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桜野とのデート

「やっぱりデートといえば本屋さんだよね」


「いや……そうか?」


ショッピングモールの本屋さんの中で俺は首をかしげる。

勿論デートで本屋さんに行くっていうのは分からなくはないけど定番かと問われると疑問が残る。

定番でいうならばどちらかというと映画とか服屋さんとかそういうものだと思った。


「ほら! ここに新刊の漫画が置いてあるよ!」


「お前漫画が大好きだからここに来ただけだろ」


「えへへ、バレちゃったか」


「ま、いいけどな。俺も漫画好きだし」


本屋といえば当然だが漫画以外にもラノベだって売っている。

勿論他にも雑誌やら本格小説やらと色々と売ってはいるが俺が普段から買うのはラノベと漫画の二つだった。

そしてそれは桜野だって同じだった。漫画が売られている場所を目を輝かせながら見ている。


「女の子どれも可愛いなぁ! 私もあんな風にもっと可愛く描けたらいいのに」


「そういえば漫画を描いているってことは聞いてるけどお前の絵とか見たことないな」


「今度見せてあげよっか? 家に描いた漫画やイラストがあるからさ。また暇な時に見に来てよ!」


漫画の表紙をキラキラとした表情で眺めながら彼女は言った。

そんな桜野の言葉に頷きながら俺も書店で売られている漫画を見る。

みんな当然だけど上手な絵柄だった。可愛い絵柄でカッコいい絵柄だった。

もし桜野が公募に受かれば彼女の描いた漫画もこうやって本棚に並ぶのだ。


きっとそれは俺には関係のない事なのかも知れない。

桜野の漫画が書店に並ぼうと漫画家の知り合いが増えるだけのこと。

俺の生活へと影響は本の僅かあるかどうか程度のものだろう。


でも俺は桜野に夢を叶えて欲しいと思っている。

桜野の漫画が書店に並んで人気が出て彼女の作品がみんなに認められて欲しいと思っている。

彼女の漫画を俺は読んでいない。彼女の絵を俺は見たことがない。


でも俺は桜野の人柄を知っている。桜野が明るくて優しい良い奴だって知っている。

そんな桜野が好きだからこそ読んでもいない彼女の漫画が好きなのだ。


「お前の漫画……並ぶといいな」


「うん……絶対に並べて見せるよ! 先輩にも協力して貰ってるんだしな」


「こんなんで協力になるならいつだって協力してやるよ」


俺としては一緒にショッピングモールに出掛けているだけ。

そりゃ手を繋いだりするのは緊張するけどそれだって別に嫌なわけではない。

だからそんなことで桜野の助けになれるのなら何回だって協力しようと思えた。


ーーー


「映画かー! 先輩は見たい映画とかある?」


ショッピングモールの中にある映画館。そこで俺たちは沢山の映画のポスターを見てどの映画を観るか悩んでいるみたいだった。


「俺は別に特段映画に拘りはないけど」


「普段は映画とか観ないの?」


「アニメ映画はよく観るぞ」


「じゃあアニメ映画で!」


躊躇なくアニメ映画を観ることにする。普通の恋人なら恋愛映画とかホラー映画とかそういうのを観るんだろうけど俺たちにとってはこういうアニメ映画を観る方が似合っていると思った。


ーーー


「いやー! 思ったより良かったね!」


「ああ! 凄く良い物語で感動した!」


俺と桜野はアニメ映画を見て感動の涙を流した。

いやそれは何も俺たちだけではない。観客のほぼ全員が涙を流してこの映画は良かったと感想を話し合っている。


俺がその映画を選んだのは単に自分が普段からアニメを見ていたのでアニメ映画の方が親しみやすいからという理由で選んだだけだった。

でも結果的にそれが良かったのか思わぬ名作に会えたようだった。


「やっぱり先輩とデートできて良かったよ! 他の人とならアニメ映画とか気軽に見れないしデートなら尚更観ないと思ったし」


「恋人らしいとは言えないけどな。でもお前と映画を観るのは気を遣わなくて済むよ」


「なんかそれ恋人っていうより友達って感じ……」


それが不服だったのかちょっと拗ねたように頬を膨らませる。

確かに恋愛漫画の為なのだから実際に恋をしていなくても恋人みたいなことはもっとするべきなのだろう。


「でも恋人って言っても何もドキドキすることだけが恋人ってわけでもないだろ。こうやってさ何気ない会話をして好きなジャンルの映画を観て二人でいて楽しいって思える関係も恋人ってものなんじゃないのか?」


「でもそれ恋愛漫画の恋ではないよ」


「はははっ! そりゃ確かに」


「だから……ちょっとはドキドキしてよ」


桜野はそっとこちらに近づくと俺の腕をそっと抱き締めた。

柔らかな体の感触と甘い匂いがした。そして肩には彼女の温かな息が掛かる。


「どう……ドキドキした?」


「するに決まってるだろ」


流石にこの状況でドキドキしない奴なんていない。

俺の言葉を聞いて満足したのかちょっと嬉しそうに笑うと顔を赤くしながらそっと離れた。

きっと桜野だって恥ずかしいのだろう。それでも漫画のために頑張っているんだなと素直に感心する。


「良かった……先輩ってば全然ドキドキしてくれないからさ。私の魅力がないのかなって思っちゃった」


「桜野は十分可愛いし魅力的だ。恥ずかしいからわざわざ言わないだけだ」


「そっか。私も……空風のこと結構いいなって思ってるよ。カッコいいし話してて面白いし側にいると安心するからさ」


「……ありがとう」


互いに顔を赤くして何も言えなくなってしまった。

沈黙が続いて何か言おうとするけど何も思い浮かばない。

気まずいという訳ではない。でも変に緊張して落ち着かない気持ちなのは事実だった。

それは桜野も同じだったようで彼女はようやく覚悟を決めると口を開いた。


「映画も見終わったんだし他にもお店見てみようよ!」


「そ、そうだな。本屋以外に寄りたいところあるのか?」


「結構あるよ? 服屋さんとかアクセサリー屋さんとかさ」


桜野のおかげで俺たちのやり取りはいつもの会話に戻っていた。

そのことに安心しながら俺たちは他のお店を見てまわるのだった。

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