放課後の告白
「私と付き合っては貰えないでしょうか」
放課後の教室。夕暮れの光が照らす中で俺、空風樹は金髪ロングの美少女、夢春凛に告白されていた。
夢春と言えば学園内でも人気の美少女ーー金色の長い髪に水色の透き通る瞳、それに整った顔立ち。
多くの男子がそんな彼女に告白されれば舞い上がりながら大喜びでその告白を了承することだろう。
だが、残念ながら俺はそんな告白には動じない。
それは女性に興味がないからではない。彼女を綺麗だとかそんなことを思っていないわけでもない。
ではどうして告白されても何も思わないのか答えは簡単だ。
この告白が嘘告白だからだ。
「えっと……夢春さんだっけ」
「夢春でいいですよ。というか同じクラスですし」
「じゃあ夢春。こんなことを言うのはどうかと思うがお前の告白……嘘告白だろ?」
「嘘告白?」
「要するに好きでもないのに好きだっていうことだよ」
それを言われて彼女は悪びれもさずに舌をペロッと出した。
「ありゃ凄いですね。まさか私の告白が嘘だとバレてしまうとはどうして分かったんですか?」
あっさりと自分が嘘告白をしたと認める夢春。そしてどうしてバレたのかと興味津々で聞いてきた。
「別に何か根拠があったわけじゃねーよ。ただ……俺なんかを好きになる奴なんていないだろ」
俺は自分が他者に好かれない人物であることを自覚している。
運動は不得意、部活も入っていない。人と話すのは苦手でコミュ障だし趣味だってアニメやラノベを読むだけのいわゆる陰キャという奴だ。
こんな陰キャがクラスメイトから恋愛感情を持たれるなどあり得ないことだ。
俺はそれをしっかりと認識している。自分の身の丈を分かっているのだ。
故に夢春の告白だって嘘と簡単に見破ることが出来たのだ。
「まあ確かに私は貴方のことを好きではないですが好きになる人がいないは流石に自信が無さすぎなのでは?」
「謙虚だと言ってくれ。というわけで告白の返事も終わったし教室を出てもいいか」
「あ、教室を出るんでしたら一緒に帰りません?」
「帰らねーよ。なんで嘘告白をした奴と一緒に帰らなきゃいけねーんだよ!」
「嘘告白と一緒に帰らないこと……何か関係があるのですか?」
なるほどどうやら彼女は嘘告白を悪意なしでやっているようだった。
自分が悪いことをしたと思っていないから一緒に帰るのを断る俺を不思議に思えるのだ。
まあ別に俺自身嘘には慣れている。故に彼女に対して怒りとか怨みとかそういう感情はない。
感情はないがそれはそれとして今日においては彼女と帰りたいとは思わないし今日以降も夢春とは帰るつもりはなかった。
もっとも正直にその気持ちを話すつもりはないけど。
「どっちにしろ。俺はまだ予定があるからな」
「帰宅部なのに予定があるのですか?」
「お前含めて三人から告白の手紙が来ている。全員が嘘告白だろうがちゃんと告白を受けないといけないからな」
「三人も……モテモテなのですね」
「全員嘘告だけどな」
俺はそれだけ言って教室を出た。正直嘘告の一人目が彼女で良かった。
まあここ最近は嘘告白がブームになりつつあるからな彼女も興味本位で乗っかったのだろう。
俺はすぐに次の告白場所である。空き教室に向かった。
ーーー
空き教室。そこでは黒髪ツインテールの女の子が机に座りながら待っていた。
彼女の名前は桜野千鶴のはずだ。
彼女に関しては正直あまり関わったことがないので手紙で書かれた本名とクラスぐらいしか分からない。
ただ見た目でいうならばかなりクラスで人気がありそうな可愛い見た目をしている。
黒色のツインテールに黒色の瞳で可愛らしい顔つきをしている。
「先輩! 来てくれたんだぁ!」
目を輝かせてこちらに近寄ってくる桜野。俺は少しだけ離れてなるべく距離を詰めないようにする。
俺は人間が嫌いだ。更に女性はもっと苦手なので無邪気に近寄られるとつい警戒してしまうのだ。
「それで話があるって何の用だよ」
「放課後の空き教室、夕暮れのオレンジ色の世界で女の子の呼び出し……本当は分かってるんじゃない? そう! 樹に告白しようと思ったんだよ! ってことで私の彼氏になってよ!」
「いや普通に断るけど」
「なんでよ! 可愛い後輩の頼みなのになんでダメなの?」
「俺はお前のことよく分からないし後輩の頼みっていうのもそもそも俺とお前は同級生だろ」
「精神的後輩だからそこはいいの!」
なんだよ精神的後輩って……。
「あと……本質的な問題としてお前の告白ーー嘘告だろ?」
「な、なんで分かったの!?」
彼女がどうしてバレたのかと驚くがそれは俺という存在が誰からも好かれないという自信のなさが前提にあるので彼女の嘘告が特別上手くなかったわけではない。
なので嘘告の自信は無くさないよう正直にそれを口にする。
「安心しろ。お前の嘘告は普通だったぞ……でもそもそも俺のことを好きになるような人間はいないからな。俺に告白した時点で嘘告なんだよ。だから嘘告の自信は持っていいぞ」
「おお! なんかいい台詞だね! かっこいい! 嘘告の自信はいらないけど告白して良かったよ。それじゃまた明日学校で話そうね!」
「いや普通に話しかけないで欲しいんだが」
嘘告をして満足したのか桜野はそのまま教室を出ていってしまった。
さっきの夢春といい何でこいつらは嘘告した相手に平然と話をしようとするんだ。
勿論俺としては嘘告とか関係なく人と会話することそれ自体が嫌なのだが。
ーーー
「こ、これで三人目」
流石に三人連続に告白されるという異常事態に内心疲弊しながらも約束の場所に着いた。
そこは校庭のベンチ。そこで黒髪黒目のショートヘアーの少女が静かに座っていた。
彼女の名前は如月秋。一応彼女とは同じクラスメイトなので何度か話したことはある。
もっとも話したことといっても向こうから何回か話し掛けてきてそれを俺が適当に相槌をするだけの会話と呼べるかすら怪しいものだった。
なので彼女を知ってはいるけどそれだけ当たり前だがとても告白されるような関係ではない。
「如月何のようだ」
「あ……空風くん……その……あの……」
俺は嘘告だと決めつけていたが彼女の場合だともしかしたら普通に悩み相談の可能性もあるなと考える。
手紙の内容は話したいことがあるってだけしか書かれていなかったし。
そんなことを思いながら彼女が話すのをゆっくりと待つ。
如月はクラスでは引っ込み思案な性格。だから話すのに時間が掛かるのだ。
「わ、私……その……空風くんのことが好きで……その……付き合ってくれませんか?」
「そうか、お前も嘘告か」
「……え?」
「最近は嘘告がブームだからな。誰かに嘘告白をしてみたいって気持ちも分かる。俺は寛大だから問題はないがあんまり他の男には嘘告してやるなよ! 中には傷付くやつもいるから」
「わ、私はその……そうじゃなくて……」
「ん?」
しばらくして何回か俺の顔を見る如月。だけどもやがて何だか諦めたように笑った。
「そ、そうなんだ……よく嘘告って分かったね」
「今日は嘘告を二回もされたからな。二度あることは三度ある。次の告白も嘘告だと分かってしまったんだよ」
それに対して如月は静かに俯くだけだ。そんなに嘘と見破られたのが悲しかったのだろうか。
「じゃあ俺は帰るから……また明日な!」
「う、うん……また明日」
そう言って彼女は手を振るう。やっぱりその表情は何だか寂しそうでもしかしてさっきの告白は嘘じゃないのかもなんてそんな期待を一瞬だけする。
でも辞めた。そんなことはないのだ。俺は誰にも愛されない。俺を好きになる奴なんて存在しない。
少なくとも恋愛感情においてはそうだという確信があった。
だから俺は彼女の寂しい顔も何かの見間違いだろうと思い家に帰ることにしたのだった。




