世界を救う聖女になるか彼を独占する大罪人になるか
もうこの女学園でする事はなくなったな。
明日にでも帰る事を伝えよう。
夜、俺と麗虎さんは生徒会室から地下室へと続く階段を降りて行った。
これが最後の夜になるのか。
翌朝、頭を撫でられている感覚で目が覚めたんだ。うっすら目を開けると、麗虎さんは涙を流していた。
静かに泣いていた。
帰るなんて言えない…
二日目の朝も頭を撫でられて目が覚めたのだが、麗虎さんは泣いてはいなかった。
ただ独り言を呟いていた。
「世界を救う聖女になるか陽太を独占する大罪人になるか、か」
…。
「…ねえ、本当に行っちゃうの? 外には、私以上にあなたを愛する人なんて一人もいないのに」
麗虎さんは震える手で鍵に指先をかけ、泣きそうな笑顔で囁く。
「陽太を独り占めしてはいられない。解放すれば陽太の子種は人類の希望になる。でも私の『特別』ではなくなる。それでも笑顔で送り出してあげなくちゃいけないのよね」
それは俺に問いかけるというより、自分を納得させているようだった。
ギュー。
俺は麗虎さんを強く抱き締めていた。
「よ、陽太…」
世界を救うよりも、目の前で今にも泣き崩れそうな女の子の体温を選んだ。
俺の手の届く所で泣かせたくない。
「あのさ…」
俺が言葉を発すると、ビクりと身体を震わす麗虎さん。今度は俺が頭を撫でる。優しく優しく。怖がらないでと。
「外の世界が俺を求めても、俺が居たいのはここなんだ。それは分かって欲しい」
「…うん」
「麗虎さんほど深く俺を愛してくれる人は世界に居ない。ちゃんと分かってるから」
「うん」
漫画やラノベだと、この鎖で繋ぐよりもっと残酷で甘美な印を刻んだりするのか?
あなたの刃で俺の肌に消えない愛の証を。
そして私の刃で、あなたのその白い胸元に。
この傷こそが、世界で唯一の愛の証明。なんて。
いやいや、無理だろ。
痛いのは嫌だし、そもそも麗虎さんに傷を付けるなんて俺には出来ない。
俺に出来るのは…
「我が儘言っていいかな?今日は学園を休んでデートしよう。俺は学園での麗虎さんしか知らない。私服の麗虎さんを見てみたいんだ」
「うん?」
「俺を所有するのではなく、世界に誇示してみないか?麗虎さんの隣で誰よりも幸せそうに笑う俺を周囲に見せつけることこそ、俺たちの愛の証明になるはず」
俺に出来るのは…デートくらいしかない。
楽しい思い出を作りたいんだ。
彼女の独占欲を『誇示欲』へとすり替える作戦だ!




