綺麗な嫉妬
「愛梨さんの紅茶……とっても美味しいです」
リビングで紅茶を飲みながら夢春さんは呑気にそんな感想を口にした。
私の敵意には気づいているはず、それなのに彼女は私に対する警戒心というのがまるで無かった。
というか紅茶自体そもそも飲ませるつもりは無かった。
それなのにどうせなら一緒に紅茶を飲んで話しませんかなんて言われて流されるがままに紅茶を飲む羽目になってしまった。
「紅茶の味なんてどうでも良いでしょう! それより私が聞きたいのはどうして兄さんに近づいたのかってことよ。兄さんをどうするつもりなの?」
「美味しい紅茶を飲むのは大切な事ですよ。紅茶を飲むと心が落ち着きます。その紅茶が美味しいと心が温かくなりますから」
「そうじゃなくて兄さんの話をしたいんだけど」
私の言葉に夢春さんは動じない。きっと彼女はマイペースな人なのだと思った。
でもそのマイペースさが余裕のある感じがきっと人を惹き付けるのだろう。
夢春さんのことは良くは知らない。でもこの僅かな会話をしただけで彼女には友達が多いだろうなということは理解できた。
「私はただ空風さんと仲良くなりたいだけですよ。空風さんと一緒にお話ししてご飯を食べて一緒に帰る……それが私が空風さんに近づく理由です」
「でも仲良くなるなら別に他の人でも良いじゃない。どうして兄さんなのよ」
「そんなの空風さんのことが好きだからに決まってるじゃないですか」
「なっ……貴方、兄さんのこと好きなの? 恋人になりたいと思っているの?」
あまりにも自然に好きという言葉が出てしまったものだから私は慌ててしまう。
それに対して彼女はすぐに答えるわけではなく紅茶を飲みながら私の反応を見ていた。
「好きですよ? でも恋人としてではないです。純粋に友達として空風さんが好きなんです。だって話していて楽しいですし一緒にいると安心しますから。愛梨さんだってお兄さんを好きなのでしょう」
「当たり前よ。兄さんは両親のいない私に優しくしてくれた。私を一人にしないでくれたのよ……好きに決まってるじゃない」
「ふふっ、共通点が出来てしまいましたね。私愛梨さんとも仲良くなりたいです。同じ人が好きなんですしきっと友達になれますよ」
「そんなわけ無いでしょ。同じ人が好きだからこそ友達にはなれないのよ。確かに貴方は兄さんのことが恋人としては好きじゃないのかも知れない。それでも私は貴方と兄さんが仲良くしていると嫉妬してしまうのよ……私は嫉妬してしまう女なのよ」
夢春さんは綺麗な人なんだと思った。それは勿論見た目もだけどそれ以上に中身が綺麗なのだ。
私は最初夢春さんに敵意を向けていた。だというのに彼女は敵意ではなく好意で私に返してきた。
それどころか嫉妬している私に仲良くなりたいと友達になりたいとまで言ってくる。
「嫉妬ですか……素敵な感情ですね」
「え……嫉妬なんて醜いじゃない」
「そうでしょうか。嫉妬出来るってことはそれだけ夢中になるものがあるということです。貴方は空風さんと仲良くする私に嫉妬していると言っていました。それは悪いことではありませんむしろ良いことなんです。だってそれだけ貴方は空風さんのことを愛しているということなのですから」
夢春さんは恐らく本心からそう言っている。だって彼女の表情は今までと違ってどこか寂しそうな表情をしていたから。
でもそれは一瞬のこと。すぐにさっきまでの優しい笑顔になる。
「私は嫉妬していたとしても友達になれると思っています。というか私は愛梨さんと友達になりたいです! なのでお友達になってくれませんか?」
「……貴方変わってるわね。でもまあ私と夢春さんが仲良くなるのは兄さんも喜ぶと思うから友達になってあげる」
「ありがとうございます! 愛梨さんとお友達になれて凄く嬉しいです」
本当に嬉しそうに微笑む夢春さんに私はすっかり敵意も嫉妬も消えていた。
いっそのこと悪い人なら自分の行いを正当化出来たのに彼女が良い子であるが故に気づいてしまった。
私は兄さんを守ると心の中で口にしながら本当は兄さんを独占したかっただけなのだと。
「それはそうと愛梨さん! 実は少しばかりお話がありまして」
「なによ……話って」
「実はーー」
ーーー
「それで……大丈夫だったのか?」
俺は帰ってきた夢春たちを見ながら心配そうに尋ねる。
だけど二人の様子を見てすぐに心配する必要など無かったことに気づいた。
だって二人の間に険悪な空気はなく元から上機嫌の夢春はともかく不機嫌だった愛梨の機嫌も直っているみたいだった。
「大丈夫も何も二人で紅茶を飲んで話をしていただけですよ」
「そうね。夢春さんとお話しして仲良くなったの。それよりも二人は勉強をしていたのでしょう? だったら私にも少し勉強を教えて貰えるかしら」
そう言って愛梨は教科書とノートを取り出す。そんな愛梨と一緒に俺たちは中間テストに向けて勉強をするのだった。




