簪の音 七話:御面
「とにかく、リリさんは20時までです。20時になったら私がご自宅まで送ります」
「もう!パパってば本当に過保護なんだから?!イッセイがいるんだから大丈夫なのに!!」
祭りの音、人の楽しそうな声に、リリの叫びも虚しくかき消された。
「まぁリリさん、あと二時間もあるじゃないですか。楽しみましょう」
「そうです、二時間もあればお腹いっぱい食べられますよ。さ、私も一緒に回りますから」
「時雨!!アナタは一緒に回らなくて良いわよ!!」
「稲荷見て!これ可愛いわ!」
「キキの趣味ですか?私はそんなに可愛いとは思いませんが?」
「違うわよ!不細工なのが可愛んじゃない!」
「不細工が可愛い・・・?価値観が違うと大変ですね?」
「あー!あっちのトウモロコシ美味しそうー!!食べましょう食べましょう!」
「キキ!!まだ、たこ焼きが残ってますよ?じゃがバター?っていうのも買ったばかりですし・・・」
「全部食べ切れるわよ!あー!あの被り物何かしら!可愛い〜!!」
「・・・可愛いんでしょうか・・・?」
キキがこの世界での祭りに大はしゃぎだ。自分の世界のお祭りと似ているのだろうか。それとも全く違うのだろうか。テンションが上がっていた。
一方、稲荷も祭りを満喫していたが、キキのテンションに苦笑していた。静かに楽しむつもりだった稲荷だが、こういうのも悪くはないかなとばかりにキキの荷物持ちをしている。
「あら?そういえばイッセイたちはどこかしら?!ちょっと戻ってみましょうか?」
「そうですね。せっかくみんなできたのですから・・・あ、いましたよ、あちらに。ですが、どなたかと一緒にいますね?男性が」
「イッセイの友達かしら?私イッセイの友達に会ったことないのよね、どんな感じの———ッグッ?!
稲荷の手にある紙皿から、楊枝で刺したたこ焼きを口に入れたキキは喉に詰まらせそうになったキキ。
ここにいるはずもないと思っていた、想い人である神風 時雨が目の前にいたのだからだ。
「かっ・・・!!かかか神風 時雨さんっ・・・!!」
キキはそう言って稲荷の後ろに隠れた。
「っ・・・!キキさんっ!!」
遠くからキキを見ていた神風も、キキと目があってすぐに緊張し出した。
「恥ずかしいならその頭のお面をかぶれば良いのでは?」
稲荷が言い、自分の後ろに隠れたキキのおでこからお面を顔に当てた。
「こんな不細工なの被ったところなんて見られたくないわ!何するの?!」
「えっ?!さっきは可愛いって自分で言ってたじゃないですか?」
二人にやりとりを見せつけられたと思った神風がその光景を見て頭に血がのぼる。
「あの男、やはりなんとか正当な理由をこじつけて連行をっ・・・!」
「神風さん、ちょっと落ち着い———」
そんな楽しいお祭りの真っ只中だった。
「?!攻撃の威力が強くなったわっ?!」
キキが突然大きな声を上げた。眉間に皺を寄せている。頭への衝撃が強くなったという顔をしている。
「こちらも防御を強めましょう。ここは私がっ!」
次に稲荷が声を上げた。そして稲荷の目が一瞬だけ光った。稲荷が防御魔法を発動した。
その後は衝撃を感じなくなり、二人ともホッとしたような顔をした。
周囲は依然として変わらない。何も変わらずに祭りを楽しむ人だけだ。
しかし、キキと稲荷だけが少し焦った表情だ。二人のその顔を見たイッセイが気づいた。
「もしかして・・・!」
「やった奴はきっと近くにいるわ!!イッセイ!ちょっとこの人混みから外れましょう!!」
キキの言葉に四人が祭りの会場から少し離れた。
・・・———
「もしかして、また何か仕掛けられたのか?」
「そうよ!また一瞬頭カチ割られるかと思ったわ!」
「これは困りましたね、楽しいお祭りの最中でしたのに・・・」
イッセイとキキと稲荷が話しているが、神風は内容がわからない。
「なんか魔法が使える者だけが攻撃されてるみたいよ。もの凄く頭に響くんですって」
「・・・そうでしたか。だから私たちは何も感じないのですね」
「私は暑さにやられて頭が痛かったわ」
「熱中症ですか?!もう帰りましょう!」
「ちょっと休めば大丈夫よ!」
キキは自分の頭からお面を外した。
稲荷は持っていた食べ物を近くのベンチへと置く。
「さて、楽しみを邪魔されて黙っていられないわ」
「どうやらお近くにいらっしゃるようなので、こちらからお迎えに行きましょうか」
二人がそう言い終わった瞬間に、魔法を発動させた。
キキは自身の立っている地面に魔法陣が光る。
稲荷はまたも眼が光った。
そして、高速で飛び出した。
「早いわっ!?」
「魔法かぁ、ついていくの大変だなぁ」
「ついて行くんですか?!この速さに?!」
そして、先を飛ぶ二人が距離にして300メートルほど先で止まったようだ。発光しているキキが止まって見える。
「意外と遠くないですね・・・神風さん、リリさんとこちらで待っていて下さい」
「かしこまりました」
「ちょっと、イッセイ?!私も行くに決まってるでしょ?!」
イッセイについて行こうとしたリリは神風に腕を取られて動け無くなってしまった。イッセイだけが走って向かう。
祭りの会場から外れた暗闇。
キキと稲荷だけしかいなさそうなその周辺。しかし、キキが声を上げた。
「出てきなさい!!人の楽しみを邪魔して!!いるのはわかってるのよ!!」
しかし、周囲には何もない。影も形もない。側から見るとキキの独り言だ。
「出てこないなら引きずり出してやるわ!!」
両手を胸の前で伸ばしてかざした。両の掌が光る。そして、周囲に光を撒き散らした。飛び散る光だが、一箇所だけ光が吸収されて行く箇所があった。
「そこかぁっ!!だりゃぁああああああ!!!」
掌に魔法の球体を作り、それをぶつけた。
———バァアアアンッ!!
何もない空間から煙が出始めた。
そして空間が歪んで切れ目が見えた。
人影が見え始めた。
「やっとお出ましですね」
「とっつかまえてやるわ・・・!」
出てきたのは線の細い男。着用している服は、明らかにこの世界のデザインではない。
「これはSF作品に出てきそうなパイロットスーツだなぁ・・・」
追いついたイッセイが、現れた男の服装について第一印象を述べる。
布・・・と言って良いのかわからない素材。光沢のある表面。そして、機能として何か意味があるのか、真っ黒なスーツに所々に別の色のラインが入っている。一番の特徴は、胸元に大きな赤い宝石のような石が埋め込まれている。
そう、いかにも"作り物"でありそうな何かの乗り物に乗る時の専用のスーツのようだと。
空間の切れ目から出てきた黒い男。
髪の毛も黒い。瞳が隠れそうな前髪の長さだ。
吊り目でいかにも悪役です。という顔つきだ。
「お前たちが、他の世界から核をとりに来た魔法使いか。想定よりも強い魔力を持った者が二人もいるとはな」
破棄もなく、怠そうに言葉を捨て吐いた。
「貴方がこのイラつく攻撃をしてきてる本人ね!ちょっと辞めなさいよ!ダラダラ魔力使うの面倒なんだから!」
キキが一歩前に出てスグに文句を言う。仁王立ちして本当にイラついている様子だ。
「馬鹿か、ダラダラ魔法を使わせて弱らせる戦法なのはわかっているだろう?なんでわざわざ止める必要があるんだ」
「攻撃なら短期決戦か、他の攻撃魔法にしてくれない?貴方のその魔法だかなんだかわからないのはとっても気持ちが悪いのよ!!むしろなんでこんな気持ち悪いのよ?!」
「そんなに気持ち悪いのか?」
イッセイが稲荷に近づいて聞く。
「えぇ、一般的に受ける攻撃魔法とはだいぶ違いますね。と言っても、それは私とキキがそれぞれ自分の世界では受けたことがない魔法なだけであって———」
「世界が違えば、魔法の種類も攻撃も違う・・・と言うわけか」
「はい、彼の魔法が異質でチートの可能性もありますからね」
「そこ!分析はどうでもいいのよ!」
キキがビシッと指差してイッセイと稲荷に言う。キキからするとその辺はもうどうでも良い。
「———くはははっははは!!」
突然男が笑い出した。
「何がおかしいのよ?!あんたの世界じゃこんなのが面白いの?!価値観違い過ぎて全然話にならなさそうね?!」
「そうか!お前らには馴染みがないのか!!だから俺の攻撃を”魔法”だなんて言うんだな!!」
「はぁ?!魔法じゃなきゃなんだって言うのよ?!」
「・・・?!まさかっ?!」
「稲荷?」
稲荷だけが気づいた。そして、イッセイを自分の後ろに隠すようにした。その様子を見た男は稲荷が気づいたことに気づいた。
「そっちの男は気づいたようだな。知っているのはそいつだけか?」
そう言いながら、胸元の宝石のような飾りに手を翳した。
ソレが赤く光り、中から何かが出てきた。
上下に金属の蓋がついたガラスケース。
そのガラスに入った、黒い色をした、幾つも尖のある結晶体だ。
黒く光り輝く、綺麗にも禍々しくも見える宝石のような物体だ。
「コイツが、今の俺の術の原動力だ。そう、俺は魔力を使っているのではない。
呪物を使っているんだ」




