結婚願望
「なあ、夢春って結婚願望とかあるか?」
休み時間、もはや日課となった夢春との雑談そんな中で俺は彼女にふとそんな事を聞いてしまう。
昨日の夜、愛梨が言った結婚したいという言葉。
それを聞いてふと妹の愛梨に結婚願望があるのか気になってしまった。
勿論俺は血が繋がっていないとはいえ兄妹なのでそんなことは考えていない。
彼女にしても言ってしまえば冗談で口にしただけなのは分かっている。
でもやっぱり愛梨も高校生だし一人の女性として結婚願望があるのだろうか。
もっともそれを夢春に聞いても意味がないのは理解している。
でも夢春に聞くことで高校生の女の子は結婚願望があるのかどうかは確かめることは出来る。
「結婚願望ですか……私はあまり。そもそも好きな人とかそういうの出来たことないですし。でもウェディングドレスは着てみたいですね可愛い服はやっぱり着たいです」
「そうだよな。結婚とか普通に考えてまだ先だしな。そもそも恋愛すら上手く行かないのに結婚なんて考えられるわけないよな」
「でもどうしてそんな質問を? 誰かと結婚したいのですか?」
「いや……そういうわけじゃないけど」
流石に妹に冗談で結婚したいと言われて意識してしまったなんて言えるわけがない。
なので自分は適当に歯切れの悪い言葉で誤魔化した。
「そういえば他の皆さんは結婚願望があるのでしょうか?」
「いや他の二人も多分ないだろ」
「ん? 二人とも何の話してるのさ」
俺と夢春が雑談しているとタイミング良くというべきか桜野がこちらに来た。
どうやら休み時間に俺たちと話したくてわざわざこの教室に来たみたいだった。
「結婚の話です。私と空風さんの二人で結婚について話していたんです」
「え! 二人ってそんな関係だったの!?」
「そんなわけねーだろ! というか夢春も勘違いさせるようなこと言うなよ」
「何の話ですか? 私は事実を述べただけですよ。それとも私との結婚の話は嘘だったのですか!?」
「やっぱり二人はそういう関係だったんだ!?」
夢春は半分笑いを堪えつつもそんなことを言ってくる。恐らく確信犯だ。
そしてそれを聞いた桜野は真に受けて大慌てしていた。
俺は何とか桜野に事情を説明して誤解を解かせるのだった。
「なるほど結婚願望かぁ!」
「桜野さんは結婚願望とかありますか? 後は結婚したい人とか」
「うーん……特に結婚したいって思ったことはないかなぁ。ま、仮に結婚するなら趣味が合って優しい人とか一緒にいて気を遣わない人とかが……」
そこまで言って何故か桜野は俺を見る。そしてすぐに目を逸らした。
「ま、まあそんな感じかな! というか先輩は結婚願望とかないわけ」
「あるわけないだろ。そもそも俺は結婚どころか恋愛すら出来ないんだし」
「じゃあさ。もし仮に私が先輩と結婚したいって言ったらどうする?」
「驚いて固まる」
「じゃなくて返事を聞いてるんだけど!」
「正直断るだろうな。俺は恋愛とか苦手だからそういう結婚とかもしようとは思わないんだよ」
仮に結婚したいという願望が俺にあったとしても桜野の言葉は否定したことだろう。
だって本人の目の前で桜野と結婚したいなんて答えるのはいくらなんでも恥ずかしすぎる。
「そういえば如月さんはどうなのでしょうか?」
夢春は如月さんの座っている席へと向かう。如月さんは本を読んでいたのか夢春が近づいてきて少し驚いていた。
「夢春ちゃん……どうかしたの?」
「空風さんが貴方と結婚について話したいみたいなんです」
「え!? そ、そんないきなり結婚なんて……」
顔を真っ赤にする如月。夢春はそんな彼女の腕を引っ張ってこちらに連れてくる。
「はい。それじゃ二人で結婚について話し合ってください!」
「お前なぁ……」
「それでその……結婚の日はいつにする?」
「いやしないからな? というかなんでちょっと乗り気なんだよ!」
「え……結婚しないの?」
「結婚しないのですか?」
「しないって! 俺はただ結婚願望について聞きたいだけなんだ」
俺は桜野と同じように事情を説明して如月にもこの状況を理解して貰う。
「私は結婚願望あるよ。やっぱり好きな人と結ばれるのは素敵だと思うから」
「何というか人それぞれみたいだな。当たり前といえば当たり前だけど」
「如月はさ! どんな人と結婚したいとかあるの?」
「えっ……私はその……優しくてちゃんと私を見てくれる人が好きかな。私の脚本とか毎日読んで欲しいかも」
「如月と結婚したら毎日脚本が読めるのかそれはちょっと楽しいかもな」
「本当? 名字、空風にしてもいいかな?」
「なんでだよ! そもそも俺は結婚しないからな」
「そうなの? 結婚いいと思うんだけどな……どうして嫌なの?」
「いや、結婚が嫌というか恋愛自体にちょっと苦手意識があるんだよ」
「そうなんだ……それなら仕方ないね。でも私は空風くんに恋愛して欲しいかも。じゃないと空風くんのことが好きな人はずっと苦しむと思うし空風くんだって恋愛しないままは寂しいと思うから」
「幸い友達は出来たからな。寂しくはないよ。俺のことが好き云々もそもそも俺のことを好きな奴なんていないから考える必要ないしな」
別に恋愛なんてしなくても俺には夢春たちがいるわけだし仮にこいつらがいなくたって俺には愛梨がいるのだ。
だから寂しいとは思わない。幸い俺自身も好きな人はいない状態なので恋をしたいという気持ちもない。
「でも……私は空風くんのこと……その……凄く優しくて良い人だって思ってるから! だからきっと空風くんのこと好きになる人いると思うよ。だからあんまり好きになる人はいないとか悲しいことは言わないで欲しいなって」
「分かった。ありがとうな……そこまで言ってくれてなるべくそんなことは言わないようにするよ」
如月は優しい人なんだなと思った。俺のことを好きになる人なんているわけがないのに彼女は本気で俺のことを好きになる人がいると信じてくれている。
そんな信じてくれている彼女のことを無理に否定しようとはしない。
「そ、そんな……私は事実を言っただけだから」
俺の言葉に如月は顔を赤くしながら俯くのだった。




