二人の恋
「ごめんね……こんなところに呼び出しちゃって」
「別にいいよ! それで何の用? もしかして告白だったりして」
放課後の教室。私、桜野千鶴は如月に冗談っぽく呟いた。
今日、お昼休みに如月から話したいことがあるので放課後教室に来て欲しいと言われたので私は教室に来ていた。
普段から私たちは四人でよく話している。特に如月とは仲が良い方だ。
だからたまに一緒に帰ったり一緒に話したりすることは珍しくない。
でも今回の如月の表情は真剣そのもので何かしらの重大な話をしようとしていることは分かった。
「桜野ちゃん……学園祭ってもう誰と一緒に行くか決めてある? 空風くんが私たちみんなで行こうって言ってるんだけどどうかな」
「ん? なんだそんなこと? 勿論私は全然いいよー!」
学園祭は先輩から誘われなければ他の友達と行こうと思っていた。
でもこうして誘われた以上自分としては先輩や如月、夢春と一緒に学園祭をまわりたい。
なので私はその如月の誘いに了承する。でも恐らくはこれが如月が話したいことではないということは何となく予想できた。
これぐらいの内容ならわざわざ放課後に教室に呼び出す必要もないだろうし。
だとしたら何を話すつもりなんだろう。そう考えれば考えるほど心は不安になってくる。
「じゃあそのことは空風くん達に伝えておくね。それで次が本当に話したいことなんだけど……」
「うん……何でも言っていいよ」
「私ね……学園祭の日。空風くんに告白しようと思ってる」
「……そうなんだ」
何となくそんな気はしていた。如月は私と同じで先輩の事が好きなんだとそう思っていた。
でも告白することはないと思っていた。それはどうしてかは分からないけどそんな妙な安心感があったのだ。
「だから協力して欲しいの……私が空風くんに告白できるように」
「それは……」
そこで私は頷くことが出来なかった。ただ言葉を濁して黙ることしか出来ない。
理由は簡単だ。心の底ではそんなことしたくなかったからだ。
だって私だって先輩の事が大好きだから他の人と付き合うのに協力なんてしたいわけがない。
でもそれを口にする勇気はなくて結果的にどっち付かずの反応をしてしまう。
「大丈夫だよ。協力って言ってもちょっと二人きりになれる時間が欲しいだけ……私は演劇部だから演劇の後じゃないと空風くんに会えない。でもその時にはきっと夢春ちゃんも一緒だから適当に話して私と空風くんを二人きりにして欲しいの……それだけ」
「……分かった。いいよ……友達の為だし!」
私は精一杯の強がりでそう呟いた。それに対して如月は何故か悲しそうな顔をする。
そして私の方へと近づくとそっと私の手を握った。
それは最初どういう意図なのか分からなかったけどすぐに理解できた。
彼女が私の手を握ったのは私を逃がさない為だった。
「なんでいいよって言っちゃうの?」
「……え?」
「桜野ちゃんも空風くんのこと好きなんでしょ? なのになんでいいよって言えるの? 私、君から好きな人取っちゃうんだよ? 本当にそれでいいの?」
「わ、私は別に先輩のこと好きじゃないから」
「ウソつき! だったらなんで桜野ちゃんの手はこんなに震えてるの?」
「……っ」
本当は嫌だって言いたかった。でもそんなの言えるわけがない。
そんなこと言ったら私は醜い女になるかもしれない。
そんなことを言ったら私はこの場所で情けなく泣いてしまうかもしれない。
そう思うとその言葉を口にすることが出来なかったのだ。
「じゃあさ。どうすれば良いわけ? 如月に告白しないでって言えば良かった?」
「桜野ちゃんはどこまでも臆病なんだね」
「どういうこと?」
「なんでそこで私を告白させないって思考になるの? 桜野ちゃんはなんで自分で告白しようって思わないの?」
そこでようやく気付いた。私が如月ならば先輩に告白しないだろうと安心した理由を。
きっと私は心のどこかで如月の事を見下してた。
いつも臆病でおどおどしてる如月なら告白なんか出来やしないって安心してたんだ。
でも臆病なのは私だった。私は如月の事を臆病だと思い込むことで自分が告白する必要なんてないと無意識のうちに思い込もうとしていたのだ。
「……そんなの無理に決まってるじゃん! あんたは平気かもしんないけどさ……私は怖いんだよ! もしも振られて空風から嫌われたらって避けられたらって距離置かれたらって思ったら不安で告白なんて出来るわけない! 如月はいいよね? 気弱な振りして自信満々でさ……私にはそんな勇気持てないよ」
自分でも最低なことを言っている自覚はあった。
でも恋に真っ直ぐで告白しようとしている如月が羨ましくて気がつけば冷たい言葉を口にしていた。
そんな私に対して如月の表情は悲しそうででも同時にどこか嬉しそうだった。
「私も怖いよ……だって私、さっきからずっと手が震えてるんだ。桜野ちゃんとおんなじだ」
「……あ」
如月は私の手を握ったままでその手は最初からずっと震えていた。
怖かったのは私だけじゃなかった。如月だって私と同じぐらいに不安で怖かったのだ。
「私ね……実は二回告白してるんだ。その度にね……空風くんは私の告白を嘘だって言ってくるの」
「先輩は確かにそう言うかも」
「その時は確かに悲しくなるんだけど……同時にね。ちょっとだけほっとしちゃうんだ安心しちゃうんだよ。振られなくて良かったって嫌われなくて良かったって……そう考えてそう考える自分が嫌になるんだ」
抱えている不安も思いも恋も私と如月は同じだった。
彼女に対して自信満々なんて言ったことを気弱な振りをなんて言ったことを後悔する。
「私は空風くんに告白する。それで振られたり距離を取られたりするかもしれないけど……なにもしないで私以外の女の子と結ばれるなんて嫌だから……私以外と恋人になるのは嫌だから」
「私は……」
「桜野ちゃんはどうするの?」
「私は……分からないけど先輩をデートに誘うよ。そこで告白するかどうか決める」
私も如月に言われて覚悟を決める。まだ告白できるのかどうかは分からないけど次の休日に先輩をデートに誘う。
そこでちゃんと告白できるように頑張ることにしたのだ。
「応援は出来ないけど……ちゃんと告白できるといいね」
「私も応援は出来ないけど如月と空風が結ばれたらいいなって思ってる。でもそれ以上に私は……私が先輩と結ばれたい」
「どっちもは結ばれないけどどっちかは結ばれるといいね」
如月の言葉に私は静かに頷いた。




