簪の音 二十八話:先代
「魔女巫女!流石のお前でも無理だな!!さっきの見ただろ?!呪物を狙ったって全部かき消されるんだ!!」
確かに、先程はキキが放った魔法は全て早々に消滅した。
「人間はマス目ごとに年齢が巻き戻るってルールみたいだけど、魔法は使えないんじゃなくて、魔法も呪物に近づく為に移動した分の時間が戻るんじゃなくて?だったら、他の魔法を使うまでよ!!」
キキが自分の胸元で魔力を球体にし始めた。
最初は小さい球体だったが、それがすぐに大きくなる。
そして、それと同じものが呪物の前にも現れた。
「移動魔法の応用よ!!部分テレポーテーション!!」
キキが目の前の魔法球体に腕を突っ込んだ。突っ込んだ先からは何も出ていない。呪物の前に現れた球体からキキの腕が出てきた。
出てきた指先が呪物にあと少しで触れる。
「あとちょっとよ!!キキ!触れそうじゃないの!!」
リリが嬉しそうに言う。案外簡単に事なきを得そうだと安堵も伺える。
——————バチンッ!!!
しかし、
「——っ!!なんでよっ!」
しかし、あと10cmの所で指が止まる。近づけない。キキが足を動かなさないように注意しながら腕を伸ばす。しかし届かない。
「球体の設定場所が少し遠い!キキ、近づけるか?!」
「やってみる!」
「無駄だ!それ以上近くに魔法は寄れない!!」
呪術士は楽しそうにしている。
魔法をやり直すキキだが、何度行っても同じ場所にしか球体が現れない。
「なんでよ!!呪物に近い座標に設定してるのに!!」
「その位置が、限界か・・・っ!」
「手強いですね・・・」
神風はそう言い、魔法には疎いが何か良い策がないかと考える。
稲荷も考えているのか先ほどから静かである。
「キキの手元では魔法が使えるなら、今立っている所に魔法をかけて物凄いジャンプをするのはどうかしら!!勢いだけ魔法で、あとは物理に従って曲線を描いて呪物に向かうから呪物に弾かれない筈じゃない?!それで手で呪物に触れれば・・・!」
「でも、万が一にでも足付いたら私もう赤ん坊どころか存在が無くなるわっ?!」
「じゃあ、魔法でスケートボードを出すのはどう?!それなら、魔法じゃないし、足は付かないし!」
リリが案を出す。しかし
「・・・そのスケートボードがどこかから取り寄せた、引き寄せてきたものならまだしも"魔法で作られた"ものだと認識されたら近づくにつれ消えてしまう可能性があります!」
「んもぅーーーーー!!!」
イッセイが考えられる危険性を提示した。リリは考えられるだけの案を出すが、どれもイッセイの計算上や憶測を押し通してまで大丈夫という自信がなく騒ぎ立てる。
吹いていた風が強くなる。体がよろけそうになる神風。片目が見えない分、平衡感覚も通常より劣る。
「時雨もしゃがみなさいよ!空気抵抗を受けなければよろけないでしょ?!」
「そうなのですが・・・しかしっ・・・!」
神風は呪術士が気になって仕方ない。呪術士の顔をできれば見ていたい。しかし、眼もあまり見えず、リリの言う通りよろけて動いてしまったら年齢が戻ってしまう。
「まぁ!貴方元々20代見たいな顔してるから大して変わらないでしょうけど!!・・・じゃぁ得じゃない?!」
「いや、それはどうかわかりませんけれど・・・」
「イッセイ!!何か機械でどうにかならないかしら?!」
遠くにいるイッセイにリリが大声で問いかける。
「今動けない以上はもうお手上げです!!」
「ほら!!電磁砲で結晶を撃つんだけど!発射されるのが誰かの手のなんか代わりみたいな?!・・・なんかよ!!」
考えてはいるが言語化ができない。元々機械に詳しいわけではない。一般的に考えればリリはよく考えている方だ。
そんな中、変わらずに——シン・・・としている男が一人。稲荷である。
稲荷も言葉こそしないが考える。
どうすれば良いのか。
「流石の稲荷神もお手上げか!!魔女巫女も手が出ないようだな!!このまま永遠にこの場所にいるか、意を決して誰かの時間を犠牲に巻き戻して呪物に触れるか!!誰の手でも構わない!人間の手ならな!!ほら、どうする?!」
「・・・神風さん。俺に拳銃を預けてくれませんか」
感情の読めない顔でイッセイが神風に言った。
「イッセイ君、何を・・・」
「神風さんは、多分彼を撃てない。俺が撃ちます」
全員が驚いた。
拳銃で撃つ。即ち———
「イッセイ何言ってるのよ!!」
「イッセイ君!このゲームは呪物が主体と言っていた!彼がいなくなっても止まらないんじゃないのか?!」
「ですが、何か影響があるかもしれないです」
「その影響が悪い方へと転んだら・・・!」
「でも、このままでいるよりかはマシです。明日になってしまったら・・・そうでなくてもこの風と光・・・誰かに気づかれるのも時間の問題ですよ」
「でも・・・!」
「いいんです。俺がやります。拳銃を、渡してもらえないでしょうか」
その光景を稲荷とキキが見た。
イッセイが、人を撃とうとしている。
キキはまだ何度も魔法の座標を変えて試そうとしている。
光が現れては弾けて消えて・・・その繰り返しだ。
神風が、スーツのジャケットの中に手を入れた。
それを横目で捉えた稲荷は考えを一度辞めてイッセイをみた。
「待ってください」
稲荷が、大きな声を出してイッセイを止めた。
「あと、少しだけ時間をください」
稲荷が順番に全員の目を見ながら言った。
・・・——
・・・———
・・・———
稲荷は幼い頃の記憶を思い出そうとした。
一番幼い頃の記憶。
家の縁側から畳の部屋に入ってゴロゴロしている記憶だ。確かこの時誰かを待っていた。
そして、誰かが入ってきた。先代の稲荷神だ。
「(私はこの時、先代の稲荷神から初めて”時間が止まる”と言う自身が災いの矛先になるという事を聞いた・・・。そう、世界に起こる悪影響を、私の時間を止めると言う代償でずっと相殺してきた。)」
しかし、時間が止まると言うのは、簡単な現象だが、味わうのは容易なものではない。
「(初めて時間が止まったのは小学生の時だった。子供の頃に突然止まった時は、あぁ、”これが代償なんだ”と思った。そっか。と、数時間はなんとかなった。しかし・・・)」
周りのもの全てが止まっている。音もしないのだ。
子供にこの現象は辛すぎる。稲荷も最初に止まったのは、今からすると”たったの三年”だったが、子供が三年間も何も進まない時間に閉じ込められていたのだ。
通常の精神なら崩壊をしている。
三年の時が経ち、やっと時間が動いた時。
子供だった稲荷は大泣きした。
・・・———
「なんで、世界の環境へ影響の代償が、時間が止まる事なの?なんでそれは限られた人だけなの?みんなの時間を少しずつ止めればいいじゃん?なんでダメなの?」
稲荷が先代の稲荷神の膝で、不貞腐れながら質問をした。
「・・・なんでだろうなぁ・・・。ワシはそう言うのは考えた事なかったな。選ばれた存在だと言われて、なんか浮かれたんだろうな。でも、その嬉しさと裏腹に、初めてはとても辛くてお前さんと同じように怖くて泣いたもんだ」
「だって、僕だけずっと・・・一人なんだよ」
「一人とはちょっと違うな。人が止まってるだけだ。誰か好きな人のそばで過ごすのもいい。お前さんはお兄さんが好きなんだろう?」
「兄上、好きだけど、でも喋ってくれない。ずっと止まってる」
「喋るだけが幸せじゃない。そばにいるだけでいいって思うようになる・・・まぁ、多分何十年も先の話だろうけどな」
それでも稲荷は納得がいかない。
「もうやだ。怖かった。もうやだ!!」
「やだと言っても、次も訪れる。それが、一年後か、半年後か、今月か、今週か・・・・・明後日か、明日か。
・・・今日かもしれないな」
「ヤダヤダ!!怖いよ!!また一人になるの怖いよ!!」
「よし、ではこの間は説明があまりできなかったから、今日またお話しをしよう。ワシがどのように時間を過ごしたかも教えよう。そうすれば、次の時は時間潰しのネタが少しは増えるだろう?」
「・・・聞く」
訪れてほしくはないが、一人でずっと寂しがって怖がっているよりマシだと観念した稲荷は、泣き喚くのを少し我慢して先代の話を聞いた。




