簪の音 八話:呪物
「呪物ですってぇ?!そんなもの使って貴方だってタダじゃ済まないんじゃなくって?!」
「ソレはお前の世界の話だろう?俺の世界は違う」
「気持ち悪い!人の妬み嫉み怨念恨みを遣ってるなんてーー!!知らない方が良かった気持ち悪いわぁーー!!」
キキが喚く。
「稲荷?」
自分の盾になるように前に立ちはだかる稲荷の名前を”説明して欲しい”と言う意味を込めてイッセイは呼んだ。
「彼は今は、『魔法が使える者』を対象に呪物・・・呪術を使っています。ですが、これからの攻撃がそうとは限らない。魔力のないイッセイにも何か仕掛けてくる可能性が十分にあります」
自分の後ろにイッセイを更に隠し、敵から見えないようにした。
「いいわ!稲荷はそのままイッセイを守ってて頂戴!コイツの相手は私がするわ!!あんた!!名前はなんて言うのよ!!」
「名乗るなんて馬鹿がする事だ」
「じゃあ勝手に名前つけるわよ!!呪物を扱うんだからアンタは”陰陽師”て呼ぶわ!!」
「陰陽師と一緒にするな!!呪術士だ!!」
「言いづらい!!噛みそうじゃないの!!」
そう叫びながらキキが魔法を繰り出した。
手のひらから文字が出てきて、輪っかになった。ソレが一瞬にしてキキの手から呪術士の男の上に移動した。そして、輪っかは男の胴体を締め付けた。
捕縛状態だ。
「さぁ!これでもう身動きできないわ!おしまいよ!アンタ!これからとっちめてやるんだから!!」
そう言って呪術士に近寄るキキ。
一見、魔法の光る輪に腕まで拘束されている。もう手出しができないように思えたが・・・
「キキ!油断していけません!」
「え?なんでよ?この術士、私より魔力全然ないわよ?」
キキが後ろを振り返り稲荷に言った。何を言っているとばかりの顔だった。
「魔法と呪術では性質が異なるのはキキもわかるでしょう?!魔法で動きそのものを封じても、呪術封じをしたわけじゃない!もし対象外なら呪術は使える可能性が高いと言う事です!!」
稲荷の説明にキキがドキッとした。心臓が大きく跳ね上がった。
そんなはずはない!自身の拘束魔法は、人間相手には通じてきたのだ。魔法を破られた事も還された事もないから万能だと思い込んでいた。そう思い前を向き直した。相手の呪術士の顔を見る。
前髪の奥に隠れた瞳が光った。
「———遅いんだよ!!」
黒い禍々しい煙が勢い良くキキに向かってきた!煙なのに、当たったキキは後ろに吹っ飛ばされた。
「っぐ・・・!!」
「んんっ!!」
後ろにいた稲荷がキキを受け止めた。しかし、その衝撃は大きく、稲荷も後ろにズレる。
「イッセイ!大丈夫でしたか?!・・・イッセイ・・・?!」
自分を盾にして後ろで守っていたイッセイが居なかった。稲荷は焦って周りを見ると、イッセイは自分の前にいた。
そして、術士はキキの拘束魔法をそのままにまた次の術を繰り出そうとしている。次はイッセイに向けてだ。
「・・・お前!!魔力を感じない!ただの人間だな?!ただの人間には用はない!生かしておいてやる。死にたくなければ早く立ち去———」
「ご忠告をありがとう。逃がしてくれる精神には感謝するが、この世界で暴れてもらっては困ります。核が欲しいのでしたら、なるべく騒ぎを起こさずにやってください。後ろの二人のように」
イッセイが呪術士に言った。キキと稲荷のようにしろと。
呪術士はその言葉が頭にきた。魔法も呪術も使えないただの人間が偉そうに自分に指図したことが許せなかった。
力無いものは、力有るものに従うべきだという考えだった。守ってやる代わりに、従えと。
「あぁっ?!人が折角親切にしてやってんのに調子に乗りやがっ」
———ガチャ・・・
「「イッセイ?!」」
イッセイが銃を構えた。その事にキキと稲荷が驚く。
「銃で対抗するだと?!笑わせるな?!そんなもの魔法や呪術の前では———」
———パシュッッ!!!
———ズギャァアアアンッ!!!
呪術士が言い終わる前にイッセイが引き金を引いた。
「イッセイ!人殺しはダメよ!!」
「止めます・・・!!」
キキと稲荷が驚き、そして稲荷が手をかざして魔法を発動させた。どの魔法が効くかわからない為、イッセイと呪術師の間に壁のようなものを設けたり、風を吹かせたり色々と試みる。しかし、銃弾も見えなけば何が起こっているかもわからない。
そして、呪術士も対抗して何か術を繰り出そうとしている。稲荷は考えられるだけのケースを想定して魔法を出す。しかし、そんな最中に呪術士の体が大きく揺れた。
「———っぐはっ!!?貴様っ・・・!!何を・・・しっ・・たぁ!!」
「ちょっと、脳波のコントロールを攪乱させてもらいました」
イッセイが言い終わる前に、呪術士の体が地面に倒れた。
「くそっ・・・!今日は・・・この辺にしておいてやる・・・次は必ず・・・!」
「逃げるつもりですか?しばらく術は使えないはずですよ?どうするんですか?」
言いながら呪術士に近づいていくイッセイ。
「こうっ・・・、するんだ・・・っよぉ!!!」
先程、呪術士が自身のスーツの赤い宝石から出した黒い結晶体。
それを、拘束されていた手から器用に自分の眼前に投げた。
『周・激・波!!』
呪術士がそう唱え終わると、蓋の部分が光り出した。
赤、青、緑、黄色・・・様々な色がしている。
これは魔法ではない、ランプだ。
「リリさん!!」
遠くにいるイッセイがリリを呼んだ。
「え?!何よイッセイ?!」
「こちらに向かってリリさんの磁場砲を撃ってください!!早く!!」
「磁場砲?!なん」
「早く!!お願いします!!」
イッセイの焦りように、リリも慌てながら鞄から”磁場砲”を取り出した。
「いつも持ってるの?!」
「最大出力で!!」
「わかったわ!!!」
そう言い、リリが構えて磁場砲をイッセイたちに向かって撃った———!!
イッセイが見ている呪術士のランプの点滅が早くなる。
「(どうか・・・!!どうか間に合えっ・・・!!)」
しかし、イッセイの思いも虚しく、磁場砲の威力がイッセイと呪術士のいる場所に届く前に、呪術士だけがその場から姿を消してしまった。
「あぁっ?!アイツいなくなったわよ?!」
「逃げられましたか・・・」
「・・・やっぱり、機械だったか・・・」
呪術士が持っていた、黒い結晶が入ってたケースだけが、バラバラに分解されてその場に残った。
・・・———
・・・———
・・・———
「へぇー、”磁場砲”ですか!それは凄い!人体には何にも影響がないんですね?大したものです!」
「凄いでしょ!それでおじいちゃんが勝手にバージョンアップをして・・・」
「違うわい!!お前さんがいつも充電のアンペアを間違っとるからこんな事になるんじゃろ?!」
「いいじゃない!!人体に影響がないんだから!!」
一行はイッセイの家へ戻った。
あのあと、祭りも無事にお開きとなった。
一般客は呪術士には気づかず、ただお祭りを楽しんで帰っていった。
今は、稲荷にリリが所持している”磁場砲”の説明をしているところだった。
「リリさんが誘拐された世界で作られた”磁場砲”。人体に影響なし。機械にだけ影響をする・・・とても良いものですね。それで?イッセイはなぜあの場でこの磁場砲が必要だと判断したのでしょう?それに、そもそもイッセイが撃ったその銃は?」
「そうよ!私、実弾が出る拳銃だと思ったんだから!イッセイが人殺ししちゃうかと思ってびっくりしたのよ?!」
割と飄々としている稲荷、対照的にキキは怒っている。
「ごめんごめん、順を追って話すよ」
「まず、俺が持っていたこの銃は、『電磁砲』リリさんの持っている機械にだけ作用する磁場砲とは逆で、人体にだけ作用するんだ。要は設定された部分にだけ衝撃を与えるスタンガンみたいなものなんだけど、思考能力の一部を奪うものでね・・・って言っても、喋れる機能はそのままだよ。
魔法とか、呪術とかそういった特別な思考を妨げるものなんだ」
「え?何それ。私たちにも使えるって事じゃない?!」
「そういうの、作っていいんですか?」
キキと稲荷は自分達にも影響があると興味を更にそそられる。
「ダメに決まってるでしょう」
ピシャっと言い放つリリ。
「ダメですけど・・・まぁ、イッセイ君なら」
本来、そのような物を開発する事は禁止である。禁止というより犯罪だ。
それを許してしまうと、兵器を作ることを許可しているようなものだからだ。
しかし、神風は法律として禁止されてはいるものの、法律の外の問題を扱っているイッセイに対して罰するという選択肢を選ぶことが出来なかった。
「イッセイの信用度が凄いですね」
稲荷がにっこりと笑ってイッセイに返事をした。その回答が何故か嬉しかったイッセイ。何か受け入れてもらえたと感じたのか、続きを喋り出した。
「それに、リリさんの持っている磁場砲は、この世界の理とは違ってね!
磁場って、対象の物体の周りにただ発生するもので、本来飛ばしたりは出来ないんだ。それに関してはちょっと借りた時に分析したんだけど結局わからなくてね!
でも、機械にだけ作用するっていうのが俺も凄く魅力を感じて、逆に人体に作用するものを作ってみようって思ったんだ!それに、キキや稲荷が、今回の攻撃を仕掛けてきたあの呪術士が”魔法かどうかわからない”って言っただろう?
だから、魔法でも呪術でも、発動するには頭を使う事には変わらないだろうから、脳に直接攻撃を仕掛けるものを考えたんだ!
でも、殺傷能力が高いものを作るのは流石にって思ったから、あくまでも俺たちでいう日常生活で使う言語、思考、運動に関する脳の働き以外の脳波を対象にして攪乱させるように設計したんだ!
つまり、検体は俺やじいちゃんで、一日中データを取って、その脳波とかデータと一致しない物が魔法や呪術を発する特別な脳波だと的を絞って作ったんだ!
だから、さっきの呪術士は最後倒れて呪術が使えなかっただろう?まぁ倒れたのは想定外だったけど、呪術が使えなかったからこの電磁砲はほぼ成功で———」
「ちょっとイッセイ一回喋るの辞めなさいよ!!何の呪文唱えてるの!!」
キラキラと嬉しそうなイッセイの喋りをリリが止めに入った。




