ただもう一度戻れる気がして
「夢春から着信か……?」
自分の部屋の中。俺は自宅でのんびりと過ごしていると夢春から電話が掛かってきた。
俺はスマホを耳に当てて電話に出る。
「空風さん……すみませんこんな時間に電話しちゃって」
電話越しの夢春の声は少しだけ弱っているような気がした。
でもそれはもしかすると直接会っていないからなのかもしれない。
夢春はいつも会って話す時は笑顔だからその表情を見て実際よりも明るい人だと思ってしまうのかもしれない。
「別にいいよ。何かしてたわけでもないからな……それで何か用か?」
「用がないと掛けちゃダメですか?」
「別にダメじゃねーけど……何か生徒会のことで話でもあんのかと思って」
「いえ……生徒会のことは今回は関係ないです。ただ純粋に貴方と話したくて電話したんです」
「そっか……俺なんかと話しててもつまらんぞ」
「そんなことないですよ。私は空風さんと一緒に話してるときが一番楽しいですから」
「……お前なぁ……そんなことばっかり言うから勘違いするんだろ」
その言葉に電話の向こうの夢春は黙り込む。きっと俺も夢春もあの学園祭の頃を思い出していた。
俺は夢春のことを好きだと言った夢春は俺のことを好きだと言ってくれた。
でもその好きには大きな違いがあった。俺の好きは恋で夢春の好きはそのままの好きだった。
それが明らかになった時、俺たちは両想いではないことが分かったのだ。
「あの……もし良ければなのですが一緒に散歩しませんか?」
「散歩って結構夜中だぞ……いやまあいいけどさ。それでどこで待ち合わせする?」
「それなら近くの公園で待ち合わせしましょう。入口付近で待ってますね」
「ああ」
その言葉を聞いて満足したのか電話が切れる。正直こんな時間に電話を掛けないで欲しい。こんな時間に会おうなんて言わないで欲しい。
こっちは電話で話すだけで嬉しくなって眠れなくなるんだ。
いきなり会おうなんて言われたらお洒落とかどうするんだよ。
ちゃんと服ぐらい選ぶ時間が欲しいし身嗜みだって整える時間が欲しいんだ。
だから今度からはいきなりじゃなくて事前に教えて欲しいと思ってしまった。
「……結局俺が一番未練がましいんだろうな。たかが会えるだけで楽しみなんかしてさ」
別にデートってわけでもない。なのに夢春と二人きりになれるのが嬉しかった。
そして嬉しいと思っていることがとても悲しかった。
ーーー
秋の公園……といってももう季節は十一月を過ぎていて秋というよりは冬といった方が正しいように感じる。
そんな冬の公園で少し厚着の夢春が入口付近で立っていた。
「夢春……来たぞ」
「ふふっ、待ってました。来てくれて嬉しいです。それにしても……」
夢春は何故か俺の方をじっと見てくる。一体何のつもりだろうか、変な格好でもしてしまったかと不安になる。
「なんだよ……」
「い、いえ……何かいつもよりカッコいい感じがして」
「急に変なこと言うなよ!」
「すみません……ただ何だかいつもより服装がお洒落だなと思って」
「う……」
「もしかして私の為にお洒落してきたとか」
「……いいから歩くぞ。散歩するんだろ立ち話だけだと体が冷える」
「今露骨に話を反らしましたね」
ちょっと拗ねたように頬を膨らませる夢春。そんな夢春を無視して歩こうとするが夢春に呼び止められてしまう。
「待ってください。散歩する前に聞きたいことがありまして」
「聞きたいこと?」
「あ、いえ……そんな身構えることではなくてですね。私はどうかなと思いまして」
「何の話をしてるんだ?」
いまいち要領を得ない彼女の言葉を不思議に思っていると夢春は照れたように口を開いた。
「私は……私の格好はどうですか? 一応空風さんに会えると思ってお洒落な服を着てきたんですけど」
「さあな俺にはお洒落とか良く分からないからな」
「そうですか……」
「でも俺は凄く可愛いと思う」
「本当ですか! それなら頑張ってお洒落して良かったです!」
俺に服装を褒められたのが嬉しいのか満面の笑顔で笑う夢春。
俺はそんな夢春と一緒に公園内を歩く。まだギリギリ秋といえる今の季節は十分に寒い。
一応夢春も俺も秋というよりはほとんど冬の格好で寒さを凌いでいる。
「なぁ夢春……夢春はなんで生徒会長になったんだ?」
雑談している中でふと気になったので俺は生徒会長に立候補した理由について尋ねてみる。
もっとも尋ねておきながら実のところ何となく予想は出来ていた。
きっと夢春は夢中になるものを探すために生徒会長になろうとしたのだ。
生徒会長の活動に夢中になれると思って彼女は立候補したのだと思った。
「それはですね……口実が欲しかったんです」
「……え?」
「空風さんとちゃんと話す口実が欲しがった。生徒会長に立候補して選挙活動をすれば選挙活動に手伝って欲しいって空風さんに話し掛けられるじゃないですか……その口実のために私は生徒会長に立候補したんです」
それは理由にすれば単純な理由だ。その理由を下らない理由だと言ってしまうことも出来るだろう。
でもその下らない理由のために彼女は生徒会長に立候補したのだ。
たかが俺と話すためだけに決して楽じゃない生徒会長になると決めたのだ。
「空風さん……ごめんなさい」
「……急にどうしたんだよ」
「ずっと謝りたかったんです。学園祭の時、私は空風さんの気持ちをちゃんと受け取らなかった。それで貴方を傷つけてしまった……ずっとずっと謝りたかった……本当にごめんなさい!」
気がつけば夢春は泣いていた。夢春にとって俺を分け合おうという提案は彼女のみんなと仲良くしたいという気持ちから出た提案だった。
でもそれは恋には通用しなかった。俺は夢春の頭をそっと撫でる。
柔らかくて綺麗な紙の感触が伝わった。
「気にすんな。正直傷ついてはいるけど……気にしてない。俺がちょっと期待しすぎてただけなんだ。夢春が俺のことを好きだと……期待しすぎてただけなんだよ」
「まだ期待していますか? 私が空風さんを好きだと」
「期待は……分からない」
「私は期待に応えたいです。確かに学園祭の時も空風さんのことは好きでした。でも今の私の好きは……その時とは違うもっと違う好きな気がするんです」
「……夢春」
「まだ分かりませんけどね。でもこの好きが恋なら良いなと思ってます。なのでその時は私の告白を聞いて欲しいです」
「残念……悪いが夢春の告白を聞くつもりはない」
「そうなんですね……」
「その時は俺が夢春に告白するから」
「空風さん……分かりました! 待ってますね!」
夢春はそういって笑顔で笑った。




