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意外な趣味

放課後。俺は漫画研究部の部室へと入る。漫画研究部ーー通称漫研はこの学園の第二の図書館とも呼ばれており多くの漫画が沢山の本棚に仕舞われており、それを部員であるかどうかは関係なく手にとって読むことが出来る。


「どうして私を漫研に?」


「……予定があったのなら悪かった。ただ俺は暇な時はこうやって漫研の部室に行って漫画を読むんだよ。でも一人で読むより二人で読んだ方が楽しいなって思ってさ」


普段は一人で時間を潰すために漫研に入り浸るのだが、今日は夢春と一緒にここに来ていた。

理由は彼女と漫画を読みたいから……というのもあるが本当の目的は夢春の夢中になれるものを見つけてやりたいと思ったから。

でもそれをわざわざ言うと何だか恩着せがましいし向こうに気だって遣わせてしまうだろう。

だから取り敢えず一緒に読みたいからという曖昧な理由で誤魔化すことにする。


「いえ、私も帰宅部なので特に予定とかはありませんよ。むしろ一緒に趣味を共有出来て少し嬉しいです」


「そうか。ところで夢春は漫画とか読むのか?」


「そこまで沢山の漫画を読む……というわけではないですけど人並み程度には読むかなって感じですね」


夢春の人並みがどの程度かは分からないが彼女の様子やラノベに疎かったことを見るに漫画をそこまで読んでいないことは何となく想像できた。


「夢春は読みたいジャンルの本とかあるか? ここは結構広いからな、好きなジャンルの漫画が置いてある本棚まで案内するよ」


「そうですね。特にこれといって好きなジャンルがあるわけではないですが強いて言うのであれば恋愛漫画とか読みたいかも知れません」


「恋愛漫画か悪くないんじゃないか」


俺も恋愛漫画は読んだりする。いやもっと言えば恋愛漫画もファンタジー漫画もホラー漫画も基本はどんな漫画だって俺は読むし好きだ。

なので夢春が恋愛漫画を読みたいと思っても特に驚くことはなくその本棚に案内する。


「ここから先が恋愛漫画の本棚だ。少女漫画でもハーレムラブコメでも好きなのを取ればいい」


「はーれむ? よくは分かりませんが面白そうなものを探してきますね!」


夢春は本棚の本を真剣に見ている。その間に俺も何か面白い漫画はないかと適当な本棚から漫画を探していると。


「あれは……桜野か」


椅子に腰掛けて何やら真剣そうな表情で漫画を読んでいる。

一体どんな本を読んでいるのかと気になってそっと桜野の近くに移動して漫画を見た。


「ラブコメ漫画を読んでいるのか何か意外だな」


「んー? なんだ先輩か」


昼休みのテンションより少し低めな様子で漫画を読んでいる。

何というかおおよそラブコメの漫画を読んでいるとは思えないほどに真剣な表情をしていた。


「ラブコメ好きなのか?」


「好きというか……勉強のために読んでいるというか……」


「勉強……?」


「あと少しで漫画の公募があるんだよ。それでその公募のジャンルが恋愛だからストーリーとかコマとかの参考に漫画を読んでるわけ」


桜野の趣味が漫画を描くことだと知って少し意外だなと思う。

桜野の性格は話している感じだと明るくて気さくで笑顔がキラキラしていていかにもオタク趣味とは掛け離れた人物のように思える。

だが実際はこうして漫画を真剣に読み込む当たり漫画が大好きな人のようだった。


「でもあんまり上手くいってないみたいだな」


「そうなんだよ! 実は私……恋とかしたことなくてさ! それでなんでこいつらみんな相手のこと好きになってんのって考えちゃうわけ!」


「もうそれ恋愛漫画向いてないだろ」


「ひどーい! 私は真剣に悩んでるんだよ!」


「悪い悪い。というか恋愛なんて理由なくても成立するもんだろ。それこそ見た目が好みとかそんなので簡単に好きになるもんだよ」


「そうかもしんないけどさぁ。夢がないっていうか恋愛を主軸に漫画を描くなら相手の見た目だけじゃなくて中身というか心情も描きたいじゃん」


桜野の言葉には一理ある。現実の恋愛でも見た目が好みとかはあるかも知れないが結局は相手と会話をしたりしてもっと相手をよく知って好きになっていくものだ。

それを漫画で描くとなればなるほど恋愛経験のない桜野では大変だろうなと思う。


「先輩はさ。恋愛の経験はないの……?」


「うっ……」


彼女の言葉に昔のことを思い出して顔を青くする。

それを見て恋愛経験がないと思われたのか桜野は軽く笑った。


「さては私と同じだなぁ! 恋愛とかしたことないんだ」


「……俺は陰キャだからな。恋愛経験なんてあるわけないだろ」


昔のことを話したくはないので恋愛経験はないと嘘をついた。

そんな風に俺たちが会話をしていると夢春がラブコメ漫画を手にとって戻ってきた。


「二人とも何の話をしているんです?」


「夢春! ちょうど良かった夢春は恋愛の経験とかある?」


「恋愛ですか……あんまりそういうの分からないんですよね」


「その割には恋愛漫画読みたいって言ってたよな」


「はい。むしろ恋愛経験がないから憧れるんです。漫画の人たちはみんな恋愛に夢中になっているじゃないですか。だから私もこんな恋愛をしてみたいです」


そうか夢春は夢中になるものがないから、恋愛に夢中になれる登場人物に憧れるんだなと思った。


「夢春先輩も私と同じなんだ! でも夢春先輩って男子女子にモテるじゃん? 好きな人とかいないの」


「好きな人なら居ますよ?」


「だれだれ?」


「ほら私の目の前に」


そう言って俺の方を指差す夢春。そういうのは勘違いするから辞めて欲しい。

彼女が俺のことを気になるといったのはあくまで友達としてということだろう。

勿論夢春は俺に対して好意を持ってくれてはいるのだろう。


でもそれは恋愛感情のものではなく友達としてのものだ。

俺はそれを重々承知しているので舞い上がったりはしない。


「よくそんなこと言えるよな。勘違いしたらどうするよ」


「私は正直に答えただけなのですが……勿論恋愛感情ではなく友達としてですけど」


「うーん。でも困ったなぁ身近に恋愛を経験してる人がいないとなると漫画が進まないし」


「俺たちでは頼りないかもしれないけど何か手伝えることがあったら言ってくれ。なるべく協力はするからさ」


漫画を描きたいという想いは本物だ。だからこそ何かしら力になれればと思いそんなことを口にした。

それに対して桜野は少し言いにくそうにこちらを見て小さな声で呟く。


「それなら手伝って欲しいことがあるんだけど」

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