簪の音 五話:攻撃
「へぇー!お兄さん男前だね!」
「格好いいわー!」
「髪の毛もずいぶん長いのね!でも似合ってるわー!」
外。
マスクを着けずに外に出るのが当たり前になった。
そして、当たり前だが、外に出ることができなかったので、催し物はいつもは建物の中で行われたいた。
それが今年は外で行おうという話が出た。
夏祭り。
数日後に行われる祭りの準備の最中である。
今までは建物内で、調理場で作ったものを、イベント区画で並べて売っていたのを、今年は外で作り売りをしようという事だ。昨年までは室内で、涼しげな映像や音声を流していたのだ。
空気が綺麗なのであれば、外でイベントをやらないのは勿体無いと言う話だった。
通年室内で生活していたこの世界の人間は、温度差の耐性が弱い。そこで、外で催し物を安全に行えるようにと、温度管理を任されたのが発明家のおじいちゃんである。
夜よりも日中の方が暑い。既に空調機を稼働して涼しい空気を周辺に届けている。
お昼時の今、おじいちゃんと祭りの手伝いにきた稲荷は、同じくお祭り準備にきた他所のおばあちゃんたちの話の的になっていた。
「髪の毛長いのに綺麗にまとめてるわねぇ〜!」
「どうやって留めてるのかしら?」
綺麗な色素の薄い髪の毛。後頭部で何周か巻いていても、毛先は背中を越えるまである。相当に長い。それを、緩く、それでいて綺麗にまとめているのだ。
「簪と言うもので留めているんです。真っ直ぐな棒なんですけど・・・」
「棒で留めれるの?!あら!器用だわ!」
「お兄さん明日も準備に来るのかしら!またお話ししてちょうだい!このババのこと忘れないでねぇ〜!」
「私も明日も頑張ってきちゃうわ〜!娘と孫にはこんなに格好いいお兄さんがいるのは内緒にしちゃいましょう〜!
「あら〜!私も〜!」
そう言って、おばあさんたちが差している日傘が揺れる。
そんな光景を少し離れたところから見ているおじいちゃん。
いつもと違い、静かである。
「珍しいね、こう言う場面だとじいちゃんいつも騒いだり文句言ってるのに」
「ふん!!ワシかて、ちゃんと手伝って気も遣えて文句も言わないでニコニコしている優男に文句を言うほど落ちぶれてないわい!!」
「なるほど、完璧だったんだね」
「ふんっ!」
「それにしても、魔法であの耳を見えなくしちゃうって言うんだから、便利だね」
「あの顔面すら、魔法で作っているハリボテかもしれんな!」
「あ、それは一理あるかも!」
「いいえ、それは面倒なので流石にしないですよ」
両手に何かを沢山抱えた稲荷が二人の元に戻ってきた。
「えらい土産が沢山じゃな」
「クッキーに、冬瓜茶、杏仁茶・・・お煎餅に、揚げ物、あ、タッパーに昆布の煮物も入ってる」
「おばあちゃんにお土産が出来ましたね」
「ワシ昆布食べる!!」
・・・———
・・・———
・・・———
「うーーーん・・・おばあちゃんおはよう・・・」
「あらキキちゃん!よく寝てたわね!おはようと言っても、もうお昼よ!」
「えー!!寝過ぎちゃった!!イッセイは?!おじいちゃんは?!」
「イッセイとおじいちゃんと・・・稲荷さんで、今度行われる”お祭り”の準備に行ってますよ!」
「お祭り・・・?楽しそう!!」
「まだ準備ですよ!今行ったら何も食べれなくてただ暑いだけですよ!」
「じゃあ当日まで涼しいところにいるわ!」
「そうしてくださいな。はい、キキちゃんのご飯ですよ」
そう言って、おばあちゃんがお盆にキキのご飯を乗せて持ってきた。
その時だった。
「うぐぅっ・・・!!!あああ!!!」
突然キキがその場に蹲った。
「あら!二日酔いが突然きたのかしら!大変、水分!水分!」
「っ・・!違うわっ・・・!これ・・・!!」
キキはそう言って床に掌を打ちつけた。
・・・———
ドサドサッ!!!
時を同じくして、稲荷が突然抱えていた荷物を落とした。そしてその場に蹲った。
「稲荷?!」
「・・・ぐはっ!!」
「どうした優男?!暑さにやられたか?!」
返事がない、苦しそうな稲荷。しかし、そんな中、地面に手を翳した。
一瞬だけ、地面が光った。それは、夏の太陽の下では地面を見ていた者にしかわからない。
「魔法を使ったのか?」
「・・・・・はい。———ふぅ、一旦はこれで大丈夫です。
が、イッセイ大変です」
額から汗を流す稲荷。その様さえ美しい。
「どうしたの?」
「異世界から、誰かやってきたようです。それも、私やキキのようなタイプの人間ではなく、恐らく"核"の為ならどんな事もする過激派です」
イッセイは昨年の騒動を思い出して顔つきが強張った。
また、どこかの世界の者があのような襲撃を仕掛けてくるのだろうかと。
祭りの手伝いを切り上げて帰ってきた男性陣。
帰宅早々、玄関で稲荷が気づいた。
「やはり、キキも魔法で防御したのですね。家が魔法で守られてます」
「俺たちにはわからないなぁ」
「それも、みんながいるところで説明しますね」
居間へ行くと、ソファで顰め面をしているキキと、隣にはおばあちゃんがいた。
「あら!早かったのね!お帰りなさい!」
「ただいま、ばあちゃん。ちょっと稲荷の体調に変化があってね」
「おやまぁ!キキちゃんもなの!蹲った時にはびっくりしたわ!」
「ばあさん帰ったぞ!!昆布は無事じゃ!!」
おじいちゃんとおばあちゃんが話すとのんびりな空気になってしまう。悪いことではないのだが、キキと稲荷からすると先程受けた衝撃からずっと心が休まらない。早く、早くこの状況に対して何かしなければ。
そう思ったキキが口を開いた。
「今から会議よ!飛んだ面倒事がやってきたわ!」
「じゃぁ、水出しの緑茶を淹れましょうね!頂いた昆布とお菓子も一緒に食べましょう!」
「ばあさん!ところてんもな!」
「はいはい!」
「ほのぼのが拭えないわっ・・・!!」
・・・———
「魔法使いの炙り出し?」
イッセイが冷たい緑茶のグラスを置いてから言った。
「そうよ。おばあちゃんや、イッセイ、おじいちゃんにはなんともなかったんでしょ?それに、お祭りの準備に来ていた人たちもなんもなかったんでしょ?私たちみたいに蹲ってる人がいたかしら?」
「いや、いなかったな」
「でしょ?」
「巫女娘!わけわからんぞ!」
「そもそも知る気あるわけっ?!ずっと昆布食べてるじゃない?!」
「あるわい!!」
頂き物の昆布の入ったタッパーを抱えて食べているおじいちゃん。その横からおばあちゃんも一つ昆布を口に入れた。
「どっかの世界から、魔法なりなんなり発動させながらこの世界に来た奴がいることは確かよ!イッセイ達に影響がなかったんだったら、あれは魔力を持っている者だけに影響がある攻撃」
「なんのために?」
「魔力を持って魔法を使える者を炙り出す為ですよ」
「わけっ!・・・ムシャ・・・わからんっ・・・ムシャッ!!・・・ぞっ!!」
「だから聞くあるわけ?!その昆布食べるの一旦辞めなさいよっ?!」
「では、私からお話ししましょう」
稲荷はグラスに伝う水滴を目で追っている。
水滴がグラスの下のコースターに落ち切る前に一口飲んだ。
「先ほど、異世界から誰かがやってきました。それも、魔法か何かを使いながらです。まぁ、この場では”魔法”ということにしておきましょう。
その、使われた魔法と言うのが、『魔力を持ったものに干渉する』と言うものでしょう。脳が狂わされるかと思いましたもの。
この世界に、異世界からどれほどの人が来ているのかは定かではありません。私もキキも他人の魔力はある程度感知できますが、遠すぎたら流石にわかりませんからね。
つまり、相手はこの世界に来たと同時に宣戦布告をしたのです。魔力持ちに対してずっと攻撃を仕掛けています。今もなお・・・魔法を解いたら私もキキもまた蹲るでしょう」
「大した魔法でもないし、大した魔力量も使わないけど、ずっと使い続けてるのってやっぱりちょっと疲れるのよね!」
”肩が凝る”と言わんばかりに、自分の両肩を触りながらキキが言った。
昆布を食べきったおじいちゃんが質問をした。
「で、何が『魔法使いの炙り出し』なんじゃ?魚の炙り出汁だったら美味そうじゃけどな!」
「あ、そうそう。俺もそれ気になってた」
キキと稲荷がアイコンタクトをした。
「多分なのですが・・・今も発動している攻撃魔法ですが、この魔法は魔力量の少ない者には私たちほど影響しません。ですが、体はずっと不調でしょう。魔法がうまく使えないくらいには。
私やキキは魔力量が多いです。ですので対抗できます。対抗できますが、やはりずっと魔法を使い続けるのは骨が折れます。だから、私とキキはこの攻撃を仕掛けている人物を特定して、魔法を止めるように交渉しなければならないのです。
交渉決裂したらそれはもう倒すしかないのですが・・・」
「つまり、魔力量の強い者を、この攻撃を止める為に自分の元に来させるためって事よ!私たちと同等の魔力を持っている者の炙り出しって事!」
「不味そうじゃな」
「状況的な表現として受け取っておくわね」




