簪の音 二十五話:同時
「(バレている・・・)」
稲荷は、相手である呪術士が保有している魔力量が少ないと確信している。
それは、出会った時からだ。しかし、呪術・呪物・呪力に関しては未知だ。しかし、相手である呪術士の魔力は絶対に少ない。なのに、応戦している。割と多くの魔力を持っている自分と互角にやり合っている。
もし、持っているあの片手サイズである呪物の呪力を魔力に変換しているとしても、話がおかしい。
呪力の量が桁違いにとんでもない量だとしか思えない。あの小さい結晶にそれほどの呪力があるのか?ただ、そんなものを自分の世界でも普通に持っていれるのだろうか?彼も神社か何かの生まれで特殊な体質なのだろうか?
考えながら稲荷は魔法を繰り出す。
そして、何より今呪術士が言った言葉に稲荷は焦りを覚えた。
《杖にした簪の魔力が、魔法を使うごとに減っていってるなぁ?!チャージ式か?!》
当たらずとも遠からず。
しかし、自身の魔力に関して今まで勘繰られた事がなかった稲荷は驚いた。
「(呪術士は魔法も使える。ただ、私と同じく眼が良いというわけでは無さそうですね。多分、単に頭が良いか、魔法に対して相当な知識だけがあるか・・・どのみち、厄介な相手ですね・・・)」
稲荷は考えて、杖から攻撃魔法を出した。
小さなビー玉のような魔力が光り、威力を加えて呪術士へ撃ち放つ。
「小賢しい!!威力が強いからって騙されるわけないだろう!もっと質量のでっかいのを寄越せって言ってんだよ!!魔力の回復が遅いタイプか?!魔女巫女みたいに無限に湧き出るタイプじゃねぇって事か!?」
呪術士は稲荷の攻撃を、呪物から出た黒い靄に吸い込ませた。
「貴方こそ、呪術士だなんて嘘じゃないですか?そんなに魔法に詳しくて・・・さっきから威力は呪力で補ってるようですが、繰り出す魔法の構築や組み方がやたらと繊細ですよ?本当はずっと、魔法を使ってらしたんじゃないですか?」
「呪術士だなんて言ったのはお前たちの方だろう?!」
「そうでしたっけ?」
「何度も何度も頭に電磁波を食らったからもう忘れたなぁ!!」
呪術士からの質量の大きい攻撃を、稲荷は狙いを定めて最小限の魔力で対応する。正面からまともには受けられない。角度をつけて攻撃を受け流す。自分の後方は祭り無く、仲間もいなくて良かったと心の底で安堵する。
とにかく、あと少し。イッセイが電磁砲を完成させるまで。
キキがこの場から逃げられるようになるまで。
なんとか稲荷は持ちこたえようと、杖を振り回す。
・・・———
イッセイの頭はフル回転をしている。
呪術士の脳波データ。
新しい電磁砲の波形。
そして、人体に影響を残さない威力。
キキの魔法が回復するまでの時間。
呪術士の攻撃のパターン。
稲荷の魔力と体力。
神風の眼。
リリの安全確保。
祭りの一般人が空を見ている時間。
じいちゃんの次の言い訳。
電磁砲の再起動時間。
電磁砲の弱点。
呪物と呪術の影響。
一般人への被害。
イッセイの指が止まることはない。ずっとキーボードを打ち、画面をスワイプしている。
神風に見せてもらった呪術師の脳波データを基に、電磁砲の設定を新しく作る。
何の波形かわからないと言っていたものが、呪物からの干渉波だとすれば、それを逆手にとって干渉されないものを作ればよいと考える。
それでいて、人体に影響のない波形。
「・・・呪物に電磁砲が効くかわからないけど・・・やってみるしかないかな。とりあえず呪物に邪魔されないで呪術士に効けばこっちが有利になれる」
ものには共鳴する音階や波形があると聞く。
こうなれば、超音波でも何でも良くて、呪物を破壊してやろうとさえイッセイは考える。
呪術士の攻撃パターンが掴めない。魔法を使ったり、呪術を使ったり、呪力そのものをぶつけてきたり。全て気まぐれなのか。計算しているのか。
神風の眼も心配だ。相当な光を見てしまったのだとイッセイは考えた。自分と理由は違えど、子供の頃に片目が見えなかった時の大変さを知っている。今の神風は辛いだろう。そういえば、あの人は異世界から人が来るたびに怪我をしているなと思い出す。
「(キキと稲荷は魔力量が多いと聞いていたが、今、呪術士とのやり合いを見る限り、稲荷と呪術士は互角状態だ。わざとなのか、本当に互角なのか、もしくは呪術士が何か特別な存在なのか。どっちにしろ、稲荷が優勢ではない事は見てわかる。もし、稲荷の体力面が限界に近いとなると不利になる)」
そう考えながら、手は止まらない。
そして、最後の設定を完了して、端末と電磁砲の再起動を開始した。
「稲荷!!電磁砲を再起動した!!あと少しだ!!頑張ってくれ!!」
「承知しました!」
「こっちもある程度の移動魔法が使えるまであとちょっとよぉーーー!!回復したらすぐに全員でここから逃げてやるんだからぁー!!」
キキもあと少しらしい。先ほど、電磁砲を喰らう前に発動させようとした時に現れた、緑色のネオンのような光が少しずつ見えてきた。
「キキ!俺たちは別に良い!!キキだけで逃げるんだ!!」
「〜〜〜!!しょうがないわね!!今回はそれ聞いてあげるからっ!!」
「っち!!またあの電磁砲を新しくしたのかよ・・・!アレ面倒なん・・・!!」
喋っている途中で呪術士が一瞬止まった。稲荷が放った攻撃も、物理的に避けた。
そして、ヒラヒラと宙を舞い、浮いた状態で周囲を見た。
呪術士の目が一人を捉えた。
リリだ。
「・・・?!イヤ!!目があったわ!時雨!もうちょっと距離をとりましょう!!私たちは捕まったら足手まといだわ!人質とか嫌よ!!」
呪術士と目があったリリは悪寒がした。すぐ様、片目の悪い時雨を引っ張って、争いの中心から更に距離を取ろうとした。
「させるか!!」
「お辞めなさい!!・・・?!魔法が弾かれた?!」
呪術士がリリに向かって何かを放った。黒い鞭のようなものだ。稲荷が気付き、阻止しようとしたが、魔法が弾かれた。
「・・・?!魔力が足りない!!」
黒い鞭はそのままリリへ一直線に向かう。
「キャァアアア!!」
リリが鞭に捕まった。リリの体に巻きつく。
「リリさん!!」
時雨が鞭を触るも、バチバチと電気のような衝撃と共に跳ね返される。それに、触れた箇所は火傷のようにヒリヒリとする。
「・・・っ!!」
しかし、跳ね返された手で再び鞭を握る。
———バチッ!!!バチン!!バチン!!!
「———クッ!!」
「キャァアアアアアーーー!!!・・・・あら?」
少しして、鞭がリリから離れた。
「何よあれ?!めちゃくちゃ痛・・・」
リリが離れて行った鞭を気持ち悪そうに目で追う。その先には見慣れたものが鞭に絡まっていた。
「私の磁場砲!!!」
鞭はリリの磁場砲を掴んだまま、一気に呪術士へと戻る。
イッセイの電磁砲が再起動を終えた。指紋認証ですぐに起動モードに入る。
「そっちは人体に効くけど、こっちの嬢ちゃんの持ってる銃は機械に効くんだろう?!俺の呪物入れも粉々にされたもんなぁ?!」
「ッチ!!」
イッセイは舌打ちをした。
そう、考えていた電磁砲の弱点。それは、リリの持っている、機械にのみ作用する”磁場砲”だ。
簡単は話だ。だからこそ、リリの磁場砲を思い出さなければ良いと思っていた。
それが、呪術士が思い出してしまった。
呪術士が今、鞭で引き寄せている磁場砲を手にして、自分の持っている電磁砲に向けて撃ったら勝ち目はない。
イッセイは焦る。早く、早く起動しろと機械の動作を待ちながら銃を構える。
その願いも虚しく、呪術士の手に磁場砲が握られた。
イッセイが、呪術士に電磁砲を向け
呪術士が、イッセイに磁場砲を向けた。
同時だった。
「ほぼ回復したわぁあああーーーーー!!!!!」
その瞬間、キキが叫んだ。
どっちの起動が早いか、イッセイにはもう予測ができなかった。稲荷の魔力切れのような現象と、この一騎打ちのような状況。自分達が押し負けた場合を考慮して、キキにすぐさま逃げるように叫んだ。
「負けるかもしれない!!キキ!逃げ———」
「キキさん!!リリさんを連れて2km以上離れて下さい!!」
イッセイの言葉を神風が遮った。




