セツナの目的
学校内ホール。そのホールの会場にはこの学園の全生徒が集まっている。
集まった理由は生徒会選挙の最初の演説が始まるためだ。
生徒会選挙は選挙前演説と投票前演説の二つの演説がある。
選挙前演説は選挙活動開始の合図と共に立候補した目的と応援を呼び掛ける演説だ。
そして投票前演説は最後にもう一度自分の信念を語り投票を呼び掛ける演説だった。
今回の演説は選挙前演説。ここで学園内の施策を語ったり自分が生徒会長になる理由などを語り応援を呼び掛ける。
何人かの立候補者が段の上に上がりみんなの前で生徒会長に立候補した理由と生徒会長になった後にどんなことをするのかを説明していく。
そのほとんどが何も驚きのない普通の内容だった。
そんな立候補者たちの言葉を聞きながら俺は冬咲セツナが演説するのを待っていた。
恐らく彼女の学園を滅ぼす方法はこの演説でセツナ自身が説明してくれるだろう。
そしてその方法が俺の考えと同じならば本当に冬咲セツナはこの学園を滅ぼせてしまうかも知れなかった。
「……来たね。あれがセツナちゃんだよね」
「……ああ」
冬咲セツナの名前が呼ばれ彼女がゆっくりとみんなの前に出る。
そして覚えてきたのか紙などを使わずみんなの前で演説を始めた。
「皆様こんにちは生徒会長に立候補する冬咲セツナですーー」
セツナは最初はみんなが良く言うような内容を口にする。
それに対してみんなはもう何度目かの似たような内容を聞いて話し半分に耳を傾けていた。
でもそんな内容がある一言から一気に変化した。
「ところで皆様は恋をしたことがありますか?」
選挙活動の演説。そんな場所で急に恋という単語が出て全員の視線が一気にセツナに集中した。
これがセツナの力だった。本来ならば生徒会長の立候補演説に恋の話なんてしやしない。
勿論したって問題はないが普通はそんなの恥ずかしくて出来ないだろう。
でもセツナはそれを簡単に出来てしまう。だって彼女は自分のことなどどうでも良いのだ。
故に自分が恥ずかしい想いをしようとも結果としてそれで目的を達成できるのならば自分のことを雑に扱うことが出来る存在だった。
「私はあります。恋愛は素晴らしいものです暖かくてふわふわしてドキドキするものです。私も昔好きな人がいたのですがその人に声を掛けることすら出来なくて悩んだものです」
恐らく彼女が言っていることは全部嘘のフィクションなのだろう。
でもそれが問題ではない。一体この謎の恋バナに何の目的があるのかが分からなかった。
しかし生徒の注目を集めるのには成功しているようでみんながセツナの言動に聞き入っていた。
「そんな時、私は思いました。気軽に恋の相談を出来る人がいればと……それは何も恋だけではありません。友達との仲直り、成績の下降、家族との不和、皆様きっとそれぞれ心に悩みを抱えているはずです」
恋の話で一気に全員の興味を持っていきその後に自然と彼女は生徒会長の施策の話に移そうとしていた。
彼女の言語センス、可愛らしい華奢な見た目、聞き心地の良い優しい声。
そのどれもが他の選挙立候補者とは比べ物にならなかった。
「悩みを抱えている時、皆様はこう思いませんでしたか? この悩みを相談できれば良いのにと寄り添ってくれる人がいれば良いのにと。私が寄り添います。皆様の心に……」
その言葉を聞いて彼女の目的が自分の予想通りだったことを確信する。
そう冬咲セツナが生徒会長になってやろうとしている事それはーー。
「私が生徒会長になってやりたいことは相談室の設置です!」
相談室の設置。それがセツナの目的だった。そしてその相談室を使うことで彼女はこの学園を滅ぼそうとしているのだ。
「凄い……本当に空風くんの言う通りだったね」
「……ああ、そうだな。でもこれでセツナが本気で学園を滅ぼそうとしているのは分かった」
「あのさ……まだいまいち分かんないんだけどなんで相談室を設置したら学園が滅んじゃうわけ? 相談室とか滅茶苦茶良いことのように思えるんだけど」
俺たちの会話やセツナの演説を聞いて桜野は首を傾げていた。
「そうだな。例えば桜野が俺のことを好きだったとする」
「え!? あ……うん」
「それを相談室で相談するとどうなると思う?」
「どうなるも何もアドバイスしてくれるんじゃないの?」
「勿論それもそうなんだがそうじゃなくて、大切なのは自分の恋心をセツナに知られてしまうって所だ」
「……あ!」
「悩みってのはその人の弱味でもある。例えば桜野に空風への気持ちをバラされたくなければ悪いことをしろって脅すことも出来るってわけだ」
「逆に悩みを解決してあげて相手を信頼させて依存させることも出来るかもしれないよね。相談で相手の悩みを知ればそれだけ相手を不幸にすることが出来るんじゃないかな」
もっともそれを可能にするには尋常じゃないカリスマが必要になるわけだが、クラスのほとんどを壊滅させたセツナならばそれも容易に思えた。
そんな俺たちの会話など知らずにセツナは演説を続ける。
「同じ悩みを伝えるやり方として目安箱があります。しかし目安箱では匿名な分、相手がどれだけ真剣に悩んでいるのか分からない部分があります。なので私たちはちゃんと顔を合わせて誰なのか分かった上で相談に乗ってあげたいのです」
セツナはそういって最後に挨拶を済ませて演説を終わらせた。
みんな彼女の言葉に聞き入っていた。それだけ彼女の演説は凄かったのだ。
「正直この後の立候補者は苦労するだろうな。セツナのすぐ後の人なんてどうしたってセツナと比べられるだろうし」
そんな呑気な事を言っていると次の立候補者が前に立つ。
そしてそれを見て項垂れる。だって次に名前を呼ばれたのは夢春だったからだ。
「ところでさ。夢春って何を話すつもりなの? 私、夢春が生徒会長になってやりたいこと聞いたことないんだけど」
アイツにやりたいことなどない。生徒会長になったのはあくまで俺と会話する口実が欲しかっただけに過ぎない。
でもだとすれば彼女は何について話すつもりなんだ?
「なあ如月……お前が台本を作ったんだよな? 夢春は何を話すつもりなんだ?」
「それが台本を作ろうと思ったんだけどアドリブでやるから大丈夫って言われて」
「そうなのか」
実際夢春はアドリブでも平然と演説を続けている。
そしてついに生徒会長になって行う施策について説明することになった。
「私が生徒会長になってやりたいことはーー相談室の設置です!」
セツナの目的は既に夢春にも伝えてある。それを聞いて夢春はわざとセツナと同じ施策で演説をしようと思ったのだろう。
でもそれは無理のないことだった。相談室の設置というそれなりに奇抜でそれでいて悪目立ちのしない施策。
それと同じほどに優れた施策などそう簡単に思い付くものじゃない。
それならいっそのこと同じ施策を唱えることで夢春とセツナの投票を施策の差ではなく単純な人気の差にしようとしたのだ。
それにしてもセツナの後に全く同じ施策を動揺せずに言えるのは流石だなと俺は夢春を見ながら思った。




