簪の音 三十一話:融合
吹いていた風が徐々に治まった。
今までの暴風や目を刺激していた光が消えた。
本来のこの世界の、この地区の穏やかさを取り戻した。
目にしていた光景は夢だったのではないかと思うほど、今リリたちの目の前に映るは、男性が三人、四角い中身が見える箱の中にいるだけだった。
「と・・・止まった・・・止まったわ!!ほら!!押し込めばよかったのよ!?」
「えええー・・・あんな魔力の塊を?素手で?何で?熱鉄を球手で触るようなものよ・・・?」
「キキさん、結界?でしたっけ?解除した方が良いのでは?」
「あぁ!!そうね!!イッセイー!稲荷ー!大丈夫そうだから結界解くわよ?!」
キキに問いかけられたイッセイと稲荷。
イッセイにはこの状態がどうなっているのかわからない。稲荷も、絶対に間に合わないと最後思ったのにイッセイの突拍子もない行動で間に合ってしまった。
「キキが大丈夫だって判断したなら大丈夫だと思う。解いてくれ」
「了解!!」
自分達を囲っていた箱・・・キキの魔法結界が解けた。
「まさか、自分の手で押し込んでしまうなんて・・・いやぁ・・・何というか」
「リリさんの言葉のおかげだよ。良かった、何とか間に合って」
言いながら、ビリビリと痛かった自分の腕を振るったり動かしたりして様子を見るイッセイ。
もう痛さはない。腕を見ても外傷もない。安堵したのも束の間——
「・・・いえ!イッセイ!良くないですよ!?たまたま今回は上手く行きましたが、私が持っていたあの魔力の塊を勝手に触るなんて!危ないです!他の人が同じようになんかこう・・・魔法とか魔力とか持ってても勝手に触ったらいけませんからね?!」
「わかった、わかったって、今回は多めに見てって」
稲荷が声を荒げたことにイッセイも驚いた。この人、こんなに怒ることあるんだと彼から初めての憤怒を味わった。
「イッセイーーー!!」
「無茶するんじゃないのーーー!!」
「みなさん、無事で良かったです」
三人が寄ってきた。稲荷が支えていた呪術士を神風も一緒に支えた。
「神風さん、まだ眼が見えませんでしょう?大丈夫です。私が連れて行きます」
「あ、すみません。なんか、彼が心配で・・・ちょっと話しただけなんですけどね」
そう言って、気を失っている呪術士の顔を神風が見た。
「私は魔法も魔力も呪術もわからない。これ以上、何か予め呪術を組んでいないと良いんですが・・・」
「私も呪術はわかりませんが。もう大丈夫でしょう」
「本当、この人の魔法の組み方緻密すぎて大変よ。この才能は凶器ね。イッセイの機械愛と大差ないわ」
キキも驚きを通り過ぎて呆れ顔で言った。それほどまでに呪術士は凄いことをやっていた。
「はいはい!!もうこの人は呪物もないんだから脅威ではないんでしょ?!さっさと時雨のところで見てもらって私たちも帰りましょうよ!!流石に疲れたわ!!」
リリの一言でその場が動き出す。
「明日はお祭りの最終日よ!!あと、他の地区でも今度お祭りやるって言ってたわ!!それも行きましょうね!」
「リリちゃん、もう次のお祭りの話?」
「何よ、行かないの?」
「もちろん行くわ!」
女性たちが話している後ろで、神風は機関に連絡を入れて迎えを要請する。
そして、稲荷はまたイッセイに向き合う。
「機械を駆使するのかと思いきや、最後はフィジカルでいくタイプなんですね」
「まだ怒ってるのか?悪かったって」
「いえ、安心しました。最後はちゃんと自分自身を信じている方なんだなって・・・ですが!やっぱりあのようなことは金輪際してはいけません!手が焼けちゃうことだってあるんですから!!」
「わかったって!ごめん!本当ごめんって!!」
そう言って、逃げるようにキキとリリの元へとイッセイは駆けて行った。
「帰りがけにお祭りの甘いの買って帰りましょう!」
「甘いのならケーキが良いわ」
「リリちゃん、お祭りで売ってるのが良いのよ」
「好きなものを買えば良い。今日は特別何でも買うよ」
「じゃあ手に持てるだけ!」
その光景を後ろから見る稲荷。
「本当、勘弁してくださいよ、イッセイ。今の貴方でなかったら、塵になっていたんですからね」
・・・———
・・・———
家に着いた一行。
一度は祭りに寄った。機関に呪術士を預けた神風がリリを迎えに来たところでお開きになった。
食べ物と疲れを沢山持ち帰ってきた。
全員がお風呂に入った後、リビングにてお祭りで買ってきた食べ物を頂く。
「そう言えば稲荷、『予想よりももっと長くお世話になりそう』ってどう言う意味?」
たこ焼きを頬張ったところでイッセイが思い出した。呪術師士の自爆を止める前、髪の毛を切る時に言った言葉だ。
「あぁ!私の魔力の99%が髪の毛です。その髪の毛が無い以上、もうあまり強い魔法を使えませんから。
核を探すための魔法もあまり使えないわけです。つまり、核を探すのに時間が掛かればそれだけこの家にお世話になる時間も長くなるわけです!」
そう言って、さっぱりと後ろが無くなった髪の毛を触る。今は気が抜けている為、狐の耳も健在だ。ぴこぴこと動く。
「なるほどね」
「運良く核が見つかって稲荷の方が先に触れば、その時点で稲荷は核と一緒に元の世界に戻るけど・・・
私の方が先に触って核を持って帰っちゃった場合、魔力のほとんどない稲荷は自力では自分の世界にはしばらく戻れないって話よね」
「え?だって、稲荷の世界とこの世界は前任者のお陰で繋がっているんだろう?少ない魔力で来れるって・・・」
「それでも!ある程度の魔力を持ってないと移動はできないわ!だから、ロン毛の状態の稲荷からすれば"ちょっとの魔力"だけど、今の稲荷はそのちょっとも足りないって事よ。あの呪術士も呪物の力を借りてたからこの世界に来れたんでしょうけど、もう自力では戻れないでしょうね〜・・・
あら?そう言えばこの家って・・・」
キキが思い出した。そのキキをみてイッセイも言いたいことがわかった。
「その辺は、"次元異動装置"があるから心配しなくていいよ?」
イッセイのおじいちゃんの工場にある次元移動装置を使えば良いと提案した。
「次元異動装置・・・ですか?」
「そうよ、この家族信じられないの。魔法もないのに作ったのよ、次元を越える装置を!」
「え?・・・は?」
「信じられないでしょ?まぁ私は使った所を見たことないからなんとも言えないけど、一昨年女の子を一人、元の世界に還したとか!まぁ多分成功したでしょって話なんだけどね。だから、もしも急ぎで帰る場合は気にしなくて良いんじゃない?多分だけどね!あとは核探しがゆっくりになるだけね。私の刻印石も危ないし、稲荷の髪の毛も短くなっちゃったし!」
一通り喋って、キキはイチゴに薄い飴をコーティングしたお菓子に齧り付いた。
「そんなもの作る人が居たんですね・・・」
稲荷は驚いた。魔法も呪術も使わずに次元を越える装置を作ったなど聞いた事がないからだ。
「まぁ、多分成功してると思う。条件とか色々あって不便が多いけど、魔法じゃないから仕方ないよね」
「十分ですよ!」
「でも、機関には内緒にしてるから言っちゃダメよ!!そんなものあるなんて知れたらとんでも無いことになっちゃうんだから!」
「でも、この世界の生まれの人が使ったって他の次元には行けないからバレたところでって気はするけどね。異世界生まれの人じゃないと作動しないんだ。それに、異世界の物質を持っていないとどの世界かを割り出せないからね。だから、この世界の服だけを着た稲荷を次元移動装置に入れて転送しても、元の世界には戻れないって事」
「・・・では、呪術士の彼はあのスーツを着ていれば、元の世界に送れるって事ですよね?」
稲荷の考えは、正解だ。
「そうなんだけど・・・ほら、神風さんにも次元移動装置の事は言ってないから。呪術士の彼を強制的に送り返しても良いんだけど、何ともね」
「逃亡した事にしても、街中で網膜スキャンに反応しないとおかしいですものね。ですが、呪術士の彼の魔力量は神風さんにはわかりません。魔法で何とかしてるって事にして——」
「あぁ!!もう良いじゃないその話は!せっかく美味しいお菓子たちがあるんだから食べましょう!!話はそれからよ!!」
そう言って、キキはイッセイと稲荷の口の中に、小さいカステラを詰め込んだ。




