デートの後
「今日は付き合ってくれてありがとうね!」
デートの帰り道、桜野は満足げな表情で俺に礼を言う。
二人でショッピングモールに行って色んなお店を巡った。
本屋や映画館は勿論のこと他にも服屋さんや香水ショップだって行った。
そのどれもが楽しくて彼女は俺に感謝してくれるけど感謝するのは俺の方だった。
「俺の方こそ楽しかったよ。これで良い恋愛漫画は描けそうか」
「うん! きっと描けると思う。今もさ先輩といると楽しくて幸せでさ……この気持ちをちゃんと恋愛漫画に描きたいって思ってるんだよね」
「俺のデートで参考になるかは分からないが……でもお前の漫画ならきっと成功すると信じてる。だから頑張れよ!」
「勿論! そ、それと……えいっ!」
突然俺に抱き付いてくる桜野。その予想外の行動に思わず動けなくなってしまう。
そんな驚いた顔を見て桜野は照れ恥ずかしそうに笑った。
「最後に先輩を感じたかったんだ! 人を抱き締めるのってこんな感じなんだね。先輩の体凄く暖かい」
それだけ言うと彼女はそっと離れる。抱き付くなら抱き付くと予め言って欲しかった。
そうすれば少しだけ心の準備が出来たはずなのに。
「これで恋愛漫画を描けると思う! それじゃ先輩また学校でね!」
「おう! 頑張れよ」
俺は恥ずかしそうに笑って走る桜野を見ながら自分も高鳴る鼓動を抑えながら自宅へと帰宅するのだった。
ーーー
「愛梨……これ」
自宅のリビング。そこでテレビを付けながら雑誌を読んでいる愛梨に俺は袋を渡す。
愛梨はそれをきょとんとした表情で受け取って不思議そうに俺を眺めていた。
「今日はお前と買い物行けなかっただろ? だから代わりにはならないと思うが何か渡したくてさ」
「ありがとう。正直兄さんからプレゼントを貰えるなんて思ってなかったわ」
「言っておくけど大したものじゃないぞ。単なるお土産みたいなものだし」
「別にどんなものだって関係ないわよ。兄さんが買ってくれたものなんだし何だって嬉しいわよ」
愛梨はそう言いながら袋からプレゼントを取り出した。
プレゼントの中身は大量のチョコレートやクッキーといったお菓子だった。
本当はもっと洒落た奴をプレゼントしてやるべきなのかも知れない。
でも愛梨が喜びそうなものが分からなくて結果として無難にそれでいて美味しく食べられるお菓子を買うことにしたのだ。
「もっと気の利いたプレゼントを贈れれば良かったんだけど……思い付かなかったからな。このお菓子で我慢してくれ」
「勿論兄さんからのプレゼントだもの。これだけでもとても嬉しいわ。でも……私の誘いを断ったんだもの、これだけじゃ足りないわよね」
「なんだ。他にも何か欲しいものが……!」
出来れば財布的に優しいものがいいと内心で頼む。
そんな俺に対して愛梨はそっと自分の隣にあるソファーを叩いた。
「隣に座りなさい」
「あ、ああ……」
俺は言われるがままに愛梨の隣に座る。やっぱり一緒に出掛けられなかったこと怒っているのだろうか。
そんな風に思いながら怯えているとそっと肩に暖かい感触が伝わる。
横を見ると愛梨が自分の頭を俺に預けていた。
「私が一番欲しいのは兄さんとの時間よ。こうして兄さんと一緒に過ごせればそれでいいの」
「別に俺と過ごすことなんていつでも出来るだろ。俺たちは家族なんだから」
「そうね……それは分かっているけど」
愛梨はそう言いながらチョコレートの包みを剥がして一口サイズのチョコを口に頬張る。
そして更にもう一つチョコを取り出すと今度は俺に差し出した。
「ほら口を開けなさい」
「いや普通に俺一人で食べーー」
「口を開けなさい」
「……はい」
俺は愛梨にチョコレートを食べさせて貰う。何だかこういうのって恋人同士がやりそうな事だななんて考えてすぐにそんなことを考えないようにする。
だって俺と愛梨は血が繋がっていないとはいえ妹であり家族なのだ。
きっと愛梨だって単に妹として俺と一緒に過ごしているだけに過ぎない。
「兄さん……最近夢を見るの」
「夢……? 悪い夢か?」
「ええ。悪夢を見るのよ。私と兄さんが鳥籠に閉じ込められる夢」
「それは怖い夢だな」
俺の発言に愛梨は曖昧な表情で首を横に振った。
「そこまでは良いの。その鳥籠は幸せな世界なのよ。兄さんだって隣にいるし餌だって用意されていて部屋の温度だってとても暖かいの」
チョコレートを更に俺に渡す。俺はそれこそまさに餌付けされているかのようにチョコを口にして食べる。
口の中に甘い味が広がる。愛梨の話を聞く限りだと今のところ悪夢と呼べる展開は起きていないように思える。
鳥籠に閉じ込められるのは怖いけど愛梨は満足しているようだし。
「でもね。そんなある日、鳥籠の扉が開いてしまったのよ。そして兄さんは扉が開いたのを確認するとそのまま空を飛んでいってしまったわ。私もね慌てて兄さんのところに行こうと空を飛ぶんだけど私には羽がなかったの。私は空を飛べない。そんな中で兄さんは私を置いて何処かへ飛んでいくの……そんな夢よ」
「随分と寂しい夢なんだな」
「ええ、寂しくて嫌な夢よ。だから兄さんには約束して欲しいことがあるの」
「なんだよ約束って」
「羽ばたかないで……ずっと私と鳥籠の中にいて欲しい」
勿論それは只の夢の話。俺たちは鳥籠なんかに居ないし空だって飛べやしない。
ましてや俺が愛梨を置いていくことなんてありはしないのだ。
だから俺は気軽に約束をする。それで彼女が安心するならと。
「分かったよ。そもそも俺に羽根なんてないしな」
「約束よ。私とずっと鳥籠に居てね」
俺の言葉を聞いて満足したのか彼女は上機嫌になってチョコレートを食べた。
美味しそうにチョコを頬張る愛梨。だけどふと何かを思い付いたようにこちらを見る。
「そういえば兄さんもう一つ欲しいものがあるの」
「なんだよ。何が欲しいんだ?」
そんな俺に質問に対して彼女は半目になって冗談っぽく口を開く。
「結婚指輪が欲しいわ。私、兄さんと結婚したいの」




