抱えた想い
「はぁ……なんか緊張するなぁ」
私は待ち合わせ場所で溜め息を溢した。結局如月と会話した結果、私は先輩とデートに行くことになった。
先輩とのデートはこれが初めてではない。前だって漫画の参考にという理由で何度か先輩と出掛けたことはある。
勿論その時だって緊張はしたが今回はその時以上にドキドキしている。
もし今回のデートで私が告白できなければ如月と先輩が恋人になるかもしれない。
そうなればもう私と二人きりで過ごすのは難しいだろう。
だから出来れば彼に自分の想いを伝えたいという気持ちはあった。
でもやっぱり怖くて告白しなければずっと友達のままではいられる。
恋人にはなれないかもしれないけど側にはいられる。
そんな弱気な考えが浮かんでしまう。
「私はどうしたらいいんだろう」
嘘の告白は簡単に出来たのにそれが本当になると何も出来なくなるのだなと思った。
「桜野……すまん遅れたか?」
「いや私が早く来すぎただけだよ」
しばらく待っていると先輩が待ち合わせ場所に来た。
先輩は待ち合わせ時間より結構早めに来ていたがそれ以上に私が早く来すぎてしまったのだ。
でもそれは私がうっかりしていたというわけではない。
早めに来て落ち着く時間が欲しかったのだ。考える時間が欲しかったのだ。
「それで今日は買い物だったな」
「うん……別に買いたいものがあるってわけじゃないんだけどさ。一緒に色んな店まわりたくて」
私たちは街の中を一緒に廻る。その間、互いに下らない話をした。それは他愛のない雑談だったり学園祭の話だったり漫画の話だったり。
そのどれもが何も二人きりの時でなくても話せるよくある日常の会話だった。
でもそんななんともない会話をするのが私は楽しくて幸せだったのだ。
もし私がここで告白したらその楽しかった日々は幸せだった日々は壊れてしまうのだろうか。
「あのさ……先輩。手……とか繋がない」
「別に構わないけど……」
「え……?」
すんなりと手を握られる。その事実にちょっとだけ驚いた。
でもこんなに簡単に手を繋いでくれるってことは先輩はもしかしたら私の事好きなのかもしれない。
だとしたら告白だって出来るかもしれない恋人にだってなれるかもしれない。
そんな期待が私の心を巡った。
「なんで手を繋いだの……?」
「いやお前が手を繋ごうって言ってきたんだろ?」
「それはそうだけど……私が手を繋ぎたいって言って不思議に思わなかったのかなって」
「だって恋愛漫画を描いてるんだろ? だから前みたいに参考のために手を繋ぎたいんじゃないかって思って」
「……」
期待していた自分が恥ずかしい。彼がこうして手を繋いだのは私の漫画のためだった。
でも今はそれでいい。漫画のためだってことでもいいから彼と手を繋いでいたかった。
私たちは二人で店を回っているとアクセサリーショップが目についた。
別に何か欲しかったわけじゃない。ただ先輩の好みのアクセサリーを買って付けたいと思ったのだ。
「あのさ……アクセサリーショップ寄りたいんだけどいいかな」
「ああ。全然構わないよ」
私は先輩と一緒にアクセサリーショップに向かう。
アクセサリーショップではネックレスや髪飾りなど沢山の商品が売られていた。
その中でも私が目を引いたのは可愛らしいデザインのヘアゴムだった。
今のヘアゴムも悪くないけどこっちのヘアゴムの方が可愛らしくて好みだった。
「このヘアゴム欲しいのか?」
「へ!? あ……うん。結構可愛いなって」
「じゃあ買ってやるよ」
「い、いいよ! 別にこれぐらい自分で買えるし」
「いいから……気にするな。別に高いわけじゃねぇし俺が買うよ」
先輩はそう言うとヘアゴムを買ってこちらに渡す。
私はそれを大切に両手で受け取った。
「でもなんで買ってくれたの? やっぱり恋愛漫画の手伝いのため?」
「それもないわけじゃないけど……なんていうか気のせいなら悪いんだが」
先輩はどこか言いにくそうにしながらもこちらを見て呟いた。
「なんか落ち込んでるみたいだったからさ。何があったのかは分からないけど悩みがあるなら言えよ」
彼はいつだって優しくていつだって私を見てくれる。
やっぱり私は先輩がどうしようもない程に好きだ。
でもだからこそ思った。私は先輩に告白できないと。
好きじゃないから告白できないんじゃない好きだから好き過ぎるから告白できないのだ。
先輩を好きになればなる程に断られることに距離を置かれることが怖くなっていくのだ。
「別に何でもないよ! ただちょっと恋愛漫画の結末に悩んでいただけ、でもそれも何だかヘアゴムを買ってくれたからかしんないけど吹っ切れたよ。このヘアゴム……一生大事にするね」
「別にヘアゴムぐらいまた買えばいいだろ」
「それはそうだけど……これは先輩が買ってくれたヘアゴムだからさ」
「だったらまた買ってやるよ。だからそんな今生の別れみたいな顔するな」
「ありがとう。そうだね……またこうしてさ一緒に出掛けたりしてくれる?」
「当たり前だろ」
その言葉を聞いただけで報われた。臆病な私にとっては十分な程に幸せな結末だった。
最後に私は買って貰ったヘアゴムを付けて先輩に見せる。
「どう? 可愛い?」
「ああ、可愛いし似合ってる!」
「そっか……嬉しいな」
私たちはそんな友達としての会話をしながら今日一日を過ごしたのだった。
ーーー
「そう……結局告白しなかったんだ」
先輩とのデートが終わって私は如月に今日の事を話した。
如月はあえて告白出来なかったとは言わずしなかったと言ってくれた。
正直悔いがないといえば嘘になる。これから先何度も告白しとけば良かったと後悔することがあるかもしれない。
でも不思議と今は友人として彼の側にいられる今の状況が嫌いじゃなかった。
「私は告白できなかった。恋は出来たけど恋愛は出来なかった。だからさ……如月はちゃんと恋愛しなよ先輩と結ばれなよ」
「分かってる。ちゃんと私は自分の想いを口にするよ。何度嘘だと言われても何度でも好きだって言ってみせる」
それを聞いて私は安心する。他の人に先輩を取られるのは嫌だけど如月は真っ直ぐだ。
真っ直ぐに先輩に好きだと伝えようとしている。
そんな彼女だから私も同じように真っ直ぐに如月の恋が結ばれて欲しいと思えた。
「頑張ってね!」
「うん……頑張る」
最後にそれだけを口にして私たちは電話を切った。




