夢春の提案
「空風さんこっちですよ!」
「お、おい……一体何をするつもりなんだ」
学校の外、俺は夢春に手を引かれて校門へと向かっていた。
さっき俺は夢春に告白した。それに対して彼女は返事をすることなくそれならばと俺を引っ張って走り出したのだ。
「もう一度聞きますが空風さんは私の事が好きなんですよね?」
「そ、そうだよ」
「それで如月さんは空風さんが好き。もし私と空風さんが付き合えばきっと如月さんは辛い想いをしますよね?」
「……そうだな」
それは分かっている。俺と夢春が付き合うのならば如月の告白は拒絶しなければならない。
その事は辛い。でも俺は覚悟が出来ていた。例えそれで如月を傷付けることになっても俺は彼女を振るつもりだ。
「でも安心してください! 良い方法があるんです!」
「良い方法……?」
「はい! その方法を使えばみんなの恋が結ばれる方法があるんです」
それを聞いてそんな方法はないだろうと思った。
でも夢春はいつだって俺を助けてくれた。一人でいる俺に声を掛けてくれたし彼女のおかげで悪夢を見なくなった。
今回も夢春ならば本当にみんなの恋が結ばれるんじゃないかと思えてしまう。
「見つけました! 如月さん! 空風さんを連れてきましたよ」
「夢春ちゃん……? なんで夢春ちゃんもここに来ているの?」
「空風さんから教えてもらったんです。ここで告白の返事をする予定だと」
夢春はいつもの真っ直ぐな優しい表情を浮かべる。
それに対して如月は少しだけ戸惑っていた。当たり前だ。告白の返事を待っていたら何故か俺だけではなく夢春まで一緒に来たのだ。
如月としては振られるにしろ恋人になるにしろ夢春にはいて欲しくないだろう。
「……そうなんだ。空風くんを連れてきてくれたんだね。でも夢春さんは出ていってくれないかな。流石に夢春さんの前で振られたくないからさ」
「待ってください! 実は空風さんは私の事が好きなんです!」
「……え?」
夢春の突然の言葉に如月は信じられないといった表情で固まる。
夢春は突然何を言っているんだ? 勿論俺は夢春のことが好きだ告白だってした。それは事実だ。
でもそれを言うタイミングがある。それを言うのは本来ならば俺が言うべき言葉で如月の告白を断ってから言うべき言葉だった。
「空風さんは私が好きで如月さんを振るつもりみたいなんです」
「……それが事実ならさ……せめて夢春ちゃんからじゃなくて空風くんから聞きたかったな」
「如月さん落ち込む必要はありません。大丈夫ですから!」
「は……はぁ? 大丈夫ってなに? 何も大丈夫じゃないよ? 今私は振られてるんだよ? 本人の口からじゃなくて本人の好きな人から!」
「如月……夢春は何か考えがあるみたいなんだ。だから聞いてくれないか?」
一体何を考えているのか分からない。それでも俺は夢春を信じることにする。
「如月さん……貴方の気持ちは痛いほど理解できます。空風さんと付き合えなくて辛いんですよね……でも私も空風さんが好きです。なのでこういうのはどうでしょうか」
夢春はいつものように自信満々といった様子で言葉を続けた。
「二人で空風さんを分け合うんです! 二人で恋人になって空風さんと付き合うというのはどうでしょうか」
夢春の言葉に俺と如月は黙り込む。これがきっと夢春の考えという奴なのだろう。
「夢春ちゃん……私を馬鹿にしてるの?」
「えっ? なんで二人ともそんな反応なんですか……二人で彼女になれば空風さんも嬉しいですし如月さんだって空風さんと恋人になれるじゃないですか」
「ふざけないでよ! そんなので良いわけない!」
「……え?」
「私ね……別に振られても良かったんだ。空風くんが夢春ちゃんの事が好きで夢春ちゃんも空風くんの事が好きならそれも仕方ないなぁって思ってたの」
如月は静かに俺の方へと歩み寄る。そして俺の手を強く掴んだ。
「でも無理だ。私、夢春ちゃんに空風くんを渡さない……渡せないよ。好きな人を他人と分け合っても良いなんて言えちゃう人なんかに渡せるわけがない!」
「どうしてそうなるんですか!」
「だったら夢春ちゃんは私が空風くんとキスをしても何とも思わないの?」
「それは……」
「恋人を分け合うってそういうことだよ? 私は無理だ。空風くんを誰かに渡したくないずっと空風くんと一緒にいたい。それが好きって気持ちなんだよ。貴方の好きは恋じゃない……恋をしているなら好きな人を他人と分け合おうなんて言えないんだよ」
如月はそう言って俺の手を引っ張る。もう夢春と会話をするつもりはないみたいだった。
俺はそれでも夢春に何か声を掛けたいと思った。
でも何も思い浮かばなかった。だって俺も夢春に分け合おうと言われて悲しかったから。
その時に分かってしまったのだ。夢春の好きは誰かと分け合える程度の好きで俺の抱いている好きとは違うということを。
「空風くん……ごめんね。でも私、空風くんのこと離さないから」
如月は俺の手を強引に引っ張る。俺はなすがままに彼女に手を引かれていた。
「ま、待ってください!」
夢春が俺の方へと駆け寄ると手を掴む。
「空風さん……貴方も私を独りにするんですか?」
「それは……」
俺は夢春に掴まれて動きを止める。でも如月が更に俺を強く引っ張って夢春の手は離れてしまった。
夢春に何も言えなかった。でも言えることも何もなかった。
俺たちは互いに別れの言葉さえ言えずに離れたのだった。




