簪の音 二十六話:不発
「2kmなら二人で一瞬よ!!!」
そう言ったキキはその瞬間に、その場から消えた。
そして、イッセイと呪術士はそれぞれ引き金を引く。
キキがいた場所には、残像のように取り残された緑色の光が蛍の光のように散り散りに浮いている。
そして、離れていたリリと神風のところへと一瞬で現れ、今度はリリと共にまた一瞬で消えた。
瞬く間、2秒も掛ってない。
———キュィィイイイ
イッセイと呪術士の手元からチャージ音が聞こえてきた。
が、しかし次の瞬間。
・・・キュウウウン———・・・・
「何?!どういうことだ?!」
呪術士の持つ磁場砲が、チャージ途中で頓挫した。光が弱まり、次第に動かなくなった。引き金も引けない。
ハッとした呪術士が、電磁砲に対抗しようと考えを巡らせようとした。焦る顔。しかしどれだけ魔法を使おうと磁場砲は動かない。データの読み取りもコピーも出来ない。
苦し紛れに自分に魔法を掛けたが電磁砲の光の方が思ったより早く届いた。
「クソオォォオオオ!!!!!」
———ズギャァアアアアン!!!
新しく設計した電磁波により、呪物の学習も無意味となり何も対抗できず、呪術士は素直に喰らう他なかった。
目の前で呪術師が倒れた。
その光景に、男性三人が安堵した。
稲荷も、少しふらついた。
「すみません、私が不甲斐ないばかりに」
すぐさまイッセイと神風に詫びを入れた。
「・・・そんなことない。呪術士の彼、多分頭が良い。なんか、容量がいいんだろうね」
「えぇ、多分そんな感じだと思います。まぁ、私も弱くは無くともそんなに強いわけじゃないですからね。頭の回転の早い方や知識量の多い方、魔法が大好きで研究している人には敵いませんよ」
「それにしても、神風さん。さっきのは・・・」
「あぁ、実はこの間発覚したんです」
こちらも、ふらつきながら寄ってきた神風にイッセイが問いかけた。
何故【リリを連れて2km以上離れろ】と言ったかだ。
「あの磁場砲、リリさんが近くに居ないと発動しないんです」
「!」
「前、イッセイ君も使ったことありましたよね?でも、あれはリリさんが近くにいたからなんです」
「リリさんが、大体2km以上離れると、あの磁場砲は起動しなくなるって事ですか・・・どんな設定にしたらそんな事できるんだろうか。異世界の技術って怖いなぁ」
「イッセイの技術も十分怖いですよ」
稲荷が笑いながら言った。
一瞬、和やかな雰囲気になったが、実際はそれどころではない。
「さて、この後どうしようか・・・」
目の前に横たわっている呪術士を見ながら、イッセイが溜息混じりにそう言った。
・・・———
「彼は私がまた連れて行きます・・・と言っても、また脱走されるんでしょうね。これは、稲荷さんやキキさんにき一緒にきて頂いて、拘束している部屋に魔法でもかけてもらうしかなさそうですね」
神風の乗ってきた車の後部座席に呪術士を乗せた。まだ目は開いていない。
「とりあえずは、電磁砲の新しい設定が少しの間は効きそうだから、それで凌ぐとして・・・やっぱりあの呪物を取り上げた方が良さそうだな」
「ですが、彼が気を失ったらまた消えてしまいましたよ?」
呪術士が電磁砲で撃たれて気を失った時に、黒い結晶である呪物は手から消えた。
「あれは消滅したのではなく、彼の着ているスーツの宝石みたいな赤い部分に返ったのでしょう。あの赤い宝石は異次元のタンクです。なんでも入る仕組みでしょう。条件つき魔法をかけておけば、術者に何かあった時に自動でタンクに戻るように出来ますから」
「稲荷、そのタンクから取り出せる?」
「やってみないとわからないですね。ただ、念の為人がいない安全な場所で行いたいです」
「じゃぁ、やっぱり拘束室についてからやろう。それまで念の為、稲荷が神風さんに着いて貰える?」
「はい、もちろんです。まだ多少なら魔法が使えますから」
———ヴヴヴン
神風の電話が震えた。
「はい、あ、リリさん。先程ので痛みはまだありますか?お怪我は・・・。あぁ、でしたら良かったです。えぇ、イッセイ君の電磁砲が効いたので呪術士の彼は気を失っています。はい、やっぱりそうでした。リリさんが近くにいないから起動しなかったんです。これから私と稲荷さんで署の方に向かいますので・・・え?えぇ、まぁ大丈夫ですけど」
リリとの会話を終えた神風。事の結末を聞かれた。
神風が通話を終えて電話を下ろした。
「リリさんは、キキとそのままお祭りを楽しんでもらいましょう」
「え?リリさん、一緒に来ると言ってましたよ。すぐに此処に魔法で来るって・・・」
———ッシュン———
「ただいまぁ〜!」
「はぁー、生きた心地しなかったわ」
どんどん魔法が使えるようになり始めて元気になるキキと、巻き込まれて恐怖で体が縮こまったリリが戻ってきた。魔法で軽くしているのか、キキがリリを持ったままイッセイたちのいる車へと近寄ってくる。
———キンッ
「お疲れ様ですリリさん」
「本当、一週間分の疲れが一度に押し寄せたみたいよ」
———キンッ
「あの磁場砲って、リリちゃんいないと使えないのね!!私初めて知ったわ!」
「私もですよ」
———キンッ
「本当、どういう仕組みなのかわからないわ!」
「だからイッセイ君に相談をしようって思ってたんです。まぁ、リリさんが近くにいないと暴発してしまうより全然良いのですが」
———キンッ
「なんの音だ・・・?」
一定の間隔で『———キンッ』という音が聞こえている。
「え?キキの魔法の音ではないのですか?」
「稲荷の魔法でしょう?」
キキと稲荷が同時に口にした。双方が、自分ではないと主張した。
イッセイは車の中で気絶している呪術士を瞬時に見た。
何か光っている。
横向きに寝かせていた。その胸の辺りが赤く光っている。
胸には、稲荷が言っていた赤い宝石という”タンク”がある。
タンクが光っている。
光を出しながら『———キンッ』という音も発している。
嫌な予感がした。心臓の鼓動が少し早くなる。キキも稲荷も音は聞こえたが不審がらなかった事を思い出したイッセイ。ならばこれは呪術だ。もう、魔法も呪術も何が違うのか自分にはわからないが、何かされる可能性があると思い、声を上げた。
「呪術士の胸から音と光が出てる!!離れろ!!何が起こるか全くわからない!!」
「気絶してるんでしょ?!」
「・・・電磁砲を浴びる直前に術をかけたのかもしれません!!」
「リリさん!こちらへ!」
「貴方だって片目見えないんでしょ?!こっちよ!!」
「キキ!少しの距離で良いから全員に移動魔法を———」
「了解!!」
キキが両手を上げ、一瞬で緑色の光が全員の周りを囲った。しかし
——————ドゥウウウウウン———!!
地響きのような音が鳴り、地面が揺れた。
一瞬だけの揺れだったが、ふらついたり集中を切らすには十分だった。
キキの移動魔法が組んでいる途中で弾けた。失敗だ。
「地震かしら?!」
リリが驚く。それに応えたのはイッセイだった。
自分達の足元を見て言う。
その姿からは何を思っているのか誰もわからない。
「呪術ですね」
イッセイの目線に釣られて全員が自分の足元を見た。
地面は真っ黒くなり、中で何か渦巻いているように見える。
そして少量の電力を発しているかのようにパチパチと鳴る音。
そのまま足が地面にめり込み始めた。沼に嵌ったかのように抜けない。
「キャァアアア!!何よこれ?!キキ!移動魔法を早く———・・!」
リリがキキの方を向いた時には、キキは体制を崩して両手を地面へつけていた。既に、手のひらは沼に飲み込まれていた。
「何やってんのよー?!」
また移動魔法の緑の光が現れ始めた。
「大丈夫!!手じゃなくてもなんとかするか———」
———ゴボッ
喋っている途中で、地面がスライムのようにキキを飲み込んだ。




