妹の友達
「愛梨か……まさかこんなところで出会うとはな」
「私は部長に誘われて来たのよ。部長が演劇好きだから見に来たわけ。そういう兄さんは如月さんに誘われたのね」
愛梨は少し拗ねたように不機嫌そうに目を細めて俺を見る。
一応夢春と会話をしてある程度は俺が友達と出掛けることに納得してくれたみたいだがやはりまだ俺が女友達と出掛けることはあまり好ましくは思っていないようだった。
「まあ如月さんが良い人なのはある程度知っているから問題ないけど」
「ははは……」
一応誕生日会でそれなりに話をしたおかげで夢春と出会った時のような反応はしないみたいで少し安心する。
真っ直ぐな夢春ならともかく気弱な如月では愛梨に怯えてしまうなんてこともありえるかもしれないしな。
「誰かと思えば如月か……ということは彼が噂の空風か」
如月と俺の姿を見て愛梨の友達だろう一人の女性がこちらに声をかけてくる。
後ろに結われている綺麗な黒色の髪、整った顔立ちに黒色の瞳の女の子だった。
彼女は俺を物珍しそうに見ていたがすぐに頭を下げて自己紹介を始めた。
「すまない。名乗っていなかったな。私の名前は夏雪史織。家庭料理部と演劇部の部長をやっている」
「あ、俺は空風樹です。よろしくお願いします」
「よろしく。それと敬語はいらない。私と君は同学年だ」
てっきりしっかりした雰囲気があったので年上かと思ったが同学年だったようだ。
どうやら演劇部と家庭料理部の部長をやっているらしくそれで如月の事も知っているみたいだった。
「はいはーい! じゃあ次! 私、自己紹介して良いですかー!」
愛梨の隣そこで赤髪ショートヘアーの女の子が明るい声色で呟く。
夏雪は落ち着いた雰囲気で威厳のある人といったイメージだったがそんな彼女とは違って赤髪の少女は活発で明るい印象がある。
彼女は赤い瞳で俺を見ながら元気良く言葉を続ける。
「私は一年の音無美鈴っていいまーす! よろしくお願いしますね! センパイ!」
先輩と呼ばれると何処かの精神的後輩を思い出すがすぐに考えないようにする。
音無美鈴という名前に関してはたまに愛梨が話しているので知っていた。
愛梨は俺と違って友達がいると分かっていても心配だったのは事実。
だから愛梨の友達が音無にしろ夏雪にしろ悪い人では無さそうで安心する。
「しかし邪魔してしまったな。二人はデートしていたんだろ?」
「デ、デート!? 違うわよね!? あくまで友達として遊んでいただけでしょう?」
俺たちがデートという言葉に動揺する前に愛梨が滅茶苦茶動揺する。
おかげで俺と如月は動揺せずに済んだ。でも確かに俺と如月が一緒に歩いているのは本人たちは友達同士だと思っていても他人から見ればデートに見られるのも仕方のない事だった。
「違うよ。あくまで俺たちは友達として一緒に出掛けているだけだ」
「……うん。友達として一緒にいるだけだから愛梨ちゃんも安心して」
「別に不安がってなんていないわ。ただ胸の奥が落ち着かなくて動揺しているだけよ」
「不安がってるじゃねーか」
「うるさいわね……とにかく二人が恋人関係じゃないなら別に問題ないわよ」
愛梨は安心した様子で胸を撫で下ろす。でもそんな彼女とは対照的に夏雪は少し残念がっているようだった。
「一つ聞きたいんだが空風は如月の事どう思っているんだ?」
「夏雪ちゃん!?」
「どうせなら聞いた方がいいだろう? 何も聞かない方が後悔するぞ」
「それはそうだけど……」
夏雪が俺に如月の事をどう思っているか聞いてくる。
別にその質問自体に特に悩む必要はない。今自分が如月に対して抱いている気持ちを素直に伝えれば良いのだから。
「どうって言われると困るけど良い奴だとは思ってるよ。優しいし友達になれて良かったと思ってる」
「友達か……私が聞きたいのはそういうことじゃないんだ。恋人として如月の事をどう思っているのか聞きたいんだ」
「いや……そんなこと言われても」
「実際空風は如月と恋人になりたいと思わないのか?」
そう言われて今度は何も言えなくなってしまう。
今まで如月の事は友達としてしか見ていなかった。
恋人なんてそれこそ考えたことはない。そりゃ如月のことは好きだ。
性格だって優しいし一緒にいると落ち着くし顔だって可愛いと思う。
でもその好きは友達としてであって恋なのかは分からない。
だから恋人になりたいかと言われて答えることが出来なかった。
「悪いけどそれには答えられない。大体俺は恋人とかまだ作るつもりないし如月だって俺に好きとか言われたら迷惑だろ」
「そうか。すまなかった色々と聞いてしまってだが私はこう見えて恋バナが好きなんだ。だからつい男女が歩けば恋愛事と結びつけてしまうんだ。今までの事は気にしないでくれ」
「別に気にしてないよ」
と口では言うけど恋人とか言われたせいで妙に如月の事を意識してしまう。
でもきっと如月だって俺と同じ気持ちのはず。
俺たちはあくまでも友達だと自分に言い聞かせる。
「それじゃ私たちは会場に行くよ。そろそろ演劇の公開時間だからね」
「兄さんはもう演劇見ちゃった感じなの?」
「ああ、これから適当にお店に寄って帰るところだよ。お土産何かいるか?」
「じゃあ適当にお菓子でも頼もうかしら」
それだけ言って彼女たちは会場の中に入っていく。
俺たちはそれを見届けながら一緒に外に出るのだった。




