妹との食卓
「はい。兄さんご飯」
テーブルの上には既に食事が並んでおり、俺の分と妹である空風愛梨の分の食事が用意されている。
金色のショートヘアーに赤色の瞳。見た目は美人で周囲を惹き付けるような魅力を持っている。
彼女は俺を兄さんと呼んでくれるが何も俺と愛梨は血が繋がった兄妹というわけではない。
愛梨は元々は養子でそれを俺の両親が引き取ったという形になる。
だから血こそは繋がっていないが俺はずっと愛梨のことを妹だと考えて生きてきた。
他人を信じられなくなった俺にとって愛梨という家族の存在は何よりも大切で振られて落ち込んでいた時も彼女は優しく接してくれた。
そしてそれはあれから大分と経った今だって変わらないままで愛梨はいつもの調子で俺の面倒を見てくれる。
「ほら愛梨よ。俺の分の食事も分けてやろう」
俺は愛梨に日頃の感謝を込めて俺の嫌いな野菜を彼女に渡すことにする。
そんな俺に優しい愛梨はゴミを見るような目で睨んでいた。
「何をしているの?」
「見りゃ分かるだろ。優しいお兄ちゃんが妹に食料を渡しているんだ」
「私から見ると単に嫌いな野菜を押し付けているようにしか見えないんだけど」
「野菜は健康にいいんだぞ。好き嫌いせずにしっかり食べないとだな」
「それはこっちの台詞よ! 兄さんなんだから好き嫌いせずに食べなさい」
愛梨はそう言って野菜を俺に押し付け返した。仕方ないので食べることにする。
「それで学校はどうなの? 新しいクラスになってちゃんと友達出来た?」
「なんかお母さんみたいだな。大体俺に友達なんて出来るわけないだろ! いつも通りだよいつも通り」
愛梨は高校一年で俺は二年生。二年生になって既に数週間は経っているけど一年の頃と変わらず俺は友達が出来ていない。
いやというよりは作ろうとしていないと言い換えた方がいいだろう。
自分から歩み寄ってさえいないんだ。当然友達なんか出来るわけなかった。
「そう。いいじゃない別に友達なんかいなくたって……兄さんの素敵なところは私さえ分かっていればいいんだし」
「面白い冗談だな。俺に良いところなんてないだろ?」
「確かに野菜を妹に押し付ける兄はあまり褒められたものじゃないけど……私は兄さんの優しいところもカッコいい所も知ってる。私だけが知ってるの」
じっと俺のことを見ながらそう呟く愛梨。正直俺としては自分のかっこいいところも優しいところもあるとは思えないが。
それでも妹に好かれること自体は嫌じゃないので否定しないことにする。
「それはそうと愛梨の方はどうなんだよ? ちゃんと友達とか出来たのか?」
俺は友達も恋人もいらないと思っている。でも妹の愛梨には沢山の友人に囲まれて欲しいと思う。
何も俺の妹だからといって俺みたいに一人になることはないのだ。
彼女には兄のことなど放っておいて自分の青春を送って欲しいと願ってしまう。
それに対して愛梨は自慢げに頷いた。
「当たり前じゃない。友達も何人か既にいるし優しい先輩だって出来たわ」
「優しい先輩だと……まさか既に彼氏が!?」
「女に決まってるでしょ。大体私の部活家庭料理部は全然男子とかいないし」
「家庭料理部か……そういやたまに俺に手作りのお菓子とかくれるよな」
「そう……やっぱり兄さんには美味しい料理を食べて欲しいし健康であって欲しいもの」
そう言って野菜を箸で摘まんで俺に見せながら呟く。
野菜を押し付けたことをかなり根に持っているようだった。
「でも実際のところ料理は凄く美味いし元から美味しかったが家庭料理部に入ってから更に腕をあげたんじゃないか」
「当然よ。最初は美味しい料理を作れればと思って入った部活だけどいざ部活をやってみると出来ない料理も作れるようになって意外と楽しいのよね」
料理部のことについて話す愛梨は本当に楽しそうでちゃんと青春を送っていることが分かり安心する。
俺は結局部活動には入らなかった。どの部活動にしたって入れば人との交流は避けられない。
それが嫌で入らないようにしたのだ。おかげで今では自堕落な生活を送り続けていた。
俺は最後に残った野菜を箸で掴む。自分でも子供っぽいという自覚はあるが苦手なものは苦手だ。
俺は覚悟を決めて野菜を食べる。やっぱり野菜は苦くて美味しくはなかったけど密かにタレの味も効いていてなるべく食べられるように工夫してくれたんだなと思った。




