簪の音 六話:御祭
「それは、すぐに相手を特定した方がいいのか?防御の魔法を使い続けるのは大変なんだろう?今日中がやっぱり・・・」
イッセイはキキと稲荷の体調と魔法を気にかけたのだが
「ああ!使い続けるって、一ヶ月とか二ヶ月だと流石に大変だけど、お祭りが終わるまでは全然余裕よ!体力の消耗はするけど・・・」
「美味しいご飯も、一日3食頂けるようですから。その辺は問題ありません。お祭りを堪能してから相手をじっくりどうにかしましょう」
思いの外大丈夫そうな二人にイッセイもおじいちゃんも拍子抜けをした。
「一ヶ月二ヶ月大丈夫なんじゃったらそりゃ『大丈夫』じゃろうが?!」
「まぁ、二人が凄い強い魔法使いでよかったよ。今日の今日どうにかしないといけないのかと思ったから」
「そんなヤワじゃないわよ!!こちとら姫巫女やってんだから!」
「私も、体の造りが他とは少々異なりますからね」
「じゃあ、二人が元気でいられるように、沢山美味しいもの作らないとですね!」
「はーい!手伝いまーす!」
「私もお手伝いします」
そう言って、キキと稲荷がおばあちゃんに続いて台所へと向かった。
「おい、イッセイ。アイツらとんでもなく呑気じゃぞ。絶対旅行感覚で楽しんどるぞこの世界を!!」
「・・・まぁ、本人たちがいいなら良いんじゃない?・・・・・それよりじいちゃん問題はさ」
「あん?」
「キキや稲荷は凄い魔法使いだとして、その二人が今回の衝撃?攻撃を『魔法』って断言しなかったんだ。
なんかオカシイと思わない?」
イッセイの顔つきが変わった。眉間にシワが寄った。
魔法と断言しなかった。そして、機械的な磁場でもない。では、何なのだろうか?
「ワシ!魔法はさっぱりじゃからな!!それ以外で思い浮かぶのはあれじゃよ、気功とかそういうやつじゃよ」
「それはまた違うと思う」
・・・———
おじいちゃんとおばあちゃんが寝た後の居間。
お風呂から上がったキキ。
タオルで髪の毛を拭きながら居間を通って自分が借りている部屋に行こうとした。
「イッセイ!稲荷!お先にお風呂頂いたわ!それじゃあ私そろそろ・・・」
「キキは、どうしてその核探しの飛び道具を使わないのか聞いても良いですか?」
「寝るって言おうとしてるのにソレ聞くのね・・・」
キキと稲荷が話している所にイッセイもいるが、特に口を挟まない。
「・・・私、去年魔力を暴走させられて、核探しの・・・『刻印石』って呼んでるんだけど、刻印石に暴走した魔力を叩きつけちゃって、それで必要以上の魔力を流し込んだの。
だから、核の状態・・・”設定”が変わっちゃって、この世界が今の状態になったのよ。
元々は、大気汚染が酷すぎて外に出られなかったのよ。それが空気が綺麗さっぱりになってね」
「・・・ですが、暴走はキキの意図ではありませんでしょう?今普通に使ったら問題がないのでは?」
「・・・!!刻印石にヒビが入ったの!!魔力の暴走で!!本当に!本当にちょっとのことなんだけど!!」
「そのちょっとのヒビでだめなんですか?」
「ダメよダメ!!あなたの魔法の組み方なら大丈夫なのかもしれないけど、私の魔法はもうヒビが入ったら別物よ!」
「だから、使わないんじゃなくて、使えないんですね」
「そうよ、だから、刻印石に残っている情報だけを頼りになんとか少しずつ解読みたいにうやってるんだけど、全然情報が掴めなくてね。大体の場所くらいしかわからないわ。一応、この家から200km圏内にはある。それだけよ」
「なるほど。では、私も一緒に探します。手を組んだ方がいいでしょう?どちらが持って帰るかは、見つけたら話し合いをしましょう?」
「あんた呑気ねー?!」
こうやってのんびりご飯を食べてお風呂に入ってゆっくりしている時点でキキも変わらないと思いながら、イッセイがここで口を開いた。
「あとさ、今日でなくてもいいんだけど、その稲荷が言った『魔法みたいなもの』って表現が気になったんだ。教えてくれないか?機械で対抗できる事があるなら俺も手助けをするよ」
「それは助かりますね!・・・ですが・・・」
「?」
キキと稲荷が顔を見合わせてから同時にイッセイをみた。
「「お祭りの後で・・・」」
「はいはい、楽しんでね」
どうしても異世界の催し物を楽しみたそうな二人に負けたイッセイだった。
・・・———
「ホイッと!!」
———カチッ
「よっしゃ!!」
———ヴゥゥゥン
「ほーれほれっ!!」
———シャァアアア・・・
夜。
今日は祭りの日だ。
おじいちゃんが機械の前で楽しそうにぽちぽちと操作をしている。
会場にいくつも設置をした巨大な空調機を起動させたのだ。
辺りはちょうどいい冷たさの風やミストに包まれた。
「うわぁーーー!!気持ちいいーーー!!」
「本当、いい雰囲気ですね。この提灯もとても素敵です」
キキと稲荷が浴衣を着て祭りへと繰り出した。
二人は人目を引く。
この世界の人は『浴衣』を見慣れない。
見慣れない服を着た綺麗な見た目の二人が夜の祭り・・・提灯の下で照らされている。
目立たないわけがない。
「イッセイ、絶対に近づかないわよ。あの二人と距離を置きなさい!!」
「・・・今回ばかりはリリさんに同意します」
男女二人でいるからこそ周りも声をかけようとしない。カップルで来ていると思っているのだろう。
しかし、声こそ掛からないが若い男女は二人をよく見ている。隙あらば声をかけようという空気だ。
そこに一緒に来たリリとイッセイは自然と距離を取ったのだ。
おじいちゃんとおばあちゃんは機械を楽しそうに操作しながら買った焼きそばを二人で仲良く食べている。
「あの二人は放っておいて、私と一緒に二人で回りましょうよ?!それがいいわっ!」
「まぁ、二人してお祭りを楽しみにしてたからそれでも良いかな・・・」
イッセイも、我が家が頼まれた仕事を確認しなければならない。ちゃんと長時間空調機とミストが問題なく作動をするか、祭りが終わるまでは会場にいるのだ。
自身も腹ごしらえをしようと考え、リリの提案に乗って二人で回ろうとした。その時
「リリさん・・・!!キキさんの隣にいるあの男性はどなたですか・・・っ?!」
「時雨っ?!あなた今日仕事でしょう?!」
一人のスーツを着た男性が現れた。
リリの父親———【最上 利幸。異世界転移をしてきた者を取り扱う世間には秘密裏な機関の幹部だ。その部下であり最上の右腕の《神風 時雨》。大学生のイッセイと大差ない年齢に見えて30歳を超えている。
あまりの顔の良さに、おじいちゃんが付けたあだ名が『イケメン太郎』である。しかし呼ぶときは大抵『太郎』と呼んでいる。
ずかずかとリリの方に歩いてきてすぐに口を開いた。
「今日の仕事は祭りの警備です!!」
「あなたのような人間がそんな仕事するわけないでしょう?!」
「いえ、最上さんから言われてます。祭りでリリさんの警備をと!
そもそもが病み上がりで心配なのと、リリさんに変な虫が付かぬようにと・・・!」
「貴方もパパも馬鹿なのっ?!ただの夏バテだって言ったじゃないの!!」
「ところでリリさん!キキさんの隣にいるあの男性はどなたですか?!」
神風はキキに一目惚れをした。そして、キキもまた神風時雨に一目惚れをした。
お互いが緊張のしすぎで全くもって会話も関係も進まない事ここ一年。
しかし、キキの周りには基本男性がいない。イッセイかおじいちゃんだけだった。そんな中、突然降って沸いたかの如く現れたのが稲荷であった。
「あぁ、彼は【稲荷】って名前よ。あまり気にしないで。キキと一緒で異世界からきた人だし、この世界に危害を加えるような事はしないっていってたわ。言葉通りおばあちゃんのご飯作るの手伝ってたり、おじいちゃんの仕事のアシストしてるだけだから問題は・・・———あら?そういえば」
「わかりました。彼は異世界人ですね。直ちに連行します」
”異世界人”———キキから離す絶好の言い訳だ。手錠を掌に持ち、踵を返した。
「あー!待ちなさい!!新しく異世界人が来たって言うの忘れてたわ!!でも今は辞めてあげて!!祭りの間だけで良いわ!!」
「神風さん!俺からもお願いします!待って下さい!あと連行は無しで、聴取するなら俺の家にしてあげて下さい!!」
「・・・イッセイ君がそういうなら」
そう言いながら、手錠をスーツの内ポケットに仕舞い込んだ。




