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手作りの料理

「シチュー出来たぞ」


俺はテーブルの上に手作りのシチューを置いた。

ジャガイモやニンジンの形はバラバラ。シチューだったので見た目こそそこまで悪くはならなかったけどとても褒められるような見た目はしていない。

だというのに夢春は嬉しそうに俺の手料理を見ていた。


「空風さんありがとうございます。一度空風さんの手料理を食べてみたかったんですよねー」


「あんま期待するなよ。俺の料理なんて大して美味くないからな」


夢春や愛梨みたいに毎日料理を作っているわけでもない。

一時期妹のために料理を作ったことがあるぐらいでそれ以降はたまに趣味で料理を作ることがあるぐらいでほとんど料理をしなかった。

だから万が一俺の料理を食べてその不味さで夢春ががっかりしやしないかと不安だった。


「大丈夫ですよ。どれだけ不味くても空風さんの手料理ですからちゃんと食べますよ」


夢春は冗談っぽくそう言うとシチューをスプーンで食べる。

それを見ながら俺は夢春がどんな事を言うのか不安で仕方なかった。

不味いと言われるのか美味しいと言われるのか、勿論最低限の味見はした。だから大丈夫なはず。


「……空風さん」


「あ、ああ……どうだった?」


「大丈夫ですよ。ちゃんと美味しかったです」


夢春は笑顔でそう言った。その言葉に俺は安堵の息を吐いて胸を撫で下ろす。

不味いと言われるのを覚悟していた。そうでなくても美味しいと言われるとは思っていなかった。


「……そうか。それなら良かったけど……」


俺は照れ恥ずかしそうにそう呟くと夢春の方を見る。

どうやら美味しいと言っていたのは嘘では無かったようで彼女は美味しそうにシチューを食べていた。


正直最初は手作り料理を作るなんて面倒だと思ったが、今では作って良かったと思う。

なんだかんだで自分の料理を美味しいと言ってもらえるのは嬉しいものだ。

今になって愛梨がよく手料理を俺のために作ってくれる理由が分かった気がする。


「夢春はシチューが好きなのか?」


シチューをほとんど食べ終えていた夢春にそう尋ねる。

本当のところ俺はシチューなんかを作るつもりなんて無かった。

熱が出てるんだしお粥でも作ろうと考えていたのだ。

でもそんな俺に夢春はシチューを作ってほしいと頼んできたので馴れていないシチューを作ることになった。


「昔、よくお母さんが作ってくれたんですよ。今は色々とあって独り暮らしなわけなんですけど何だか懐かしくなっちゃって」


そう呟く夢春の目はどこか寂しそうだった。俺には愛梨がいる。だから家にいても寂しいと思ったことはない。

でも夢春は違う。彼女はこの部屋で一人なのだ。


「空風さん……改めてありがとうございます。正直熱が出た時は夜ご飯どうしようって思ってたんです。だから空風さんが来てくれて凄く助かりました」


夢春はシチューを食べ終えると立ち上がって皿を運ぼうとする。

俺はそれを制止して夢春から皿を受け取ると食器を洗う。


「別に友達だからな。これぐらいの事は手伝うよ」


きっと相手が夢春じゃなくて如月や桜野だったとしても同じように面倒を見たと思う。

でも本当に俺は友達という理由だけで夢春を助けようと思ったのだろうか。


「よし皿洗いも終わったし俺はそろそろ帰るよ」


俺はベッドで休んでいる夢春にそう呟いてこの家から出ようとする。


「ま、待ってください」


少しだけ彼女らしくない焦ったような声が聞こえる。

俺はその事に驚くもどうやら驚いたのは俺だけではなく夢春も自分の声に驚いたようだった。


「……夢春?」


「……あ、えっと……ですね。特に何かあるというわけではないのですが……もう少しだけ側に居てくれませんか?」


布団を口元まで被りながらこちらを見る夢春。

正直卑怯だと思った。そんな風に頼まれたら断れるわけがない。


「まあ……お前がいいなら別に」


普段はもっと沢山話すことが出来ていた。なのに今日の夢春はいつも以上に綺麗で可愛く見えてだから緊張してしまう。

夢春も緊張しているのだろうか、それとも熱でやっぱり体調が悪いのだろうか不思議といつものように話すことは無かった。


ただ無言でいるだけ。でも何故だろう確かに緊張はしているけど不思議と嫌じゃなかった。

それから暫くの間、二人で時間を過ごしてから俺は帰ることにした。

家を出ようとする俺を夢春が玄関まで送ってくれる。

本当は夢春には休んで欲しかったが彼女はそれを断った。


「もっと一緒に居たかったです……」


寂しそうな拗ねたような口調で言う。


「別に病気が治れば学校で会えるだろ」


「それもそうですね。でも……もし明日も治らなかったらまたお見舞いに来てくれますか?」


「どうだろうな」


何となく素直に行くというのが恥ずかしくてそんな曖昧な返事をしてしまう。

でもそんな曖昧な返事を許してくれるほど夢春は甘い人ではなかった。


「それでも私、期待して待ってますから!」


いつも通りの笑顔でそう呟く。

結局その後、夢春の体調は一日で治り見舞いに行くこともなかった。

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