↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
15/55

彼女が漫画を描く理由

「ここが桜野さんのお家なのですね!」


桜野の家の中。そこで夢春が物珍しげに彼女の部屋を見てまわっている。

桜野の部屋は沢山の漫画本が散らかっており、ある意味桜野らしい部屋になっていた。

そんな中で桜野は恥ずかしそうにしながら賞に送る原稿の漫画を手に取っていた。


「はい。これが私の描いている漫画」


桜野はそう言って漫画の原稿を俺たちに見せる。

今回俺たちが桜野の部屋に来たのは桜野がどんな漫画を描いているのか見るためだった。

本来ならば如月も誘って四人で漫画を読もうとしていたのだが、彼女は演劇部の方が忙しいらしく来れなかった。


「空風さん! 凄いですよ! 絵が描かれています!」


「そりゃ漫画だからな。でも確かにどのキャラクターも可愛いし上手いじゃないか」


物語としては王道の恋愛漫画。男性と女性が恋をする物語。

絵も綺麗だし物語だって悪くない。これなら本当に漫画の賞を取って漫画家になることが出来るかも知れない。


「ありがとう! 一応この原稿で賞に出す予定だからさ。二人の感想聞けて自信になったよ」


俺たちは最後まで漫画を読み終えてその原稿を桜野に返す。

桜野はそれを大切に引き出しに仕舞うと今度は彼女の所有物であろう大量の漫画とクッキーを取り出した。

俺たちはそれを食べながら漫画を読んだり雑談したりして三人で時間を過ごす。

そんな中で夢春は漫画を読みながらふと桜野に声をかけた。


「そういえば桜野さんはどうして漫画を描こうと思ったのですか?」


それはちょっとした疑問。でも同時に夢春にとっては重要な質問だったのかもしれない。

夢春は物事に夢中になったことがない。だからこそ漫画を描くことに夢中になれる桜野のことを不思議に思ったのだ。


「別に大した話じゃないんだ。ただ……私は漫画のおかげで救われて救うことが出来た。だから漫画を描くんだよ」


「救われて救うことが出来た……ですか?」


「小学生の頃の話だよ。その時さ、仲の良い友達がいたんだ。でもその子は内気な性格をしていて運動神経も悪くてさ……それでいじめられるようになったの」


桜野が話し始めたのは小学生の頃の記憶。いじめと聞いて俺は辛いことを聞いたんじゃないかと不安になったが桜野の表情は温かなままだった。


「当時の私は臆病者でさ。友達だっていうのに彼女がいじめられている時、怖くて教室の隅でその友達を見ていることしか出来なかった。ううん、痛々しくて見ることすら出来なかったんだ」


桜野の言葉に俺と夢春は彼女を見る。気がつけば俺たちは漫画を読むのを止めて彼女の言葉に聞き入っていた。

そんな中で桜野はまるで昔起きた光景を今目の前で見ているかのように話している。


「でも助けたくて……でも勇気がでなくて……そんな風に悩んでいる時に出会ったのが一冊の漫画本なんだよね。別にその漫画は特別凄い内容ってわけじゃなかった。内容で言えば女の子同士の友情物語でよくある展開だった。その漫画で女の子がいじめられている所を友達が助けるシーンがあってさ小学生の頃の私はそのよくある展開がとても衝撃的な展開に写ってカッコいいって思ったんだ」


「よくある展開でも初めて見た展開なら衝撃的な展開のように思えるもんだしな」


「うん……その漫画を読んで友達を助けたいって思った。怖くても頑張ろうって思えたんだ。それで勇気を出して友達をいじめている奴に辞めろって言ってやったわけ。勿論喧嘩になった相手は男の子で大勢で女の子の私たちじゃ無力で……全然敵わなかった。私も友達も一緒に戦ってボコボコにされたわけなんだけど、でも無駄じゃなかったんだ」


「先生が来たのですね」


「そう。先生と親が来たわけ。私と友達の怪我を見ていじめが明るみになってソイツらは処分を受けてそれからは大人しくなった。結果的に漫画みたいにカッコ良くは無かったけどさ。それでも漫画のおかげで私は友達を救うことが出来て友達は救われた。もし、あの時漫画を読まなくてずっと助けられ無かったら私は友達を助けられなくて後悔してたし友達はずっといじめられ続けてたんだと思う」


それを聞いてふと思う。本当に桜野は漫画を読まなければその友達を助けることは無かったのかと。

俺はその疑問に対してすぐにそんなことはないと確信できた。


だって俺は桜野とそれなりの時間を過ごして彼女のことを知ることが出来たから。

きっと桜野ならば漫画を読んでいなくたって友達を助けたはずだ。

だって桜野はそう言うことが出来る真っ直ぐな人間だから。


「結局、その友達とは別の中学に入って疎遠になっちゃって……姿もおぼろげ、名前だって覚えてないんだけどね」


懐かしむように桜野は告げる。


「私もそんな風に誰かの人生に影響を与えたいんだ。私の漫画を読んで欲しい。私の漫画で少しでも多くの人を幸せにしたい……だから私は漫画を描くんだよ!」


桜野はそう言って笑う。そんな彼女の笑顔を見て俺も桜野の漫画が賞を取って本屋に並べば良いと思った。


ーーでも現実はそんなに甘くはなかった。

桜野がみんなに幸せになって欲しいと想って描いた漫画は賞に受かることはなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。