本当の後輩
「先輩! 勉強しよ!」
「嫌だ」
放課後、教科書を鞄に詰めて帰る準備をしていると桜野がそんなことを言ってきた。
俺はそんな桜野の提案を拒否するがそれでも桜野は話を続ける。
「いいじゃん! なんでそんなに勉強を拒むんだよ!」
「そりゃ普段なら拒まないけど……期末テストが終わったばっかりだろ? テストが終わったのになんでまた勉強する必要があるんだ」
期末テストが終わって結果は今日出た。特に悪い成績はなく順調な点数だった。
故に後は夏休みまでのんびりと過ごすだけ、むしろ今日に限ってはテストが良かったこの余韻に浸りたい気分なのだ。
「そりゃ決まってるでしょ。テストが終わってないからだよ」
「終わってないって何を言って……まて……もしかしてお前」
「ふふっ、そうなんだ! 私、赤点取っちゃった。追試で落ちたら留年だってさ」
「そうか……良かったな。これで本物の後輩になれるぞ」
「嫌だよ! なりたくないよっ!」
そう言えば中間テストで夢春や如月とはテストの順位や結果について話し合ったが桜野とはクラスも違うこともあってそういった話をしなかった。
だからどれぐらい成績が良いのか分からなかったがまさか留年になるかもしれない程とは。
「先輩って結構頭いいんだし勉強教えてよ! そうじゃないと私留年しちゃう!」
「……分かったよ。流石に留年の危機だと放っておけないしな」
流石に何度も頼む桜野を無視するわけにはいかず協力することにした。
ーーー
「お邪魔しまーす!」
自宅の玄関。桜野がとても留年しそうとは思えないほど明るい声で挨拶をする。
結局桜野に頼まれて勉強を教えることになり何処で勉強するか話し合った結果、俺の家で勉強することになった。
桜野と一緒に玄関を上がり自分の部屋へと向かおうとする。
その時、ふとリビングから愛梨ともう一人女の子が会話をしている声が聞こえた。
「愛梨? 友達が来てるのか?」
扉を開けるとそこには教科書を開いて勉強を教えている愛梨とその説明を聞いて頭を抱えている音無の姿があった。
期末テストが終わっているのに勉強をしている。
その状況を見てこっちの後輩も同じように赤点を取ったのだと理解できた。
「兄さん……助けてくれないかしら。音無ってば全然勉強できなくて」
「そんなことないもん! 英語だけは成績良かったでしょ?」
「それでも私よりも成績低かったじゃない」
「むー! それはそうだけど……あ、センパイじゃないですか! どうもお邪魔してまーす!」
音無の机には見るもおぞましい点数のテスト用紙が置かれている。
そして俺の隣には音無と恐らく引けを取らないであろう低い点数の桜野がいた。
俺はこの二人に勉強を教えるのは大変そうだと内心で怯えるのだった。
ーーー
「桜野さんって……私とタメだよね! よろしく!」
「いや私……普通に音無の一個上だよ」
「え? でもセンパイのことセンパイって言ってたじゃないですかー! もしかして留年してるとか?」
「してないよ! 私が空風のことを先輩呼びしてるのは単に精神的後輩……漫画の主人公の真似をしてるだけなの」
勉強を始めて数時間。最初こそは集中していた二人だがやがて集中力が途切れて雑談を始める。
別に俺も教師ってわけじゃないしある程度の息抜きは必要だと思っているので放置しておく。
「先輩ここの問題分からないんだけど……」
「センパイ! この問題ってどう解くんですか?」
「た、大変だな……」
既に愛梨は二人を教えた疲労でソファーでぐったりとしていた。
なので俺が二人に勉強を教えることになる。勉強をするのも大変だが勉強を教えるのも同じぐらい大変だ。
それでも二人相手に出来るだけ分かりやすく勉強を教えた。
「これだけ勉強すれば後は大丈夫だろ」
「先輩ありがとうね! 赤点取った時はどうしようかと思ったよ」
「礼を言うのはまだ早いぞ……追試受かるかどうか分からないんだし」
「う……」
ぐったりと机にうつ伏せになりながら桜野はため息を吐いた。
その横では既に勉強で疲れたのか音無が眠たそうにしている。
二人ともすっかり疲れているみたいだった。でもきっとこれだけ勉強をしたんだから追試は大丈夫だと思う。
そう内心で呟きつつも本当に大丈夫なのか少しだけ不安だった。
ーーー
「桜野……どうだった?」
放課後の教室。追試の結果が渡されたのか桜野が疲れた様子で俺のところにやって来た。
そして追試のテスト用紙を俺の机の上に置いて見せる。
その点数を一つ一つ確認して全て合格だったことを確認した。
「私……追試に受かったよ」
「頑張ったな!」
「ありがとう! これも先輩のおかげだよ。だからさ……これ食べてよ」
そう言って桜野は俺に小さな袋を渡す。何が入っているのかと中身を確認するとそこにはクッキーがいくつか入っていた。
「勉強教えてくれたからそのお礼」
「あ……ありがとう。家に帰ったら食べるよ」
「いや今食べてよ。手作りなわけだし美味しかったかどうか気になるじゃん」
「そうか……じゃあ食べるか」
俺はクッキーを食べる。少し甘すぎる気もしたがそれでもしっかりと美味しい味だった。
桜野が頑張って作ったんだなって分かる味だった。
「美味いな」
「そっか良かった! まあお菓子作りはなかなか慣れなかったけど喜んでくれて良かった。じゃあ私は漫研に寄っていくから!」
「あ、漫研寄るんだろ? それなら俺も付き合うよ。今日はゆっくりと漫画を読みたい気分だったからな」
「そうなんだ……ちなみにどんな漫画を読みたいとか決まってるの?」
「何となくラブコメ漫画を読みたいと思っててーー」
俺は立ち去ろうとする桜野を呼び止めると一緒に雑談をしながら漫研に向かい漫画を読んでその日を過ごしたのだった。




