二人の夢 前編
「桜野さん……今日も休んでいるみたいです」
「そっか」
休み時間、夢春は他のクラスメイトから聞いてきたのか桜野が休んでいることを俺に伝える。
桜野の漫画賞が落ちたことはサイトを見てすぐに分かった。
その事実を知って桜野のことが心配になるが彼女はその日以来学校に来ていない。
桜野が学校を休んで三日になる。登校する気配は依然としてなく連絡をしても返事が返ってくることは無かった。
一応学校には体調不良と連絡自体は入っているので本人は無事みたいだが。
「桜野ちゃん……漫画賞落ちたからそれで休んでるのかな」
「体調不良の可能性も勿論あるけど休んだ時期を考えるとそうだよなぁ」
心配そうに呟く如月に俺は溜め息混じりに呟いた。
最初に桜野が休んだ日。彼女のことを考えてそっとしておくことにした。
でも三日間も桜野と会えず連絡も付かないとなると流石に心配だ。
勿論本人のことを思えば彼女の心が落ち着くまでそっとしておくのが正解なのかも知れない。
でも俺は嫌だった。桜野が落ち込んでいるのに何もしてやれない自分が彼女が悲しんでいるのに側にいてやれない自分が嫌だった。
「空風さんはお見舞いに行くんですね」
「ああ……流石に三日経っても連絡取れないのは心配だからな。というかお前たちは一緒に行かないのか?」
どうせならいつもの三人で桜野を迎えに行けば良いんじゃないかと思った。
でもそれに対して二人とも首を横に振った。
「流石に三人で押し掛けるのは悪いですしきっと桜野さんは私たち三人で行くよりも空風さん一人で行った方が喜ぶと思うんです」
「人数が多いと話しにくいこともあると思うし行くなら一人がいいと思う。空風くんが一番桜野ちゃんを心配してるでしょ? だから空風くんがお見舞いに行ってあげて」
「分かった。お前らの分までしっかりと彼女の側にいるよ」
桜野がどれだけ落ち込んでいるのか俺には分からない。
きっと桜野の苦しみは彼女だけが分かる苦しみなのだ。
でも分からないからって心配しちゃいけないなんてことはないはずだ。
落ち込んでいるのなら苦しんでいるのなら側にいてやりたい。
その気持ちを抱えたまま、俺は桜野のお見舞いに行くことにした。
ーーー
「何やってんだろ……私」
ベッドでぼんやりと寝転びながら私、桜野千鶴は小さく呟いた。
既に学校を休んで三日。自分でもいい加減立ち直らなければと思っているのに未だに私は落ち込んだまま学校に行くことが出来ないでいる。
正直なところ期待していた。あれだけ頑張って描いた漫画なんだ凄く気持ちを込めて創った漫画なんだ。絶対に受賞すると思っていた。
でも結果は落選。期待が大きかった分、落ちたと分かった時の落胆も大きかった。
私はベッドに散らかった漫画の一冊を手に取ってそれを読んでみる。
確かに絵が綺麗だ。ストーリーだって面白い。でも……。
「私の漫画だって面白いよ」
その言葉と共に一気に悔しさが込み上げて涙となって溢れた。
分かってる。私の漫画が選ばれなかったのは単に私の実力不足だ。
きっと私よりも魅力的な漫画があったから自分の漫画が選ばれなかったそれだけなのだ。
「でもさ……私の漫画はこんなに面白いんだよ……登場人物だって魅力的でこんな良いストーリーなんだよ……なのに……なんで落ちるの?」
誰だって自分の作品をつまらないと思って賞を出したりなんてしない。
自分の作品が面白いと思うから自信があるから賞に出すのだ。
本屋に私の漫画が並んだらどうしようとか私の漫画が人気が出てアニメ化や実写化されたらどうしようとかそんな幸せな夢を見ていた。
でも夢は覚めるものだった。現実の私は売れない漫画家どころか漫画そのものを出版することすら出来なかった……そんな実力すら無かったのだ。
沢山の時間を掛けた。沢山の絵を描いた。先輩にだって協力して貰った。
でもそれらは全て無駄だった。私のやってきたことは頑張ってきたことは全て無駄だったのだ。
だから諦めよう。もう漫画家なんか目指さない。
私みたいな人間が漫画を描いて誰かを幸せにするなんておこがましいことだったのだ。
そう夢を諦めようした時だった。突然家のベルが鳴り響いた。
誰が来たんだろうと涙を拭いて私は家の扉を開ける。
「……先輩」
そこにいたのは先輩だった。でもその事に驚いたりはしない。
三日も学校を休んでいたのだ。先輩が心配してここに来ることは十分予想できたことだった。
いや、むしろ私は期待していたのかも知れない。
心のどこかで先輩が来てくれることを。先輩といる時間は楽しくて嬉しくてドキドキした。
だから先輩が来たら辛いことを少しだけ忘れられるような気がしたのだ。
でも同時に先輩と会いたくないという気持ちもあった。
だって今先輩と会っても何を話せば良いのか分からなかったからだ。
漫画賞に落ちたことを話せば良いのだろうか、夢を諦めたことを話せば良いのだろうか。
何も話さなくて良いのだろうか。分からなくて分からないから黙ることしか出来なくてそんな私に対して彼は持っていた袋を私に向かって差し出した。
「シュークリーム買ってきたんだ。一緒に食べないか?」




