デートの口実
夢春の体調が治って一週間、俺は夢春と一緒に家に帰っていた。
別にそれ自体は何も珍しいことではない。毎日というわけではないが特に最近は夢春と一緒に帰る頻度が多くなっている。
でも今日の俺は夢春と一緒に帰ることに少しだけ緊張していた。
理由は簡単。俺は夢春に対してデートに誘おうと思っているからだ。
正直俺は夢春に対して少なからず好意を持っている。
だがそれが恋愛感情なのかは分からない。なのでそれを確認するためにも一度デートをしてみたいと思った。
しかし問題はどうやってデートに誘うかだ。勿論デート自体は何回か行ったことはある。
桜野とは恋愛漫画の参考にと一緒に出掛けたし元カノとも恋人になってからデートに何度か行った。
だが元カノとはあくまで恋人になってからだし桜野は恋愛漫画の為という理由があった。
理由もなく夢春をデートに誘うのは夢春のことが好きだと言っているのと変わらない。
まだ自分の気持ちさえ曖昧で更に夢春が俺のことを好きかどうかも分からないのに理由もなくデートに誘うことは出来ない。
つまり俺にはデートの口実が必要だった。そしてその口実が思い付かず悩んでいた。
「空風さんどうかしましたか?」
「ど、どうって何か変だったか?」
「はい。どこか悩んでいるような顔をしていたので」
夢春が心配そうにこちらを見る。流石にデートに誘えなくて悩んでいるとは言えなくて適当に誤魔化すことにする。
「別に何でもないよ。それより夢春……良かったら映画とか行かないか」
色々とデートの口実を考えたけど結局口から出たのは本心だった。
ただデートというのは勇気がいるのであくまで映画とだけ口にした。
それに対して夢春は少しだけ考える素振りをしてから言葉を紡ぐ。
「いいですよ。映画自体はたまに見ますから……でもどうして映画に? みたい映画とかあるんですか」
「一応な、面白いって評判の奴があったんだよ」
デートを映画にしたのは桜野と行ったときに盛り上がったから。
あの時みたいに今度は夢春と映画を見て盛り上がりたいと思ったのだ。
「ですが私と空風さんの二人で映画を見るのですか?」
「あ、ああ……そのつもりだけど」
「ふふっ、何だかデートみたいですね」
嬉しそうに夢春は笑う。その言葉を聞いて何だか恥ずかしくなって目を逸らすけど。
同時にデートだと言って喜んでくれたことが少し嬉しかった。
ーーー
「これだけ買えば十分だろ」
俺は大量のアイスが入った袋を持ちながらそう呟いた。
春の季節は終わり徐々に夏が近づいて来ている。
そして夏が近づけば気温が上がりアイスが食べたくなってしまう。
故に俺は自分と愛梨の分のアイスをコンビニで買っていたのだ。
「さて……早めに帰るか」
俺はアイスが溶けないように早めに帰ろうとするがそこで見知った人物を見掛ける。
向こうも俺に気づいたのか嬉しそうな表情を浮かべてこちらに走ってきた。
「空風くん……また会ったね」
「如月はまた散歩か?」
そこにいたのは如月だった。どうやら前回出会った時と同じように散歩をしていてそこで俺と出会ったみたいだった。
「最近はこの道をよく通るからね。空風くんはまたお菓子を買ったの?」
「今回はアイスだ。なので少し早めに家に帰らなきゃならん」
「アイスか……最近暑いもんね。私も一緒に付いていってもいいかな」
「それはいいけど早めに帰るぞ。アイスが溶けるからな」
「うん。少しの時間でも一緒にいれればそれでいいからさ」
俺たちは雑談をしながら家へと向かう。内容は特に大したものではない。
授業が難しかったとかどんなアイスを買ってきたのかだとかそんなよくある雑談だった。
「そういえばここで空風くんがココアを買ってくれたんだよね」
如月が道に置かれた自販機を見てそんなことを呟いた。
俺にとっては如月が寒そうだったから心配して買っただけのことだったが彼女はしっかりとそのことを覚えているみたいだった。
「そういえばそんなこともあったな」
「あの時……嬉しかった。ココアを買ってくれたことも嬉しかったけど何よりも私を心配してくれたのが嬉しかったんだよね」
如月は恥ずかしそうに呟いた。俺はふと自販機の方を見る。
もう春から夏に変わったからかココアは売っていなかった。
「そういえば部活の調子はどうなんだ? 脚本書いてるんだろ?」
「うん。今度は学園祭に向けての演劇の脚本を書いているんだ」
如月の部活は演劇部。演劇部は学園祭で劇の発表があったはずだからその為の脚本なのだろう。
演劇部にとって学園祭は自分の活動を多くの人に見て貰える晴れ舞台だ。
だからこそみんな気合いを持って挑んでいるはず。
そしてそれは如月だって同じはずなのに何故か部活の話をする彼女の表情は落ち込んでいるように見えた。
「部活……調子悪いのか?」
「なんでそう思ったの?」
驚いたような表情で俺を見る。
「なんていうか……お前が落ち込んでいるように見えたから」
「そっか顔に出てたか。演劇部失格だなぁ」
如月はそう言って悲しげに笑う。正直なところ俺は演劇について分からない。
それに彼女は女子演劇部だ。俺が力になれることは少ないだろう。
それでも放って置けなくてだからせめて言葉を投げ掛ける。
「何か悩みがあるなら言ってくれよ。俺じゃ頼りにならねーかもしれないけどさ」
「別に大した悩みじゃないよ。ただちょっとスランプなんだよね。物語が書けなくなっちゃって演劇を通して物語を通して何を伝えたいのかちょっと分からなくなってるんだ」
「……そうなのか」
「でもまだまだ学園祭まで時間があるし心配しなくても大丈夫だよ?」
「分かった。でも力になれることがあったら言ってくれよ出来ることなら協力するからさ」
「ありがとう。手伝って欲しいことがあったら言うね」
気がつけばもう家の前。まだ如月のことは少し心配だが心配をしたところで彼女のスランプが治るわけではない。
俺は如月のことが気になりつつも家へと帰るのだった。




