ただ近くにいたくて
「これが劇場か……何と言うか少し緊張するな」
演劇の会場。そこで俺と如月は会場の中に入る。
会場の中には休日ということもあってか沢山の人で賑わっている。
そんな中で俺は珍しく緊張していた。学園祭の行事ではない初めての演劇の会場。
友達の如月がいてくれて良かったと思う。ふと如月の方をみる。
やっぱり如月は劇場は行きなれているのか俺みたいに緊張している素振りは無かった。
「如月は何度も演劇を見に来てるのか?」
「私もそんなに多くないよ。たまに演劇部の友達に誘われて行くぐらいかな。でも今回は演劇を見ればまた脚本を書けるようになるかなって……」
如月の表情が少しだけ曇る。恐らく彼女の書いている脚本は学園祭で公演される劇場の脚本なのだろう。
学園祭はまだ先の話だ。でも書けない現状にプレッシャーを感じるのは仕方のないことだった。
「私ね……元々は演劇部に入るつもりなかったんだ。でも先輩に勧誘されて断れなくて仕方なく入っちゃったんだよね。先輩は私に演者として出て欲しかったみたいだけど私はなかなか勇気が持てなくて裏方で脚本を書くことにしたんだ」
先輩が如月を役者として演劇部に誘う理由は何となく分かる。
確かに彼女は引っ込み思案なところがあるが見た目は可愛いし実際クラスでもかなりの人気者だ。
そんな可愛い彼女を見て演劇で役者として活躍して欲しいと思うのは無理のない話だ。
「最初は脚本なんて書けるか不安だったけど書いてみると不思議と楽しくてその脚本が演劇になるのが嬉しかったんだ。最初は演劇部に入ったのちょっと後悔してたけど今は演劇部に入って良かったって思ってる。空風くんともそこで知り合えたし……だから演劇部に迷惑掛けたくないんだよね」
「そうか……確かに迷惑掛けたくはないよな」
彼女が脚本を書けなくなった理由は分からない。
でもそれに苦しんでいることは分かる。書けない自分にプレッシャーを感じていることも。
「でも……あんま無理すんなよ」
「……空風くん?」
「そりゃ脚本を書くのは大切だ。良い演劇にしたいって気持ちも分かる……迷惑掛けたくないって気持ちもな。でもそんなに気負いすぎる必要もないだろ。完璧な演劇になんてしなくていいただ自分の伝えたい想いを好きな物語を演劇にすれば良い物語を書けるんじゃないかって思ったんだ」
「空風くんは優しいね。伝えたい想いや好きな物語か……」
「その……俺は脚本とか書いたことないから的外れなこと言ってるかもしれないけど……ちょっとでもお前が脚本書けるようになればいいなって思ったから変なこと言っちまったな」
「そんなことないよ。まだ書けるかどうかは分からないけど空風くんのおかげで元気出たから」
「そうか……」
本当はもっと良い言葉を口に出来ればと思った。
でも気の利いた言葉は出なかったかも知れないけど俺の言葉はしっかりと口に出来た。
ーーー
「演劇、結構楽しかったよ」
「本当? それなら誘って良かった。恋愛もののお話結構好きなんだよね。私もあんな演劇みたいな恋愛してみたいな」
「お前なら出来るだろ。その……見た目可愛いんだし」
「えっ……! わ、私……可愛いかな?」
「可愛いだろ。普通に」
俺は内心で恥ずかしくなりながら答える。恋愛ものの演劇を見たせいだろうか自然と可愛いという言葉が口から出てしまった。
如月を見る。如月は顔を真っ赤にして俯いていた。
互いに変に緊張して言葉が出せない。というか何を言っていいのか分からなかった。
でもこのままでは気まずくなると思って何かしら声をかける。
「だから……自信持てって言いたかった。お前は可愛いんだし恋愛だって出来るさ」
「そうだといいな」
俺の言葉に如月はちょっと自信なさげな声でそう答えた。
「そうだ。この後……まだ時間あるし小物売場とか服屋さんとか行ってもいいかな?」
「別にいいよ。俺も妹の愛梨に何かしらお土産を買ってーー」
「あら? 兄さんじゃない。兄さんも演劇を見に来たの?」
俺と如月が話していると後ろから聞いたことのある声が聞こえる。
声のする方を振り向くとそこには女友達と一緒にいる愛梨の姿があった。




