簪の音 二十四話:変身
髪の毛から抜き取った簪を縦に持った稲荷。
それを見て呪術士は身構えた。
「ここからの相手は、私ですよ」
そう言った稲荷は、持った簪をそのまま縦に地面に落とした。
———キンッ
金属がコンクリートにぶつかった。その瞬間
———シャン・・・!!
簪についていた鈴の音が鳴った。
———ブワッ・・・
地面は円の形に光り、簪も同時に発光した。
そして、手のひら程の長さだった簪が大きく杖に変身。
「簪が杖になったわ!」
「そんな飛び道具隠しておいて・・・!その杖、めっちゃ魔力強いじゃないの?!」
リリとキキが驚く今までの稲荷の魔法は、手から直接繰り出すか、眼から出す。の2通りしか見たことがなかった。魔法を繰り出す道具はキキも使わない。飛び道具に目を輝かせる。
「・・・お前、なんかおかしいな・・・まぁ良い。俺は魔女巫女の石を奪えばそれだけで良い。ただし、それを邪魔しようって言うんだからやられても文句ないよな?」
そう言うなり、呪術士が仕掛けてきた。黒い結晶から光が出る。
「もしかして!また電磁砲?!稲荷危ないんじゃない?!」
「リリさん!大丈夫です。これは魔法のようですから!」
「見ただけで電磁砲レプリカか魔法か呪術かわかるのね。便利な眼を持って———時雨?!」
稲荷と呪術師の戦闘が始まった。
この場で魔法の使えないリリは足を引っ張ると思い、距離を取ろうと後ろを見た。その瞬間目に入ったのは神風だった。しかし、少し歩き方がぎこちない。
「リリさん!ご無事で?!」
「私は大丈夫よ!キキが電磁砲をちょっと食らって、今は魔法の出力が落ちてるみたいなの!っていうか時雨貴方の方がなんかふらふらしてて危なそうなんだけど?!」
「キキさんがっ?!」
神風が片目がまだ見えないながらに周りを見渡すと、リリとはまた少し離れた場所で魔法を使っている様子のキキが目に入った。
「大丈夫よ!電磁砲は魔法とか呪術にだけの影響でしょ?!」
「いや、イッセイくんが少し改造して威力を変えたんだ・・・だとしたら、短時間にキキさんが二回目を浴びたら・・・!!」
最低でも一時間は空けるようにとイッセイが言っていたことを思い出した。
次に食らったらキキが危ない。神風は焦り、冷や汗が出てきた。
「神風さん!?」
一瞬取り乱したところに名前を呼ばれた。呼んだのはイッセイだ。走り寄ってきた。イッセイが向かってくる方向に神風も歩き出す。やはり、片目が見えない為に平衡感覚や距離感が掴みづらい。
「どうしたんですか?!」
「呪術士が脱走する時に出した術?の光の強さにちょっと片目をやられてしまって」
「先に病院に言った方が・・・!」
「多分そのうち治りますよ。あ、そうだ、電磁砲を持ってきたんです!もう、呪術士というかあの呪物である結晶に電磁砲を学習されてしまったので使い物にならなくなってしまったかもしれません」
「いえ、そんなことありません。まだ大丈夫です。持ってきてくださってありがとうございます。これからまた改良して呪術士に効くようにします」
「あの・・・!キキさんが電磁砲を浴びたと聞いたんです。その・・・!」
「あぁ!大丈夫ですよ!」
イッセイは笑った。
「多分ですけど、呪術士というか、結晶であるあの呪物が電磁砲を学習したのは俺が電磁砲のパワーアップをする前の設定データだと思います。だから、キキが食らってもさほど問題ないです。それに、キキなら魔法で自分の状態を回復してます」
稲荷と呪術士がお互いの魔法をぶつけ合っている中、端にいるキキは雨避けの魔法を使いながら、手や指先を動かしている。自己の脳内を分析して、時間経過の自然治癒を待たず、自分で少しずつ修復しているのだとイッセイは言った。
「そうですか・・・よかったです・・・。あ、あと、その電磁砲の改良ですが・・・そのなんて言うか・・・」
キキの件を聞いて一安心をした神風だったが、その次に口にした電磁砲の改良に関しては歯切れが悪そうにしていた。
「どうしました?また別の波形で作り替えるつもりです。もちろん今からなので5分くらい掛かりますけど」
「いや、その波形というか、威力なんだけど・・・あの、あまり呪術士の彼に後遺症が残りそうなダメージは避けて欲しいんだ」
以外な意見にイッセイは驚いた。少しばかり目を見張った。
「・・・どうしたんですか?」
「その、私がこんなことを言ってはいけないのですが、彼は彼なりに色々あって、全員を敵だと思い込んでいるんです。まぁ、核の取り合いですから、自分と同じ世界の人以外は確かに敵なんですけど・・・その、核以外はこの世界の人も基本的には傷つけないっていうようなスタンスで」
「時雨?!何を絆されてるのよ?!そんなの嘘かもしれないでしょ?!」
「まぁ、リリさんの仰る通りなんですけど・・・その・・・!」
あれ程までに冷血人間だった神風がこのようにいうのは珍しい。勿論その切っ掛けは、異世界人だと毛嫌いしていた少女が実はこの世界の生まれで自分の上司の実の娘だったというリリに出会ったり。
恋してやまないキキが異世界の住人で、自分のいる世界の人間を故意に傷つけなかったり。
まだ出会って間も無く正体もいまいちわからないが、温厚すぎて毒気を削がれる稲荷だったりと異世界人へのイメージが変わっているのはイッセイにもわかる。しかし、今回の呪術士は攻撃を仕掛けてきた。それなのに、神風がこのように呪術士を少し庇う・・・気を遣う事に合点が行かなかった。
「呪術士と、何か話したんですか?」
「それで絆されたのね〜〜!!そんなの理由にならないわ!!」
「わかりました。また別の波形を探します。なるべく急ぎますので」
「イッセイ何言ってるのよ?!」
「ありがとう・・・!!」
電磁砲を受け取ったイッセイは、近くの街灯へと向かった。街灯のネジを勝手に外し、中から電力を拝借する。コードを引き抜いたり、勝手に接続したりはお手のものだ。
そうして、小型の端末に繋いで動力を確保。さらに端末と電磁砲を繋いで作業を開始した。
「これで、電磁砲の設定を作り替える・・・!稲荷、あと少し頑張ってくれ・・・!」
キキは自身の魔法が上手く使えないストレスを感じていた。
麻酔を打たれたかのように、感覚が少しおかしく、出したい魔法を組むことが出来ない。
簡単な魔法で、威力も小さいものなら問題はないが、瞬間移動、また瞬間移動の距離も長く遠くへは出来ない。空間の認識ができていない。それも電磁砲の影響だ。
雨避けの魔法を使いながら、色々と試す。
雨避けの範囲変更、強度変更。それを行いながら、魔法で視界に入っている呪術士の魔法や呪術を分析してみる。
魔法に関しては分析が少しできるが、呪術に関しては元々知識がないため、全くわからない。
それをしながら、風の操作も行う。”春一番”ほどの威力に徐々に近づいてはいる。
「まったく!こんな恐ろしいもの作るなんて!イッセイは魔法がなくたって十分張り合えるじゃないの!!あ!油断してなければ私の方が強いですけどね!」
ブツブツ言いながら、自身の脳内を冷静に分析する。できること、できないこと、もう少しでできそうな事。
そしてキキの中で計算して、魔法が使えるようになるまでの時間が出た。
「イッセイ!!あと5分くらいで魔法使えるようになるわ!!そうしたら私逃げるからぁーー!!」
大きい声で叫んだ。
そのキキの声を聞いた呪術士は驚いた。あまりにも驚いて思ったことを口に出した。
「5分?!あの魔女巫女、やっぱりタダもんじゃねぇな・・・!こっちなんて何時間も寝てたっつーのに!!」
そう、キキの魔力は強大だ。それ故に他の魔法使いや呪術士よりも早く自分の事を立て直す事が出来る。
回復しては逃げられると考えた呪術士は、スーツの赤い宝石から再び呪物を取り出した。そして、先ほどから感じていた違和感を口にした。
「狐神!!お前やっぱりおかしいな?!杖にした簪の魔力が、魔法を使うごとに減っていってるなぁ?!チャージ式か?!その杖以外からも魔法を出してみろよ!?どでかい威力の魔法を出してみろ!!ほら!!いくぞ!こっちは呪力を思いっきりぶつけてやる!!」
そして、呪物から物凄い勢いで黒い靄が放出された。




