二人だけで
期末テストが終わり夏休み。俺はというと特にやることもなく家でのんびりと過ごしている。
暇になればラノベを読み、外に出掛ければ散歩をし愛梨とたまに一緒に買い物に出掛ける。
勿論勉強だってそれなりにやっているがそれも身が入っているわけではなく良い意味で怠けた生活を送っていた。
「そもそも夏とか暑過ぎるからなやっぱりクーラー効かせながら休むのが一番だ」
俺はそんなことを呟きながらこの日常を満喫していると突然スマホから電話が掛かってくる。
誰だろうと思い電話を出るとそこからは如月の声が聞こえた。
「空風くん……あの……今大丈夫?」
「ああ、夏休みだから暇だったんだ。むしろ電話してくれて助かった」
「そうなんだ。それでなんだけど来週の土曜日の夏祭り良かったら一緒に行かない?」
「夏祭りってあの近所の奴だよな……それなら夢春や桜野とかも誘ってみんなで行くか」
みんなでお祭りに行った方が楽しい。そう思って俺は全員で行こうと提案したのだがそれに対して彼女はしばらく黙り込む。
どうしたのかと思っていると再び、スマホから声が聞こえた。
「それもいいんだけど……今回のお祭りは私と空風くんの二人だけで行きたいなってダメかな?」
「二人か? 別に構わないけど」
全員で出掛けた方が楽しいとは思うものの彼女がわざわざそれを言ってきたのならば別に断ろうとは思わなかった。
「本当? 良かったぁ。それじゃお祭り二人で楽しもうね」
「ああ」
その後、俺と如月は待ち合わせ場所や日時、それと少しだけ雑談して電話を終える。
「それにしても二人きりでお祭りってなんだか……」
デートみたいだと少しだけ思った。
ーーー
夏祭りの日当日。俺は祭りの入り口で如月を待つ。
当たり前の話だけど周囲はみんな祭りに行くのか浴衣姿の人達ばかりで少しだけ緊張する。
他の人達みたいに如月も浴衣姿なんだろうか。もしそうならどんな浴衣を着てくるのだろうか。
そんなことを考えてしまう。いや祭りに行く人達の中には当然ながら私服姿の人達だっている。
もしかしたら浴衣なんかではなく如月は私服で来るのかもしれない。
別に如月がどんな服装で来ようと関係ないはずなのに何故かそんな些細なことが気になった。
「空風くん……お待たせ」
「あ、ああ……」
俺は声のする方向を見る。そこには浴衣姿の如月の姿があった。
水色のおとなしめな浴衣に少し色の濃い青の帯が付けられている。
如月自体普段から凄く可愛かったが今日は一段と可愛くて綺麗に見えた。
「どうかな……私の浴衣似合ってる?」
「お、おう……似合ってると思う」
「良かった。浴衣……結構着るの大変だったから。でも空風くんに褒められたから着て良かったよ」
「大変だった分凄く似合ってるぞ」
俺は浴衣を着た経験がないが愛梨がよく浴衣を着ようとして悪戦苦闘をしていた記憶がある。
普段からそういう服を着なれていないとやはり大変なのだろう。
「それで廻りたい店とかあるか?」
「なんか甘いもの食べたいかな。空風くんは?」
「俺は甘いものもいいけど焼きそばとかも食べてみたい。適当に歩いて美味そうなもの食べていくか」
「うん」
俺と如月は祭りの中を歩く、既に祭りは大賑わい沢山の人が行き来していた。
そんな中でそっと俺の手に冷たくて柔らかい感触が伝わる。
その方向を見てみると如月が俺の手を握っていた。
「如月……?」
「人混みではぐれちゃうかもしれないから」
確かにこれだけ大勢の人がいたらはぐれる心配はある。
それならと俺は掴んでいた彼女の手をそっと握り返して手を繋いだ。
「一方的に掴むよりこっちの方がいいだろ?」
「うん……私もこっちの方が安心する」
俺たちは手を繋いで人混みを掻き分けると人が少ないところに出る。
そこで屋台を一緒に巡る。そして気がつけば祭りが始まって大分と時間が経っていた。
如月の手には大きなわたあめが握られている。彼女はそれをそっと俺の方に向けた。
「空風くんも一緒に食べよ?」
「ありがとうな」
俺と如月は大きなわたあめを千切って食べる。それは特に何てことのない時間だったがとても幸せな時間だった。
「あれ? 先輩に如月じゃん! 二人も来てたんだ」
「桜野か……まあな二人で祭りをまわってたんだ」
俺たちが歩いていると桜野が声をかけてくる。その横では大量の食べ物を抱えた夢春が一緒にいた。
どうやら二人で祭りを楽しんでいたらしい。
「一度遊びに誘ったときにその日は用事があると言っていましたが二人ともこのお祭りに行く予定だったのですね」
「そういうこと。まさかお前らも同じ祭りに来てるとはな」
「奇遇ですね。そうだ折角四人揃ったわけですしみんなでお祭りまわりませんか? 花火も上がるそうですし一緒に見ましょう!」
それに対して別に俺は特に異論は無かった。どうせなら四人で花火を見た方が楽しいと思ったからだ。
でもーー俺はふと如月の方を見る。あの時と同じ表情をしていた。
あの時の優しくて冷たい雨の時と同じ、どこか寂しそうで悲しそうで泣いているような表情をしていた。だから。
「すまん。俺は如月と二人で花火を見るよ」
「空風くん……本当にいいの?」
「元々二人だけで行くって約束だっただろ?」
「うん……ありがとう。そう言ってくれて」
やっぱり如月は俺と二人が良かったのだ。彼女の表情がさっきまでの嬉しそうな表情に戻る。
そんな俺たちに対して事情がよく分かってないのか夢春は不思議そうな表情をしていた。
「よくは分かりませんが空風さんがそう言うのでしたら今回は桜野さんと花火を見てきますね!」
「ああ、楽しんでこいよ」
「勿論です! さ、桜野さん行きましょう! 一緒に沢山花火見ましょうね!」
「はいはーい」
桜野と夢春は一緒にそのまま花火が見れそうな場所へと向かった。
実際俺たちも花火を見るのならば夢春たちと同じように花火が見れる場所を探した方がいいだろう。
「それじゃ俺たちも花火が見れそうな場所探すか」
「……そうだね」
俺たちは一緒に手を繋ぎながら花火が見れそうな所を探す。
そして良さそうな場所を見つけると一緒に座って花火が上がるのを待つ。
「そうだ……手繋ぎっぱなしだったな。すぐにーー」
「こ、このままでいいよ! このまま手を繋いだままで一緒に見ようよ」
「如月がそう言うなら」
まだ迷子になることを怖がってるのかと思いながら俺たちは手を繋いだまま花火を見ることにする。
真っ黒な夜空。そこに沢山の花火が打ち上がる。
沢山の鮮やかな色の花火を俺たちは眺める。
そんな中で如月がそっと俺の腕を引っ張る。
どうかしたのかと如月を見ると彼女は照れたように顔を赤くしながらこちらを見ていた。
「あのね……実はその伝えたいことがあって」
「伝えたいことって?」
「うん……それなんだけど」
如月は何度か言いにくそうにしながらもやがて覚悟が決まったのかゆっくりと口を開く。
「私、空風くんのことが好きなの……恋人として付き合ってくれないかな」




