簪の音 九話:磁場
「つまり、魔法や呪術を封じたのに、それでも呪術士が何かを唱えたらの持っていた呪物の入れ物が光った。
だから、入れ物が機械で、呪術士本人が呪術を発動しなくても何かしら発動するかもしれないと勘づいたから、リリさんに磁場砲を撃ってもらったって事ですね?」
稲荷が顎に手を当てながら話す。気が抜けているのか、頭の上にキツネの耳が出ておりピクピクと動いている。
「そう・・・!稲荷は話しを聞いてくれるんだな!」
イッセイがキラキラとした目で、自分の話しを要約してくれた稲荷を見る。
「つまり、さまざま状況を想定して、魔法や術を発動しなくても、キーワードや呪文を唱えるだけで、機械が術を発動させる仕組みになってたって事だよ!
だから最後は、機械頼みだったんだ。機械が呪術を発動させるなら、俺の作った電磁砲は通用しない。人間の脳波にしか干渉しないからね。だから、あの場ではリリさんの持っている磁場砲だけが頼りだったって事なんだ」
「そうでしたか、でも、それを一瞬でわかるイッセイはとても凄いですね」
「何よイッセイ、あんなに嬉しそうな顔して・・・!」
「話しを聞いて頂けるのが嬉しいのですよ。リリさんも聞いて差し上げればイッセイくんも喜ぶのでは?」
「ゆっくり聞けば理解できなくもないけど、私には面白いとは思えないのよ!」
「好きな人の好きなものに興味を持たなくちゃいけないわけではありませんからね。興味を持てればご一緒に楽しめるとは思えますが——————あ、リリさん。もう帰りましょう。最上さんが心配しますから」
「ちょっと!!私は別にイッセイを好きとか別にそういう———」
神風の言葉に反論するリリ。顔を赤くして更に否定しようとした時だった。
「ふー!帰ったわい!」
「ただいま帰りしましたよー!」
おじいちゃんとおばあちゃんが、お祭りの片付けを終えて帰ってきた。
「残ったモロコシと串刺しソーセージ貰ってきたわい!食うか?!」
「おじいちゃん、それは”フランクフルト”って言うのよ!物騒な名前で呼ばないであげて」
「なんじゃ巫女娘!お・・・?お前さん随分と暴れ回ったんじゃな?髪の毛もわしゃわしゃじゃぞ?!」
「あ!そうよ!おじいちゃんおばあちゃん!!異世界からの変な奴が表れて大変だったのよ!!」
「チラッと遠くで光ったのが見えとったぞ!この望遠ゴーグルでな!変な奴ってそりゃお前さんより変な奴かやっ?!」
「侮辱した罰として食べ物全部寄越しなさい」
・・・———
「怖いっ!!怖いっ!!ワシの孫怖いっ!!!!!
イッセイ!!お前さん『じいちゃんこれつけて一日過ごして』っつーアレはワシの脳波を取っておったんか?!」
呪術士とのやりとりを聞いたおじいちゃん。イッセイが作った代物の説明も聞いたおじいちゃんが、自身を抱きしめ摩りながら騒ぐ。
「別にじいちゃんになんかしようってわけじゃないから。ほら、対・特別な能力の人用で・・・」
「そんな恐ろしい物をなぜ一日で作ったんじゃ?!発案から設計に何時間かかった?!銃の型取りは何時間じゃ?!素材は何を使った?!それだけのものを何故一日で作れた?!ワシの孫怖い!!」
「既に論点が違うわ」
「まぁ、確かにおじいさんの言う通り気になる点ではありますね」
居間で話しをしているイッセイたち。
そんな中、おばあちゃんは冷蔵庫から食べ物を取り出して包む。
「イッセイ!私たち帰るわよ!明日また来るから!」
「リリさん!お気をつけて!ありがとうございました!」
「じゃーなー、小娘」
「気をつけて帰りなさいよー」
「リリさん、また明日」
帰るリリと神風におばあちゃんが包みを渡した。
「はい!漬物よ!もうそろそろ前に渡した分が食べ終わるんじゃないかと思って!」
「おばあちゃんありがとう!そうそう!もう残りが少なくなってきた所だったの!嬉しいわ!」
「私がいた世界の漬物の味だから、こっちの漬物とだいぶ風味が違うんだけどね」
「それがいいのよ!おばあちゃんの漬物が、この世界一美味しいわ!」
「いつも私まで頂いてしまい、申し訳ないです。好きで毎日少しずつ大事に食べてます。ありがとうございます」
「いえいえ!沢山作ってるから欲しくなったらいつでも言って頂戴!!」
「ありがとうございます。おやすみなさい」
神風の車でリリを家まで届ける。
外にマスクをしないで出れるようになった今でも、地下通路を使う。
まだ外は道路整備がされていないからだ。
車内では、リリは好きに喋っており、神風はうなづく程度だ。それがいつも通りだ。
しかし、今日はリリを自宅に届けた神風が、扉が閉まる前に自分から話し掛けた。
「リリさん、もしよければ」
「何よ、そんな神妙な顔して」
「明日、その銃を、私とイッセイさんに貸してもらえませんか?」
・・・———
・・・——————
「え?神風さんが?」
翌日。
昼過ぎにリリは一人でイッセイの家に来た。
イッセイは自宅の居間でパソコンと睨めっこをしていた。
キキはおばあちゃんと食材の買い出しに行っている。稲荷はおじいちゃんと屋上を改良している。
「そうなの。昨日送ってもらって、車の扉を閉める時に時雨に言われたのよ。多分あれじゃない?イッセイが私の磁場砲を参考に電磁砲を作ったって話しを聞いてなんか思いついたんじゃないかしら?量産して欲しいとか。
魔法や魔術に対して効くなら、時雨が喉から手が出るほど欲しいって言うのも理解できるし」
神風は、以前異世界から来た者に、同僚を亡き者にされている。
それからずっと、自分の生まれた世界にはない”魔法”を憎んで生きてきた。
今、神風が気になる存在である”キキ”が魔法を使えること、そして、キキの人間性を目の当たりにして、異世界の魔法使いが全て悪だとは思っていないが、だからと言って他の魔法使いや術士を信じる理由にはならない。
今回の呪術士のように、初手から攻撃を仕掛けてくる者もいる。
対魔法用の機械をいくつか開発してはいるものの、どれも大きく携帯はできない。
そこに、イッセイが魔法や呪術に通用する電磁砲を作ったのだ。興味があって当然だとばかりにリリは話しをした。
「まぁ、逮捕されないなら協力しても・・・」
「逆じゃない?逮捕しない代わりに協力しろって言うんじゃないかしら?ほら、協力者としてなら研究も開発も公に・・・公っていうと語弊があるわね、そもそも時雨やパパの組織自体が秘密なんだから。だからまぁ、とりあえずお墨付きで色々開発できるってことじゃない?!殺傷能力がないにしても、人体に影響があるもの・・・!でも、魔法使えない人に向けても意味ないから、結局この世界ではその電磁砲って意味ないわよね?あれ?じゃぁイッセイが何作ったって問題ないじゃない?」
自問自答のように一人で喋るリリを見ているイッセイは面白く感じた。
もしかして、自分がしゃべっている時もこんな感じなのだろうかと思った。
「まぁ、それは追々神風さんと話します。何が目的なのか。とりあえず、今はこの電磁砲を改良するのが先かな。あの呪術士がすぐにまた仕掛けてくるかもしれないし。・・・あれ、でも魔法とかが使えなくなるようにするだけなのに昨日あの人倒れちゃったんだよな・・・まぁ昨日はそれで助かったし新しい情報も得たから良いけど、ちょっと別の設定で体は動くようにっていうのを新設して・・・」
「その辺は好きに作って頂戴」
・・・———
「えー!!またお祭りの会場環境整備の依頼来たのー!!大きいお祭りかしら?!この間のベビーカステラっていうのすっごく美味し」
「巫女娘!!お前さんいい加減太るぞ?!」
「あら!キキちゃんベビーカステラ美味しかったの?おうちでも作れるわよ!たこ焼き器で!」
「おばあちゃん作って!!」
「私も一緒に作る!!」
先日のお祭りの成功を見た他の自治体や企業が、さらに大きいお祭りを計画した。
そして、その会場の設備や環境整備をおじいちゃんへと声が掛かったのだ。
「ばあさんに家で作ってもらうベビーカステラで我慢せい!!巫女娘と稲荷!悪いがお前たちは次の祭りには準備の段階から来ないでくれな!!」
「えええーーー!!なんでよーーー?!別に邪魔しないでただのお客さんとして行くんだから良いじゃない?!」
おじいちゃんの言葉にキキが一番に反論した。
「私は、設営などのお手伝いはしなくてよろしいんでしょうか?」
留守番を命じられた事は構わないのだが、居候として手伝わなくて良いのかと言う疑問が生まれた稲荷。
「当日祭りに来ないものに手伝いさせるなんて真似、ワシはせん。異世界からの・・・なんじゃったけ?”じゅじゅちゅし”っちゅーんがお前さんたちを狙っとるんだろ?!
そしたら祭り会場に来られたらたまったもんじゃないワイ!こないだはワシたちには何もなかったが、次もこの世界の者になんも被害がない保証はないじゃろう!!」
おじいちゃんの言う通りだ。
この間はたまたま魔力を持たない人間には被害が無かった。しかし、次も同じようになるとは限らない。人質を取られるかもしれない。
呪術士の狙いが”魔力を持つ者”ならば、キキと稲荷は人が集まる祭りの会場には来ない方が良い。
「日常生活での買い物やお出かけはしゃーないとしても、祭りは人の数が多い。その辺はわかってくれるじゃろ?」
年長者として、稀に見るシリアスな説得力のある面持ちでおじいちゃんは諭した。




