約束
「夢春は普段どんな映画を観るんだ?」
映画館の中で俺は夢春に尋ねる。そう言えば俺は映画を観ると決めていたのに夢春がどんな映画が好きなのかとか何も知らなかった。
「普段ですか? そうですね……ホラーやミステリーの映画を良く見ますね」
「なるほどな。それなら今日はホラー映画かミステリー映画を観よう」
「……え? でも恋愛映画を観るって言ってませんでしたか?」
「別に恋愛映画が特別好きってわけじゃない。ただ夢春はラブコメ漫画をたまに読んでたからそういうジャンルが好きなのかと思ってその映画を観ようと思っただけだ。他に夢春の観たい映画があるならその映画を観てみたい」
「空風さん……」
勿論夢春が反対しない以上、俺が観ようと思っていた感動映画を観ることだって出来ただろう。
でもフードコートで感動映画の話をした時、一瞬彼女は暗い表情をした。
そんな表情を見てしまった以上、俺はその映画を無理に見ようとは思わなかった。
きっと彼女も気づいている。自分が表情を隠しきれていなかったことを。
「ふふっ、でしたらこのミステリー映画とか観てみたいです! 前々から実は気になっていまして」
「よしじゃあその映画にしよう」
俺たちはその映画のチケットを購入し観ることにした。
ーーー
「空風さんありがとうございます。私のために観る映画変えてくれたんですよね?」
映画を観終わって映画館を出ると夢春が俺に礼を言った。
やっぱり夢春も自分が落ち込んでいたから映画を変えたということは分かっていたみたいだった。
だから変に否定せずにその言葉に頷いた。
「元々俺はどんな作品でも楽しめる人間だからな。別に礼を言われるような事じゃない。それよりも恋愛映画……そんなに嫌だったか?」
それに対して夢春は何とも言えない表情になった。
悲しさと寂しさが混ざったような表情。どちらにせよあまり良い表情ではないことは確かだった。
「恋愛映画じゃなくて感動映画が苦手なんですよ」
「感動映画が苦手か。やっぱり悲しい気持ちになるからか?」
「逆ですね。悲しくならないから嫌なんです」
夢春は静かに言葉を溢した。別に感動映画と言っても映画の中には自分には合わず感動できない映画だってある。
でも夢春が言いたいのはそういうことじゃない。
恐らく彼女は本当に映画そのものに感動できないんじゃないかとそう思った。
「昔からそうなんです。どんな悲しい映画を観ても心が動かないんです。周りは感動したって良い作品だったなんて言って涙を流すんですけど……私は同じように泣くことが出来ないんですよね」
夢春は夢中になるものがない。俺はそれを彼女から聞いたとき自分だってラノベに夢中になるまでは同じようなものだったと思った。
でも全然違った。彼女はそもそも物語に感動することが出来ないのだ。
「別に一人の時は感動映画を観ても何とも思わないんですけど映画館だと他の人もいるじゃないですか。みんな感動しているのに私だけが心が動かない。何だかそれが寂しくて……嫌なんです」
俺と桜野が映画館でデートした時。映画を見て感動した。
その感動を語り合うことで互いに距離を縮めることが出来た。
でも夢春はそれが出来ない。感動をしないから相手がどれだけ良い作品だと言っても彼女はそれに曖昧な態度で頷くことしか出来ないのだ。
「一応言っておきますけど他人の感情が分からないというわけではないんですよ。むしろ人の気持ちはしっかりと理解できています。でも同時に自分は凄く冷静なんですよ」
夢春の言葉に対して俺は何て言葉を掛けて良いのか分からない。
きっとこのまま無言を貫けば夢春は何事もなかったように接してくれるだろう。
でもそれは彼女を一人にするんじゃないだろうか。
夢春を理解しないことになるんじゃないだろうか。
だから夢春のことが分からなくてもそれでも声を掛けるべきだと思った。
「夢春……ごめん。俺はお前の気持ちを理解してやれない」
夢春の気持ちを分かると言うことは簡単だ。言葉だけなら。
でも俺は映画を見て感動をする。小説を読んで夢中になれる。
きっとその時点で俺は夢春の気持ちを分かると言うことは出来ない。
でも……。
「それでも俺は夢春の側にいたい。理解は出来なくても一緒にいることは出来るから」
俺が側にいたところで彼女が物語に感動できるようになるわけじゃない。
みんなに置いていかれる辛さが消えるわけでもない。
それでも夢春の寂しさは消えると思ったからその気持ちだけでも夢春に伝える。
「空風さん……貴方とお友達になれて良かったです。これからも一緒に居てくださいね」
「ああ……俺でいいなら」
その言葉に夢春は嬉しそうに笑った。




