に興味を持ったという気持ちは何となく理解できた。
「そうだな。自分の好きな趣味を相手も好きだとは限らない。だから誰だって自分と同じ趣味の奴を見つけたら話してみたくなるよな」
「そういうこと。だからこうして先輩と話せるの実はずっと憧れてたんだよね。漫画の話とかさ出来るの先輩とだけだから」
「そういう意味なら安心してくれ。俺はかなりの漫画を読んでいるからな。それに知らない漫画だってお前が勧めるなら読んでみるよ」
「だったらこの漫画は知ってる?」
桜野は嬉しそうに好きな漫画の話をする。それは何気ないありふれた友達同士の会話だった。
でもその会話を今まで桜野はすることが出来なかったのだ。
だってその漫画は誰も知らない漫画だから、それを話したってみんな首を傾げるだけだから。
そんな誰も知らない漫画の話よりも誰もが知っている無難な話をした方が場は盛り上がるし友達だって喜ぶ。
ずっと彼女は我慢をしてきた。好きなものを語ることをしないようにしていた。
だからきっとこの何気ないありふれた会話は彼女にとってとても大切な会話でこの時間は待ち望んでいた一時だったのだ。
「ごめん……ちょっと話しすぎたよね」
「別に俺は楽しかったよ」
楽しかったのは事実。でもそれは漫画の話が楽しかったというだけではない。
漫画の話をする桜野を見るのが楽しかったのだ。
好きなものを話す人の姿ってこんなに魅力的に写るのだと少し驚いた。




