一緒に演劇を
「演劇?」
「うん……良かったら一緒にどうかなって」
休み時間、教室でのんびりしていると如月が声を掛けてくる。
内容は来週の土曜日に演劇が公演されるので一緒に見ないかといったものだった。
別に土曜日に何か予定があるわけでもない彼女の誘いに俺は了承した。
「別にいいよ。一緒にいくか」
「本当?! ありがとう。じゃあ土曜日楽しみにしてるね!」
如月はそう言って嬉しそうに去りそうになる。そんな彼女に俺は慌てて声を掛ける。
別に土曜日に劇場に出掛けるのは問題ない。それよりも俺は如月に対して気になることがあった。
「如月……そういえば演劇部の調子はどうなんだ。脚本が書けないって言ってたけど」
「それなんだけど……まだダメで。脚本を書こうとはしてるんだけど色んなことが頭から離れなくて」
「そうなのか? 前にも言ったけど何かして欲しい事があったら言ってくれていいからな。今回演劇に誘ってくれたのだって脚本を書くためなんだろ?」
「うん……そんな感じかな。ところでなんだけど空風くんは私が脚本を書けるように手伝ってくれるんだよね」
「出来る範囲のことならな」
「そ……それならなんだけど今日の放課後に一緒に帰らない? 今日は演劇部お休みだから」
「それぐらいはいいけどそれって脚本を書くことと関係があるのか」
「関係あるよ! ほら空風くんと一緒にいるとドキドキするし……じゃなかった! 一緒にいると楽しいし良い気分転換になるから」
「確かに気分転換は大事か。分かった今日は一緒に帰ろう」
別に元から断る理由もない。ただ単純にどうして一緒に帰りたいのか気になっただけだ。
俺の言葉を聞いて如月は嬉しそうに笑う。
「ありがとう。その単に帰るんじゃなくて散歩とかもしていいよね。その方が気分転換になるし」
別に家に帰っても何か用事があるわけじゃない。
俺は如月の言葉に頷いた。
ーーー
「綺麗な公園だね」
放課後、夕方の公園を二人で散歩する。昼間は特に何とも思わない公園だが夕方になるとその公園は綺麗な夕焼けの景色に変わる。
そんな景色を眺めながら俺たちは特に理由もなく公園をぶらぶらと歩いた。
別に何か目的があるわけじゃない。いやむしろこうやって一緒に歩くことそれ自体が目的なのだ。
「あのね……空風くんは去年の学園祭で楽しかった思い出とかある?」
「学園祭の思い出か……そもそも俺は学園祭はずっと一人だったからな」
ほとんどの人が学園祭で友達や恋人と一緒に廻ったりした事だろう。
だが当時の俺は元カノとの出来事からまだ立ち直れていなくて人付き合いを避けていたので一人で店などを巡っていた。
だから特に思い出という思い出は無かった。
でもそんな中でも覚えているものがあった。
「ただ……演劇部の演劇が良かったのは覚えてるよ。特に主人公が想いを告げるシーンが凄く良かったんだよなぁ」
「そうなんだ……空風くんはやっぱりあの頃と一緒だね」
「あの頃……? どこかで会ってたのか? 悪い全然覚えてない」
「ううん。全然いいの……だって一番覚えていて欲しいところはちゃんと覚えていてくれたから」
俺は学園祭で彼女と会っていたことを覚えていないことで不機嫌になるんじゃないかと思っていた。
でも今の如月は不機嫌どころかどこか嬉しそうな表情を浮かべている。
「ところで……なんだけど空風くんって好きな人いるの?」
「……別にいないけど」
そう口にする。それは嘘じゃない恋愛的な意味で俺は好きな人なんていないはず。
でも俺はそう思いながらも心の中では彼女のことを思い浮かべていた。
夢春凛ーー結局あの約束以降、特別俺たちの関係は何かが変わったというわけじゃない。
俺も夢春も一緒にご飯を食べて雑談をしてたまに一緒に帰る友達のままだ。
でも同時に好きな人がいないと言うわりには夢春のことが気になっている自分がいた。
「そ、そうなんだ……」
俺の言葉を聞いて如月はどこか安心したような表情を浮かべた。




