簪の音 二十三話:狐火
ーーー
『あぁ、そうなんです。これ、ここを境に波形の幅が変わってるんです。でも、それ以外は特に問題なくて・・・それに、データを収集出来たのは良いのですが、そもそも何の波形かがわからないんです』
ーーー
イッセイは、先ほど呪術士を目の前にして波形の確認をしていた時の神風の言葉を思い出した。
もしかしたら、呪術士が電磁砲の分析や対抗、耐性を作っているのかと一瞬勘繰った。
だから、呪術士に向けて一発、電磁砲を撃っておいた。呪術を使うのを防ぐためだ。
しかし、分析して学習して電磁砲に対抗出来るようになったのは呪術士ではなく、"呪物"の方だった。
電磁砲はあくまでも対人間用の脳波に影響する。呪物が生き物で電磁波の分析を始めるのは想定外だ。電磁砲としても対象外になる。
新しい事を知れるのは良い事だが、こんな危機迫る事柄じゃなければなと思いながら、イッセイは次に起こることを予測する。すると、また電話が掛かってきた。
「ばあちゃん・・・?」
画面を見るなりすぐに応答した。
イッセイの周りでは、イッセイの反応を見た三人が憶測を始める。
「・・・呪術士が、何かしたんでしょうね」
「嘘でしょ辞めてよ、まだ食べてるのに」
「脱走じゃなきゃ良いけど・・・でも、イッセイが改良した電磁砲を撃ったんでしょ?時雨もそれを借りてるはずなのに」
「話を聞くと、呪術士が何かしたというより、呪物がなんかしたんじゃないですか?」
「何でもありね、呪物とか魔法とか。もうついていけないわ」
「全くだわ!!食べるのついていけないんだけど!」
「ではキキ、食事は一旦中止にして臨戦態勢に入らないとですね?」
「・・・リリちゃん、これ全部持ってて」
「私を巻き込まない前提だって意味で取って良いかしら?だったら喜んで持ってるけど?」
事の詳細はわからないながらも、少しずつ稲荷たちの纏う空気が変わっていく。
想定したくもないが、最悪のケースを考えて準備に移り始める。
「しかし、彼は自分がどこに監禁されていたかもわからないでしょうけど、私たちを探し出すことができるのでしょうかね?」
「何か魔法かけられた後も無いわ。私たちにも、稲荷にも、イッセイにも、リリちゃんにも。だから、突き止めるにしてもそんなに早くは来ないと思うけど?あ、魔法じゃないのよね、呪術か・・・わからないわねぇ。でも何か人に掛けられた感じはないんだけどね?」
「私は全く何もわからないし感じもしないわ」
リリはキキから食べ物を受け取った。
そして、浴衣の袖を捲り上げたキキ。髪の毛を縛っていた飾り紐で襷掛けをした。
稲荷は腕を伸ばしてストレッチをした。
そんな時、イッセイの大きい声がした。
「そこに呪術士がいた?!」
「おばあちゃんとセイタくんのところに?!」
「イッセイ、おばあさまの方にすぐ向かいましょうか?」
キキと稲荷が反応した。すぐに魔法が出せる態勢をとる。
「いや、大丈夫。・・・うん。———うん、稲荷の事言ってたんだね。跡?・・・セイタに稲荷の跡・・・?」
魔法を使うことを静止したイッセイは、再びおばあちゃんと会話をする。
「跡って・・・稲荷はセイタくんに何かしたの?何?引っ叩いて眠らせたの?」
「まさか!魔法で眠ってもらったんですよ。跡が残る事なんて——」
何かあったかと考えた稲荷。ふと思いついたことが一つ。
「人によりますが、魔力の”跡”を辿れる事もありますね。でも、同じ魔法を今も使い続けているわけではないので」
「でも、魔法の波形というか、稲荷で言うなら色や香りがわかる人もいるわ。同じ睡眠魔法を使ってなくても・・・」
稲荷とキキが魔法に関して話始めたその時だった。
「稲荷!!雨よけの魔法を解け!!呪術士に見つかる!!あとキキ!!刻印石を持ったまま逃げるんだ!!」
「———っ!まさかセイタくんにかけた魔法の痕跡から今魔法を使ってる稲荷の場所を探し当てるってこと?!」
「っ!!解きました!!」
「相手は呪術士でしょ?!魔法に関してもそんな事ができるわけ?!」
「出来るからセイタの所へ行ったんだ・・・!」
稲荷が雨よけの魔法を解いた。
祭りをするには少し厳しい雨量だった。
「キキ!逃げ切れ!稲荷は足止めしてくれ!呪術士はキキに用事があるって・・・刻印石が狙われてる!!」
「逃げろってどこによ?!」
「逃げ続けろ!!」
「わかったわよ・・・!でも本当まずどっちに行こうかしら」
移動魔法の発動をしながらキキがまずどこへ行こうかと悩んだ。キキの周りには緑色のネオンが巻き付くかのように光輝く。
「イッセイ、ちょっと待って」
「?リリさんどうしました?」
「さっき、稲荷の魔法の痕跡を辿りにセイタくんの所に呪術士が行ったって言ったわよね?」
「はい、呪術士も見てますから。稲荷がセイタに魔法をかけた所を」
「でも、呪術士は———」
リリがその次を口にしようとしたその時だった。
陽が沈んで薄暗くなった濃紺の空が、赤やピンクのマーブル模様が浮かび、明るくなっていった。
「はぁああああ?!何これ?!幻覚?!怪奇現象?!それとも光の屈折を変える魔法・・・呪術?!」
いきなり変わり始めた空の様子にキキが驚いた。
「幻覚ではないです!確実に変わっています。これは恐らく・・・呪術士ですっ!!」
空を見ていた稲荷だったが、地上、地面に近い所から力を感じた。
視線を下へ戻すと、空間が一部黒くなり渦巻いていた。
キキが以前、呪術士を引っ張り出した時と同じ現象だ。
「キキ!来ましたよ!!早く逃げて!」
黒い渦巻きから、呪術士が出てきた。
「稲荷、あと頼んだわっ!私行くか———」
———キュィィイイイ・・・・・ビィイイイインッ!!!
———ズギャァアアアアンッッ!!!!
呪術士の持っている黒い結晶から、電磁砲と同じ光が出た。
その光はキキを掠めた。
「らぁああっ・・・!!!何コレ!!魔法使えないんだけど!!」
緑の光を纏っていたキキだったが、結晶から放たれた光を掠めた瞬間に緑が弾け散った。
魔法が使えなくなった。
「電磁砲の学習って・・・!効かなくする為や電磁波の対抗じゃなくて、『取り込んで使える』ようにもなるって事か?!」
呪術士の持つ結晶の学習の本当の意味がわかったイッセイ。しかし、わかった所で少しキキを掠めてしまった。
モロに食らったわけではないが、魔法に関しての脳内の信号がうまく伝達できないキキ。
「何よこれ!!遠距離の高速移動魔法が使えないじゃないの!!あぁ?!攻撃魔法も威力の最大値が下がってる!!風起こしたって”春一番”程度の威力も出せないわ!!」
「ちょっとちょっと!!そんな事より!まだ近くに一般人がたくさんいるのよ?!もう少し距離を取らないことには巻き込むわ!!」
リリが声を上げた。
一般人はまだ視界に入る近くにいる。今は突然色と明るさの変わった空を見るために顔を上げているが、それもいつまで続くか。雨が降っている今では長時間空を見上げる事もできない。
「キキ!稲荷みたいに雨避けの魔法なら出せるか?!」
「それくらいなら!」
「頼んだ!!稲荷は呪術士に専念して欲しい!」
「わかりました!!・・・ですが、念には念を・・・!!」
稲荷が手を広げて、たくさんの”狐火”を出した。それを空に放った。
キキも使えるだけの技術で雨避けの魔法を繰り出す。
これで、一般人は突然変わった空と狐火に夢中だ。
「イッセイ!!稲荷!!これじゃ一般人に魔法の存在が・・・!」
「「大丈夫ですよ」」
危惧したリリが焦ってイッセイと稲荷の二人を見た。周りの一般人が不思議がっている。しかし
『はぁーーー!!みんな見てみろー!!発明家の自信作じゃー!!じゃけんど、まだ試作段階じゃから突然消えたりまたついたりするじゃろうけど、いつも違う赤いお空と宙に浮く・・・なんじゃこれ?なんかそれっぽい雰囲気のある動く灯火じゃぁ〜!詳しくは企業秘密じゃぞ〜!』
おじいちゃんだ。
おじいちゃんが祭りの放送を使い、咄嗟に自身の発明だという事にした。
この状況を見ていないのに・・・だ。
「おじいちゃん!やるわね!!」
「さぁ!稲荷!頼んだわよ!」
「頼むよ」
三人から頼まれた稲荷。
目の前に立ちはだかる呪術士に向かい合いながら、長い長い髪の毛に刺さっていた”簪”を引き抜いた。




