簪の音 三十話:自爆
「500km?!何言ってんのすごい規模じゃない!国宝超えて隣の地区まで爆発しちゃうわ!?」
「この方は魔力や呪力自体はないんですよね?!自爆の規模と力の量は比例しないんですか?!」
「そうよ!!もう呪物もほとんどないじゃない!!って言うかイッセイ!この人を電磁砲で打てば気絶して魔法が止まるんじゃなくて?!」
「リリさん!ダメです!そんなに短時間に打つと彼に影響が残るってイッセイ君が」
「悪者でしょ?!そんな事言ってる場合?!」
電磁砲の使用を求めるリリと、呪術師の体の心配を始めた神風。彼の自爆魔法作動してしまったら一巻の終わりだ。しかし、何か手立てがあり、更には呪術士ごと救いたいと考えた神風。
「リリさん、もはや彼は半分気絶しているようなものです!電磁砲も意味ないかと。無意識で、自動で魔法を組んでいるようなものです!多分、最後消える前の小さい方の呪物と、胸元の宝石のタンク・・・タンクにも何か細工があるんでしょう・・・」
「コイツ本当に信じられないんだけど!!そんな芸当出来るやつ初めて見たわ!!」
「彼の魔法構築の才能はとんでもない・・・元の魔力が弱いのにこれほどまで・・・」
呪物は崩れ落ちたのに、周囲の風はまだ止まない。
呪術士の魔法構築の際に何かが作用してずっと風が吹いている。
「キキの魔法でなんとかならないの?!」
「止めるのは無理!!なんか巧妙なプロテクトみたいなの掛けてて絶対に止められないようになってる!!解除するにしても、編んだセーターを全部綺麗に”糸”にしなくちゃいけないような大変さって言ったらわかってくれるかしら?!あと5分で組み上がってドッカンよ?!ちょっと誰か何か無い?!」
「セータなら切っちゃえばいいじゃない?!」
「切れないから困ってんのよ〜?!」
気を失いながらも立ったまま魔法を組み続ける呪術士の周りに全員が集まった。
「君!もう辞めてくれ!!何かいい方法があるだろう!!核がなくてもいい方法が見つかるかもしれない!!ここには力の強い魔法使いも、稲荷神も、機械士も居る!何か良い案が浮かぶかもしれない!!」
神風が必死に訴える。しかし、呪術師の目はもう虚だ。
「キキ!彼だけを囲って爆破の衝撃を最小限にできるか?!」
「〜〜〜!!それはやってみればできるけど絶対的に防げるかはわからないわ!!彼のこの胸の宝石の”タンク”がどのように作用するかわからない!それに、彼を囲うって事は・・・!」
そうだ。自爆を止めるという意味ではない。
呪術士に自爆を止めさせようと必死に問いかけている神風の願いを叶えてあげたいと思うキキ。しかし、あと3分足らず。このままではイッセイの家や街どころか、爆破自体は問題なくても余波で他の国へも被害が出る。国際問題だ。
もう、呪術士を囲って自爆の規模を抑えるしかないと、キキが諦めて魔法を繰り出そうとした。
「仕方ないですねぇ・・・」
稲荷が一歩下がった。
そして、杖を持ち直した。
「稲荷?もう魔力ないでしょう?何かするの?倒れない?!」
キキが気づいて稲荷に声をかけた。
「彼が最後の手段だとこの術をかけたんです。私も最後の手段を使わないと対抗できないみたいですね」
そう言って、いつもの優しい顔で笑った。
「ちょっ・・!!稲荷!変な魔法使わないで頂戴?!貴方の命と引き換えだとかそういうの受け付けて無いわよ?!」
「そうだ稲荷、それはしないでくれ!!」
リリとイッセイも、稲荷が優しい笑顔の下に何か諦めた表情をした事に気づいて止めに入った。
「そこまではしませんよ。ただ、予想よりももっと長くイッセイの所にお世話になってしまいそうで」
「・・・それで済むなら安いもんだ」
この状況を収めるのに本当にそれで済むなら安いどころかお釣りがくるほどだ。イッセイの顔にもその思いが全面に出ている。不安そうでいて、それで済むなら良いとどこか安堵している顔だ。
その言葉と顔に、稲荷はまた笑った。
「言質もとれたので、やりましょう。時間がもうありませんからね」
そして、杖を掲げた。
簪を杖にしたときと同じく、掲げた杖を地面に落とした———
その瞬間、杖は光り輝き、もう一回り大きく変造を遂げる。
巨大な神楽鈴へと成った。
——シャンッ!!シャンッ!!
「杖が!!鈴まみれよ?!」
「あれは、神楽鈴と言います」
「神楽鈴っ!初めて見た・・・」
「・・・ってかデカイし魔力量が尋常じゃ無いんだけど?!え?!稲荷どうなってるの?!杖になった時も魔力多かったけどそのあと減って行って・・・で、神楽鈴になって杖の時よりまた比べ物にならないその魔力量・・・ってか・・・鈴じゃ・・・ない?え?」
魔力を感じ取れるキキだけが混乱している。
「キキ、ちゃんと魔法を使って眼で見ないからですよ。だから私の魔力がわからないんです」
「何よそれどういう・・・」
大きい神楽鈴を持ち直した稲荷。そして、先ほどと同じようにまた掲げた。
「今使うのは、神楽鈴では無いんですよね・・・っと〜!!」
そういうと、また掲げた神楽鈴の持ち手の底を地面に叩きつけた。
また地面が光る。青白い光で眩しい。そしてその光から出てきたのは神楽鈴ではなくて———
———シャン・・・
「鈴が剣に?!どういうことよ?!」
「稲荷さん!!まさか彼を刺すんじゃ?!」
「稲荷!もう時間がない!!」
一本の幅の広い、平たい剣が現れた。
持ち手の先に沢山の鈴飾りがついている。
稲荷の簪は、杖、神楽鈴、剣と順番に姿を変えた。
剣の柄の部分を器用に持ち、くるくると刃の部分を華麗に振り回しながら稲荷が呪術士に近づく。
少し呆れ顔で、意識のない呪術士を見た。
「本当に、貴方には骨が折れますね」
そう言って、剣を振り上げた。
「稲荷!!刺しちゃダメよ?!魔法が暴発するかも!!」
「私の目の前で刺さないでー!!」
「稲荷さん!待ってください!!」
三人が騒ぐ中、イッセイだけは静かに稲荷を見ていた。
多分、稲荷は呪術士を刺さない。そう思いながら。
振り回された剣。そして再度柄を掴み直した稲荷。力を入れて剣を振り上げた。
ザシュッ——!!!
——ハラ・・・ハラ・・・
稲荷が自身の結かれた髪の毛を切ったのだ。
「あああーーーーー!!!やっぱり稲荷っ・・・!!」
キキが驚く。
稲荷はキキの叫びを無視して、切った髪の毛の束を持ちながら目の前にいる呪術士の宝石をみた。
宝石の目の前に切った髪の毛を近づける。
「同じ形の方がいいですね」
そう言い、髪の毛は光り出した。元々色素の薄い綺麗な艶のある髪の毛が光り、そして、呪術士の宝石と同じ形へと変形した。
「何?!キキ!どういうことよ?!」
「稲荷の魔力の本当の源は髪の毛なのよ!!」
「髪の毛ー?!」
キキが説明する間も、時間がない稲荷は魔法を施す。
宝石と同じ大きさと形になった稲荷の髪の毛。
赤と対照的な薄い青色・・・それを呪術士の宝石へと近づけた。
スゥーーー・・・
稲荷の髪の毛だった水色の塊が、赤い宝石へと入り込んでいく。
「膨大な魔力で無理やり封じ込めてるわ!強制的融合・・・?いえ!無効化してる!!でも無効化が完了しないとダメだわ!!稲荷急いで!!」
「・・・多分、間に合うかどうかはわからないですね?キキ、あと何秒ですか?」
「式が組み上がって自爆まであと20秒よ!!早く髪の毛取り込んで!!」
ゆっくりと、吸い込まれる様に水色が赤色に入っていく。あと少し、あと少し。
「稲荷ー!!あと10秒!!」
「間に合うといいんですが」
「間に合わせて頂戴!!」
「稲荷さん、お願いします!」
「キキ念の為囲ってくれ!!リリさんと神風さんは離れて!」
「何それっやる気が起きないけど・・・!!」
リリを抱え、神風の腕を後ろに引いたキキが、呪術士とその目の前にいる稲荷、そしてイッセイの三人を魔法で囲った。
「ちょっ!!イッセイまで閉じ込める必要はないでしょう?!」
「四角い魔法結界じゃないと囲えないんだからあの場から距離を取らないイッセイが悪いわ!!大丈夫、きっと間に合うわ!!」
正確な爆発までの時間がわかるのはキキだけだ。だからこそ、カウントをしないと他のものはわからないが、カウントをすることが逆効果になるかもしれない。そう思い、口を開けずにいる。
「あと5秒くらいでしょ?!」
「・・・まぁ」
6
5
4
3
本当にあと少し。稲荷の水色の塊が取り込まれるまであとわずか。しかし爆発までの残りもあと2秒だ。
キキは目が離せない。
「・・・ダメかもっ!!」
取り込まれが遅い。ギリギリで間に合わないとキキが口から漏らしたその時だった。
2
「イッセイ!!押し込んじゃいなさいよーーー!!!」
「何言ってんのよーー?!」
1
リリの力技の指示に、キキが反論した。
そして、赤い宝石が更に光を放ち出した。つまり、自爆魔法が作動したのだ。
無効化が間に合わなかった。
「遅かったですか」
稲荷が悔しそうな顔をした。
しかし、イッセイはリリの言う通りに横から手を出して塊を赤い宝石へと押し込んだ——
「イッセイ?!」
イッセイの手が、腕までもが赤い宝石の中にまで入っている。そして、紫色の電気火花のようなものが飛び交う。
——バチッ!!バチバチッ!!!!
「っく・・・!!」
「なんて無茶な?!」
そして、電気火花は物凄く激しくイッセイに纏わりつくように発生した。
「グアァアアアアア!!!」
体にビリビリと痛みが走る。しかし、それでも押し込む。
すると、電気火花が減り、赤かった宝石が紫色に変わった。
そして、爆発が止まった。




