精神的後輩
屋上のベンチ。そこで俺たちは弁当を食べる。
本当は教室で食べるつもりだったのだが桜野がとっておきの食事場所があると教えられて屋上で食べることになった。
屋上は人気がないのかいるのは俺たちだけで眺めも良くて風も凄く気持ちいい。
桜野の言う通りここで食べるのは案外悪くないかもしれない。
「あの……そういえば気になっていたのですが桜野さんって去年同じクラスでしたよね? 何故先輩呼びを」
「それは私が精神的後輩だからだけど?」
「なるほど精神的後輩なら仕方ないですね」
「お前今ので意味分かったのか?」
「何となくは分かりました。要するに自分が後輩と思えば後輩であり先輩だと思えば先輩ということですね」
「そういうこと! 夢春は物分かりが良くていいね!」
二人は謎の共感力ですっかり仲良くなっていた。
そんな二人を見ながら俺はこの状況に未だに馴染めずにいた。
いやそもそも馴染めるわけがないのだ。今まで一人ぼっちだったというのに今目の前には学園でもかなりの人気美少女である夢春と見た目が可愛くて明るい性格の桜野が側にいて一緒に弁当を食べている。
その状況に緊張してしまうのは無理のないことだろう。
「というかまだ夢春は分かるとして桜野はなんで俺と一緒に弁当を食べたがる」
「クラスメイトと一緒にご飯を食べる……それに理由なんていらないよ!」
「俺とお前一緒のクラスじゃないだろ」
「ほら嘘告しあった仲なわけだし」
「嘘告したのはお前だけで俺はされた側だ」
「細かいなぁ! 一緒に食べたくなった! それだけでいいじゃんか!」
どうやらそれ以上の詮索はして欲しくないのか彼女は強引に話を終わらせる。
この様子だと夢春とは違って何かしら一緒に食べることに理由があるのだろう。
それが何なのかは何も分からないが。いや心当たりはある。というかこれしかないだろう。
俺は手元にあるお弁当をじっと見つめる。妹が作ってくれた美味しいお弁当、その味は家族の味だ。
恐らくはこのお弁当を狙って桜野は俺に話し掛けてきたのだ。
「言っておくが俺の弁当はやらんぞ」
「何の話?」
「惚けても無駄だ。俺のお弁当を食べたかったから話し掛けてきたんだろう」
「お弁当ごときで隣のクラスまで先輩に話し掛けたりしないって」
「お弁当ごときだと! これは妹が作ってくれたお弁当なんだぞ!」
「うわぁ……」
「そのドン引きな感じはやめてくれ。ちょっと妹への愛が重いだけだ」
「うわぁ……」
俺の妹の愛にドン引きする桜野。その引き方があまりにもガチなのでしょんぼりする。
そんな俺に対してというか俺のお弁当に対して夢春は興味津々に覗いていた。
「妹さん……凄く料理が上手なんですね。見た目も鮮やかで綺麗です」
「妹は家庭料理部にいるからな。かなり料理の方は上手いと思うぞ」
「空風さんは料理しないのですか?」
「昔は作っていたよ。味としては妹には到底叶わないけどな」
俺は料理自体はあまり得意ではない。それでも昔は慣れないながらに料理を作って愛梨に食べさせてやったものだ。
愛梨はそれに対して微妙な顔で美味しいと言ってくれた。
つまりあんまり美味しくなかったということだろう。
でもそれでも愛梨は俺の手料理を喜んでくれたので何度も作って食べさせた。
もっとも今では私が料理を作るからと言ってほとんど俺に料理を作らせてはくれない。
「そういう夢春はこれ自分で作ったのか?」
「勿論です。私、結構料理作るの好きなんです。でも……」
「でも?」
「高校になって一人暮らしをしてからは料理を作っても基本的に食べるのは自分だけなんですよね。勿論自分で作るのも良いのですがやっぱり誰かに食べて貰って味の感想とか聞きたいです」
「そうか」
「やはり食べて貰って味の感想とか聞きたいです」
「……何故同じ言葉を?」
「やはり食べてーー」
「……分かったよ。俺にお前の弁当を食べさせてくれ」
「えーどうしようかなぁ」
「お前なぁ……」
「冗談ですよ。さ、桜野さんも食べて下さい」
そう言ってお弁当を箸で器用に使って桜野におかずを渡す。
そして俺にも同じようにおかずを挟んで……そこでふと動きが止まる。
「あーんしてあげましょうか?」
「いや……普通に食べるよ」
「そうですか残念です。何だかあーんとかしたら夫婦みたいで面白いと思ったのですが」
「それで面白いと思えるお前の感性が怖いよ」
そう言いながら頂いたおかずを口にする。予想以上に美味しかった。
これは愛梨の料理に匹敵する美味しさだ。こんなに美味しい料理を作れるのが妹以外にいたとは。
「どうでしょうか?」
「凄く美味しいよ! 俺は料理とか全然ダメだったからな。こんなに美味しく作れるの素直に羨ましいよ」
「ふふっ、ありがとうございます。いつか空風さんの料理も食べてみたいです」
「俺の料理をか? 妹じゃなくて」
「だってどれだけ美味しくないのか気になるじゃないですか」
「そういう意味か……」
確かに美味しい料理なら味は美味いのだと頭で想像しやすいが微妙な味だと美味しいのか不味いなか不味いのならばどれだけ不味いのか気になるものなのかも知れない。
まあ流石に美味しくない料理を出したくはないので彼女に食べさせることがあるとすればその時にはちゃんと料理の腕を上げてから食べさせることにするが。
「そういえば桜野は自分で料理を作ってるのか?」
「まー作ってはいるけどさ。流石にこんなに美味しい弁当を食べると自信失くすなぁ」
「大丈夫だ。俺だってそんな料理は得意じゃない。だから多少不味くても問題ないと思うぞ」
「少なくとも先輩よりは美味しく作れる自信あるけどね」
桜野は弁当から卵焼きを俺に渡す。さてどれだけ不味いのか確かめてやろう。
俺は卵焼きを口に運ぶ。確かにその味は愛梨や夢春に比べれば味は劣るのかもしれない。
でも普通に学校の食堂の卵焼きよりも美味しいし自信を失くす必要はなかった。
「なんだ。普通に美味いじゃないか全然レストランとかで通用する味だ」
「あ、当たり前だよ! 私だって料理してきて結構長いんだし」
「くっ……! そうなると俺が一番料理が下手なことになるのか」
「いつか先輩の料理を食べれることを楽しみにしてるね! 不味かったら滅茶苦茶馬鹿にしてあげるから」
余程料理を褒められて自信が付いたのか嬉しそうな表情を浮かべて桜野はそんなことを言うのだった。




