簪の音 十話:累積
「その前に捕まえれば良いのよね・・・」
しんみりとした雰囲気の中、キキがボソッと囁いた。
「・・・祭りへの執念・・・」
「キキは食べ物もだけど、多分祭りの雰囲気が好きなんだろうなぁ」
「毎日家の中祭りみたいなものでしょ」
「それなら問題ないわい!ただし、本当に祭りまでにじゅじゅちゅしを捕まえられたらの話しじゃけどな!!」
「呪術士ね!!」
「じゅじゅちゅしでええんじゃ!!わかるじゃろ!?」
いつも通りの家の空気になった。
「さてさて、じゃぁキキちゃんはその呪術士さんを探しに行くのかしら?」
「うーん、そうね!人気のないところをほっつき歩いて誘き出すしかないわね!そもそも、呪術士は外にしかいられないでしょ?ほら、網膜スキャンの登録をしてないんだからすぐに見つかるわけだし・・・」
「イッセイ、呪術士に網膜スキャンって関係あるのかしら?」
「反応するんじゃないかな?警報が鳴ってない所を見ると、まだスキャンの設備が間に合ってない外にずっといるのは確かだろうね・・・移動魔法とか使ったって、地下に入れば至る所にスキャンがあるから反応しないってことはないと思う。そもそもスキャンの存在を知らなければ魔法だろうが呪術だろうが対処できないと思うし。スキャンは魔法耐性というか、対魔法用の設計にされてるし」
「じゃぁ、外を徘徊するわ!!早速行ってこようかしら!おばあちゃん、何か外でやることとかお使いとかないかしら?!」
「お外は特にないわね〜!暑いから気をつけてね〜!」
「はーい!!」
言って、すぐにキキは家を飛び出した。
「網膜スキャン・・・家の外や通路、道路にたくさんあるカメラみたいなものの事ですよね?」
稲荷が思い出しながら喋り出した。
「あぁ、ごめん。簡単にしか説明しなかったよね。稲荷がきて最初に《眼》の写真を撮ったでしょ?あれは、国・・・というか専門機関が管理している眼の網膜スキャンのデータに”稲荷”を追加する為に撮ったんだよ。データがない人間がスキャンされると、警報が鳴って、神風さんたちの出動になるんだ」
「もし、イッセイがそれをして下さらなかったら、私は捕まってしまうと・・・」
「そう、元々異世界の人を捕まえるためのだからね。だから、今回の呪術士もそれに引っ掛かればすぐにわかるんだけど、外にはまだ網膜スキャンが少ないからね」
「パパが予算をなんとか捻出して、今スキャンを大量に生産と設置している所よ」
「そういう事でしたか」
「・・・じゃぁ、巫女娘は”太郎”と一緒におれば、スキャンにかかったじゅじゅちゅしがすぐにわかるって事じゃないけ?飛び出してわざわざ探すなんてなんて効率の悪い娘・・・!!」
「「「確かに」」」
・・・———
キキを除く人たちが、昼食を共にして、その後は各々の作業に移る。
イッセイはPCと向き合い電磁砲の調整を。
おばあちゃんとリリは台所で片付けを。
おじいちゃんと稲荷は、次の祭りの機械の調整をしていた。
——————ピンポン
家のインターフォンが鳴った。
「時雨よ!私が出るわ!」
そう言って、リリが玄関に向かった。
リリの予想通り、家に入ってきたのは神風 時雨だった。
「イッセイに軽く話はしておいたわ!」
「リリさん、ありがとうございます」
「あらあら神風さんいらっしゃい!今日もお仕事かしら?お疲れ様です!」
「連日お邪魔します。はい、仕事の一環でイッセイ君に用事があって」
「イッセイなら自分の部屋にいますよ!どうぞお上がりくださいな!今お茶をお持ちしますね!」
「ありがとうございます」
そう言い、時雨は慣れたように階段を登った。2階のイッセイの部屋の扉をノックした。
「神風さん。こんにちは。リリさんから話は聞きましたよ」
「イッセイくん、こんにちは。私と、磁場砲の研究を一緒にしましょう。勿論急がなくて良いですよ?先日この世界にやってきたというあの呪術士の件が優先でしょうから。あと、イッセイくんの電磁砲は量産する方向で・・・」
「やっぱり!電磁砲、欲しいんじゃないかなって思ってましたよ」
「まぁ、我々には害がないのはわかってますが・・・電磁砲なんて本来見逃すことはできません」
「じゃぁ、破棄しようかな?それなら良いですよね?」
「それと———右目の秘密を黙っている対価として・・・ね?」
「狡い大人だなぁ、神風さん」
「そっちこそ、電磁砲なんて素晴らしい代物を破棄しようなんて意地が悪い」
そう言われて、イッセイは笑った。
・・・——————
「ねぇ!稲荷は自分の世界にいる時は、自分以外の時間が止まってたんでしょう?その間何してたの?そもそも、その止まってる時間って稲荷の老化はないのかしら?一体全体どうなってるの?」
居間にはおじいちゃんと稲荷が座っていた。
一休みである。
おばあちゃんに頼まれて、二人にお茶とお菓子を持ってきたリリが藪から棒に質問する。
「私は動けるのでちょっと散歩したりします。100年の時間が止まっていようが、私の肉体は時間経過をしてません。なので、お腹も空きません。ただただずっと時間が動き出すのを待ってるのですよ」
「意識はあるんでしょ?考え事とかするのかしら?」
「しますよ。この世界に来た時に、核探しをどのようにしようかとかは良く考えてました。他にはくだらないことも考えますよ。小さい頃にした友達の喧嘩とかを、『あれはどう言う意味で本当は言ったのだろう?』とか思い出して自分なりに色々考えて答え出したりとか」
クスッと少し恥ずかしそうに稲荷は言った。
「何それ、鬱になりそうなんだけど」
今までの自分の過去の気になったことや他人とのいざこざを思い出して何年も考えるのかと思うと、自分のことでもないのに気分が落ち込んだリリ。
「まぁ、魔法が使えるので行こうと思えば他の国へも行けるのですが・・・それが楽しかったのは10代の後半でしたね。いろんな国へ行きました。ですが、景色としては綺麗なのですが、木々や葉っぱも動かない。流れるはずの水も止まっている。そして、風もない。本当に全ての時が止まっているのです。やっぱり時間が流れていない風景って少し虚しいんです。歳を重ねる毎にそう思うようになってきたんです。
あ、ちなみに時が動き出したら、その瞬間に私は時間が止まった時にいた場所へ戻されます」
「そんなものかしらね?風景写真って結構私好きだけど」
「写真の風景画と、実際に時が止まったままの景色は全く違う印象ですよ。写真は”生きている風景を切り取ったもの”ですが、時間が止まっている間の風景は生きてない感じです」
「体験してないから実感が湧かないわ!イメージも湧かない!結局あなたの時間が進んでないとはいえ、累積としては何年生きているんでしょうね・・・。500年くらいは生きているのかしら?」
「あぁ、累積ですか!実は他者が私の体にそれがわかる魔法を刻んでくれたのでわかるんですよ・・・その魔法を引き継いだので、えっと——————」
そう言って、時計を見るかのような腕の動きをした。手首から、枠のない液晶画面のようなものが出てきた。
「今日までで私が体験した?生きている総時間数は」
「時間で言われてもピンと来ないわ、年数で言って頂———」
「おい!小娘!そこにあるスパナ取ってくれぃ!!」
「今いいところなのよ!!」
ナイスタイミングでおじいちゃんがリリを呼んだ。
「稲荷さん!お蕎麦って食べられるかしら?アレルギーとかがちょっと心配で!」
「あぁ、でしたら試しに少し食べてみますね」
次はおばあちゃんが稲荷を訪ねてきた。その声に稲荷がスッと立ち上がる。
「・・・まぁ、何年生きていようと、別に私の稲荷に対する態度は変わらないから良いんですけどねっ!!」
「小娘早くしろワシの指が千切れるッ!!」
「どんな作業やってんのよ?!」




