愛梨と料理
「これプレゼント! 先輩が好きそうな漫画本買ってきたんだ」
誕生日をみんなで祝いながら俺は夢春と話していると桜野が思い出したかのように袋を渡す。
袋の中を見てみると沢山の漫画本が中には入っていた。
その漫画の内容はタイトルや表紙を見る限り確かに俺の好きそうな内容ばかりだ。
「こういうの好きだと思ってさ。喜んでくれると嬉しい」
「ありがとうな! 暇な時に読むよ」
「誕生日プレゼントなら私もありますよ」
桜野が誕生日プレゼントを渡しているのを見て夢春がそんなことを言う。
いや夢春だけではない。この場にいる全員がプレゼントを用意しているみたいだった。
「夢春のプレゼントはどんなのなんだ?」
「私のはハンカチですね。無難なものを用意しました」
「お前の事だから変なプレゼントをしてくるかと思ったよ」
「空風さんが私にどういう印象を持っているのかは非常に気になりますが私には空風さんが喜びそうな物が分からなかったので役に立ちそうな物をと思ったわけです」
「ありがとう大事にする」
俺は夢春からハンカチを受けとる。更には如月や愛梨からも誕生日プレゼントを貰う。
如月はお菓子の詰め合わせ、愛梨は自分でも使えるようになのかコップをプレゼントしてくれた。
それらは何も高級なものではない。学生が買えるありふれた物だ。
でも俺にとっては大事なものでプレゼントの中身は勿論の事だが何よりもこうしてプレゼントを渡してくれる彼女たちの好意が嬉しかった。
やがて誕生日プレゼントも終わり、互いに談笑して過ごす。
あれだけ用意されたご馳走もすっかり無くなって残りのおかずが僅かにあるだけ。
そんな中でケーキが一つだけ余っている。それを取ろうと夢春が皿に手を伸ばすとその手が如月の手とぶつかる。
どうやら二人とも同じケーキが欲しがったみたいだ。
「あ……夢春ちゃんごめんね。私、いらないから夢春ちゃんにあげるね」
本当はケーキを食べたかったのだろう。でも夢春に遠慮して如月はケーキを食べるのを辞めた。
それに対して夢春は少し考える素振りをするとナイフを取り出してケーキを半分に分けて別の取り皿にケーキを置いて如月に渡した。
「どうせなら二人で分け合いましょう!」
「いいの?」
「はい。こうして二人で食べる方が私は好きなので」
「……ありがとう」
夢春と如月は互いにケーキを分けて食べる。それは友達同士が仲良くしている微笑ましい光景。
だけどそれを見て愛梨はふと小さな声で呟いた。
「かわいそう」
「……え?」
「ああ……別に大した話ではないんだけど夢春さんがケーキを分け合うのを見て可哀想だと思ったのよ」
「ケーキを全部食べられなかったからか?」
「そうじゃないわ。私が可哀想だと思ったのは夢春さんや如月さんじゃなくてケーキのことよ。だってケーキを分け合うってことは分け合う程度にしか愛されていなかったってことでしょう? 本当に美味しくて好きなケーキなら誰とも分け合ったりしないはずだもの」
「なんていうか愛梨……お前って感性豊かだよな」
「あくまで家庭料理部としての話よ。このケーキは売り物だけど、もし私が作った料理を分け合おうって言われたら私の作った料理ってその程度のものだったんだって落ち込むのよね」
それは料理に対して真剣な愛梨だからこそ抱く気持ちなのだろう。
俺としてはむしろ多くの人が自分の料理を食べて喜んでくれるならそれで嬉しいのだが。
「自分でも面倒な性格だとは分かっているんだけどね。その人の為に作る料理ならその人だけに食べてほしいじゃない」
「面倒でもいいんじゃないか? それだけ相手を想って料理を作ってるってことなんだし」
「兄さんは優しいわね。ちなみにだけど私が料理を作っている時はいつも兄さんのことを考えながら料理を作っているのよ。私はいつだって兄さんのことだけを考えているんだから」
「随分と愛されたもんだ。俺もお前のこと大好きだぞ」
「それは家族としてでしょ」
「それ以外に何があるんだよ」
「……別に何でもない」
女心はよく分からない。愛梨は少しだけ拗ねたような表情をしながら夢春たちの所へと話に行くのだった。




