刻み付けられた誕生日
「樹くんは……誰にも好かれないんだよ?」
今でもあの時の言葉が心に刻み付けられている。
冷たい声だった。悲しい声だった。無機質な声だった。それでいて楽しそうな声だった。
恐らくはそのどれかの声だったのだろうけどそれを思い出すことは出来ない。
その声は俺の元カノの声。今でこそ俺は人と関わらない生活を送っているが昔はこんな状態ではなかった。
それなりに友達がいて男友達も女友達もいた。みんなと一緒にご飯を食べたり何気ない会話をしたりそんな幸せとまではいかなくても満ち足りた日々を送っていた。
だけどもそんな日々は簡単に壊れてしまった。
ある日好きな女が出来た。ソイツは綺麗な白銀の髪をしていて真っ黒な吸い込まれるような目をしていた。
ハッキリ言って可愛かった。美人で可愛くて華奢な体つきで守ってあげたくなるような女性だった。
初めて誰かを好きになった。だから告白した。
彼女はあっさりと了承して俺たちは恋人になることが出来た。
夢かと思った。でも夢じゃなくてこれからは二人で恋人として過ごしていけるのだと思っていた。
でもそう思っていたのは俺だけだった。彼女は俺のことなど愛してはいなかった。俺はずっと彼女に嘘を付かれていたのだ。
「樹くんは誰にも好かれてないんだよ?」
「どういうことだよ! 浮気してたって……別れるってそんなこと言われても分からねぇよ!」
それは俺の誕生日だった。彼女は話があると俺を校舎裏に呼び出した。
そこには俺の彼女と親友がいて彼女の方は嬉しそうな顔でニコニコと笑っていて親友の方は顔を曇らせて俯いていた。
そんな中で彼女は自分が浮気をしていること、その浮気相手が俺の親友であることを話し始めたのだ。
「そのままの意味だよ。実は樹くんと付き合ってからすぐに君の友達とも浮気をしたんだよ。ほら誕生日プレゼント……こういう刺激的なのも悪くないでしょ?」
その言葉に癪に触りながらも今度は親友の方を俺は見る。
「おい! お前はなんで俺の彼女と付き合うんだよ! 俺たちは友達だったはずだろ!」
「すまない。でも気がつけばコイツのことが好きになってしまって」
俺は泣くことしか出来なかった。そんな俺に彼女は嬉しそうに笑うとそっと親友の方に顔を近づける。
俺は見たくなくて目を背けようとするけどそれを彼女は許さなかった。
「ダメだよ。ちゃんと私達を見ないと……そして樹くんは心に刻み付けてね」
「刻み付けるって……何を?」
「樹くんは誰にも好かれないってことそれをずっと刻み付けてね」
彼女はそう言って俺の目の前で親友とキスをした。
それに対して俺は項垂れる。そんな俺に対して彼女は今度は俺に近づいてそっと俺の顔をあげると残酷な笑みを浮かべて今度は俺にキスをした。
「誕生日おめでとう。良かったね……誕生日にキスできて」
それだけ言って彼女は俺とは違う別の男と一緒にその場を出ていった。
結局あのあと数日で元カノは親友とも別れた……というか親友を一方的に振ったらしい。
親友はそれが心の傷になったのか学校を不登校になりそのまま姿を見かけなくなった。
全てが滅茶苦茶になった。その後も元カノはクラスの男子と付き合っては別れたり浮気したりを繰り返して結果としてクラスは学級崩壊寸前にまで陥った。
「好きでもない奴と付き合うなんて最低だよ」
俺は自宅のベッドで汗だくになりながら未練がましく呟いた。
スマホの時計を確認してまだ眠って三十分も経っていなかったことが分かる。
あれからそれなりの時間が経っているのに未だにあの時の光景を夢で見る。
誕生日に見せられたあの時の光景。それは未だに俺の心に刻み付けられている。
そしてその日から俺は全てを諦めるようになった。
人間関係を拒絶するようになった。他人と関係を持っても傷付くだけ、どうせ俺は誰にも好かれないと他者から距離を置くようになった。
また関係を構築してもそんなものはすぐに崩れ去ってしまう。
誰かと友達になったり恋人になったりしてもまた裏切られるかもしれない。
そんな風に怯えて過ごすぐらいならば始めから誰とも付き合わなければ良い。
誰とも付き合わず好きにならなければ傷付くことも悲しむこともないのだ。
だから俺は何も期待はしない。自分への好意は全て嘘だと自分に言い聞かせる。
実際今回の嘘告だってその信念があったからこそ見破ることが出来たのだ。
「もう俺は誰も好きにならないし誰とも仲良くなんかするもんか」
正直バカだと思う。それは自分の考え方が馬鹿だと言っているのではない。
こうしてわざわざ口に出しているのがバカだと言っているのだ。
未練がましいのだろう。友達などいらないと恋人などいらないとそう口にしながらも心のどこかではそれを望んでいるのだ。
望んでいるからそんな自分を否定したくてわざわざ口に出して言い聞かせているのだ。
「本当にバカだよ。でも……友達は勿論だが恋愛に関してはもっとごめん被るね」
今度は言い聞かせるんじゃなくて心の底から思ったことを口にする。
もうあんな想いはしたくない。だから恋愛だけは絶対にしないと心から誓った。
「兄さんご飯できたけどどうする?」
ぼんやりとベッドで過去のトラウマを思い出していると下から妹の声が聞こえる。
俺は今いくと大きな声で伝えるとすぐにリビングへと向かった。




