簪の音 二十七話:巨大
「キキ!!」
イッセイはキキの名を呼んだが、完全に地面・・・沼に飲み込まれた。
「稲荷!!なんとかならないか?!」
「・・・!!今、打てる手は私にはないようです・・・面目無い」
「じゃあどうすん———キャアアア!!」
「リリさん!!」
リリと時雨が飲み込まれ始めた。そして、次に稲荷、最後にイッセイも飲み込まれた。
「(まずい!!息はできるのか?!電磁砲は通用するのか?!)」
イッセイは飲み込まれながらも最後まで足掻き、電磁砲の引き金を引く。目を瞑ったため、わからない。息も念の為に止めている。耳は変な音が聞こえる。電磁砲の発射音は聞こえない。
———ダメだったか。
そう思い、自分が今どのような状況かを再認する。
飲み込まれた。全身に張り付く何かわからない泥のようなもの。
顔も塗れているからまだ息もできない。
周りは何も見れない、見えない。視界は真っ暗だ。
息が苦しくないからまだ1分も経っていない。しかし、思考は混乱している。この状況をどうする、他の者は大丈夫か、最悪キキと稲荷は魔法が使えるから何かしら助かる可能性があるが、自分とリリと神風はお手上げだ。
自分の電磁砲が使えないのだから、リリの磁場砲も神風が持っていたとしてもきっと使えない。神風の拳銃も沼のようなところでは銃弾は飛ばない。そう、思考だけが駆け巡る。
そろそろ苦しくなってきたイッセイ。もうダメかもしれないと思ったその時だった。
———パンッ!!!!!
弾けるような音がした。
そして、自身にまとわりついていた感触が全て消えたのだ。
体が軽い。咄嗟に目を開けて周囲を見る。自分は宙におり、そのまま重力に従って落ちた。
ドサッ!!!
突然のことに、受け身も取れずにイッセイが落ちた。
「ぅぐはっ・・・!!」
硬い。今までの感触と全く違う。
「イッセイ!!大丈夫?!」
リリの声が聞こえた。顔を上げると、リリが近寄ってきている。新たに着いた傷はない。無事に着地をしたようだ。
「ごめんイッセイ!魔法で受け取れなかったわ!」
「私もです、すみませ———」
「いてぇなぁ・・・まぁ割とまともに発動したか・・・余計なのも連れてきちまってるな。式の補足構築が間に合わなかったか」
五人から少し距離を空けた向かいには、怠そうな呪術士がいた。
そして、その呪術士の傍に在るは、呪術士が持っていた手のひらサイズの黒い結晶の
それを何倍も凌ぐ、呪術士よりも大きい結晶だった。
「あんた気絶してたんじゃないの?!どういうことよ?!」
「そこの機械士がぶっ放す前に術をかけたんだ。電磁波の衝撃を緩和させるものだ。あとは魔女巫女、お前がまた俺の近くに寄ってきたらこの場所に飛んでくるようにし・・・まぁそんな事はどうでも良い。もう終わりにしよう。
ここでゲームを始めようじゃねぇか・・・」
「ゲーム・・・?」
「バカ言ってんじゃないわよ?!遊んでほしいなら最初からそういえば仲良くしたわよ!!」
「キキ、多分そういう意味ではありませんよ」
「それよりここどこよ?!時雨!眼は見える?!ここが何処だかわかるかしら?!」
リリは先ほどから自分が何処にいるのかがずっと気になっていた。この世界に帰ってきて一年とはいえ、行った事がない場所の方が圧倒的に多い。
地図で見ただけのこの世界。そして、呪術士に祭りの会場から飛ばされた。家から近いのか、遠いのか。祭りの会場から遠いのか。
近くに人、民家はあるのか。
「片目は見えますから大丈夫ですよ・・・街が遠いですね。A地区とB地区が見える何もない場所ってことは・・・城跡ですね・・・」
「それって、国宝指定されている城跡の場所って事?!?」
「そのようです」
「人はいないけど大事な国宝があるじゃないの!!」
「まあ、ここからは少し距離がありますけど・・・」
「ごちゃごちゃ五月蝿い!さぁ、ゲームスタートだ・・・!遊・開・逆行!!」
呪術士の言葉に、隣に在った巨大な呪物の周りが青緑色に光始めた。
周囲に途轍もない風が吹き荒れる。風で五人が飛んだ。まとまっていた五人がバラバラにされた。
その直後に地面がマス目状に光る。
「何してくれちゃってんの?!もうほとんど回復したからその呪物の効力をどうにかしてやるわ・・・!」
キキが構えて魔法を繰り出そうとした。しかし
「ん?あれ?・・・え?!なんか調子悪いんだけど?!」
キキの手から光が出てはすぐに消えていく。呪物に向かって魔法を飛ばそうとしているのだろうが、呪物まで全く届かない。
「このマス目の上じゃもう魔法は使えないぜ!なんせ、この呪物がマス目状の中でのルールだ!」
「何言ってんのかわかんないけどわかったわ、直接その呪物をぶん殴って———」
そう言って足を上げたキキを見て呪術士は笑った。その笑みに稲荷が気づいた。
「キキ!一歩も動いてはいけません!!」
「え?!じゃぁ上げたこの足どうすれば良いの?!」
「元の位置に戻してください!」
「ど・・・どのへんだったかしら・・・?」
「稲荷!!」
イッセイは、稲荷が呪術士の仕掛けた”ゲーム”に関して何か勘づいた事があると気づき、稲荷の名前を呼んだ。
「・・・ゲームなのでしたら、そのルールとやらを説明して貰わないと不公平ではないでしょうか?」
稲荷は依然として呪術士を見ている。
「稲荷神!お前は勘が良いな!魔力量も有るんだか無いんだかわからないし、回復速度も遅い!杖の魔力が減っている。お前はもう戦えないんじゃないか?!」
「良いからルールを」
「ッチ!わかったよ。
ゲームのルールを説明する!
この呪物に触ることができたらお前たちの勝ちだ!それだけだ、簡単だろう?」
「勝敗は単純ですね。ですが、それだけでは無いでしょう?!」
自分達を吹っ飛ばすために吹いた風は、威力を抑えてまだ吹き続けている。
呪物は直視はできるがかなり眩しい。
「まず、このマス目上では魔法は使えない!そして、走ったり歩いて近づこうモノならそのマス目一つ毎に、近づいた者の年齢が一つずつ巻き戻っていく!!
おっと!だからって逃げようとするなよ!遠退けばその分、年齢は増える!」
「な・・・何よそれ・・・?!じゃぁ横にしか動けないじゃない?!そんなの呪物まで行けないに決まってるじゃないの!!」
マス目一つの大きさは、この場で一番体の小さいリリの足のサイズの半分だ。
つまり、リリが呪物に一歩近づくと2歳分巻き戻り若くなり、一歩遠退くと2歳分年を取ると言う事だ。
うっかりでも一歩も前進も後退もしないようにリリはその場にしゃがみ込んだ。
「だったら、マス目に足をつけなければ・・・!」
「時雨!このマス目の上じゃ魔法も使えないのよ!!飛べない以上足を地に付けないと近づけないわ!」
「そうだ!転がるのも無しだ!それに、呪物に触れるのも手でないとダメだ!」
「・・・結局、俺たちが誰も触れなかったらどうなる?制限時間は?」
「制限時間は無しだ。ずっと続く。お前たちが・・・くたばるまで、ずっとだ」
「そんなのゲームじゃない!!」
「機械士、エンドレスゲームだ!!さぁどうする?!魔法も使えない、近づくと生きてきた時間が巻き戻る!お前は精々二十歳だろ?!十歩も歩かないで赤ん坊に戻るぞ!!」
誰が歩いても呪術士までは十歩では足りない。一マスにつき一年とすると、この場で一番実年齢が上の三十代である神風でも足りない。
「一時や魔法でそう見せるのではなく、人の実年齢を操作するような術・・・!魔法でも呪術でも、そんな術は危険すぎる!!貴方もタダじゃすまないだろう!!」
「俺は問題ない。このゲームはこの呪物が主体だ!!呪物に組み込まれたもので俺が術を施したわけじゃない!!この結晶体である呪物は、他の世界のモノを俺が譲り受けた!!魔力の少ない俺がこの世界で戦って核を手に入れられるようにな!!」
呪物の隣で呪術士が楽しそうに笑う。
「何よっ!そんなのもうどうしようもないじゃない?!」
リリは磁場砲を握った。でも、今回はもう役に立ちそうにない。魔法が使えないリリ、魔法が大してわからないリリも何とか考えるが何も浮かばない。
「でも、魔法を使うと反則ってわけじゃないんでしょ・・・?」
静かに、怒りを瞳に宿したキキの声が通った。




